某学区内の地下にある薄暗い隠れ家。一般人から見れば近寄りがたい雰囲気が漂うそこには、無数の機械達から生み出される光だけが満たされていた。
壁一面にディスプレイのようなものが張り付けられていて、大量の情報を映し出していた。ニュースや経済情報、天気予報など種類は豊富だが、圧倒的に多かったのは地図だった。
情報たちのおよそ五分の四は地図で埋め尽くされている。学園都市を上空から撮影したそれらには、何か赤い×印が刻印されていた。地図一枚につき必ず一か所、その印がある。多いものでは十か所以上刻まれているのもあった。
そんな情報に囲まれた部屋には、二人の人間がいた。ノートパソコンに向かい素早い手つきでキーボードを叩いている。両者ともヘリコプターのパイロットが装備するような、通信機能が付加された大きなヘッドホンを付けている。
一人は、全身を黒い服で包んだ白髪の少年。もう一人は、露出の多い格好をした少女。
少年の名前は一方通行。少女の名前は結標淡希。
ともに学園都市の闇組織『グループ』に属している、裏社会の人間である。
「報告だ。その施設の制圧率は九割を突破。こちらの被害はゼロ。問題ねェな?」
マイクに向けて話しかける。相手は同じ『グループ』の構成員、土御門元春である。
『特にイレギュラー要素はないな。「売られる」予定だった子どもたちは外の奴らに任せているが、そもそも敵の数が少ない。あとは奥で踏ん反り返ってるバカなボスをどうにかするだけだ』
「ヘマすンじゃねェぞ」
短いやり取りを終えて通信を切った。こちらは予定通りに進んでいる。一方通行は隣にアイコンタクトを送り、結標に目だけで状況を尋ねた。
結標は軽く肩をすくめながら、
「こっちも同じようなものね。武器や重要な機材の大部分は押さえてある。その上、「取引」に失敗した連中が仲間割れを始めているらしいわ。お金じゃ命は買えないのにね。楽すぎてしょうがないって海原も言ってたわよ」
「そォかい」
一方通行は退屈そうな表情でパソコンの画面を見た。今現在襲撃中のポイントが赤く点滅している……と思ったら、ピーッという音とともにその場所が×印で消された。少し間置いて結標のほうからも同じ音が聞こえてきた。
制圧完了の合図だ。
「ったく、歯ごたえのねェ連中だなァ。退屈しのぎにもなりやしねェ」
「ホントね。まあ、次の相手はそれなりに手強そうだし、温存できた思えば良いじゃない」
ヘッドホンを取りつつ言う結標。その表情はうっすらと微笑んでいる。まるで悪戯を決行する悪ガキのような笑みだ。
一方通行は特に何も言わず、パソコンの横に置いてあった缶コーヒーに手を伸ばし一口煽った。彼にしては珍しく二週間以上飲み続けている銘柄だ。この隠れ家内にも、常に二ダースはストックしている。
ヘッドホンは外していない。間もなく連絡が来ると分かっている。。
一方通行と結標は特に何をするでもなく、それでいて席を立とうとはしなかった。静寂が部屋を支配する。それも長くは続かず、一方通行のヘッドホンからコール音が聞こえてきた。
「来た」
短く言って通話をオンにする。結標も再びヘッドホンを取り付けた。
『いやはや、皆さんお疲れさまでした。これで「作戦」は無事終了です。まさかここまで早く出来るとは思いませんでしたよ』
壁一面にディスプレイのようなものが張り付けられていて、大量の情報を映し出していた。ニュースや経済情報、天気予報など種類は豊富だが、圧倒的に多かったのは地図だった。
情報たちのおよそ五分の四は地図で埋め尽くされている。学園都市を上空から撮影したそれらには、何か赤い×印が刻印されていた。地図一枚につき必ず一か所、その印がある。多いものでは十か所以上刻まれているのもあった。
そんな情報に囲まれた部屋には、二人の人間がいた。ノートパソコンに向かい素早い手つきでキーボードを叩いている。両者ともヘリコプターのパイロットが装備するような、通信機能が付加された大きなヘッドホンを付けている。
一人は、全身を黒い服で包んだ白髪の少年。もう一人は、露出の多い格好をした少女。
少年の名前は一方通行。少女の名前は結標淡希。
ともに学園都市の闇組織『グループ』に属している、裏社会の人間である。
