とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 4-471

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匿名ユーザー

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「えーっと……大丈夫…か……?」
頭にひっくり返った洗面器を被っている美琴を見て、上条が掠れた声で尋ねる。
「……だ、大丈夫よ…」
びしょ濡れの美琴は、頭に乗っかった洗面器を取り上条の問いに静かに答える。
全身ずぶ濡れで、どう見ても大丈夫そうには見えないのだが……。
まあ、それはともかく、先程の衝撃のキス(?)で気が動転していたが、なんとか落ち着きを取り戻したようだ。
「……そういうあんたの方こそ大丈夫なの?」
テーブルの上に置いてあった乾いたタオルを手にし、頭をわしゃわしゃと拭きながら尋ねる。
とはいえ、そんなことは聞くまでもなかった。
上条の掠れた声が彼が全くといっていいほどに絶不調なのだということを物語っていた。
なのに……、
「あ? ああ……(ゴホン! ゴホン!)ん……だい…じょ…(ゴホン! ゴホン!)…ぶ…だ…(ゴホン! ゴホン!)」
なんて上条は答えた。
こちらもはっきり言って、どう見ても大丈夫そうには見えない。
というか、あれだけ咳交じりに言われても説得力がない。
この状況で大丈夫と言える上条はある意味大物か大馬鹿野郎か……。
「あんたは……どう見ても大丈夫じゃないでしょう!!!!」
この状況でごまかそうとする上条に腹が立ったので、おもいっきり怒鳴りつけてしまった。
そりゃあもう大音量で。
電撃の変わりに、大音量の怒声でビリビリとさせた。
「ううっ~……み、みさか……あ、あ…たま…に……ひび…く……」
その怒声が相当強烈だったようで、上条の頭におもいっきり響いたようだ。
かなり堪えたらしく、結構辛そう。
「あ、ご、ごめん……」
苦しむ上条の姿に、ちょっぴりしおらしくなる。
「で、でも、あんたも悪いのよ。そんな状態のくせに強がるから……」
「ううっ~…すみません……(ゴホン! ゴホン!)」
素直に謝る上条。
「全く……で、どうなの? 寒かったりしない? 何かして欲しい事とかある?」
「んー……寒くはないけど……あー……水が…欲しいか…な? 喉…が乾いた……(ゴホン! ゴホン!)」
「ああ、水ね。はいはい……」
言われて美琴は足を台所に向ける。


「って……ちょ…っと…待てよ……」
「? 何よ?」
「……水……なん…て……いいか…ら、先に…風呂に…入っ…て来…い……。そ…のまま…だと、お前が風邪…引くぞ……(ゴホン! ゴホン!)」
咳交じりに上条が美琴に告げる。
自分のことより、目の前の美琴の心配をした。
まあ、全身ずぶ濡れ状態なのだから気になってしょうがない。
「わかってるって。あんたに水持って来てやって、そこの洗面器ひっくり返したの片付けてから、さっさと入って来るから心配しなさんな」
「いや……そうは…言って……も…(ゴホン! ゴホン!)」
「はいはい、病人は大人しくする。あんたはただじっと安静にしてればいいの。大体、そのくらいやったって、そんなに時間かかんないから平気よ。それに、あんたと口論してる時間が無駄よ。そんな事してる間に、全部終わるっつーの」
そう言いながら、美琴は水と雑巾を持って台所から戻ってきた。
「はい、水。起きれる?」
雑巾を水浸しの床に置き、水の入ったコップを上条に差し出す。
「あー、ちょっと…待ってくれ……んん」
上体を起こそうとするが、やっぱり一人では起きられないようだ。
なんとか一人で起きようとしているが、うまくいかない。
「ふん! ……ん、ん、んん……」
「はあー、無理すんじゃないの。ほら……」
こんな時にも手を借りようとしない上条に若干呆れながらも、美琴は上条の背に手を回しを支え起こした。
「あー、わりぃー……」
美琴に御礼を言うと、ぐびぐびとコップの水を飲む。
相当喉が渇いていたのか、凄い勢いで飲む。
「ほら、慌てないの。全く、悪いと思うなら最初から頼れってのよ、この……」
額に軽くでこピンを喰らわせようとしたが、ふと先程自分の唇が上条の額に激突したことを思い出す。
「(////////////)」
「ふぅ……うまい……ん? どうした……?」
でこピンの姿勢で固まった美琴を不思議そうに見つめる。
「な、なんでもない! ……おかわりいる?」
でこピンしようと構えたままだった手を引っ込めると、誤魔化そうと、おかわりがいるか聞き返す。
「いや、とりあえず…これでいいよ……。お前は…さっさと風呂に……入って来い…」
上条は特に気にした様子はない。
まあ、絶不調の上条にはそんな余裕がないのだろう。
「そ、そうさせてもらうわ……あ、着替え適当に借りるけど、いいわよね……?」
「ああ、なんでも持ってけ……」
上条を寝かせると、美琴はタンスの中から適当に服を選び、そそくさと風呂場へ足を向ける。
と、部屋を出る途中で何か思い出したかのように足を止め、
「……覗かないでよ」
と上条に告げた。
「……さっさと行け」


