「——さすがね……ってなにやってんのよ!? その脚どけなさいって! それになんでアンタがここにいるわけ!?」
状況に追いつけず放心していた美琴がミサカ一三五一〇号に詰め寄る。
両手を腰にそえていかにも怒ってますな美琴は、じっとミサカ一三五一〇号の顔を覗き込んでいるため、向かい合った顔の距離は両
者の吐息が聞こえるほどに近い。
一気にミサカ一三五一〇号の思考が沸騰する。
(あ、あ……ああぁ……み、美琴お姉様のお顔がこ、こんなにも近くにあります、とミサカはこれが夢ではないかと目の前の光景を疑
ってしまいます。こ、こうゆうときは——)
上条を踏みつけている脚に急激な力を加える。
「んぎゃぁぁあああああっ!!」
地下街に不幸な少年の悲鳴が響き渡った。
ミサカ一三五一〇号の鮮やかな捕縛術によりできた人だかりが上条の悲痛な叫びで一層大きなものに発展していく。それでも風紀委
員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が派遣されてこないのは、中心人物に常盤台の超能力者(レベル5)が加わっている
からだろう。誰だって命は惜しい。とばっちりは受けたくないのだ。
周囲の視線を一身に浴びながらも、ミサカ一三五一〇号はマイペースに目の前の人物だけを瞳に写す。
(やはり夢ではないのですね、とミサカは生ゴミの出した騒音で確認しました。とゆうことは、この艶やかに流れる髪も、透き通った
力強い瞳も、柔らかそうな唇も……唇も……唇——)
眉根を吊り上げる美琴すらミサカ一三五一〇号には初めての表情ですっかり興奮してしまったわけで——。
「な、なにやってんのよ!!」
吸い込まれるように自分のものを美琴のそれに近づけたものの、不穏な空気に気づいた美琴が距離をとってしまった。
寂しさを感じながらも、うっとりとした表情で美琴を見つめる。
その視線に気づいたのか美琴もミサカ一三五一〇号を見つめ返してきた。
視線が交わる。
一秒ももたずミサカ一三五一〇号は自分から視線を逸らしてしまった。相変わらずその顔は真っ赤である。
そんなしぐさに美琴は首をかしげた。
「ん? アンタ……いつものあの子じゃないわね?」
『いつものあの子』と呼ばれたミサカ一〇〇三二号がひどく羨ましかったが、そこは顔に出さないのがミサカ一三五一〇号。
「はい。あのミサカは検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号、このミサカは一三五一〇号です、とミサカは初めてお会いする美
琴お姉様に心臓がどうにかなりそうですが完結に説明します。あまり気にしなくてもよいのですが、ミサカのこともあのミサカ以上に
覚えてくれると大変嬉しいです、とミサカはささやかな望みをさりげなく伝えてみます」
しかし口には出すのがミサカ一三五一〇号。
へぇー、と美琴は最後の台詞をすっぱり無視して目の前にいる自分そっくりの他人を眺め始めた。
どうやら普段とは異なる姉妹(シスターズ)の登場で美琴の怒りも冷めてしまったようだ。さっきまでとは違う穏やかな声で話しか
ける。
「それで、アンタはどうしてこんなとこにいるの? 街中であの子以外を見るのって初めてなんだけど……なんかあった?」
その声音に若干の不安を感じ取ったがミサカ一三五一〇号はそれを気にしたそぶりを見せず返事をする。
「いえ、美琴お姉様が不安に思うような事態はなに一つ発生していません、とミサカはネットワーク上でのバカな会話を思い出しなが
ら報告します」
それを聞いた美琴が穏やかに微笑むのを見ると、ミサカ一三五一〇号は自分の胸が大きく高鳴るのを感じた。
美琴が一方通行(アクセラレータ)の件以来、不用意にDNAマップを提供したことを後悔してる、とゆうことはネットワーク上で
も話題になった。そのDNAマップがなければ自分たちは生まれなかったのだから今更気にして欲しくなかった。
(ミサカたちが生まれてきたことさえも後悔しているのでは、と不安だったのですが——)
美琴は強く責任を感じながらも、姉妹(シスターズ)たちの現状を気にかけてくれる。そこに義務感以外の感情を期待してしまう。
「——ところで」
状況に追いつけず放心していた美琴がミサカ一三五一〇号に詰め寄る。
両手を腰にそえていかにも怒ってますな美琴は、じっとミサカ一三五一〇号の顔を覗き込んでいるため、向かい合った顔の距離は両
者の吐息が聞こえるほどに近い。
一気にミサカ一三五一〇号の思考が沸騰する。
(あ、あ……ああぁ……み、美琴お姉様のお顔がこ、こんなにも近くにあります、とミサカはこれが夢ではないかと目の前の光景を疑
ってしまいます。こ、こうゆうときは——)
上条を踏みつけている脚に急激な力を加える。
「んぎゃぁぁあああああっ!!」
地下街に不幸な少年の悲鳴が響き渡った。
ミサカ一三五一〇号の鮮やかな捕縛術によりできた人だかりが上条の悲痛な叫びで一層大きなものに発展していく。それでも風紀委
員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が派遣されてこないのは、中心人物に常盤台の超能力者(レベル5)が加わっている
からだろう。誰だって命は惜しい。とばっちりは受けたくないのだ。
周囲の視線を一身に浴びながらも、ミサカ一三五一〇号はマイペースに目の前の人物だけを瞳に写す。
(やはり夢ではないのですね、とミサカは生ゴミの出した騒音で確認しました。とゆうことは、この艶やかに流れる髪も、透き通った
力強い瞳も、柔らかそうな唇も……唇も……唇——)
眉根を吊り上げる美琴すらミサカ一三五一〇号には初めての表情ですっかり興奮してしまったわけで——。
「な、なにやってんのよ!!」
吸い込まれるように自分のものを美琴のそれに近づけたものの、不穏な空気に気づいた美琴が距離をとってしまった。
寂しさを感じながらも、うっとりとした表情で美琴を見つめる。
その視線に気づいたのか美琴もミサカ一三五一〇号を見つめ返してきた。
視線が交わる。
一秒ももたずミサカ一三五一〇号は自分から視線を逸らしてしまった。相変わらずその顔は真っ赤である。
そんなしぐさに美琴は首をかしげた。
「ん? アンタ……いつものあの子じゃないわね?」
『いつものあの子』と呼ばれたミサカ一〇〇三二号がひどく羨ましかったが、そこは顔に出さないのがミサカ一三五一〇号。
「はい。あのミサカは検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号、このミサカは一三五一〇号です、とミサカは初めてお会いする美
琴お姉様に心臓がどうにかなりそうですが完結に説明します。あまり気にしなくてもよいのですが、ミサカのこともあのミサカ以上に
覚えてくれると大変嬉しいです、とミサカはささやかな望みをさりげなく伝えてみます」
しかし口には出すのがミサカ一三五一〇号。
へぇー、と美琴は最後の台詞をすっぱり無視して目の前にいる自分そっくりの他人を眺め始めた。
どうやら普段とは異なる姉妹(シスターズ)の登場で美琴の怒りも冷めてしまったようだ。さっきまでとは違う穏やかな声で話しか
ける。
「それで、アンタはどうしてこんなとこにいるの? 街中であの子以外を見るのって初めてなんだけど……なんかあった?」
その声音に若干の不安を感じ取ったがミサカ一三五一〇号はそれを気にしたそぶりを見せず返事をする。
「いえ、美琴お姉様が不安に思うような事態はなに一つ発生していません、とミサカはネットワーク上でのバカな会話を思い出しなが
ら報告します」
それを聞いた美琴が穏やかに微笑むのを見ると、ミサカ一三五一〇号は自分の胸が大きく高鳴るのを感じた。
美琴が一方通行(アクセラレータ)の件以来、不用意にDNAマップを提供したことを後悔してる、とゆうことはネットワーク上で
も話題になった。そのDNAマップがなければ自分たちは生まれなかったのだから今更気にして欲しくなかった。
(ミサカたちが生まれてきたことさえも後悔しているのでは、と不安だったのですが——)
美琴は強く責任を感じながらも、姉妹(シスターズ)たちの現状を気にかけてくれる。そこに義務感以外の感情を期待してしまう。
「——ところで」
と美琴が神妙な面持ちで口を開いた。しかし、その表情はどこか満足そうだ。
「いつまでそのバカを踏みつけてるのよ?」
「てめぇ! さっきからこっちをチラチラ見てたくせに今更ですか!? やっぱり御坂に思いやりなんか期待しちゃいけなかったんだ
な……今はっきりとわかったよ。——ってかごめんなさい早く助けてぇーっ!!」
ミサカ一三五一〇号は目線を下げることすらせず、潤んだ目で叫びだす上条を一踏みで黙らせる。
「うるさい生ゴミです、とミサカは命の恩人とゆうことなどもはや頭の片隅に放置して足蹴にします。——とゆうわけで、この生ゴミ
が美琴お姉様に危害を加えそうなので護衛と……あ、憧れの美琴お姉様を見にきたのです、とミサカは恥ずかしながらも今日の目的を
暴露してしまいます」
色々と暴露してしまったミサカ一三五一〇号だったが美琴はとくに気にすることはなかった。「護衛って」と苦笑いをする美琴に、
自分の行動が裏目に出たのでは、と本物の美琴に浮かれっぱなしだったミサカ一三五一〇号は焦ってしまった。
「ってゆーかさ……」
