とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 4-435

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匿名ユーザー

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「そろそろかな……?」
美琴は上条の額に乗せられた濡れタオルを取ると、側に持って来ておいた冷水の入った洗面器に漬けて絞り、再び上条の額に乗せた。
舞夏が去った後、上条をちゃんとベッドに寝かせたほうがいいだろうということで、今度は細心の注意を払いつつかなりドギマギしながらも、何とかきちんと寝かしつけた。
時折苦しそうな呻き声を上げたりしているが、現在も上条は眠っている。
上条がこんなことになった責任は自分にあるわけなので、せめて目を覚ますまでは付いていようと思った。
「(……べ、別に深い意味なんてないんだからー!)」
心の中で、何かいい訳じみた事を叫びつつ、とりあえず何かしてやれる事をやっておこうということで、額に濡れタオルを乗せてやっていた。
現状、それくらいしか美琴に出来る事はなかった。
熱を測ろうにも体温計の在り処がわからない(救急箱には入ってなかった)、氷枕をしてやろうと思ったが同じく在り処がわからない、薬を飲ませようにも上条は眠っているので不可、と思いついた行動は全て実行不能だった。
何かとっても無力だなー、と多少凹みながらも、美琴は甲斐甲斐しく自分の出来る事をやることにした。
「ふぅー……冷たっ……」
冷たくなった両手を口元に持っていき、「ハー」と温かい息を吹きかけ、ごしごしと両手を擦り合わせることを何度も繰り返し、手を温めた。
ストーブが使えればそれに手を当てて温めるのだが、生憎と故障しているようだ。
「少しは熱下がったかしら?」
額には濡れタオルが置かれているので、変わりに上条の頬に触れて熱を確かめる。
「まだ高そうね……」
おおよそではあるが、高いと感じる熱さだ。
「……熱いっていうか、温かいわね、こいつの頬」
冷たくなっていた美琴の手には、熱を帯びた上条の頬が心地よく感じた。
手の平、手の甲と代わる代わる上条の頬に当てて見る。
すると、美琴の冷たくなった手が気持ちよかったのか、手を当てているほうに顔を傾け軽く頬擦りする。
「……っ!?」
その反応にちょっとびっくり。
頭が動いた事で、額に乗せていた濡れタオルがズレた。
「……っと」
美琴が空いたほうの手で、濡れタオルを直す。
「気持ちいい…のかしら……?」
上条の意外な反応に驚きつつ、ためしに逆の頬に手を添えてみる。
今度はそちらのほうに顔を傾け、やっぱり軽く頬擦りした。
また頭が動いた事で、額に乗せていた濡れタオルが今度はズレ落ちた。
「気持ちいいみたいね……」
落ちたタオルを拾うと、再び額の上へ乗せる。
そして、上条の頬に添えていた手はそのまま離さなかった。
「(変な意味はないの! こいつも気持ちいいみたいだし、私の手も温かいから……そう、それだけよ!)」
「んー……」
「……」
「んー……」
「……おーい、気持ちいいかー、この野郎ー?」
返事なんて期待していない、照れ隠しに問いかけただけだ。
そのため、声は小さい。
返事は返ってこない、上条の寝息が聞こえるだけだ。
「おーい、気持ちいいのか、って聞いてんだよ、コラー」
再び問いかけるが、やっぱりこれも照れ隠しで、声は小さい。
そして、やっぱり返事も返ってこない。
そんな照れ隠しを口にしながら、美琴は上条の頬から手を離さなかった。


