とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 4-390

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

出てきたのは修道服を着た神父だった。
金髪の白人なのだがパサパサに乾いた髪と皮膚から生気が感じられず、眼がこちらを伺うように覗いている。
外国人で修道服を着ているのを除けばただの会社員と言われてもうなずけそうな風貌だった。

「あんたが侵入者(ニコライ)?」
ジョーカーは友人にかけるような軽さで尋ねる。
「…えぇ、私がニコライ=トルストイです」
ニコライも見た目とは裏腹に軽薄そうな口調で答える。

「…そうか」
それだけ言うとジョーカーは右の3本の警棒を3丁の拳銃に持ち替え、ニコライに向けて放った。
有無を言わせない射撃。まるで話し合う気なんて初めから無いとでも言うような。
これに対しニコライは右手を前に出しただけだった。
すると手首からぶら下げた十字架(ロザリオ)が光り、前方に半透明の盾(バリアー)が現れる。
ジョーカーも打つのをやめない。力づくで破壊する気だ。
ニコライも負けじと叫ぶ。

「“十字架はその加護にて子羊の身を守る”!」

すると盾がより強固な物に変わる。恐らく銃撃では破壊できないだろう。
ジョーカーは銃による破壊をあきらめ、突っ込んだ。発条包帯(ハードテーピング)で強化した脚力で乗り越えるつもりだ。
(恐らくニコライは盾を出したまま後ろに下がろうとするだろう。だが機動力はこちらが上。すぐに追いつく)
だがニコライも盾を消して突っ込んできた。かなり速い、発条包帯で強化したジョーカーと同じくらいの速度だ。

(な!?)
後ろに下がると思っていたジョーカーは完全に不意を突かれた。とっさに左の警棒でガードしたが突撃をモロに喰らい、吹き飛ぶ。
「フフフ、私は神の子の模造品(レプリカ)…つまりは聖人なのです」
ニコライは嘲るように話す。
「簡単に倒れるようなもろい肉体(からだ)をしてはいません」

ジョーカーは倒れた体を起こしながら考える。
今は不意を突かれたが単純な接近戦はこちらの方が有利だ。
6本腕を使えば敵の攻撃を防ぎながら反撃ができる。
(落ち着いて戦えば勝てない相手ではない)
ジョーカーは6本腕独特の構えをとる。

「洗脳、防御、肉体強化……ハ、魔術ってのはいいな、超能力じゃあ多重能力(デュアルスキル)は実現不可というのに」
ジョーカーはしゃべりながらも隙を窺っている。
「フッ、それこそが魔術と超能力最大の違いですからね」
ニコライも決して隙を見せようとしない。
「でも、私は2種類の魔術しか使ってませんよ?」
ニコライは楽しそうに話す。まるで出来の悪い生徒に説明するように。
「1つはさっきの盾『十字結界』。そしてもう1つは―――」


「―――『奇跡再現』。聖人のみが使うことを許される力です」


「奇跡ねぇ……大層な名前だが要はただの洗脳だろうが」
ジョーカーは銃を撃ちながら突っ込む。
「洗脳(それ)は力の一部でしかありません。まぁ一番使える力ではありますけど」
ニコライは『十字結界』を出したまま後ろに下がる。
二人の距離は縮まらない。ただ戦場を移動し続けるだけだ。

「『奇跡再現』。それは偶像崇拝の理論を利用して聖人が神の子がおこした奇跡を再現する術式です」
二人は恐るべき速度で校内(せんじょう)を駆け巡る。校舎裏、屋上、校庭、体育館の屋根、宿舎、研究用の施設へと。
「神の子イエス=キリストは数多くの奇跡を残しました。その中で最大の奇跡とは何だと思います?」
ジョーカーは答えない。わからないというよりは興味がないようだ。

「これは私の持論になりますけどねぇ………………」
ニコライはお構いなしに一人で続ける。
「……この十字教の存在そのものだと思うのですよ」
そう言うとニコライは校舎と校舎の間で立ち止まった。
ジョーカーも間合いを取る形で止まる。

「神の子の死後から現在まで、すでに何千年という時間が経過しています。
 普通の宗教ならばその途方もない時の中で衰え、消滅しているでしょう。
 しかし十字教は衰えるどころか世界中に20億人をこえる信者を抱えるほど広まり、より熱狂的に支持されています。
 それこそ人殺しすらも辞さないほど狂信的に」
ニコライは両手を広げる。まるで神を祝福するように。
「これを奇跡と呼ばずにして何が奇跡でしょう?」

「フン、それがどうし……!?」
ジョーカーは途中まで言って気付いた。
奴は今まで何の説明をしていたのか。
奴はさっき何と言ったのか。
「フフ、さっき言いましたよねぇ?私は神の子の模造品(レプリカ)なのです」
ニコライは手を掲げた。
それを合図に両側にある校舎の窓が開け放たれる。

「その絶対的なまでの信仰を僅か一万分の一程ですが得ることができるのですよ」
僅か一万分の一。しかし20億人の一万分の一は2万人。
見ると開けられた窓の向こうにいるのは学園都市の住人たち。
白刈崎高校の制服を着た者はもちろん、他校の生徒や警備員(アンチスキル)用の銃を構えた教師までいる。
少なく見積もって50人以上。

