序章A とある魔術は闇に彷徨う Noon_Independence
学園都市統括理事長が見ているディスプレイ。それはとある高校の屋上を写し出していた。
「一つ。火の粉の雪の中」
そこに少女はいた。
「二つ。二人の血の泉」
その少女は、魔術師でもないはずなのに、
「三つ。禊も血の中で」
彼女は呪文を唱える。
「四つ。黄泉路の花畑」
少女の周りには数人の能力者がいた。
「五つ。いつしか山の下」
彼らはアレイスター直属の部下。彼らに与えられた仕事の内容は「能力を使って少女のお手伝いを“して差し上げること”」である。
「六つ。骸の丘の上」
少女を中心に円を作っている彼らの能力は、『行動操作(アクトハウンド)』
「七つ。涙も血を吐いて」
操られているその少女が唱える術式は、一ヶ月前“とある少女”が唱えたものと同じ。
「八つ。社が火を舐める」
そのときは不発に終わった術式の名は、『零時の鐘(ロンドベル)』
「九つ。今宵彼が来て」
少女の身体が大きく揺れるが、周りの能力者達は少女が倒れることを許さない。
「十で。とうとう幕が開く」
『行動操作』は意識には干渉しない。
「十一。遠いいつかの空で」
自分が何をやっているか“解っているからこそ”苦しいその少女は涙を浮かべる。だが、声を上げることすらも許されない。
「十二。自由に飛べたなら」
後は、最後の仕上げをすれば終わりだった。だが、今はまだ“そのとき”ではない。なので少女は能力者達に操られて何処かへと消えてゆく。
――現在時刻・12月23日午前0時00分――
序章B とある義父は旅支度をする Russian_Orthodox_Church
ロシア連邦は世界一の国土を誇る。そのため、ロシアの端と端では十時間もの時差があるのだ。 だが、ここはそこまで激しく時間がずれているわけではない。
ここ――ロシア成教・本部。
その最深部で、一人の男が跪いて目の前に垂れ下がっている薄い布の“向こう側にいる人間”に話し掛ける。
ここ――ロシア成教・本部。
その最深部で、一人の男が跪いて目の前に垂れ下がっている薄い布の“向こう側にいる人間”に話し掛ける。
「……というわけで、私は身支度が終わり次第日本に発ちます」
ロシア成教、アレクセイ=クロイツェフ高司祭。
「いや……だからな……」
そしてアレクセイの前にいるのはロシア成教のトップ。
「いえ、問題ありません」
アレクセイは毅然とした態度で、
「だから……そうではなく……問題なのは……」
トップであるはずのその人間は少し、否、かなりオドオドしている。
「では、私はこれで。準備が必要なので」
そこでその人間は気づく。「コイツ、人の話を聞くつもり無いな」と。
さらにもう一つ、「なんか、地位が逆転されてね?」と。
さらにもう一つ、「なんか、地位が逆転されてね?」と。
(――たまには厳しくしなくては――)
「アレクセイ!!人の話を、聞かんか!!」
「え…………あ、はい。何でしょうか?」
(コ、コイツ。今、「なんだ、このくそ爺が」という顔しやがったぞ……っ!!)
――実際は、アレクセイは義娘(むすめ)のことを考えていて、にやけた顔をしているときに声がかかって、慌てて隠そうとして失敗して変な顔になっただけなのだが。
「う……うむ、いや。だからな、『学園都市への調査』というのは分かるが何もアレクセイ。おまえがいく必要は、無――」
「今、学園都市で諜報活動しているのは私の義娘なのです。何かあればそれは私の責任です。自分の目で問題が有るか確かめる必要があるのです」
(コ、コ、コイツ。私の言葉を遮りやがった……――ッ!!)
――実際は、早く学園都市に行って義娘の姿を見たいからなのだが。
「うむ……分かった……いくが良い…………」
「??何をしょんぼりしているのですか?」
何でもない、という声を聞きながらそこを出て、アレクセイ自身の私室に行く。
高司祭ともなれば、私室の豪華さも折り紙付きである。アレクセイは広い部屋の中心で旅の準備に精を出していた。
「……義娘を撮る為のカメラ、義娘に気づかれず義娘の自然な表情を撮る為には、ボールペン型カメラにパンフレット型カメラに眼鏡型カメラにカメラ型カメラに……」
精を出す方向が間違ってる気がしないこともない。というか、彼は何の調査に行く気なんだ。義娘の調査か?
そのとき、部屋の入り口から声がかかる。
そのとき、部屋の入り口から声がかかる。
「頑張っているようね、“親馬鹿アレクセイ”」
しかし、義娘に夢中のアレクセイには聞こえちゃいない。
「カメラ型カメラ型カメラ型カメラ型カメラ型カメラ型カメラ型……」
なので声を上げた女はアレクセイの背後に立ち、大声を出す。
「アレクセイ!!聞こえているの!?」
「ん…あぁ、ワシリーサか。今集中しているのだ。話し掛けるな。あと、私の部屋から出ていけ。ついでに、ロシア成教からも出ていけ」
ようやく気づいたようだが、その口から出てくるのは聞くに耐えぬ悪口。
女――ワシリーサ――は、慣れているのか気にした様子もなく、
女――ワシリーサ――は、慣れているのか気にした様子もなく、
「アレクセイ、その鞄の中身は無いわよ。それだとサーシャちゃんにも引かれ……いや、嫌われちゃうわよ。」
と、言った。
「いや、そんなことは無いだろう。むしろ、義娘も私の愛情を感じるだろう」
大丈夫なのか、この義父(ちちおや)……と、思いつつもワシリーサは言われた通り部屋から出ていく。
そして、部屋の中には幸せな義父のみが残された。
そして、部屋の中には幸せな義父のみが残された。
――現在時刻・12月23日午前0時00分――
序章C 悪魔は闇に潜む The_Devil_and_The_Angel
そこに『悪魔』はいた。とある学生寮の屋上。
ある一人の少女が眠っている部屋の丁度真上。
『悪魔』は“想う”。
ある一人の少女が眠っている部屋の丁度真上。
『悪魔』は“想う”。
――絶対に見つかってはいけない。
――急がなくては「手遅れ」になる。
黒く、黒く、黒い闇の中、漆黒の外套を羽織った『悪魔』がそこにいた――――――
――現在時刻・12月23日午前0時00分――