♪~ ♪~

洗面器の水を替えている最中、美琴の携帯の着信音が鳴り出した。
少しビクッとしながら携帯を取り出す。
「(黒子の奴じゃないでしょうね……?)」
もしそうだとすると、少々、いやかなり面倒な事になりそうなので、絶対スルーしようと心に決め、電話の主を確認する。
しかし、電話の主は白井黒子ではなく、意外な人物からだった。
『土御門舞夏』
ディスプレイにはその名が表示されていた。
その名を見るなり、美琴は急いで電話に出る。
『おーい、み……』
「土御門ー! あんたねー!!!」
舞夏が何か言う前に、美琴が大音量で怒鳴りつけた。
相当ご立腹だったようで、美琴の周りはバチバチと帯電している。
しかしながら、周りに何も被害が出なかったのは奇跡と言っていいだろう。
『……で、そろそろ落ち着いたかー? 話進めたいんだけどなー。一応、仕事の合間に電話してるわけだし……』
「……なんか軽くスルーされてるような気がするんだけど……まあいいわ。で、なに? 何か用があるんじゃないの?」
少し落ち着いた美琴が舞夏に尋ねる。
『んー、用というかなー、みさかがちゃんと看病できてるかどうか気になって電話したんだけどなー。どうだー、そっちの状況は?』
「あー、なんとかやってるわよ、一応。……っても、こいつが起きないから、やれることなんてあんまないのよね。とりあえず、頭に濡れタオル乗せてやってるくらいね……」
『なるほどー……』
「そうだ、あんたちょっと知恵貸しなさいよ。メイドさんなんだからこういうの詳しいでしょう?」
『いやー、私はメイドさんであってナースではないのだがなー……』
「似たようなモンでしょ? 世話することには変わりないんだから」
『……まあ、いいけどなー。そのために電話したようなものだしなー。そういえば、着替えはしたのかー?』
「……えっ?」
『着替え』という言葉にきょとんとする美琴。
『……その反応はしてないみたいだなー』
「え、えーっと、着替えって…こいつの……?」
何故だろうか、とても嫌な予感がする。
『当然。みさかが着替えても仕方ないだろうー? 汗とかいっぱいかいて気持ち悪いだろうからなー? やっぱり新しいのに替えてやるとスッキリするだろうしなー』
嫌な予感的中。
言っている事は間違ってない。
確かに正論である。
しかし、
「(こいつを着替えさせるの? 私が……?)」
つまりそれは、上条の服を脱がせるという事であって……。
自分が着替えさせる、ということに恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じた。
『でも、ただ着替えさせるだけじゃダメだぞー。ちゃんと身体を拭いてあげないとなー』
「……なっ!?(なんですってー!!!)」
口から絶叫しそうになったが、何とか踏み止まり心の中で絶叫した。
想像しただけで顔が真っ赤になる。
美琴の脳内ではなんかもう大変な情景が広がっていた。
「(ちょ、ちょ、ちょっと待てー。落ち着け、私……)」
何とか気持ちを落ち着けようと努力する。
「(平常心…平常心…平常心…へいじょうしん……)」
『んー? どうかしたかー?』
そんな美琴の心情を知ってか知らずか舞夏が尋ねる。
「……なんでもないわ」
必死に平静を装い、動揺しているのをバレないよう誤魔化す。
舞夏は特に気にした様子もなく、そのまま話を続けていた。
どうにか誤魔化せたようだ。
とはいえ、美琴の心情が大変な事になっているのは変わりない。
その後も舞夏がいろいろ何か言っていたが、ほとんど頭に入らなかった。
『おー、そろそろ仕事に戻らないとなー』
「そ、そうなの……」
『ああ。っても、もう少しで終わりかなー? まあ、早く終わって時間があるようだったら、そっちに顔を出すなー』
「ああ、うん、ありがとう……。その時はまあ、連絡して…」
『おおー、それじゃあなー、みさか。そっちも頑張れよー』
そういって電話は切られた。
電話が切れたのを確認すると、美琴は深い溜め息を一つ。
そして恨めしそうな視線を、ベッドで眠る上条に向ける。
起きる気配は……やはりない。
「着替え……か……」
口にしただけで、自分の顔が熱くなっていくのがよくわかった。


さて、現在御坂美琴はベッドの横で正座している。
その横、テーブルの上には、少し熱めのお湯の入った洗面器と中にタオルが数枚。
床には上条の着替えが綺麗に畳まれて置かれている。
部屋の室温も少々高めに設定。
準備は万端だった。
「スー……ハァー……スー……ハァー……」
まずは深呼吸。
気持ちを落ち着かせるため、何度も繰り返す。
やがて、早かった鼓動がだんだん落ち着きを取り戻す。
そして、待つこと数秒。
心は決まった。
後は、自分のタイミングで行くのみ。
「……よし!」
美琴が意を決し、被せていた布団に手を伸ばす。
伸ばした手は、プルプルと小刻みに震えてはいたが……。

着替えは難攻した。
ずっと緊張しっぱなしの美琴は、上条が少し呻き声を上げたり何かしら反応があったりすると、『ビクッ!』と反応してしまう。
場合によっては、『ひぃぃぃっ!?』と小さな悲鳴を上げる事さえあった。
また、横になっている人の服を脱がすとなると、それなりに面倒かつ複雑であり、身体が密着したりもするわけで……。
「よいしょ……っと……」
「んー……」

