とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第三章

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(7.)
インデクスが指定した日の放課後、上条は姫神秋沙と一緒に下校していた。
ただ二人を取り囲むものは桃色空間などではなく重苦しい空気だった。

上条はインデックスが今日姫神秋沙を呼び出した理由を知らない。
インデックスに尋ねても「フフフッ、心配しないで、とうま。とってもいいことなんだよ」
というだけで詳しいことは教えてくれなかった。

頼みの土御門に『癒之御使(エンゼルフェザー)』について尋ねても「そうだな。カナミン
は実体化したテレズマで式神みたいなもんだから、ある程度は姫神の意思でコントロール
できるハズなんだがにゃー。それ以上は俺っちにも良く分からんぜよ」というだけで
新しい情報は得られなかった。

そんなわけで上条は姫神秋沙に話しかけるネタが無かった。
そして姫神秋沙も疲れているようで上条に話しかけてくるというそぶりはない。
とうとう沈黙に耐えきれなくなった上条が口を開いた。

「なあ、姫神。夜ちゃんと眠てるのか?今日なんて珍しく授業中ウトウトしてたし」
「……実は。昨日青髪君から貸してもらったものがある」

上条の問いかけに姫神秋沙は自嘲気味に笑うとカバンから一冊の本を取り出した。
表紙には『超機動少女カナミン解体新書-カナミンの全てがこの一冊に-』と書いてある。
そしてマジカルステッキを持った決めポーズのカナミンが大きく描かれていた。

「青髪の野郎。また余計なもんを……。で、こんなの借りてどうすんだ?」
「これを見て勉強しないといけないから」
「いったい何を?」
「『中の人』としてはあの子をカナミンらしく操らないといけない……」
「…………姫神。
 その発言、前向きなんだか後ろ向きなんだか微妙だぞ。
 ていうか多分7:3で後ろ向きだぞ」

「所詮、私はカナミンを引き立たせる脇役。ふふっ」
「……いや、脇役だって頑張れば『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー=デップ
 みたいに主役になれるんだし」
「そう。私は主役だったハズの1作目ですらジョニー=デップに見せ場を奪われ
 2作目からは完全に脇役に追いやられたオーランド=ブルーム。ふふっ」
「……………………」

完璧後ろ向き思考にはまり込んだ姫神秋沙に打つ手の無い上条であった。

「おねえちゃんもカナミンが好きなの?」

不意にかけられた声に辺りを見渡すと姫神秋沙の傍に7歳ぐらいの女の子が立っていた。
その子はキラキラした目で姫神秋沙を見つめている。

「……私?」
「そう、カナミンのご本を持っているお姉ちゃん」
「この秋沙姉ちゃんはね。カナミンとお友達なんだぞ」
「ちょっと!上条君」
「えっ、ホント。あいさお姉ちゃんはカナミンとお友達なの?すっごーい。」
「お嬢ちゃんもカナミンが好きなんだ」
「うん。大好きだよ。かみじょう兄ちゃん。
 マユもカナミンとお友達になりたいなーっ!」

「出来る子が友達だと比較されて肩身が狭くなることもある……」
「おいおい。姫神」
「そんなこと無いよ。好きだから友達なるの。
 能力があるからとか能力がないからとかで友達になるんじゃないもん。
 だって、そんなこといったらカナミンはひとりぼっちになっちゃうもん。
 カナミンだってきっと友達はいっぱい欲しいはずだよ」
「へーっ!良いこと言うね。マユちゃん」
「へへっ、ホントはね。さっきのはマユがせんせいに言われたことなんだ」

「……良い先生ね」
「わたしは、大きくなったらカナミンみたいな能力者になるのが夢なの。
 でもね。お友達をいーっぱい作ることも夢なんだ。
 あいさお姉ちゃん!カナミンに会ったらマユも友達になりたいよって伝えてくれる?」
「……ええ……」
「ありがとう!あいさお姉ちゃん。じゃあ、またねーっ、バイバーイ」
「バイバイ」

