ジョーカーは銃をニコライに向けた。
向けられたニコライはすぐに十字結界を出す。撃たれた後から盾を出しても遅いからだ。
だが銃撃は来ない。その代わりにジョーカー自身が突っ込んできた。
向けられたニコライはすぐに十字結界を出す。撃たれた後から盾を出しても遅いからだ。
だが銃撃は来ない。その代わりにジョーカー自身が突っ込んできた。
(……フェイント?!)
気付いた時にはもうすでにジョーカーは盾の前にいる。
鉄柱すらもたたき折る蹴りを詠唱を施していない十字結界で防げるはずもなく、紙切れのように引き裂かれる。
盾と十字架はリンクしているのか十字架の方も粉々に砕けた。
(……く!)
左手首にぶら下げた十字架からも盾を出そうとするが、それより先にジョーカーの銃が火を噴く。
致命傷にはいたらなかったものも数発がニコライに命中し、吹き飛ぶ。
流れ弾が当たったのか左手の十字架が砕ける。
気付いた時にはもうすでにジョーカーは盾の前にいる。
鉄柱すらもたたき折る蹴りを詠唱を施していない十字結界で防げるはずもなく、紙切れのように引き裂かれる。
盾と十字架はリンクしているのか十字架の方も粉々に砕けた。
(……く!)
左手首にぶら下げた十字架からも盾を出そうとするが、それより先にジョーカーの銃が火を噴く。
致命傷にはいたらなかったものも数発がニコライに命中し、吹き飛ぶ。
流れ弾が当たったのか左手の十字架が砕ける。
(く、……十字結界は……もう使えませんか……)
ニコライ倒れながら考える。
(奇跡再現は強力な術式ですが……攻撃用ではありませんしねぇ……)
傷は致命傷ではないとはいえ決して浅くない。
(はぁ………)
それほど追い詰められても彼に観念したような様子は見えない。
(…………"奥の手"を使うしかありませんねぇ)
ニコライ倒れながら考える。
(奇跡再現は強力な術式ですが……攻撃用ではありませんしねぇ……)
傷は致命傷ではないとはいえ決して浅くない。
(はぁ………)
それほど追い詰められても彼に観念したような様子は見えない。
(…………"奥の手"を使うしかありませんねぇ)
「“目には目を――――――」
ジョーカーはニコライを睨んだ。倒れたまま彼が詠唱を始めたのだ。
「―――歯には歯を――――」
ジョーカーは銃を向けるが放てない。残りの弾数は一発。この位置から撃っても奴は倒せない。
その間も魔術師は呪を紡ぐのをやめない。
「―――古(いにしえ)の法にて罪人を裁き給え”」
次の瞬間―――――――――――――
ジョーカーはニコライを睨んだ。倒れたまま彼が詠唱を始めたのだ。
「―――歯には歯を――――」
ジョーカーは銃を向けるが放てない。残りの弾数は一発。この位置から撃っても奴は倒せない。
その間も魔術師は呪を紡ぐのをやめない。
「―――古(いにしえ)の法にて罪人を裁き給え”」
次の瞬間―――――――――――――
――――――ジョーカーに激痛が襲った。
(な…………?)
彼は何の攻撃も喰らっていない。
喰らってもいないのに体に激痛が走る。
見ると体の数箇所に銃創のような傷がある。
(これは…………俺が奴に与えたのと同じ傷?)
彼は何の攻撃も喰らっていない。
喰らってもいないのに体に激痛が走る。
見ると体の数箇所に銃創のような傷がある。
(これは…………俺が奴に与えたのと同じ傷?)
「ふふふ、『目には目を、歯には歯を』。」
ニコライは首だけ起こして話す。体中傷だらけなのに満面の笑みだ。
「仮にも学問の街の住人ならわかりますよねぇ?」
ジョーカーは膝をつきながらも答える。
「……ハンムラビ法典……。はるか昔に存在した古の法……」
「えぇ、その通りです。そしてこれがその法を利用して放つ魔術『タリオの裁き』です」
自分と同じ傷を敵にも押し付ける魔術。それが彼の奥の手(きりふだ)。
ニコライは首だけ起こして話す。体中傷だらけなのに満面の笑みだ。
「仮にも学問の街の住人ならわかりますよねぇ?」
ジョーカーは膝をつきながらも答える。
「……ハンムラビ法典……。はるか昔に存在した古の法……」
「えぇ、その通りです。そしてこれがその法を利用して放つ魔術『タリオの裁き』です」
自分と同じ傷を敵にも押し付ける魔術。それが彼の奥の手(きりふだ)。
「クソ、……だがお前も同じだけの傷を抱えているのだろう?」
「ふふふ、それはどうでしょう?」
そういうとかれは右手を上にかざした。右手首より先が青白く輝いている。
彼はその右手を傷に当てた。すると傷が瞬く間に塞がっていく。
「ふふふ、それはどうでしょう?」
そういうとかれは右手を上にかざした。右手首より先が青白く輝いている。
彼はその右手を傷に当てた。すると傷が瞬く間に塞がっていく。