「報告だ。その施設の制圧率は九割を突破。こちらの被害はゼロ。問題ねェな?」
マイクに向けて話しかける。相手は同じ『グループ』の構成員、土御門元春である。
『特にイレギュラー要素はないな。「売られる」予定だった子どもたちは外の奴らに任せているが、そもそも敵の数が少ない。あとは奥で踏ん反り返ってるバカなボスをどうにかするだけだ』
「ヘマすンじゃねェぞ」
短いやり取りを終えて通信を切った。こちらは予定通りに進んでいる。一方通行は隣にアイコンタクトを送り、結標に目だけで状況を尋ねた。
結標は軽く肩をすくめながら、
「こっちも同じようなものね。武器や重要な機材の大部分は押さえてある。その上、「取引」に失敗した連中が仲間割れを始めているらしいわ。お金じゃ命は買えないのにね。楽すぎてしょうがないって海原も言ってたわよ」
「そォかい」
一方通行は退屈そうな表情でパソコンの画面を見た。今現在襲撃中のポイントが赤く点滅している……と思ったら、ピーッという音とともにその場所が×印で消された。少し間置いて結標のほうからも同じ音が聞こえてきた。
制圧完了の合図だ。
「ったく、歯ごたえのねェ連中だなァ。退屈しのぎにもなりやしねェ」
「ホントね。まあ、次の相手はそれなりに手強そうだし、温存できた思えば良いじゃない」
ヘッドホンを取りつつ言う結標。その表情はうっすらと微笑んでいる。まるで悪戯を決行する悪ガキのような笑みだ。
一方通行は特に何も言わず、パソコンの横に置いてあった缶コーヒーに手を伸ばし一口煽った。彼にしては珍しく二週間以上飲み続けている銘柄だ。この隠れ家内にも、常に二ダースはストックしている。
ヘッドホンは外していない。間もなく連絡が来ると分かっている。。
一方通行と結標は特に何をするでもなく、それでいて席を立とうとはしなかった。静寂が部屋を支配する。それも長くは続かず、一方通行のヘッドホンからコール音が聞こえてきた。
「来た」
短く言って通話をオンにする。結標も再びヘッドホンを取り付けた。
『いやはや、皆さんお疲れさまでした。これで「作戦」は無事終了です。まさかここまで早く出来るとは思いませんでしたよ』
心の底から喜んでいるような、それでいてどことなく人をバカにしたような声が聞こえてきた。結標が顔をしかめる。一方通行はそれを横目で見ながら、電話の向こうで踏ん反り返っているであろう忌々しい上司に意識を向ける。
「テメェに褒められても不快にしか感じねェよ。ちったァ褒め方をお勉強すンだな。ンな手腕じゃロクな部下も育たねェぞ」
『いえいえ、あなたたちほど優秀な部下などいませんよ。なにせ、たった二ヶ月でこの学園都市を纏め切ってしまったんですからね』
『部下』という言葉を聞いて今度は一方通行が顔をしかめる。それだけでなく、手に持った缶を握る手に力が入った。高まった不快感が身体の中で暴れている。
それらをどうにか抑え込み、この二ヵ月のうちに行ってきたことを邂逅する。
「テメェに褒められても不快にしか感じねェよ。ちったァ褒め方をお勉強すンだな。ンな手腕じゃロクな部下も育たねェぞ」
『いえいえ、あなたたちほど優秀な部下などいませんよ。なにせ、たった二ヶ月でこの学園都市を纏め切ってしまったんですからね』
『部下』という言葉を聞いて今度は一方通行が顔をしかめる。それだけでなく、手に持った缶を握る手に力が入った。高まった不快感が身体の中で暴れている。
それらをどうにか抑え込み、この二ヵ月のうちに行ってきたことを邂逅する。
およそ二ヶ月ほど前から行われているこの『作戦』。内容は至ってシンプルで、『学園都市に存在する全ての闇組織の壊滅、もしくはグループの傘下に治めること』である。もちろん手段は問われず、相手組織の種類と規模も関係なしに行われた。
その内、『グループ』と対決する姿勢を取った6割の闇組織は完璧に存在を抹消され、残り4割の組織が『グループ』の下部組織へと成った。しかし、その内の半分ほどは未だこの情勢に納得がいかないらしく、反逆の機会を窺っていた。
