二月十四日。
他と変わらず一年の中で三百六十五分の一でしかないその日は、しかし、ここ学園都市
の中においても他とは異なる意味合いを持つ物となっていた。
超能力を開発する科学の徒の都市とはいえど、住人の大半が年頃の少年少女たちであれ
ば外と同じく興味をそそられるものがある。
少女たちは製菓産業(特にカカオを主原料とした品目含む)の策謀に踊らされていると
自覚している者もいない者も一様に東奔西走し、目当ての物を首尾よく用意して意中の異
性に届けるべく奮闘する。 少年たちもそんな少女たちの姿を気にしてない素振りをしな
がら横目でチラ見したりと学園都市中が何やら褐色色と匂いに包まれる日。
とはいえ、最近は渡す物も製菓だけでなく、また、渡す相手も異性にとどまらなかった
り渡す意味合いも違ってきたり。
上條当麻が通う学校でもいつもとは違う空気が教室を占めていた。
そわそわと落ちつかなげな生徒や口元がだらしなくにやけている生徒、周りを見回して
徐々に落ち込んでいく生徒など傍から見ていると実に面白い光景である。
上条当麻はそんな周りで一喜一憂している教室の光景を自分の席につきながら眺めてい
た。その表情は俗事にとらわれない賢者の如し。世間一般の雑事に興味など無いわ! と
言わんばかりのもの。どうやらどうせ自分には貰えないと早々に見切りをつけた様子だ。
と、そんな上条のもとに吹寄整理がやって来るとポケットから小さな塊を取り出し、
「どうせ貴様は誰からも貰えないだろうからしょうが無くくれてやるわ感謝しなさい上条
当麻」
と一気に捲くし立てると投げつけた。
慌てて上条がキャッチした手を広げてみるとそこには十円硬貨一枚で買える製菓が一つ。
「ってチ○ルチョコじゃねえか! しかも十円の方かよ!!」
「何? 何か不満でもあるわけ? 今日という日に誰からも渡されることの無いだろう貴
様にわざわざ用意してやった心に対し何の感謝も示すどころか文句でもあると? はん!
これだからゆとりは!」
「いやそうは言っても流石にこれはねえだろ!」
勢い良く席を立ち手に持つチ○ルチョコを突き付けながら叫ぶ上条に対して吹寄はやれ
やれとばかりに肩を竦め首を振りながら言う。
「貴様、その手に持つ製菓がどれほどの価値があるか知っているの?」
「? 十円だろ?」
即答する上条だが吹寄にあっさり切って捨てられる。
「つくづく使えないわね。いい? それはただの十円製菓では無いのよ? そもそもそれ
が普通のコンビニで買えるとでも思っているのかしら?」
「え? 買えねえの?」
「買えないわよ! コンビニに置いてあるのはバーコードが記載された二十円用からよ!!
近場のコンビニで用意できないからわざわざ巡回バスに乗って駄菓子屋まで出かけた苦労
によって時価は相当上がっているのよ!!」
「いや普通にコンビニのやつを買えばいいじゃん!」
「はあ!? そんなもの渡して義理じゃないと勘違いでもされたらどう責任を取ってくれ
るつもりよ!!」
「いくら上条さんでもそこまで勘違いは激しくありませんよ!?」
何故だか激しく叱責される羽目になった上条が席に着くが、後ろから更なる追撃が襲う。
「ちなみに、世の中には三倍ルールというものがあるそうね? 楽しみだわ上条当麻」
「知るか!」
他と変わらず一年の中で三百六十五分の一でしかないその日は、しかし、ここ学園都市
の中においても他とは異なる意味合いを持つ物となっていた。
超能力を開発する科学の徒の都市とはいえど、住人の大半が年頃の少年少女たちであれ
ば外と同じく興味をそそられるものがある。
少女たちは製菓産業(特にカカオを主原料とした品目含む)の策謀に踊らされていると
自覚している者もいない者も一様に東奔西走し、目当ての物を首尾よく用意して意中の異
性に届けるべく奮闘する。 少年たちもそんな少女たちの姿を気にしてない素振りをしな
がら横目でチラ見したりと学園都市中が何やら褐色色と匂いに包まれる日。
とはいえ、最近は渡す物も製菓だけでなく、また、渡す相手も異性にとどまらなかった
り渡す意味合いも違ってきたり。
上條当麻が通う学校でもいつもとは違う空気が教室を占めていた。
そわそわと落ちつかなげな生徒や口元がだらしなくにやけている生徒、周りを見回して
徐々に落ち込んでいく生徒など傍から見ていると実に面白い光景である。
上条当麻はそんな周りで一喜一憂している教室の光景を自分の席につきながら眺めてい
た。その表情は俗事にとらわれない賢者の如し。世間一般の雑事に興味など無いわ! と
言わんばかりのもの。どうやらどうせ自分には貰えないと早々に見切りをつけた様子だ。
と、そんな上条のもとに吹寄整理がやって来るとポケットから小さな塊を取り出し、
「どうせ貴様は誰からも貰えないだろうからしょうが無くくれてやるわ感謝しなさい上条
当麻」
と一気に捲くし立てると投げつけた。
慌てて上条がキャッチした手を広げてみるとそこには十円硬貨一枚で買える製菓が一つ。
「ってチ○ルチョコじゃねえか! しかも十円の方かよ!!」
「何? 何か不満でもあるわけ? 今日という日に誰からも渡されることの無いだろう貴
様にわざわざ用意してやった心に対し何の感謝も示すどころか文句でもあると? はん!