「『奇跡再現』の効用範囲はこの学園都市ほぼ全域にまで広げてあります。
 その範囲内で私の教えを聞いた者は皆、私の忠実な信徒(てあし)となるのです」
どうやらニコライ自身が準備が整うまでの足止めだったらしい。
そのニコライも盾を出して巻き添えを喰らわぬよう下がっている。
50人の信徒が一斉に構える。
50対1の虐殺が始まった。


真空刃、炎弾、念動力、電撃、氷塊、実弾、空間移動(テレポート)による座標攻撃。
多種多様の攻撃が狭い校舎の間で巻き起こる。
標的(ターゲット)は逃走したようだがそいつを追いかけるどころではない。
今は発条包帯の脚力を使って避けているがそれも時間の問題だ。
かわしきれなかった真空刃が脇腹をかすった。

(クソ、ふざけやがって)
脇腹の傷を肉体変化の力を使って塞ぐ。あくまで応急処置だが少しはマシだろう。
(その忠実な手足とやらが俺の邪魔をするって言うなら―――)
手の警棒を強く握る。
(――― 一本残らず叩き潰してやる)
ジョーカーはそばにいた学生に向かって警棒を振るった。


彼はロシア成教所属の魔術師の夫婦の下で生まれた。
生まれながらに聖人という才能を有していた彼は物心がつく前から魔術の世界に足を踏み入れていた。
幼い頃から両親に魔術の英才教育を受けさせられた彼はすぐに才能を昇華させた。

一通り魔術について叩き込まれるとロシア成教傘下の魔術組織に入れられた。
上から来る指令はどれも危険で困難な物だった。
彼はそれを文句一つ言わずこなした。
こなした後には次の指令が待っている。
それを繰り返す。
ただ、ただ繰り返すだけ。

いつからだろうか? 自分が明確な望み、いや憧れを持つようになったのは。
それは日々の繰り返しの中には無く、組織を束ねるまでに登り詰めた今でも手に入らない。

誰もが当然のように持っているのに自分にはない物。
遠い昔に、知らない間に失ってしまった物。


彼は学園都市(てきち)の景色を眺めながら思う。

もしも―――――――――
もしも、この戦争で勝利を収めることができたならば――――――

自分の望んだ物は手に入るのだろうか?


ジョーカーは屋上のドアを開けた。

彼は約50人の信徒全てを倒していた。
といっても正面から突っ込んで勝てる訳がない。
開戦早々に敵の一人に成りすまし、同士討ちを誘ったのだ。
敵が紛れ込んだことに気付いた信徒たちは疑心暗鬼になり、すぐに目論見通り殺し合いを始めてくれた。
彼が直々に手を下したのは半数にも満たない。

30分ほどかけて敵を殲滅し終えた彼は校舎の屋上に来た。
彼の視線の先には標的(ターゲット)がいる。

学園都市の景色を見ていたニコライは屋上に来たジョーカーの方を向いた。
「58人の信徒もやられましたか…………どうやら私自身があなたを倒さなければならないようですね」
彼はため息をついた。哀れんでいるのではなく本気で悲しんでいるようだった。
「私は元々この魔術と科学の戦争に興味はないのですよ。いや、宗教その物に興味が無いと言っていいでしょう」
ニコライは敵を前にして語り始めた。
ジョーカーも何を思ったのか黙って聞いている。

「教会(われわれ)は魔術(われわれ)、学園都市(あなたがた)は科学(あなたがた)でやっていけばいい。
 私はそう考えていましたし、今もそう思っていきます」
「一応聞いてやろうか。ではなぜこの戦争に参加した?」
ニコライはその質問に満足したように笑った。

「私には"望み"があるのです」
「望み?」
「えぇ、何も特別な望みではありません、普通の人が普通に望み、普通に持っている物――――――」
ニコライは遠くにある物を見るように目を細める。

「―――――――――『平穏』ですよ。私は普通でもいいから平和な生活がしたいのです。」
ククク、と魔術師は自嘲するように笑う。
「おかしな話ですよねぇ、普通ではない力を持っている私が普通の人が持っている物に憧れているのです」
ジョーカーは笑わずに聞いている。
「ですがそれは時が経てば経つほどほど私から遠ざかって行きました。もう私は"普通の人"には戻れないのです」
ニコライは嘆く、力を持って生まれてきたことを。
「どれだけの力を手にしても組織の危機は無くならない、それを無くさなければ私に平和はない」

「私の平穏には私が属するロシア成教の安定が不可欠なのです」
それが彼の原動力。それが彼の望みを果たす唯一の方法。

「ローマ正教と学園都市の勝敗などに興味はありません。
 だがもし学園都市が勝てば我々を滅ぼそうとするかもしれない。
 逆にこの戦争でローマ正教と手を組み勝利すればロシア成教の地位は確固たる物になる」
自分の望みのためなら誰が犠牲になっても構わないと彼は言う。
彼は覚悟を決めた眼でこちらを睨み、叫ぶ。

「ロシア成教、ひいては私の望みのために消えて下さい学園都市!」
最後の戦いの火蓋が切って落とされた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー