【初出】
禁書SS自作スレpart3>>87
禁書SS自作スレpart3>>87
カチャカチャ、トントン、ジャー、カチッ、ボッ、コトコトコト。――――ゴソゴソ、カチャカチャ、ジャー、チャッチャッチャッチャッ………
さほど広くはない台所に賑やかな音が響いている。
音の出し主は幾つかの作業を並行して進めているようだが、手馴れた様子でそれらをこなしているようだ。
ふんふん、と鼻歌のようなものを口ずさみながら作業を進めていると、がちゃり、と鍵を外すのに続いてやや軋んだ音を立てて玄関のドアが開かれた。
「あ、 お帰りなさい」
「ふいー、ただいまなのですよー」
挨拶を交わしながら部屋に入ってきたのは愛らしい姿の小学生、のような月詠小萌その人であった。
「何だかお疲れみたいですねー」
「そうなのですよ。今日もまた帰り際になって仕事が入ったもんですから長引いてしまって、もうくたくたなのですよー」
などと言葉どおりにえらいくたびれた様子で鞄を床に置くとそのまま卓袱台に突っ伏してしまう。
と、何かに気付いた様子でふんふんと鼻を鳴らしながら尋ねる。
「いいにおいがしますねー、今日のおかずはおいもさんですかー?」
「あ、分かりますか? はい、今日はサトイモの煮っ転がしですよ」
言いながら卓袱台に歩み寄ってきたのは二重まぶたがくっきりとしている少女、五和である。
おつかれさまです、と置かれたお茶を口に含み一息ついた小萌先生は感慨深そうに、
「それにしても、こうやって家に帰ってくるとごはんの用意が出来ているっていうのはいいですねー。前にいた結標ちゃんは家事が出来ない子だったのでそのお勉強を見てあげるのも良かったですけど、こう、疲れて帰ってきた日なんかは五和ちゃんみたいな子が居るとありがたかったりするんですよー」
「いっ、いえいえ! そんなわたしなんかまだまだですよ!」
わたわたと焦る五和。
彼女が小萌の家にいるのには訳がある。といってもそれほど大層な理由でもないのだが。
遡ること九月の初旬、五和はとある目的を持って遠くイギリスの地からここ学園都市に降り立った。
彼女にとって重要な決意を秘めていたのだが、その目的は結局果たせずじまい。おまけにイギリスを出立するときには所属している天草式のメンバーに少なからぬ協力と迷惑をかけ、おまけに元女教皇(トップ)である神裂火織に盛大な啖呵を切る形で別れてきたので今さら帰るに帰れない(と本人は思い込んでいる)状況にあった五和が街をうろついているところを小萌先生が見つけ、そのまま自分の部屋に連れて帰り、今に至るというもの。
音の出し主は幾つかの作業を並行して進めているようだが、手馴れた様子でそれらをこなしているようだ。
ふんふん、と鼻歌のようなものを口ずさみながら作業を進めていると、がちゃり、と鍵を外すのに続いてやや軋んだ音を立てて玄関のドアが開かれた。
「あ、 お帰りなさい」
「ふいー、ただいまなのですよー」
挨拶を交わしながら部屋に入ってきたのは愛らしい姿の小学生、のような月詠小萌その人であった。
「何だかお疲れみたいですねー」
「そうなのですよ。今日もまた帰り際になって仕事が入ったもんですから長引いてしまって、もうくたくたなのですよー」
などと言葉どおりにえらいくたびれた様子で鞄を床に置くとそのまま卓袱台に突っ伏してしまう。
と、何かに気付いた様子でふんふんと鼻を鳴らしながら尋ねる。
「いいにおいがしますねー、今日のおかずはおいもさんですかー?」
「あ、分かりますか? はい、今日はサトイモの煮っ転がしですよ」
言いながら卓袱台に歩み寄ってきたのは二重まぶたがくっきりとしている少女、五和である。
おつかれさまです、と置かれたお茶を口に含み一息ついた小萌先生は感慨深そうに、
「それにしても、こうやって家に帰ってくるとごはんの用意が出来ているっていうのはいいですねー。前にいた結標ちゃんは家事が出来ない子だったのでそのお勉強を見てあげるのも良かったですけど、こう、疲れて帰ってきた日なんかは五和ちゃんみたいな子が居るとありがたかったりするんですよー」
「いっ、いえいえ! そんなわたしなんかまだまだですよ!」
わたわたと焦る五和。
彼女が小萌の家にいるのには訳がある。といってもそれほど大層な理由でもないのだが。
遡ること九月の初旬、五和はとある目的を持って遠くイギリスの地からここ学園都市に降り立った。