『グループ』の面々はそれらを抑制しながら『作戦』を進め、今日の襲撃でそれらを完遂する予定である。それも見事に達成された。正確には、まだ一つ残っているが。
その内、『グループ』と対決する姿勢を取った6割の闇組織は完璧に存在を抹消され、残り4割の組織が『グループ』の下部組織へと成った。しかし、その内の半分ほどは未だこの情勢に納得がいかないらしく、反逆の機会を窺っていた。
『グループ』の面々はそれらを抑制しながら『作戦』を進め、今日の襲撃でそれらを完遂する予定である。それも見事に達成された。正確には、まだ一つ残っているが。
『「スクール」や「メンバー」、「ブロック」などの残党組織も完璧に壊滅。「アイテム」は自らこちらに加わってきてくれましたし、いやはや、もうまともな組織はここしか残ってませんね。本当に大したものです』
鬱陶しくまとわりつくような声で話し続ける『上司』に、一方通行は不快感を堪え切れなくなってきた。自分だけ高みから見物しておいて、死の危険が伴う作業には絶対に手を貸さないクソ野郎など、何も愉快に思うことはない。むしろ殺意が湧く。
「あァそォかい」
極めて適当に対応すると、結標に軽く視線を送った。頷きを返される。それを見た一方通行の口元が獰猛な笑みを形作った。
彼は通信機に向けて、言う。
「だがよォ、まァだお仕事完了ってわけじゃなさそォだぜ。あと一つ、ぶっ潰さなきゃならねェ組織が残ってンだ。とびきりのクソどもがいるデケェ組織がな」
『おや、まだそんな力を持つ組織があったのですか? 対抗勢力は軒並み叩いたはずですが―――』
「自覚がねェのかクソ野郎。テメェのことを言ってンだよ」
堂々と、言った。
自分を縛りつけてきた憎むべき敵に、堂々と宣戦布告をした。
「…………」
よほど動揺しているのか返事はない。それでも相手が聞いていることを確信して、一方通行は言葉を続ける。
「ただテメェの言いなりになって作戦を続けてたとでも思ってンのか。オマエ『達』の居場所はとっくに割れてンだよ。武装も設備も、具体的な人数もな」
鬱陶しくまとわりつくような声で話し続ける『上司』に、一方通行は不快感を堪え切れなくなってきた。自分だけ高みから見物しておいて、死の危険が伴う作業には絶対に手を貸さないクソ野郎など、何も愉快に思うことはない。むしろ殺意が湧く。
「あァそォかい」
極めて適当に対応すると、結標に軽く視線を送った。頷きを返される。それを見た一方通行の口元が獰猛な笑みを形作った。
彼は通信機に向けて、言う。
「だがよォ、まァだお仕事完了ってわけじゃなさそォだぜ。あと一つ、ぶっ潰さなきゃならねェ組織が残ってンだ。とびきりのクソどもがいるデケェ組織がな」
『おや、まだそんな力を持つ組織があったのですか? 対抗勢力は軒並み叩いたはずですが―――』
「自覚がねェのかクソ野郎。テメェのことを言ってンだよ」
堂々と、言った。
自分を縛りつけてきた憎むべき敵に、堂々と宣戦布告をした。
「…………」
よほど動揺しているのか返事はない。それでも相手が聞いていることを確信して、一方通行は言葉を続ける。
「ただテメェの言いなりになって作戦を続けてたとでも思ってンのか。オマエ『達』の居場所はとっくに割れてンだよ。武装も設備も、具体的な人数もな」
結標がキーボードを操作する。『グループ』が集めた、『上司達』の隠れ家を記した地図と、具体的な内部構造や保管されている銃器の量、仕掛けられている対能力者用のトラップなどのデータを相手に送信した。
「届いたか? 俺たちが秘密裏に集めてた、オマエらのありとあらゆる情報だ。もォ一つ言っとくが、チョーカーに後付けされてた遠隔制限装置も除去済みだ。ショボイ機械で俺を止めることなンざもォできねェよ」
「さらに言えば、今そこに土御門達が向かってるわよ。この二カ月の間に集まった、ざっと五十人ぐらいの能力者を引き連れてね。私たちもすぐに行くから、逃げる準備をするなら急いだほうが良いわよ。もっとも、皆もうすぐ到着するでしょうけどね」
結標も挑発的に説明した。事前に打ち合わせてた通り、着々と自分たちの計画を相手に伝える。