「はあー……」
風呂場で入浴の準備をしながら、美琴は大きな溜め息を一つ。
先程のキス(?)の事を思い出し、また顔が赤くなっていた。
「(……あれは、キスじゃないの! たまたま…偶然…運悪く……唇が額に…額に…ひたいに……ああーもぅー!)」
ブンブンと頭を振り、脳内に浮かんだ妄想を振り払おうとする。
しかし、そんなことでそう簡単に振り払えるはずもなく、悶々とするのであった。
「……とにかく、今はお風呂に入ろう。このままじゃ、私も風邪引いちゃうし……」
まだ顔が赤いのだが、そんな事は無視してお風呂に入ることにする。
浴室から脱衣所に戻った美琴は、濡れた制服を脱ぐ前にポケットに手を突っ込み、中身を取り出す。
携帯電話は特に故障などはないようだが、財布がちょっと大変。
紙幣が全部濡れてしまっていて、後で乾かさなければならないようだ。
「ああーあー、こりゃ大変ね……」
荷物を適当なところに置き、濡れた制服に手をかける。
水分を吸って重くなり張り付いた制服の上をなんとか脱ぐと、その辺にあったハンガーにかけ、続いてスカートに手をかける。
スカートも同じように水分を吸って重くなっていたが、上着ほどの苦労もなく難なく脱ぎ、同じようにハンガーにかけた。
「後で向こうの部屋にかけとかないとね……」
暖房はリビングにしかないので、乾かすなら必然的にあちらに持っていかなければならない。
しかし、下着姿のままあちらに行くわけにはいかないので、持っていくのは風呂から出てからになる。
「さて……」
続いて、美琴は下着に移る。
やはり下着もびしょびしょに濡れているようで、水分を吸って肌に張り付いている。
脱ぎにくそうだなぁ、と下着に手をかけたその時、
「ん? 下着……?」
そこで美琴の動きがピタリと止まる。
「……そういえば、下着どうしよう……?」
今更ながらその事実に気付いた。
替えの下着なんて、今この場にあるはずがない。
唯一あるのが、美琴が今身に付けている、水でびしょ濡れの下着である。
「えっ!? ちょっと待って!? 本当にどうしよう!?」
ただいま美琴大混乱。
替えの下着がないことに焦る。
「……落ち着こう。まずは、落ち着こう……」
取り乱してはいけない、とにかく落ち着こうと気を静める。
なんとか気を落ち着かせると、思考を働かせる。
「……これを乾かして穿く? ……ストーブは使えなかったし、乾燥機は……こいつの家の洗濯機には……ついてないみたいねぇ……。とすると…部屋干しで乾かすしかないんだけど……」
実質的にすぐに乾かす事は不可能であった。
そうなると別の手段を考えなければならない。
頭をかかえていると、ふと置いてあった携帯電話に目が行く。
そして閃く一つの打開策。
「……あいつに頼るしかなさそうねぇ……」
あまり気が進まなかったが、今は緊急事態である。
携帯電話を手にすると登録メモリを呼び出し、そこにある番号の一つに電話をかける。
「……出てよ、お願いだから…」
美琴は祈るような気持ちで電話が繋がる事を願った。


