とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 4-552

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匿名ユーザー

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「おかえりなさい、ご主人様!ってミサカはミサカはまずマニュアル通りの挨拶をしてみちゃう!」
「………………」

黒いワンピースに白いフリルのエプロン、頭に白いヘッドドレス、
ひらりと舞うスカートは少しばかりサイズが大きいのか小さな少女が摘まんで持ち上げてもなお歩いている細い足にまとわりついている。
今にもロングスカートの裾を踏みつけて転んでしまいそうな少女は、それでもとてとて危なっかし足取りで白い姿を見るなり一直線に駆け寄ってきた。
何というか主を待っていた犬のような健気さである。彼女にもしも尻尾があればぱたぱたと振っているのが見えたに違いない。
一方通行はそこまで目で見て確認して、そして、その場で固まった。

「…とりあえず訊いてやるが、なンのつもりだ…?」
「えへへ、メイドさんだよー。知らないの?ってミサカはミサカはくるっとターンしてみたり!」

いやそれは知っているが。学園都市に生活して居ればそこらで見かけるからもちろん知っているが。
今この瞬間、ここにいる一方通行に理解できないのはそこではない。
何故眼前で楽しそうにスカートの裾を揺らしてターンしているこの幼い少女がメイド服を着ているのか、という点だった。
…しかも何でそんな「褒めて、褒めて?」みたいな喜色満面の顔で上目遣いにこちらを見ているのかこの小娘は。
以前にも何度かこういう場面に遭遇したことはあった――大抵は彼女が新しい服を買ってもらって喜んでいる時で、
「似合う?似合う?ってミサカはミサカは尋ねてみたり!」
と鬱陶しくまとわりついてきた――が、いつも通りの対処(つまり適当に聞き流して無視)をしようにも今回ばかりは完全に出鼻を挫かれてしまい、
一方通行は一度目を閉じてそれからもう一度眼前の少女に目をやった。

メイド服だった。それはもう、完膚なきまでにメイド服だった。
これがメイド服じゃなかったら世界にメイドさんなんて存在しないだろうってくらいメイド服だった。
10歳相応程度の少女が身に纏っているというのがどこか酷くアンバランスではあったが、小さいながらも姿形は立派なメイドさんであった。
ただし中身は忠犬よろしく一方通行にじゃれついてくる少女そのままだ。
棒立ち状態の彼の周囲をくるくる飛び跳ねている。鬱陶しくなったので頭を掴んで固定すると、構って貰えるとでも思ったか、少女の顔が輝いた。

「結構着るの大変だったんだよってミサカはミサカは舞台裏の涙ぐましい努力を強調してみたり。
 ほらほら、ミサカに何か言う事があるんじゃないかなってミサカはミサカはあなたに感想を要求」
「知るか」
「うわぁいいつものことながら無関心だよひゃっほう!とミサカはミサカはやけっぱちになってみたり」
「っつかどこで手に入れやがった、ンなマニアックな服…」

スタンダードな形とはいえメイド服である。
10歳相当の大きさしかない打ち止めに着られるサイズのものがそうそうあるとは思えないのだが
(実際、小柄な彼女には少し大きいサイズらしく、彼女は袖を折り返して着込んでいた)。
すると彼の疑問に、「えっとね」と何かを思い出すように頬に手をあてた少女があっさり解答を出してくれた。

「この間、金髪にサングラスって恰好でお掃除ロボの上に乗ったメイドさんをじっと見守ってた人から、
 紆余曲折の末にお礼としてもらったんだよってミサカはミサカは数日前の出来事を反芻してみる。
 あからさまに怪しい人だったけど、お話してみたらいい人だったよってミサカはミサカはちょっとした冒険を誇張してあなたにお伝え」
「よしクソガキよく聞けお勉強の時間だ。見ず知らずの人間から迂闊にモノを受け取ンじゃねェよ、あまつさえ着るな使うな!
 警戒心っつーモンはねェのかてめェ!それ以前にあからさまに怪しいと思うなら声かけンじゃねェ!」
頼むからそれくらいの警戒心くらい人格データにデフォルトで入れておいて欲しい、
無いなら自力で培ってくれ、と彼はどっと心労が増えるのを感じたが、残念ながら――それとも幸運にも、と言うべきか――
精神も肉体も未完成なままだったという過去を持っている目の前の元・実験体の少女は彼の懸念と心労を知らぬ風ににこにこ微笑むばかりだ。
この上なく無邪気に。腹立たしいほどに無垢に。
「でも、悪い人じゃなさそうだったよってミサカはミサカは記憶をたどって首を傾げてみたり」
「アレは悪人だ。いいなよォく覚えとけ。
 他のクローンどもはともかく(外見年齢的な意味で)お前にとっちゃァ間違いなく害悪だ、今後二度と近づくンじゃねェ」
「……。もしやお知り合い?ってミサカはミサカはちょっとした好奇心で尋ねてみたり」
「『大変遺憾ながら』って奴だがなァ、クソ」


胸中で金髪サングラスで義妹命の人物の顔を思い浮かべ「とりあえずあのヤロウ一度必ずぶち殺す。」と決意を固め、
一方通行はソファに転がった。相変わらず打ち止めがその後をちょこちょことついてくる――のだが、
危なっかしかった足取りは案の定、スカートの裾を踏みつける。