わざわざ敵に襲撃することをばらすのは恐怖心を煽るという意味もあるが、理由としてはもう一つ、絶対の自信があるからだった。たとえ襲撃することが相手にばれていたとしても、必ず成功させるという強い自信。それすらも駆け引きに使う強い精神。
必ず倒す、という想いが、強く滲み出していた。
「…………、」
相変わらず返事はなかった。が、一方通行も結標も特に気にしない。届いたデータを見て絶句しているのか、はたまた大慌てで逃げる準備をしているのかも分からなかったが、そんなことはもう問題ではない。
手筈は整った。あとは、襲撃するだけ。
二人は立ち上がり、結標は座標移動の準備をする。この二ヶ月で彼女自身も移動出来るようになった。トラウマを完璧に克服したのだ。
「首ィ洗って待ってろよ、クソ野郎」
最後にそれだけ言って、一方通行は通信を――――
「届いたか? 俺たちが秘密裏に集めてた、オマエらのありとあらゆる情報だ。もォ一つ言っとくが、チョーカーに後付けされてた遠隔制限装置も除去済みだ。ショボイ機械で俺を止めることなンざもォできねェよ」
「さらに言えば、今そこに土御門達が向かってるわよ。この二カ月の間に集まった、ざっと五十人ぐらいの能力者を引き連れてね。私たちもすぐに行くから、逃げる準備をするなら急いだほうが良いわよ。もっとも、皆もうすぐ到着するでしょうけどね」
結標も挑発的に説明した。事前に打ち合わせてた通り、着々と自分たちの計画を相手に伝える。
わざわざ敵に襲撃することをばらすのは恐怖心を煽るという意味もあるが、理由としてはもう一つ、絶対の自信があるからだった。たとえ襲撃することが相手にばれていたとしても、必ず成功させるという強い自信。それすらも駆け引きに使う強い精神。
必ず倒す、という想いが、強く滲み出していた。
「…………、」
相変わらず返事はなかった。が、一方通行も結標も特に気にしない。届いたデータを見て絶句しているのか、はたまた大慌てで逃げる準備をしているのかも分からなかったが、そんなことはもう問題ではない。
手筈は整った。あとは、襲撃するだけ。
二人は立ち上がり、結標は座標移動の準備をする。この二ヶ月で彼女自身も移動出来るようになった。トラウマを完璧に克服したのだ。
「首ィ洗って待ってろよ、クソ野郎」
最後にそれだけ言って、一方通行は通信を――――
『おう、確かにこれは此処の見取り図だな』
切れなかった。
「……っ!?」
まったく聞いたことのない、どことなくやる気なさ気な少年の声が、電話から聞こえてきた。まるで別の回線につながったように。何の前触れもなく、変わっていた
『しっかしまぁ、よくここまで詳しく調べたもんだな。逃げ道とかブレーカーの位置とかも書いてある上、武装も大分正確に特定してるみたいだし』
心底感心しているような声だった。上から見下ろすわけでもなく、対等の立場に立っている者の声だ。『学園都市最強の超能力者と』、というト書きが入るのだが。
「……テメェ、一体どこから湧いてきやがった。今俺と話し込ンでたのは人使いの荒いクソ野郎だったはずだぜェ?」
内心の動揺を隠しつつ、今この状況を分析しつつ、一方通行は電話相手の素性を探る。結標は絶句したまま立ち尽くしている。事態に付いていけないのだろう。
『ん、ああ、黒ずくめの変人のことだな』
少年はつまらなそうな声で、
『今さっき、俺が殺したんだよ』
「……っ!?」
まったく聞いたことのない、どことなくやる気なさ気な少年の声が、電話から聞こえてきた。まるで別の回線につながったように。何の前触れもなく、変わっていた
『しっかしまぁ、よくここまで詳しく調べたもんだな。逃げ道とかブレーカーの位置とかも書いてある上、武装も大分正確に特定してるみたいだし』
心底感心しているような声だった。上から見下ろすわけでもなく、対等の立場に立っている者の声だ。『学園都市最強の超能力者と』、というト書きが入るのだが。
「……テメェ、一体どこから湧いてきやがった。今俺と話し込ンでたのは人使いの荒いクソ野郎だったはずだぜェ?」
内心の動揺を隠しつつ、今この状況を分析しつつ、一方通行は電話相手の素性を探る。結標は絶句したまま立ち尽くしている。事態に付いていけないのだろう。
『ん、ああ、黒ずくめの変人のことだな』