女の子の無邪気な笑顔に姫神秋沙は無意識のうちに手を振り返していた。

「そうだよ、姫神。カナミンのことはどっちが主役とか脇役じゃなくて
 友達って考えれば良いんじゃねえか?」
「友達……ともだち……か……」


(8.)
上条と姫神秋沙は上条の部屋の前で意外な人物と鉢合わせした。
上条も驚いたが相手も驚いたようだった。

「ステイル!」
「上条当麻!」
「「一体何があった?」」

上条の問いかけはステイルと見事にハモってしまった。
一瞬の沈黙が生じたのは二人とも自分が何を尋ねられているのか判らなかったからだ。

「「だから、こっちが聞いてるんだ!」」

またしてもハモってしまった。
気まずい空気が再びその場を満たした。

先に気を取り直した上条が口を開いた。

「ステイル。お前が来るなんて、何かあったのか?」
「それはこっちのセリフだ。僕を呼びつけやがって!理由を説明しろ!何があった?」

全く話のかみ合わない上条とステイルの堂々巡りを終わらせたのはインデックスだった。
外の会話に気付いたインデックスが玄関から飛び出てきたのだ。

「とうま!おかえり。それにあいさもステイルも一緒なんだね。
 そうだ、ステイル!頼んでいたものはできた?」
「ああ、大至急っていわれたからな。こんなもの一体何に使うんだい?」
「ありがとう」
「おい、インデックス。お前がステイルを呼びつけたのか?一体どうして?」
「実はこれ、あいさへのプレゼントなんだよ。
 ジャーン!これ、なんだか判る?」

インデックスはステイルから受け取った細長い包みを破ると入っていたものを高く掲げた。
それに見覚えのある上条と姫神秋沙は驚愕の声を上げた。

「「それは……まさか?マジカルステッキ!?」」
「なんだ?上条当麻。貴様はこの霊装の正体を知っているのか?」
「これは『蓮の杖』をベースに各種精霊の秘石を合成したものなんだよ。
 それでね。赤のシンボルに魔力を流すとシュプリームフレアがでるの。
 青のシンボルならスプラッシュウイップって感じ。
 これさえあればカナミンはもう一人前の魔法使いなんだよ」
「カナミン?なんだそれは?新たな魔術結社か?」

イギリスから運んできた霊装がまさかアニメのキャラクターアイテムだと思いもしない
ステイルは的外れなことを言ってしまう。
そんな何も知らないステイルが上条は不憫でならなかった。

「どうした?上条当麻。なぜ哀れむような目で僕を見る!?」
(このまま何も知らずにイギリスに帰ればステイルは不幸にならずに済むんだよな)
「だからそんな目で僕を見るな!貴様は何を知っている」
(でも辛いけど真実を話してやるのも友達の役目なんだよな)
「あっ、貴様。今一瞬ニヤッと笑ったろ!何なんだ一体?」

ついに苦渋(?)の決断をした上条は一冊の本をステイルの眼前に差し出した。
『超機動少女カナミン解体新書』を突き付けられたステイルは怪訝そうに上条を見る。

「なんだこれは?」
「ステイル……カナミンだ!」
「なっ!?これが……カナミン……じゃあ、まさかこの手の……」
「そう。マジカルステッキだ!」

「こっ、こんなコスプレの小道具を作るために……僕は…………
 アリューゼから『蓮の杖』をこっそり拝借するなんて危ない橋を渡ったのか?
 合成に必要な霊装を大英博物館から脅し取ったりしたのか?
 忙しい魔術工房に予定を空けさせるために延々6時間も交渉したのか?」
「ステイル。おまえ、そんなことまでやらかしたのか……」

「…………違う!断じてそんなはずはない!
 きっとこの本は欺瞞情報なんだ。
 そう!隠された真の目的があるハズなんだ!
 そうだろ、上条当麻!」
「ステイル。現実を認めたくない気持ちは分かるが、もう諦めろ」

上条がステイルの肩をポンと叩くとステイルはうなだれてしまった。
しかしその肩が震え出すとステイルはいきなり上条の胸ぐらを掴み上条を壁に押しつけた。

「上条当麻!僕はこの不条理に対する押さえきれない怒りを誰にぶつけたら良い?」
「それは……やっぱり、インデックス……かな?」
「フッ、確かに元凶は禁書目録だ。
 うん。そうだ。確かに貴様の言うとおりだ。
 そう。禁書目録に責任がある。
 ならば当然その管理人も連帯責任を負うべきだよね。上条当麻!」
「ちょっと待て!ステイル」
「うるさい!貴様を殺さ(やら)なきゃ僕の腹の虫が収まらない。
 だからおとなしく僕に殺されろ!」
「こら、俺に八つ当たりするんじゃねえ」