きゃあ、ともぎゃあ、ともつかぬ色気の無い悲鳴をあげて打ち止めは転倒した。そのままべちゃり、という酷い音と共に顔面を床にたたきつける。
お前、頭に何をインストールしてるんだ、と問い詰めたくなるほど無様な転倒っぷりであった。
溜息を交えながら一方通行は長いスカートの裾を持ち上げて再び立ち上がろうとしている打ち止めを冷たく一瞥。
「ほれ見ろ、ンな恰好してるからだ」
「うぅ、助け起こしてくれたってバチは当たらないと思う、ってミサカはミサカは冷たいあなたに恨めしげな視線を送ってみたりっ!」
「助けて欲しけりゃァ言葉遣いにせいぜい気をつけろよ、メイドなんだろォが」
「………」

どこをぶつけたのやら涙目になりながら、打ち止めがこくり、と首を傾ぐ。肩まで伸びた茶色の髪が小さな顔の輪郭に沿ってさらりと流れる。
困ったような顔をしたまま、床に座り込んだ格好の彼女は戸惑いがちに口を開いた。
涙目の視線は上目遣いに、一方通行の顔色を窺うようにおどおどと泳いでいる。

「えっと、えっと――『ご主人様、助けてください』ってミサカはミサカはメイドさんっぽく言ってみ…」

そこまでたどたどしく言い掛けたところで一方通行はがっ、と凄い勢いで手を挙げて彼女の言葉を遮った。
何だかものすごく、まずい、という気がした。何がと問われたら困る。困るが、まずいのだ。
涙目に上目遣いで常の騒々しさを忘れたかのように頬を染めておどおどとあんなことを言われるのは、何だか本当にまずい。

「やっぱ無しだ」
「えええ!?何それどういう意味で無し!?とミサカはミサカは身勝手なあなたに憤りを隠せなかったり
 …ちょっとそっぽ向かないでこっち見てよぅ、もう、ってミサカはミサカはあなた、じゃなくて、ご主人様を揺さぶってみるー!」
――打ち止めは次の瞬間にはいつもの騒々しい少女に戻っていた。
そのことが残念なのか安堵したのか、自分でも何れとも判断つかぬまま、一方通行はやや投げやりに告げる。
「うるせェとにかくさっさとそのアホみてェな恰好をやめろっつってンだ」


「…」

その一言に打ち止めがぴたりと止まる。
一方通行の襟首を掴んで揺すっていたそのままの恰好で、彼の膝の上にちょこんと座った姿勢のまま、彼女はふにゃりと困ったように表情を歪めた。
心なしか頭の触覚みたいなアホ毛までもが萎れてしまったように見える。

「な、なンだァ…?」
「――あのね、ヨミカワに手伝ってもらったの、ってミサカはミサカは告白してみる」
「何を」
「この服着るのをってミサカはミサカはあなた…じゃなくてご主人様の問いに答えてみたり」
律儀にも「ご主人様」というメイド風の口調だけは守ったまま、彼女は困惑した表情のまま、こくん、と俯いた。
「一人じゃこの服着替えられないみたいなの、ってミサカはミサカは困った事態を告白してみる」
「…………俺にどうしろってンだおィ」
「服を脱ぐのを手伝って?ってミサカはミサカは精一杯のおねだりポーズでご主人様にお願いしてみたり」

一方通行は勢いよく即答した。不必要なくらいに断固とした態度で即答した。

「よし分かったヨミカワが帰るまでお前その恰好のままで居ろ」
「ご主人様自分で脱げって言い出した癖に身勝手!?ってミサカはミサカは再びあなた、じゃなくて、ご主人様の身勝手さに憤慨してみたり!
 ヨミカワは今日は遅いから、ミサカはこのままじゃお風呂にも入れないんだよってミサカはミサカは事態の緊急性を訴えてみる!!」
「…てめェそれが主人に対する物言いかよクソガキ…」
「だってミサカはメイドさんじゃないもの、ってミサカはミサカは口を尖らせてみたり。
 『無し』って言ったのそっちじゃない、ってミサカはミサカはあなたの――ご主人様の――えっとどっちでもいいけど、
 理不尽な言動をびしっと追及してみたり!」

それは確かにそうなのだが。
――ああ、何でこんなガキとガキみたいなやり取りをしているんだろうか自分は、と一方通行は溜息をつく。
膝の上でぎゃんぎゃん甲高い声で喚かれるのもいい加減煩いし、一体どうやって黙らせようか――。

「少し黙れ、クソガキ」

結局一番簡単な実力行使に出ることにする。手のひらで小さな打ち止めの口元を覆うと、しばらくもごもご言いながら暴れていた打ち止めは段々と大人しくなった。
涙目で恨めしそうに彼を睨みあげてくる、その視線を受け止めながら、一方通行は僅かに口元を歪め、やっと手を放してやった。

「――うぅ、ひどいってミサカはミサカはご主人様の仕打ちに涙してみたり」

また口を覆われてはかなわないと思ったのか、今度は大人しめの声量で大人しめに、しかしやっぱり恨めしげな視線が一方通行をじっと見上げる。

「黙ってろ、っつっただろォが」
「うー。じゃあ放して」
「……」
「はーなーしーてーくーだーさーいー、ご主人様ー!ってミサカは、ミサカは…」


ああやっぱり煩い。
膝の上でこれでもかと喚く小さな小さなメイド姿の少女をしっかり抱え込んだまま、
一方通行は今度はどうやって黙らせようか、とそんなことをつらつらと考え始めた。

手を放すという一番短絡的な解決方法を、忘れたふりを決め込んで。


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