少年はつまらなそうな声で、
『今さっき、俺が殺したんだよ』
「……なンだと?」
『だから、俺が殺したんだ。死人に口なしって言うだろ? さっきから一言も喋ってないし、俺が通信機奪っても騒いですらいないんだし、そんくらいの想像は働いていも良いと思うんだがなぁ』
別に何でもないことのように少年は言うが、それをするのにどれだけの力が必要か分かっている一方通行は、この少年の力をぼんやりと捉えた。
『上司達』の隠れ家にあったのは、最新型の駆動鎧が二十機、学園都市製の超広範囲爆弾が五百発分、同じく学園都市製のスナイパーライフルが五十丁。警備の人間たちは二百人を超え、他にも大量のトラップと強いジャミングが仕掛けられていて、並の人間なら近付くことすらできない。
もちろん、一方通行なら突破は難しくない。ただ突破するだけなら、だが。
「……冗談だったら、ずいぶんと趣味が悪いわね。そこを制圧するのにどれほどの力がいるか、あなたは分かってるの?」
『別に大したことねぇだろこれ。なんかやたらとゴツイ鎧みたいなの居たけど、弱い弱い、雑魚キャラだな』
「……バカにしてるの?」
凄みのある声を出す結標を、一方通行は手で制する。
結標には口出しをさせず相手の様子を見ることで、そこから正体を掴もうとする。
「丁度イイタイミングだなァおい。俺らの狙いもそこの馬鹿どもだったンだよ。おかげで手間が省けちまったぜ」
『礼を言われる筋合いなんかないだろ。単なる偶然……いや、嘘は禁物だな。実は、』
わざと一呼吸を入れた。一瞬の間が空き、そして、
『あんたらに合わせたんだよ。学園都市中の闇組織が一つにまとまって、巨大な組織を形成するのを、だ』
やる気のなかった先ほどまでの声とは違い、明確な『殺意』が込められた声だった。お前達の行動はお見通しだ、という優越感も混じる。
場合によっては人殺しも平気で行う『グループ』は、当然ながら学園都市内での機密度もトップクラスだ。上層部のわずかな面々と、闇の奥深くまで身を浸している人間しかその存在を知らない。それを知っているということは、それでいて『グループ』の二人が存在を知らないということは、『それなりに』強大である可能性が高い。
それこそ、学園都市を統括する理事長ほどには。
結標が自分の身体を抱きしめるように腕を組む。直接声を向けられていなくとも、少しだけ恐怖を感じ取ったようだ。
「ハッ。俺らの行動を読ンでたってェのか?」一方通行はクツクツ笑うと、「イイねェオマエ。其処をあっさり制圧しちまうほどの腕がある上、この街の最暗部に居る俺達とまともに会話ができるほど肝も据わってやがる。一遍、オマエと殺し合いでもしてみてェなァ」
どこまでも軽い口調だったが、それゆえに冗談には聞こえなかった。事と場合によっては容赦なく殺すと言外に込めている。
しかし、相手の少年は怯むどころか挑発し返してきた。
『…………、まあ、「本当なら」そんなつもりはなかったんだがな。アンタを殺すのは骨が折れるし、それ以外の理由もあって「グループ」との直接戦闘は出来ればご遠慮したかったが……そうもいかねえようだな』
「……なンだと?」
学園都市最強の超能力者との『殺し合い』。その意味を理解した上で、自分を殺すと言ってきている。
『だから、俺が殺したんだ。死人に口なしって言うだろ? さっきから一言も喋ってないし、俺が通信機奪っても騒いですらいないんだし、そんくらいの想像は働いていも良いと思うんだがなぁ』
別に何でもないことのように少年は言うが、それをするのにどれだけの力が必要か分かっている一方通行は、この少年の力をぼんやりと捉えた。
『上司達』の隠れ家にあったのは、最新型の駆動鎧が二十機、学園都市製の超広範囲爆弾が五百発分、同じく学園都市製のスナイパーライフルが五十丁。警備の人間たちは二百人を超え、他にも大量のトラップと強いジャミングが仕掛けられていて、並の人間なら近付くことすらできない。
もちろん、一方通行なら突破は難しくない。ただ突破するだけなら、だが。
「……冗談だったら、ずいぶんと趣味が悪いわね。そこを制圧するのにどれほどの力がいるか、あなたは分かってるの?」