上条が脱兎のごとく逃げ出し、炎剣を振り回しステイルも上条を追いかけていった。


(9.)
呆然と二人を見送る姫神秋沙の袖をインデックスがチョイチョイと引っ張った。

「ねえ。あいさ。マジカルステッキの使い方を教えるから、カナミンを出してみて!」
「……でも私。カナミン(あの子)のコントロールの仕方を知らないから」
「なに言ってるの?コントロールする必要なんて無いんだよ。
 あいさが心を開けばカナミンはあいさに応えてくれるんだよ」
「そういわれても……」
「カナミンはあいさのいわば半身なんだよ。
 だからカナミンはあいさが願ったことしかしないし、嫌なことは絶対しないよ」
「でも……」
「じゃあ、このマジカルステッキはあいさに預けるからカナミンに会ったら渡してあげてね」

上条当麻が息を切らせて下宿に帰ってきたのは姫神秋沙が帰った後であった。

「ぜぇぜぇ!とうとうステイルの野郎を振り切ってやったぜ」
「あ、とうま。おかえり!あれステイルは一緒じゃないの?」
「あーっ、アイツもあれだけ走り回ったんだ。
 ストレスもすっきり解消しておとなしくイギリスに帰るんじゃねえか。
 ところで姫神は?」
「あいさならもう帰ったよ」
「そうなのか?あいつ大丈夫かな?」
「あいさはまだ少し戸惑っていたけど、大丈夫だよ。とうま。
 だってカナミンはあいさそのものなんだから」
「そっか」

翌日、姫神秋沙が眠い目をこすりつつ登校していると交差点で声を掛けられた。

「あいさお姉ちゃーん!」

そちらを向くと横断歩道の向こうで帽子をかぶりランドセルを背負ったマユが大きく手を振っていた。
姫神秋沙が手を小さく挙げると、隣の女性からも声があがった

「マユちゃん!まだ赤信号だから渡っちゃダメよ」
「あっ、先生!おはようございまーす」

隣のスーツ姿の若い女性はどうやらマユの担任のようだ。
女性は姫神秋沙と目があるとニコリと笑って話しかけてきた。

「あなた、マユちゃんのお姉さん?」
「いえ。私は。マユちゃんの友達……かな?」
「そうだったの。マユちゃんは誰とでもすぐ友達になれるから」
「そうみたいですね」

2人の会話を中断させたのは「キーーッ!」という甲高いブレーキ音と「ドゥオン!」という衝突音だった。
2人が音の方向を見ると黄色い乗用車がガードレールにぶつかって止まっていた。
しかし2人の視線は煙を出す事故車ではなくその5m先の道路上に釘付けになっていた。
そこには壊れた人形のようなものが転がっていた。
2人にはその風景が現実のものとは思えなかった。いや、思いたくなかったのだろう。
しかし、周りに散らばるランドセルや帽子がそれがなんであるかを示していた。

「きゃあああああぁぁぁぁ」

女性が悲鳴を挙げると倒れているマユのもとへ駆けだした。
我に返った姫神秋沙も後を追う。
だが女性が膝に抱きかかえたマユの姿を見て姫神秋沙は立ちすくんでしまった。
姫神秋沙は大きな怪我であっても応急処置をする自信があった。
しかしマユの状態が応急処置で何とかなる状況でなかった。
脱臼した左肩や骨折している右足が軽傷に思えるほどだ。
頭から流れる血は止血しようとする女性の手から溢れマユの髪を赤黒く汚していった。
顔を汚す血が顔色の蒼白さを余計に際だたせている。
服で隠れているが内臓も大きな傷を負っているハズだ。
それにマユの開きかけた瞳孔は一刻の猶予もないことを示している。

「誰か救急車を!ここに治癒能力者はいませんか?お医者さんでもいいんです!」

女性は騒ぎを駆けつけて集まってきた群衆に叫んだがそこには治癒能力者はいなかった。

「痛いよ。先生」
「大丈夫よ。直ぐ救急車が来るから!」
「わたし……死んじゃうの?……怖いよ……先生」
「そんなことない。先生が付いているから!」
「せ……んせい、 くる……しぃ」
「マユちゃん。しっかり!」
「せっ、んせ……どこ?……わたしを……おいていか……ないで」
「マユちゃん!先生はここよ」
「ど こ?……あれ?カナミン……わた をむか に  くれ の?」
「マユちゃん!先生はここだからそっちに行っちゃダメ!…………えっ?」