彼女にとって重要な決意を秘めていたのだが、その目的は結局果たせずじまい。おまけにイギリスを出立するときには所属している天草式のメンバーに少なからぬ協力と迷惑をかけ、おまけに元女教皇(トップ)である神裂火織に盛大な啖呵を切る形で別れてきたので今さら帰るに帰れない(と本人は思い込んでいる)状況にあった五和が街をうろついているところを小萌先生が見つけ、そのまま自分の部屋に連れて帰り、今に至るというもの。
なお、五和は預かり知らぬことではあるが、現在彼女には臨時のIDパスが発行されており、つつがなく学園都市での生活が送れるようになっている。(ちなみにID発行に関して土御門に仲介協力を要請をしたのは現状を聞いたとある聖人さんだとか。まあ、若干呆れながらではあった様だがそれなりに気に掛けてもらっているという事であろう)
それはさておきさておき……。
それはさておきさておき……。
いそいそと食事の用意をする五和の様子を眺めていた小萌先生であったが、ふと、台所に何やら置いてあるのに気付く。
どうやら作業の途中らしく、食事の用意は一人分しか並んでいない。
「何ですかーそれは?」
「すみません。まだもうちょっとかかるので、出来れば先に食べていってください」
申し訳なさそうに言う五和に対し、ちょっと気分を害したように反論する。
「五和ちゃん。前に言ったはずですよ? 食事はちゃんと一緒にするって。そんな変な風に気を使うなんて他人行儀な仕方、先生感心しません」
ちょっと怒った風の小萌先生を見て、『は、はあ』 ともぞもぞとしていた五和だが、『五和ちゃん!?』 と小萌先生が強く呼ぶと、『すいません』 と縮こまる。
「じゃ、じゃあ、もうちょっとだけ待っててもらえますか? すぐに終わらせますから」
「はいはい、やっぱり食事は二人で一緒に食べたほうが美味しいんですよー」
途端に機嫌を直す小萌先生。
「ところで、さっきから何をやっていたんですか?」
矛先が逸れてホッとしながら答える五和。
「あのですね。お団子を作っているんです」
「お団子、ですか? でもそんなには食べきれないと思いますよ?」
見つめる先にはちょっとした小山になっている団子の数々。
真っ白なままで出来ている白玉や、あんこで包まれたおはぎなど種類も豊富であるが、さすがにその量をここにいる二人で食べきろうとするのは無理があろう。
ただでさえ多いのにその上夕食まで一緒となれば言わずもがなである。
それなりに家事をこなすこの少女が何故このような行動に出たの頭をひねっていると、
「今日は、満月ですから」
という答えが返ってきた。
「はい?」
「昼間は曇ってましたけど、今は雲も切れてちょうどいい具合に朧月夜になってますよ。お月見するにはいい夜です」
何処となく浮かれて言う五和。
どうやらお月見をするためにお団子を用意しているらしいのだが、
「えーと、その、あのですね………」
「?」
対する小萌先生のほうは説明しがたい表情で五和に話しかける。
「五和ちゃんは、お月見をしたいんですか?」
「はい、そうですよ。今日のためにいろいろ回って準備してきたんです。ほら、学園都市って整備が進んでいるところが多いから意外とススキが生えているところを見つけるのに苦労したりもしたんですよ!」
嬉しそうに語る五和。
そんな相手に対し、これから自分が告げなければならない事の重大性を慮っているのか、言いにくそうに、
「そのお月見は、もしかして中秋の名月の、ですか……?」
「やだなー先生、お月見って言ったら、大抵はそうじゃないですかー!」
浮かれて答える五和であったが、
「それ、今年はもう終わっちゃって……ます……よ?」
どうやら作業の途中らしく、食事の用意は一人分しか並んでいない。
「何ですかーそれは?」
「すみません。まだもうちょっとかかるので、出来れば先に食べていってください」
申し訳なさそうに言う五和に対し、ちょっと気分を害したように反論する。
「五和ちゃん。前に言ったはずですよ? 食事はちゃんと一緒にするって。そんな変な風に気を使うなんて他人行儀な仕方、先生感心しません」
ちょっと怒った風の小萌先生を見て、『は、はあ』 ともぞもぞとしていた五和だが、『五和ちゃん!?』 と小萌先生が強く呼ぶと、『すいません』 と縮こまる。
「じゃ、じゃあ、もうちょっとだけ待っててもらえますか? すぐに終わらせますから」
「はいはい、やっぱり食事は二人で一緒に食べたほうが美味しいんですよー」
途端に機嫌を直す小萌先生。