『別に大したことねぇだろこれ。なんかやたらとゴツイ鎧みたいなの居たけど、弱い弱い、雑魚キャラだな』
「……バカにしてるの?」
凄みのある声を出す結標を、一方通行は手で制する。
結標には口出しをさせず相手の様子を見ることで、そこから正体を掴もうとする。
「丁度イイタイミングだなァおい。俺らの狙いもそこの馬鹿どもだったンだよ。おかげで手間が省けちまったぜ」
『礼を言われる筋合いなんかないだろ。単なる偶然……いや、嘘は禁物だな。実は、』
わざと一呼吸を入れた。一瞬の間が空き、そして、
『あんたらに合わせたんだよ。学園都市中の闇組織が一つにまとまって、巨大な組織を形成するのを、だ』
やる気のなかった先ほどまでの声とは違い、明確な『殺意』が込められた声だった。お前達の行動はお見通しだ、という優越感も混じる。
場合によっては人殺しも平気で行う『グループ』は、当然ながら学園都市内での機密度もトップクラスだ。上層部のわずかな面々と、闇の奥深くまで身を浸している人間しかその存在を知らない。それを知っているということは、それでいて『グループ』の二人が存在を知らないということは、『それなりに』強大である可能性が高い。
それこそ、学園都市を統括する理事長ほどには。
結標が自分の身体を抱きしめるように腕を組む。直接声を向けられていなくとも、少しだけ恐怖を感じ取ったようだ。
「ハッ。俺らの行動を読ンでたってェのか?」一方通行はクツクツ笑うと、「イイねェオマエ。其処をあっさり制圧しちまうほどの腕がある上、この街の最暗部に居る俺達とまともに会話ができるほど肝も据わってやがる。一遍、オマエと殺し合いでもしてみてェなァ」
どこまでも軽い口調だったが、それゆえに冗談には聞こえなかった。事と場合によっては容赦なく殺すと言外に込めている。
しかし、相手の少年は怯むどころか挑発し返してきた。
『…………、まあ、「本当なら」そんなつもりはなかったんだがな。アンタを殺すのは骨が折れるし、それ以外の理由もあって「グループ」との直接戦闘は出来ればご遠慮したかったが……そうもいかねえようだな』
「……なンだと?」
学園都市最強の超能力者との『殺し合い』。その意味を理解した上で、自分を殺すと言ってきている。
コイツが一方通行に対する事前情報を持っているのならば、まずそんなことは言えないはずだ。なにせ彼に最も近かった第二位の超能力者でさえも、圧倒的な力で捩じ伏せられて最後にはあっけなく死んだのだ。
分かっていて言っているのならば、そして『グループ』上司を一人で殺すほどの手腕を持っているのならば、何か『未知のチカラ』を持っている可能性もある。
『分かってるだろうが、俺が今殺したコイツらは、大体二百人位のアンタ達の上司達だ。「グループ」を統括している、すなわちこの街の闇の根源だな。これを……いや、』そこで一旦言葉を切ると、『あんま無駄に情報漏らすもんじゃないだろ? 最初から全ての条件が表示されてたら張り合いもクソもあったもんじゃないし、こっちが不利になるだけだ。それにアンタらのお仲間も来るらしいし、この場所もそう長くはもたないだろうしな』
「待ちなさい! 貴方、一体何が目的なの!?」
相手を引き留めようと大声を出す結標だが、一方通行は無駄だと思った。敵もそれなりに用心深いようだし、これ以上引き伸ばしても良い情報を聞き出せないだろう。
『目的、かぁ……。うーん……』
そう思った矢先、相手は、
『取り敢えず今のところの目的は、「アクセラレータの命」に変更だな。なんでわざわざ教えるかって言うと、このくらいの情報は提示しておかないと不公平だし、これはまあサービスだ』
冗談のようなことを口走った。
「は……? な、何言って―――」
『ああやべ、アンタらの同僚が来たみたいだ。ほんじゃま、俺はこの辺で失礼すっけど、また近いうちに遭うだろうな。じゃ』
軽い口調で告げられて、通信が切られた。ツー、ツー、という無機質な音だけが耳に響く。
「…………、何が、どうなってるの?」
結標は信じられないという風に目を見開いていた。無理もない。自分たちで仕留めようと思っていた獲物が横から掻っ攫われ、さらに今度は同僚がターゲットにされているのだ。