「神の子は右手を当てるだけで傷を癒したそうです。『奇跡再現』を使えばこんなことも可能なのですよ?」
全く同じ傷を持ちながらも相手はそれを癒すことができる。
例え攻撃が成功しても傷つくのは自分の方。
その先に勝利の二文字はない。
これが彼の必殺の切り札。
全く同じ傷を持ちながらも相手はそれを癒すことができる。
例え攻撃が成功しても傷つくのは自分の方。
その先に勝利の二文字はない。
これが彼の必殺の切り札。
「さて、奥の手まで出したのですから一応名乗りましょうか」
魔術師は立ち上がりながらつぶやく。傷はほとんど塞がっている。
魔術師は立ち上がりながらつぶやく。傷はほとんど塞がっている。
「『我が望みのためならその全てを(Mollis 438)』」
放たれたのは魔法名。
魂に刻んだその名を語る意味は――――――
魂に刻んだその名を語る意味は――――――
「―――――我が名にかけて必ず殺す」
(クソ………)
ジョーカーは立ち上がり、警棒を構える。だがフラフラだ。
ジョーカーは立ち上がり、警棒を構える。だがフラフラだ。
ニコライはそんなジョーカーの懐に入り込むと強烈な突きを繰り出した。
ジョーカーは倒れそうになるのを抑えて渾身の力でニコライの腹を蹴り上げる。
蹴られたニコライは3メートルほど上空に飛ばされ落ちてきた。
倒れた魔術師にとどめを刺そうと足を振り上げるが、蹴りを喰らわすよりも先にニコライがその足を掴む。
ジョーカーは倒れそうになるのを抑えて渾身の力でニコライの腹を蹴り上げる。
蹴られたニコライは3メートルほど上空に飛ばされ落ちてきた。
倒れた魔術師にとどめを刺そうと足を振り上げるが、蹴りを喰らわすよりも先にニコライがその足を掴む。
「無駄なんですよ」
そう言われた瞬間腹に衝撃が走った。
傷が開いて血が噴き出る。
足を離され倒れそうになったところにニコライが起き上がる勢いを利用して膝蹴りを喰らわす。
思わず吹っ飛ばされるがそのまま二コライから離れる。
そう言われた瞬間腹に衝撃が走った。
傷が開いて血が噴き出る。
足を離され倒れそうになったところにニコライが起き上がる勢いを利用して膝蹴りを喰らわす。
思わず吹っ飛ばされるがそのまま二コライから離れる。
二コライから10メートルほど離れた地点で立ち上がる。
もう立っていることでさえ限界だ。
あと一撃でも喰らえばさすがに倒れるだろう。
次の一撃で決めなければ自分に勝利はない。
だが一つだけ気付いたことがある。
もう立っていることでさえ限界だ。
あと一撃でも喰らえばさすがに倒れるだろう。
次の一撃で決めなければ自分に勝利はない。
だが一つだけ気付いたことがある。
(…奴は攻撃を喰らってからダメージを返すまでに約十秒、たった十秒だが時間が空く)
ならばできる事は一つ。
(その十秒の間で奴の意識を刈り取ってしまえばいい)
ジョーカーは覚悟を決める。
(十秒でケリをつける)
ならばできる事は一つ。
(その十秒の間で奴の意識を刈り取ってしまえばいい)
ジョーカーは覚悟を決める。
(十秒でケリをつける)
彼はこの学園都市に三つしかない肉体変化(メタモルフォーゼ)の能力を使って両腕を作り変える。
より強く、より禍々しく。
腕には人外の力を。手には獣の爪を。
魔獣の腕を作り出す。
より強く、より禍々しく。
腕には人外の力を。手には獣の爪を。
魔獣の腕を作り出す。
二コライは敵の様子を見て悟った。
「最後の勝負を仕掛けるつもりですか……」
魔術師は構える。
「次の攻撃が決まればあなたの勝ち、避ければ私の勝ち。いいでしょう、…………」
口を歪めて笑う。
「……決着の時です!!」
「最後の勝負を仕掛けるつもりですか……」
魔術師は構える。
「次の攻撃が決まればあなたの勝ち、避ければ私の勝ち。いいでしょう、…………」
口を歪めて笑う。
「……決着の時です!!」
ジョーカーは獣のように身構えると全力で地面を蹴った。
右足の腱が負荷に耐えられず切れる音がしたがどうでもいい。
ジョーカーは全てを捨てて最後の一撃を繰り出す。
右足の腱が負荷に耐えられず切れる音がしたがどうでもいい。
ジョーカーは全てを捨てて最後の一撃を繰り出す。
二コライは身を翻してジョーカーの魔手から逃れようとする。
爪が修道服に刺さる。そのまま脇腹を引き裂く。
傷は深い。だが"致命傷ではない"。
爪が修道服に刺さる。そのまま脇腹を引き裂く。
傷は深い。だが"致命傷ではない"。
(……勝った!!)
爪を避けた瞬間彼はそう確信した。
"自分からの死角、敵の背にある3本目の腕に気付くまでは"。
爪を避けた瞬間彼はそう確信した。
"自分からの死角、敵の背にある3本目の腕に気付くまでは"。
(な…………!?)