「ところで、さっきから何をやっていたんですか?」
矛先が逸れてホッとしながら答える五和。
「あのですね。お団子を作っているんです」
「お団子、ですか? でもそんなには食べきれないと思いますよ?」
見つめる先にはちょっとした小山になっている団子の数々。
真っ白なままで出来ている白玉や、あんこで包まれたおはぎなど種類も豊富であるが、さすがにその量をここにいる二人で食べきろうとするのは無理があろう。
ただでさえ多いのにその上夕食まで一緒となれば言わずもがなである。
それなりに家事をこなすこの少女が何故このような行動に出たの頭をひねっていると、
「今日は、満月ですから」
という答えが返ってきた。
「はい?」
「昼間は曇ってましたけど、今は雲も切れてちょうどいい具合に朧月夜になってますよ。お月見するにはいい夜です」
何処となく浮かれて言う五和。
どうやらお月見をするためにお団子を用意しているらしいのだが、
「えーと、その、あのですね………」
「?」
対する小萌先生のほうは説明しがたい表情で五和に話しかける。
「五和ちゃんは、お月見をしたいんですか?」
「はい、そうですよ。今日のためにいろいろ回って準備してきたんです。ほら、学園都市って整備が進んでいるところが多いから意外とススキが生えているところを見つけるのに苦労したりもしたんですよ!」
嬉しそうに語る五和。
そんな相手に対し、これから自分が告げなければならない事の重大性を慮っているのか、言いにくそうに、
「そのお月見は、もしかして中秋の名月の、ですか……?」
「やだなー先生、お月見って言ったら、大抵はそうじゃないですかー!」
浮かれて答える五和であったが、
「それ、今年はもう終わっちゃって……ます……よ?」
「…………はい?」
ピシリ、と固まる五和。
それに対し慌てて、
「いや、その、よくみえるんですが、中秋の名月を満月の夜にあるものだと思われている人がいますけど、あれは旧暦の八月十五夜に行われるものであって、必ずしも満月の夜に限るというわけではなくてですね、って、五和ちゃぁぁぁん!! しっかり、しっかりしてください大丈夫ですかー!?」
説明を始めたものの途中から五和の介抱になってしまう小萌先生。
「…………も、もうダメです。こんな、こんな初歩的なことで躓いているようでは、何が、何が天草式ですか、何が女教皇(プリエステス)と張り合うですか!! わた、わたしは、わたしはもう…………!!」
己のアイデンティティーを問い始めた五和とその周りでおろおろする小萌先生。というか、さりげに機密事項を口走ってます五和さん。
五和がようやく立ち直ったのは日がとっぷりと暮れ、月が天頂から下り始めた頃合だったそうな……。
「いや、その、よくみえるんですが、中秋の名月を満月の夜にあるものだと思われている人がいますけど、あれは旧暦の八月十五夜に行われるものであって、必ずしも満月の夜に限るというわけではなくてですね、って、五和ちゃぁぁぁん!! しっかり、しっかりしてください大丈夫ですかー!?」
説明を始めたものの途中から五和の介抱になってしまう小萌先生。
「…………も、もうダメです。こんな、こんな初歩的なことで躓いているようでは、何が、何が天草式ですか、何が女教皇(プリエステス)と張り合うですか!! わた、わたしは、わたしはもう…………!!」
己のアイデンティティーを問い始めた五和とその周りでおろおろする小萌先生。というか、さりげに機密事項を口走ってます五和さん。
五和がようやく立ち直ったのは日がとっぷりと暮れ、月が天頂から下り始めた頃合だったそうな……。
なお、五和が丹精込めて作ったお団子の山は、その量をちゃんと片付けてくれそうな人物は、ということで白羽の矢が立てられた一人の白いシスターだったそうな。
彼女に連絡を取りたいのだが何処にいるのか知りませんか? と尋ねられたのは、とある学生寮にいる男子生徒だとか。
まあ、いろいろあってやや煤けていた五和さんがその男子生徒の部屋にお団子を届けることで気持ちが持ち直したとか持ち直さなかったとか。
人生これいろいろですよね?
彼女に連絡を取りたいのだが何処にいるのか知りませんか? と尋ねられたのは、とある学生寮にいる男子生徒だとか。
まあ、いろいろあってやや煤けていた五和さんがその男子生徒の部屋にお団子を届けることで気持ちが持ち直したとか持ち直さなかったとか。
人生これいろいろですよね?