「~♪ ~♪」
土御門舞夏は台所で食事の支度をしていた。
鼻歌交じりに調理をしているところ、かなりご機嫌である。
もうなんて言うか、もの凄く嬉しそうというか楽しそうというか、とにかくにやにやが止まらないって感じだ。
今の今まで壁に張り付くようにして、どこかの怪しい通販でありそうな聴診器のような道具を使って、終始ずっと隣りの部屋の状況に聞き耳を立てていた。
美琴のあんな発言や、こんな発言、あんな反応やこんな反応を全部聞いていたわけである。
ちなみに、美琴が動揺してたのもバレバレである。
わかってて、あえてスルーしてやっていた。
誤魔化せたと安心していた美琴の反応が楽しくて仕方なかった。
声や音しか隣りの状況がわからないとはいえ、それでも十二分に満足し得る出来事が、一つ壁を越えた向こう側では展開されていた。
余談だが、舞夏が耳にした美琴の萌え発言は、彼女の脳内でエロ漫画妄想へと変換されているとかいないとか……。
願わくば、隣りの状況をリアルに見てみたいと思ったりもするが、これ以上は望むまい。
とりあえず、美琴がお風呂に行っちゃったという事で、こちらも小休止。
この時間を使って食事を作っているのだ。
これからもまだまだ聞く気満々なので、片手で簡単に食べられる物を作っていた。
と、

ブゥーン! ブゥーン!

メイド服のポケットに入った携帯電話が振動する。(メイドさんの携帯はマナーモードが基本だ。)
調理の手を止めると、舞夏は携帯を取り出す。
「んー? 誰だー? この忙しい時に……?」
美琴が風呂から出てくる前にいろいろと終わらせておきたい舞夏としては、このタイミングの電話はちょっと迷惑。
どうでもよさそうな奴からの電話だったらスルーしようと心に決め、ディスプレイに表示された電話の主の名を確認すると、そこには意外な名前が。
『御坂美琴』
「んー? みさか?」
隣りで現在入浴中のはずの御坂美琴からの電話だった。
「……はて? これはどうしたことかなー?」
ずっと隣りの状況を窺っているとはいえ、声や音だけでは完全に隣りの状況を把握しきれているわけではない。
どうやら、聞いていただけではわからないハプニングが起こったようである。
それも、美琴自身がわざわざ電話してくるほどの大事が。
「……さてさて、どんな用件かな~♪」
舞夏は期待に胸を膨らませながら電話に出た。


「も……」
『もしもし、土御門!? あんたに頼みたい事があるんだけど……!』
電話に出るなり、舞夏の応答より先に美琴が話し出した。
大声ではなく、こそこそとした小さな急ぎ声で喋ってくる。
何か切羽詰ったような様子だ。
「? 突然どうしたー、みさか? 何かあったかー?」
『あんたさあ、下着買ってきてくれない?』
「へっ? 下着?」
『そう、下着。実はさあ……』
この後に続くセリフに、舞夏は固まる事になる。

『下着がビチョビチョになっちゃって、気持ち悪くて穿けないのよ。だから替えの下着買ってきてくれない?』

「……」
今何かとんでもない事を口にしませんでしたか?
この常盤台中学のお嬢様は?
余程切羽詰っているのか、自分が何を言ったのかわかっていないらしい。
「えーっと……悪いみさか、もう一回言ってくれないかー? よく聞こえなかった……」
ためしにもう一度言わせてみるため、聞こえなかったフリをした。
とんでも発言をもう一度言うのだろうか?
『だから……』
こそこそと小さな急ぎ声で喋ったので聞きづらかったと思ったのか、美琴は特に気にした様子もなく、もう一度言ってくれる。