これだからゆとりは!」
「いやそうは言っても流石にこれはねえだろ!」
勢い良く席を立ち手に持つチ○ルチョコを突き付けながら叫ぶ上条に対して吹寄はやれ
やれとばかりに肩を竦め首を振りながら言う。
「貴様、その手に持つ製菓がどれほどの価値があるか知っているの?」
「? 十円だろ?」
即答する上条だが吹寄にあっさり切って捨てられる。
「つくづく使えないわね。いい? それはただの十円製菓では無いのよ? そもそもそれ
が普通のコンビニで買えるとでも思っているのかしら?」
「え? 買えねえの?」
「買えないわよ! コンビニに置いてあるのはバーコードが記載された二十円用からよ!!
近場のコンビニで用意できないからわざわざ巡回バスに乗って駄菓子屋まで出かけた苦労
によって時価は相当上がっているのよ!!」
「いや普通にコンビニのやつを買えばいいじゃん!」
「はあ!? そんなもの渡して義理じゃないと勘違いでもされたらどう責任を取ってくれ
るつもりよ!!」
「いくら上条さんでもそこまで勘違いは激しくありませんよ!?」
何故だか激しく叱責される羽目になった上条が席に着くが、後ろから更なる追撃が襲う。
「ちなみに、世の中には三倍ルールというものがあるそうね? 楽しみだわ上条当麻」
「知るか!」
即座に吠えるもやってられんと机に突っ伏す上条だが腹の虫が鳴ったために無いよりは
ましと早速包みを開いて口に放り込む。
「口の中で溶けて腹にまで行かないってのは余計に空腹になるじゃねえか……」
諸事情により今朝は朝食を抜いているのである。
と、
「上条君。お腹が空いているのなら。これをあげる」
掛けられる声が。
伏せていた顔を上げて見回すと、吹寄の陰に隠れるようにして姫神秋沙が立っていた。
差し出した手に乗せられた物を見てみれば、そこには一匹の煮干が。
「……いや、これは一体?」
当惑する上条が尋ねると
「今日は。二月十四日」
「いや、それは知ってるけど、だったらもっと他に甘い物とかじゃ……?」
「今日は。煮干しの日。だから。それをあげる」
「……そうなの?」
「そう。それと。煮干しで出汁をとった。お味噌汁もある。よかったら。飲む?」
「……まあ、腹に入るのならこの際貰うわ」
そういうことで姫神が用意した魔法瓶から注がれた味噌汁に口をつける上条。
(しっかし朝の教室で味噌汁とは……!?)
一口飲んでその顔が変わる。
「美味いなこれ。出汁は煮干しなんだろ?」
「煮干しは。頭と。お腹を。きちんと取るだけでも。味が変わる」
「へー。そうなんだ」
「もっと。飲む?」
訊かれてお代わりを頼む上条。
再び注がれた味噌汁を啜りながら
「うん、美味い。こんな味噌汁なら毎日でも飲んでみたいな」
思いが口からポロリと出る。
その一言に、傍にいた吹寄はおろか、教室中が静まりかえる。
恐ろしい静けさの中、
「…………うん。ぃぃ。ょ」
姫神が消え入りそうな声で答える。
ましと早速包みを開いて口に放り込む。
「口の中で溶けて腹にまで行かないってのは余計に空腹になるじゃねえか……」
諸事情により今朝は朝食を抜いているのである。
と、
「上条君。お腹が空いているのなら。これをあげる」
掛けられる声が。
伏せていた顔を上げて見回すと、吹寄の陰に隠れるようにして姫神秋沙が立っていた。
差し出した手に乗せられた物を見てみれば、そこには一匹の煮干が。
「……いや、これは一体?」
当惑する上条が尋ねると
「今日は。二月十四日」
「いや、それは知ってるけど、だったらもっと他に甘い物とかじゃ……?」
「今日は。煮干しの日。だから。それをあげる」
「……そうなの?」
「そう。それと。煮干しで出汁をとった。お味噌汁もある。よかったら。飲む?」
「……まあ、腹に入るのならこの際貰うわ」
そういうことで姫神が用意した魔法瓶から注がれた味噌汁に口をつける上条。
(しっかし朝の教室で味噌汁とは……!?)
一口飲んでその顔が変わる。
「美味いなこれ。出汁は煮干しなんだろ?」
「煮干しは。頭と。お腹を。きちんと取るだけでも。味が変わる」
「へー。そうなんだ」
「もっと。飲む?」
訊かれてお代わりを頼む上条。
再び注がれた味噌汁を啜りながら
「うん、美味い。こんな味噌汁なら毎日でも飲んでみたいな」
思いが口からポロリと出る。
その一言に、傍にいた吹寄はおろか、教室中が静まりかえる。
恐ろしい静けさの中、
「…………うん。ぃぃ。ょ」
姫神が消え入りそうな声で答える。
次の瞬間に上条に訪れたのは教室中の男子からの多重猛攻撃だったそうな。