気付いたところですでに腕は自分の眼前にまで迫ってきている。
魔術師は顔面に凄まじい威力を持った一撃を喰らい吹き飛んだ。
気付いたところですでに腕は自分の眼前にまで迫ってきている。
魔術師は顔面に凄まじい威力を持った一撃を喰らい吹き飛んだ。
(クソ………まさか最後の最後でダミーを入れるとは……)
二コライにはまだかろうじて意識があった。
だが"かろうじて"だ。術式を組む余裕はない。
それでも二コライはあきらめない。
(脳の麻痺は…衝撃による一時的な物…すぐに治るはず)
彼は残った僅かな意識で考える。
(私は…まだ負けられない…この戦いの先に私の望みが…きっとある)
おぞましき執念で魔術師は蠢く。
二コライにはまだかろうじて意識があった。
だが"かろうじて"だ。術式を組む余裕はない。
それでも二コライはあきらめない。
(脳の麻痺は…衝撃による一時的な物…すぐに治るはず)
彼は残った僅かな意識で考える。
(私は…まだ負けられない…この戦いの先に私の望みが…きっとある)
おぞましき執念で魔術師は蠢く。
彼はふと自らに向けられた刺客を眼を動かして探した。
奴の消耗も半端ではない。もしかしたら自分が手を下さずともすでに虫の息かもしれない。そんな希望を持っていた。
そこには――――――――
奴の消耗も半端ではない。もしかしたら自分が手を下さずともすでに虫の息かもしれない。そんな希望を持っていた。
そこには――――――――
自分に狙いを定め、銃を構えたジョーカーがいた。
「な……そ…………待」
彼の願いが叶うことはない。
「な……そ…………待」
彼の願いが叶うことはない。
無人のように静まりかえった学校に銃声が響き渡る。
ジョーカーは携帯を取り出し下部組織に連絡を入れる。
一回だけコールが鳴り、すぐに誰かが出た。
一回だけコールが鳴り、すぐに誰かが出た。
「俺だ……ああ、任務は完了した。」
下部組織の人間がお決まりの任務の確認を取ってくる。
ジョーカーは面倒くさいが決まりなので答える。
「―――ああ、回収だ。」
下部組織の人間がお決まりの任務の確認を取ってくる。
ジョーカーは面倒くさいが決まりなので答える。
「―――ああ、回収だ。」
彼が最後に放ったのは暴徒鎮圧用のゴム弾。
これは何も魔術師に同情したのではない。
ただそういう任務だったのである。
これは何も魔術師に同情したのではない。
ただそういう任務だったのである。
気絶した二コライを担ぐ。
右足の腱を含めた体中の傷は能力を使ってある程度修復させてある。
右足の腱を含めた体中の傷は能力を使ってある程度修復させてある。
彼はこの魔術師がこの後どういう目にあうか知らない。
魔術組織に返すのか、科学の技術で魔術を解明するために研究所に送られるのか……
いずれにしてもその先に奴の言う"平穏"とやらはないだろう。
同情はするがそれだけだ。助けてやろうとは微塵にも思わない。
魔術組織に返すのか、科学の技術で魔術を解明するために研究所に送られるのか……
いずれにしてもその先に奴の言う"平穏"とやらはないだろう。
同情はするがそれだけだ。助けてやろうとは微塵にも思わない。
顔に手を当て作り変える。
どこにでもいそうなごく普通の青年の顔にした。
どこにでもいそうなごく普通の青年の顔にした。
校門にまで降りてくると誰かが立っていた。
長い手に金髪、黒いサングラス。
多角スパイ、土御門元春
魔術組織との橋渡しにでも使われるのか、回収に来たようだ。
長い手に金髪、黒いサングラス。
多角スパイ、土御門元春
魔術組織との橋渡しにでも使われるのか、回収に来たようだ。
「能力者が魔術師を始末するようになるとは………末期だな」
「私にそう言われましてもね」
土御門はさも機嫌悪そうに舌打ちした。
「テメェがジョーカーか、胸糞悪いクズ野郎だ」
ジョーカーは口を歪めた。
「私にそう言われましてもね」
土御門はさも機嫌悪そうに舌打ちした。
「テメェがジョーカーか、胸糞悪いクズ野郎だ」
ジョーカーは口を歪めた。
彼は知らない。
目の前の人間がいつも違う姿をして傍らにいることを。
常に日常で彼に監視されていることを。
目の前の人間がいつも違う姿をして傍らにいることを。
常に日常で彼に監視されていることを。
土御門は二コライを黒いゴミ収集車に乗せると自身も車に乗って去っていった。
その後ろ姿を眺めながら思う。
その後ろ姿を眺めながら思う。
裏の仕事は終わった。
明日、自分はまた彼らのいる表の日常へと戻るのだろう。
もしかしたら、あれがあの魔術師の言う"平穏"という物なのだろうか?
だとしたら―――――――
明日、自分はまた彼らのいる表の日常へと戻るのだろう。
もしかしたら、あれがあの魔術師の言う"平穏"という物なのだろうか?
だとしたら―――――――
――――――少しは奴の望みもわからなくもない。