その時になって女性はマユの視線の先に浮かんでいるカナミンに気付いた。
これが錯乱した自分の幻覚なのか誰かの能力なのかを判断できる冷静さは無かった。
だから、そのありえない光景をただぼんやりと眺めていた。


(10.)
カナミンは女の子の顔をのぞき込み微笑んでいた。
カナミンが右手の人差し指を立てるとその先に白い羽毛のようなものがフワリと現れた。
その指を前に振ると羽根はスーッと飛んでマユの額に吸い込まれていった。

女性は自分がボンヤリしていたのが10秒だったか1秒だったか判らない。
しかし我に返るとそれまで弱々しくも聞こえていた声が聞こえないことに気付いた。
そのことが意味することを悟った女性は泣き崩れた。

「マユちゃん。ゴメンね。先生がボンヤリしてたから……」
「いっ、痛いよ。先生。」
「えっ?……マユ……ちゃん?」
「そんなに強く揺すったら痛いよ」
「マユちゃん……大丈夫なの?」
「うん。先生こそ顔がクシャクシャだよ」
「いいのよ。先生はね。今とっても嬉しいから」

「そうだ。私さっきカナミンに会ったんだよ。先生、信じてくれる?」
「ええ、信じるわよ。だって今もあなたの後ろにいるじゃない」
「ホント?あっ、カナミン!」
「カナミンがあなたを助けてくれたのよ」
「そうなの?ありがとうカナミン!」

マユに応えて手を挙げたカナミンはニッコリ微笑んでいた。

その時、突然のカナミン出現に驚いていた周りの群衆が急に騒ぎ出した。

「おい、あの車ガソリンが漏れてるぞ!」
「ヤバイ!ガソリンに引火しやがった!みんな車から離れろ!」
「急げ!タンクにまで火が回ったら爆発するぞ!」

群衆が慌てて逃げまどう中、姫神秋沙はマユ達を守るように車との間に立ち塞がった。

「Thou KANAMIN!(汝カナミンよ!)
 Thou shalt come here!(我が許へ)」

姫神秋沙が声をかけるとカナミンはバク転し姫神秋沙の右肩に膝をつくような姿勢で空中
に静止した。

「Thou shalt follow my order.(汝!我が命じるものに従え!)
 Splash-Whip! (スプラッシュウイップ!)」

姫神秋沙が右手を水平に振るい火を噴く車に指先を向けるとカナミンも青く光るマジカル
ステッキを振るった。
するとマジカルステッキから水がほとばしり新体操のリボンのように渦を巻きながら火を
噴く車を包んでいった。
水のカーテンが消えると車の火は消えて白い水蒸気が僅かにあがっているだけだった。

ホッと胸を撫で下ろした姫神秋沙はカナミンの顔を見上げ微笑んだ。
カナミンも姫神秋沙を見つめて微笑んでいた。

「ありがとう。今回もあなたは私の願いに応えてくれたのね」

感謝の言葉は自然にあふれ出てきた。
同時に姫神秋沙は(私の半身が正真正銘の魔法使いになっちゃった。ということは、
あれだけなりたいと願っていた魔法使いに私もようやくなれたってことかな?)と
自然に思えるようになっていた。
その時(ええ、その通り)とカナミンが自分にそうささやいたような気がした。

そんな姫神秋沙にマユが飛びついてきた。
姫神秋沙の腰に抱きついたマユはキラキラした目で姫神秋沙の顔を見上げている。

「すごーい!あいさお姉ちゃん。本当にカナミンのお友達だったんだね」

姫神秋沙の肩越しにマユをのぞき込んでいたカナミンは右手でバイバイをすると徐々に
その姿を薄くしていった。

「カナミン!ありがとう。あなたにはこんどいつ会える?」
「あなたが願えばきっと直ぐよ」

マユの問いかけに応えたのは姫神秋沙だった。
この日から姫神秋沙は学園都市において「カナミンマスター」の称号を得ることになった。

「When will I see you again? (天使のささやき)」お終い


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