「………………」
一方通行は何も言わず、土御門に通信を繋ぐ。
「おィ土御門、そっちの状況はどォなってる」
『? お前達、まだ合流してないのか? とっくに所定の時間は―――』
「必要なくなった。敵の残党、もしくは怪しい人物が見当たらないなら、其処は事後処理の下っ端どもに任せる。確認が終了次第オマエと海原はこっちに戻ってこい」
『いや、おい、待て。「上」の連中はどうするんだ?』
「死ンだ。もっと正確に言えば皆殺しにされた」
『なっ―――!?』
伝えることだけを伝えて、さっさと通話を切った。
すっかり温くなった缶コーヒーを飲み干す。視界の端では、結標が落ち着かない様子でぶつぶつと独り言を呟いていた。さっきの電話の相手のことについて考えているのだろう。
分かっていて言っているのならば、そして『グループ』上司を一人で殺すほどの手腕を持っているのならば、何か『未知のチカラ』を持っている可能性もある。
『分かってるだろうが、俺が今殺したコイツらは、大体二百人位のアンタ達の上司達だ。「グループ」を統括している、すなわちこの街の闇の根源だな。これを……いや、』そこで一旦言葉を切ると、『あんま無駄に情報漏らすもんじゃないだろ? 最初から全ての条件が表示されてたら張り合いもクソもあったもんじゃないし、こっちが不利になるだけだ。それにアンタらのお仲間も来るらしいし、この場所もそう長くはもたないだろうしな』
「待ちなさい! 貴方、一体何が目的なの!?」
相手を引き留めようと大声を出す結標だが、一方通行は無駄だと思った。敵もそれなりに用心深いようだし、これ以上引き伸ばしても良い情報を聞き出せないだろう。
『目的、かぁ……。うーん……』
そう思った矢先、相手は、
『取り敢えず今のところの目的は、「アクセラレータの命」に変更だな。なんでわざわざ教えるかって言うと、このくらいの情報は提示しておかないと不公平だし、これはまあサービスだ』
冗談のようなことを口走った。
「は……? な、何言って―――」
『ああやべ、アンタらの同僚が来たみたいだ。ほんじゃま、俺はこの辺で失礼すっけど、また近いうちに遭うだろうな。じゃ』
軽い口調で告げられて、通信が切られた。ツー、ツー、という無機質な音だけが耳に響く。
「…………、何が、どうなってるの?」
結標は信じられないという風に目を見開いていた。無理もない。自分たちで仕留めようと思っていた獲物が横から掻っ攫われ、さらに今度は同僚がターゲットにされているのだ。
「………………」
一方通行は何も言わず、土御門に通信を繋ぐ。
「おィ土御門、そっちの状況はどォなってる」
『? お前達、まだ合流してないのか? とっくに所定の時間は―――』
「必要なくなった。敵の残党、もしくは怪しい人物が見当たらないなら、其処は事後処理の下っ端どもに任せる。確認が終了次第オマエと海原はこっちに戻ってこい」
『いや、おい、待て。「上」の連中はどうするんだ?』
「死ンだ。もっと正確に言えば皆殺しにされた」
『なっ―――!?』
伝えることだけを伝えて、さっさと通話を切った。
すっかり温くなった缶コーヒーを飲み干す。視界の端では、結標が落ち着かない様子でぶつぶつと独り言を呟いていた。さっきの電話の相手のことについて考えているのだろう。
一方通行は少し考えて、
「おィ結標」
「……何よ?」
「さっきの電話の中、もっと言えば電話の向こうの状況で最も不自然だったことを答えてみろ」
唐突に出された問題に結標は眉をひそめる。そのまま目を閉じて先ほどの会話を反芻する。
「……やっぱり、『上』の連中があっさりと殺されたことかしら。あそこの設備は並じゃないし、人数も多い。それを全て殺すなんて……」
「大間違いだ」
キッパリと断言した。
「……? どこが間違ってるのよ?」
結標がもう一度眉をひそめた。若干の苛立ちが混じっているようにも見えた。
一方通行はその顔を見て呆れ気味に、
「あそこを制圧するのは、確かに並の能力者には面倒だ。だが、俺やオマエみてェな強い能力を持った奴なら、安全確実とは言えねェが出来ねェこたァはない。外からプラズマの連打を浴びせたり、そこら中の土をムーブポイントさせて中を埋めちまうとかなァ。だが、」