『下着がビチョビチョに濡れちゃったから穿けないの。だから替わりの下着買ってきて、って言ってんの』

このお嬢様はもう一度とんでも発言を言ってくれました。
事情を知らない奴が聞いたら、なんか勘違いされそうな発言だ。
「あー、うん…そうか…なるほど……」
『? どうかした?』
自分のとんでも発言にまだ気付いていません、このお嬢様は……。
だから、
「みさか……」
『? なによ?』
「……ヤったのか?」
盛大にからかってやる事にした。
「(今日のみさかはサイコーだ!!!)」
おもいっきりガッツポーズして親指を立てた。


「はいーっ!? な、何言っちゃってるのよ、あんたはー!?」
舞夏からのとんでもない返しに、美琴はおもいっきり噴出し声を上げた。
こっちは非常事態だというのに、『一体こいつは何をぬかしてるんだこの野郎ー!』、と心底思った。
「あ、あのねー…土御門…あんたの趣味の悪い冗談に付き合ってる暇はないの……」
ドスの聞いた声で電話の向こうにプレッシャーを与えるのだが、当の舞夏には効果がないようだ。
なんか愉快に笑ってる。
『えー、趣味の悪い冗談を言ったのはそっちが先じゃないかなー?』
「私がいつそんなこと言ったってのよ!?」
『さっき言ったじゃん~♪ ほら、よーく思い出して~♪』
「ええー?」
美琴にはそんなこと言った覚えはない。
何を言ってるんだこいつは、と思いながらも、さっき喋った内容を思い返す。
「(えーっと、たしか……あれ?)」
喋った内容を思い返してみると……


『下着がビチョビチョになっちゃって、気持ち悪くて穿けないのよ。だから替えの下着買ってきてくれない?』

『下着がビチョビチョに濡れちゃったから穿けないの。だから替わりの下着買ってきて』

『下着がビチョビチョになっちゃって、気持ち悪くて穿けないのよ』

『下着がビチョビチョに濡れちゃったから穿けないの』

『下着がビチョビチョになっちゃって……』

『下着がビチョビチョに濡れちゃった……』


「……はい?」
なんか捉えようによっては、ムチャクチャエロい発言してませんか!?
しかも、こんなこと二回も言ったー!
携帯を持つ手がプルプルと震える。
「(な、な、な、な、何言っちゃってんのよー、私はぁぁぁぁぁぁぁー!!!)」
声にならない悲鳴を上げる。
美琴の顔が爆発したように真っ赤になり、脱衣所に膝をついた。
あまりの恥ずかしさに、わなわなと身体が震えている。
『……おーい、みさかー、聞こえてるかー?』
「……っ!?」
電話の向こうから聞こえてくる舞夏の声に、美琴は我を取り戻す。
「つ、土御門? あ、あのね……さ、さっきのは……」
何か言おうとするが、上手く頭と舌が回らない。
「いや……あのね……違うの……」
『ああ、うん、わかってるわかってる~♪』
「わかってるって……ホントにわかってる…?」
『うんうん、ちゃんとわかってるから安心しろー。あ、そろそろ舞夏さん仕事に戻らないといけないから切るなー』
「いやいやいやいや、ちょっと待ってよ!? 私ね、下着を持ってきて欲しいんだけど……」
電話を切ろうとする舞夏に何とか縋るが、
『無理ー! 舞夏さん忙しいから~♪』
バッサリ切り捨てられた。
「ちょ……!?」
『じゃあなー、みさかー、が・ん・ば・れ・よ~♪』

プツゥーン

「ちょ……もしもし、もしもし!」
無常にも電話は切られた……。
慌てて美琴は携帯のリダイヤルボタンを押すが、
『この電話は、現在電波の……』
留守番電話サービスに繋がった。
「あ、あいつは……!」
わなわなと怒りに震える。
そして気付いた。
あいつは絶対私をからかっていると!
あいつに頼ろうとした私がバカだったー、と激しく後悔した。
「コロス! 今度会ったら絶対コロス!!!」
そう決意を胸に刻むが、今はそれより優先すべき事がある。
「下着……ホントにどうしよう?」
結局ふりだしに戻るのであった。
仕方なく、新たな打開策を考えようとするが、
「くちゅん! はぁー……とりあえず、お風呂に入ろう……」
問題を先送りにするしかないようだ……。


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