とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 3-44

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匿名ユーザー

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――存外、『上条当麻』の行動半径は広かったらしい。
 薄暗い路地裏に腰を下ろし、目を瞑ってじっとしていた上条は、軽く溜息をついた。
 見上げれば、そこには学生のモノとは思えないような過剰な武装をした、俗に不良と呼ばれる人々が、酷く嫌な笑みを浮かべていた。
 彼らは何事かを喚いている。呆としていたのではっきりとは聞き取れなかったが、どうも『上条当麻』の知り合いらしい。
(――さて、どうしたものか)
 虚飾も装飾もない“記憶喪失の上条当麻”は思考回路を稼動する。
 人数は五人。残された時間はそう多くはない。あと数秒もすれば攻撃が始まるのではないだろうか。
 流石に銃器はないが、よく観察すれば服の下に何かを着込んでいるようだ。
 ――決定。
 イメージは発条。上条当麻は起き上がり――跳ね上がり、“二番目”に隙が多い部分を突破する。
 走る。この肉体は平均と比べて持久力に優れている、と改めて認識。
 奔る。何故だろう、追ってくる様子がない。
 そう疑問に思って、少しスピードが落ちたのが拙かったのだろう。次の瞬間、ズン、という嫌な音と共に上条の脇腹に鈍い衝撃が奔った。
 息が詰まる。足が縺れて転んだ。
 あとは――もう、済し崩しにやられるだけだった。

 ――目を閉じたまま、目が醒めた。
 恐らく衝撃の正体は投石だったのだろう、と上条当麻は他人事のように推察する。
 着込まれていたのは対衝撃のチョッキではなく、パワードスーツの類だった、というただそれだけのコト。
 ――それだけのコトで、人は容易く死にかける、と。
 『上条当麻』の能力は『幻想殺し』という、異能を無効化するモノらしい。炎の魔術師とやらからの手紙の六枚目に、そのようなことが書かれていた。
(やれやれ。そんなチカラ、今みたいなときには何の役にも立たないだろうに)
 ――だというのに、何故、上条当麻は不良集団と敵対していたのだろう。
 その答えが、今後頭部に感じる暖かさにあるのだろうか、と上条はゆっくりと目を開けた。
 視界に映るは茶色の短髪。体型と骨格から推察すると、女子中学生だろうか。
 こちらが目を醒ましたのには気づいていないらしく、彼女は溜息をついて呟く。
「ったく、何やってんのよ、本当に」
 ――存外、『上条当麻』の行動半径は広かったらしい。



 太腿の温度を感じながら上条当麻はふと思う。
 ――もしも、この場で自分が記憶喪失であることを告げたら?
 それはとても魅力的な選択肢であったが、同時に、選ぶわけには行かないものだった。
 何が原因でインデックスにバレるか分かったものではないから。
 現状、切り抜ける為にはどうするべきか。
 ひとしきり考えたが、浮かばない。
 だから――そう、単純に。
「って、アンタ何逃げ出してんの!? 待ちなさいっ!」
 上条当麻は逃げ出した。

 後方から驚いたような声が聞こえるが、この場合はやはり無視すべきだ。
 路地裏はもう危ないので、大通りへと走り出す。
 そろそろ昼食を摂るべき時間だが、インデックスには補習だと言ってある。食べ物も置いてあるので、家から抜け出すことはないだろう。
 上条はとにかく走る。後ろでバチバチと何やら不吉な音が聞こえるが、上条はそれでも走った。
 必死になるのはいいコトだ。余計なコトを考えなくてすむからきっと本来の『上条当麻』に近づいているだろうし、状況が切迫していれば多少性格が違っていても見咎められることもない。

 ――大通りに出た。他人も多いので、攻撃はないだろう。
 軽く、息を吐く。
 先程の彼女は敵だったのだろうか、味方だったのだろうか。
 振り向いてみれば、目を疑うほどの傷痕が、コンクリートの壁面に残されていた。
 死ぬかと思った。

 ――雑踏の中はあまり好きではないが、結局の所、この中に紛れるコトが、一番簡単な独りになる方法なのかもしれない。
 疲労を感じながら上条は歩く。服の裾は焦げていた。
 空腹。財布を開くと、そこにはあまりにも頼りない額が申し訳程度に入っていた。
 体中の様々な部位が、思い出したかのように痛みを訴えはじめる。
(何をするにもまず休憩が必要か)
 自身の悲惨な現状に自嘲しつつ、上条はさしあたって経済的な負担が少ないファーストフード店へと歩き出した。


 案の定、着いた先はほぼ満席といっていい状態だった。
 いい加減体力も限界が近づいてきていたので、店員にどうすればいいか訊いた。
 目つきが悪くなっていたのだろうか。店員は軽く怯えたような顔で窓際の一角を指差した。
 相席をしろ、ということだろう。幸い、あちらも独りだ。特に不都合は出ないだろう、恐らく。
 知り合いだったときが面倒だが、そのときはそのときで上手く誤魔化すしかない。
 ハンバーガーと飲み物を注文して、そのテーブルへと向かった。
 強面の男だったりしたら気まずいだろうな、と思いながらそこにいる人物に目を向けた。
 ――巫女だった。

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