むにぃ……

「―――っ!?」
キスしてしまいそうな至近距離まで顔を近付けることもあれば、頬と頬が触れ合うこともある。
「(お、落ち着け……ただ頬が触れ合っただけよ……。そう、それだけよ……!)」
心臓がドキドキしっ放しで、美琴の心臓はオーバーヒート寸前。
一枚脱がすだけで、どれほど苦労した事か。
こんな調子で、二枚目三枚目もやはり難攻するのである。
服の残数が減るにしたがって、反応は過剰になっていき、作業のスピードは遅くなっていくのであった。
「(……こいつ着過ぎじゃないの?)」
愚痴ってしまうが、たかだか三枚、着過ぎと言うほどではない。
風邪をひいたため、普段よりも一枚余分に着ただけである。
とはいえ、愚痴ってしまうも仕方ないかもしれない。
こんなこと恥ずかしいこと、愚痴でも言って少しでも気を紛らわせないとやってられない。
そんな感じでスローペースながらも、ようやく三枚目、最後の一枚も終了。
「……やっと終わった」
上条に背を向け大きく溜め息をつく。
といっても休んではいられない。
上条は現在上半身裸なわけで、すぐにでも身体を拭いてあげて、服を着せてやらなければならない。
早速、テーブルの上に用意しておいた洗面器に手を伸ばす。
しかし、
「……ぬるい……」
服を脱がせるのに時間をかけ過ぎたようで、洗面器の中身はお湯ではなくなっていた。


身体を拭く作業も、やはり難攻した。
まず、美琴が上条の裸を直視することが出来なかった。
最初なんて、他所を向いたままとか、片手で目隠ししながら身体を拭こうとしたほどだ。
また、上条の素肌に触れることに躊躇や恥ずかしさがあったため、なかなか身体を拭けずにいた。
腕まではどうにか拭けるのだが、その先がどうしても踏み出せない。
そのため、腕をもうこれでもかというほどずっと拭いていた。
そんな逃げ腰状態が続いた。
「(……このままじゃダメだわ)」
ちらりと向けた視線の先には、上半身裸の上条さん。
あまり時間をかけるわけにはいかないと、なんとか勇気を出して上条の胸板に手を伸ばす。

ぴとっ……

「……」
胸板に手を置くことに成功、とりあえず今のところ上条に反応はない。
呻き声でも上げられていたら、またビクッとして手を離してしまっただろう。
「……よし!」
顔が熱くなるのを感じたが、そんなものは無視。
ゆっくりと手を動かす。
ゆっくりと、丁寧に、撫でるように拭く。
力を入れず、刺激しないよう、丁寧に丁寧に。
まるで腫れ物を扱うように。
「んん……」
脇腹辺りを拭いた時、こそばゆかったのか、上条が変な呻き声を上げる。
少しビクッとしてしまったが、なんとか耐える。
「(大丈夫……まだ大丈夫……)」
そう自分に言い聞かせて、とにかく続ける。
ただ黙々と手を動かす。
その甲斐あって、胸元とお腹の辺りをどうにか終えた。
「ふー……」
大きく一息。
しかし休んでいられない。
この状態を保ったまま、一気に全部やってしまおうと考える。
この状態が解けると、絶対に惚けてしまうから。
それから復活するまで、どの位かかるかわかったもんじゃない。
洗面器でタオルを洗って絞ると、そのまま続きを始めた。
黙々と手を動かした。
背中、脇と順々拭き終えると、そのまま着替えに移行する。

寝ている人間に服を着せるのは、やはり手間だった。
多少手間取りながらも、せっせと下着のシャツを着せる。
一枚でも何か着せてしまえば、もうこっちのものだ。
裸でなくなったら、その分気持ちが楽になる。
パジャマが見当たらなかったので、適当に選んだトレーナーを着せる事にした。
しかし、トレーナーの襟口の部分が少し狭かったようで、頭がなかなか出てこなかった。
美琴は襟口に頭の詰まったトレーナーを少し力をこめて引っ張った。
思った以上に力を入れてしまったのか、スポンと勢いよく襟口から頭が飛び出した。
その飛び出した上条の顔が、ちょうど美琴の目の前に現れ、

ガチィィィィン!

とぶつかった。
「ぐっ……!」
「かはぁ……!」
美琴は激突した口の辺りを押さえ、支えを失った上条は、そのままドスンと倒れた。
「っ……歯打った……」
口をぶつけた美琴は、ちょぴり血の味がした。
「(ん? 口?)」
美琴のぶつけた場所、当たった場所は口。
口…唇……。
どこにぶつかったか?
上条当麻の頭。
頭…額……。
「……」
上条当麻の額に、御坂美琴は唇をぶつけました。
それは、つまり……、
「(キス……しちゃった?)」
ということになるのか?
わなわなと震える美琴は、ゆっくりと上条のほうに視線を向ける。
すると、
「―――っ、な、なん…だ……? ぐぉっ!? か、関節が……!」
御坂美琴のキス(額に)で、上条当麻は目を覚ましました。(いや、実際違うだろ……)
上条は上体を起こそうとしたが、身体に力が入らなかった。
仕方なく、横になった状態のままで視線を回らせる。。
「あ? こ…こは……? あれ? みさ…か……?」
美琴の存在に気付く上条。
「……っ!?」
目を覚ました上条にビクッと反応して後ずさる。
そして、
「キ(バシャン!)」
後ずさった際に、テーブルからひっくり返した洗面器の中身を被ってしまうのだった。
これにより、美琴の絶叫はキャンセルされたのであった。


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