一方通行は首元のチョーカーに手を伸ばし、スイッチを切り替える。そして、手の中にある缶を思い切り握り潰した。
グシャァッ!! という音が二人の耳に入る。
「ナニをどォしよォが、たとえどれだけ注意しよォが、必ず音が発生するはずだ。強大な能力であればあるほど周囲に及ぼす影響も大きい。だが、実際は警報の一つも、悲鳴の一つも聞こえてこなかった。厳重な警備であるにもかかわらず、二百人以上の人間が居たにもかかわらず、だ」
一方通行は電極のスイッチを通常モードに戻し、ニヤリと笑った。
「余計な音がない。これが、あの電話の最も不自然な部分だ」
それの意味を汲み取った結標は、彼の望む答えを導き出す。
「……つまり、相手は警備システムを熟知していて、集団に紛れて動くことに慣れている、あらゆる暗殺術に特化した人間、もしくは……」
「それら全てを兼ね備えた、超ハイレベルな応用力を持った能力者、っつーことになるな」
潰れた缶を投げ捨て、一方通行は獰猛に笑った。
「イイねェ。次の相手はそれなりに手強そォで楽しめそォじゃねェか。俺の命を狙おうってンなら遠慮なくブン殴れるし、コイツは愉快なことになりそォだなァ?」
狙われているのは自分の命なのに、一方通行は楽しそうに笑った。その笑みを見た結標淡希は、ついていけないわね、と呆れ気味に肩をすくめた。
「おィ結標」
「……何よ?」
「さっきの電話の中、もっと言えば電話の向こうの状況で最も不自然だったことを答えてみろ」
唐突に出された問題に結標は眉をひそめる。そのまま目を閉じて先ほどの会話を反芻する。
「……やっぱり、『上』の連中があっさりと殺されたことかしら。あそこの設備は並じゃないし、人数も多い。それを全て殺すなんて……」
「大間違いだ」
キッパリと断言した。
「……? どこが間違ってるのよ?」
結標がもう一度眉をひそめた。若干の苛立ちが混じっているようにも見えた。
一方通行はその顔を見て呆れ気味に、
「あそこを制圧するのは、確かに並の能力者には面倒だ。だが、俺やオマエみてェな強い能力を持った奴なら、安全確実とは言えねェが出来ねェこたァはない。外からプラズマの連打を浴びせたり、そこら中の土をムーブポイントさせて中を埋めちまうとかなァ。だが、」
一方通行は首元のチョーカーに手を伸ばし、スイッチを切り替える。そして、手の中にある缶を思い切り握り潰した。
グシャァッ!! という音が二人の耳に入る。
「ナニをどォしよォが、たとえどれだけ注意しよォが、必ず音が発生するはずだ。強大な能力であればあるほど周囲に及ぼす影響も大きい。だが、実際は警報の一つも、悲鳴の一つも聞こえてこなかった。厳重な警備であるにもかかわらず、二百人以上の人間が居たにもかかわらず、だ」
一方通行は電極のスイッチを通常モードに戻し、ニヤリと笑った。
「余計な音がない。これが、あの電話の最も不自然な部分だ」
それの意味を汲み取った結標は、彼の望む答えを導き出す。
「……つまり、相手は警備システムを熟知していて、集団に紛れて動くことに慣れている、あらゆる暗殺術に特化した人間、もしくは……」
「それら全てを兼ね備えた、超ハイレベルな応用力を持った能力者、っつーことになるな」
潰れた缶を投げ捨て、一方通行は獰猛に笑った。
「イイねェ。次の相手はそれなりに手強そォで楽しめそォじゃねェか。俺の命を狙おうってンなら遠慮なくブン殴れるし、コイツは愉快なことになりそォだなァ?」
狙われているのは自分の命なのに、一方通行は楽しそうに笑った。その笑みを見た結標淡希は、ついていけないわね、と呆れ気味に肩をすくめた。
彼を取り囲む日常に、一つの変化が起きた。
彼を縛っていた上司が死に、代わりに彼を狙う能力者が現れた。
それでも、何が起ころうと、彼のするべきことは一つ。
その目的を達成するために、彼は突き進む。
彼を縛っていた上司が死に、代わりに彼を狙う能力者が現れた。
それでも、何が起ころうと、彼のするべきことは一つ。
その目的を達成するために、彼は突き進む。
『終わりを目指した物語』