どう説明しようかと考えていると、美琴が口を開いた。緊張でめったやたらに心臓が打ち鳴らされるのを必死に抑えて、ミサカ一三
五一〇号は美琴に姿勢を正す。
まっすぐに見つめられると美琴はほんのりと頬を赤らめて、
「美琴お姉様っての? ……ちょっと恥ずかしいんだけど。あははっ、おなじ顔だけど——やっぱり妹だからかな? なんていうか、
くすぐったい感じ?」
「お、おお……」
うつむき肩を震わせるミサカ一三五一〇号。
このときの美琴は普段以上に無防備だった。その相手が自分のクローン体である姉妹(シスターズ)だとしても——その反応が身近
な人物に、白井黒子に誤差数パーセントの精度で似通っていることに気づかなかった。
「ど、どうしたのよ!?」
美琴が、無用心に近づく。
「——お、お姉様ぁあああああっ!!」
「きゃっ!?」
完全に不意をついたミサカ一三五一〇号の抱きつきは美琴を逃さない。
ここぞとばかりに美琴に頬ずりをするミサカ一三五一〇号。白井と同様の、いやそれ以上の行動に寒気を覚える美琴。
(あ、ああ……これがあの美琴お姉様の柔肌なのですね、とミサカは……こんなまどろっこしい話し方にうんざりしながらミサカは全
力で美琴お姉様とお近づきに——あぁ……この吸いつくような質感、キメの細やかさ、そして……お姉様のお、温度——)
ミサカ一三五一〇号は正常な判断を放棄し、その生まれたばかりの本能と言えるものに従う。
「ちょっ、やめ——ひゃぁ!」
触れるか触れないかの力加減で、美琴の右手を撫でる。
互いの頬を合わせたまま、優しくゆっくりと美琴の耳に息を吹きかける。
美琴の反応を全身で慈しむかのように強く抱きしめる。
「あっ、いやっ——こ、このいい加減に……」
「あぁ……美琴お姉様ぁ、素敵です……ミサカは、ミサカはぁあああああ!!」
もはや完全に理性を失ってしまったミサカ一三五一〇号は白井が見たら発狂しそうな——今でさえ二人の美琴の姿をした少女たちの光景に卒倒寸前だろうが——その行為をしでかそうとする。
(さっきは失敗でしたが今度こそは、とミサカは自分の体温上昇が異常値(エラー)を出して頭がボーっとするのなんか無視してやり
たいようにやってやります。とうとう美琴お姉様の唇に、ミサカの、ミサカの——)
必死に抵抗する美琴を抱きとめながら、その少し潤んだ瞳を見すえる。
その真摯なようで実際は欲にまみれた視線を受けて美琴はこれから自分に訪れる行為を理解した。
「え、嘘でしょ? それはまずいんじゃない? だって私たち姉妹なんだし……ねぇ、ホントにダメだから」
二人の距離が縮まっていく。
「アンタだって女の子——そ、それにあのバカのことす、好きなんでしょ!?」
「——美琴、お姉様」
地下街の電飾で生まれたいくつもの影。ゆっくりと対となったもの同士が重なっていく。
「い、いや……キスなんて……ダメ、なんだから——」
人々の賑わいと鮮やかなイルミネーションに華やぐ地下街、美琴の言葉は遮られた。
「いつまでそのバカを踏みつけてるのよ?」
「てめぇ! さっきからこっちをチラチラ見てたくせに今更ですか!? やっぱり御坂に思いやりなんか期待しちゃいけなかったんだ
な……今はっきりとわかったよ。——ってかごめんなさい早く助けてぇーっ!!」
ミサカ一三五一〇号は目線を下げることすらせず、潤んだ目で叫びだす上条を一踏みで黙らせる。
「うるさい生ゴミです、とミサカは命の恩人とゆうことなどもはや頭の片隅に放置して足蹴にします。——とゆうわけで、この生ゴミ
が美琴お姉様に危害を加えそうなので護衛と……あ、憧れの美琴お姉様を見にきたのです、とミサカは恥ずかしながらも今日の目的を
暴露してしまいます」
色々と暴露してしまったミサカ一三五一〇号だったが美琴はとくに気にすることはなかった。「護衛って」と苦笑いをする美琴に、
自分の行動が裏目に出たのでは、と本物の美琴に浮かれっぱなしだったミサカ一三五一〇号は焦ってしまった。
「ってゆーかさ……」
どう説明しようかと考えていると、美琴が口を開いた。緊張でめったやたらに心臓が打ち鳴らされるのを必死に抑えて、ミサカ一三
五一〇号は美琴に姿勢を正す。
まっすぐに見つめられると美琴はほんのりと頬を赤らめて、
「美琴お姉様っての? ……ちょっと恥ずかしいんだけど。あははっ、おなじ顔だけど——やっぱり妹だからかな? なんていうか、
くすぐったい感じ?」
「お、おお……」
うつむき肩を震わせるミサカ一三五一〇号。
このときの美琴は普段以上に無防備だった。その相手が自分のクローン体である姉妹(シスターズ)だとしても——その反応が身近
な人物に、白井黒子に誤差数パーセントの精度で似通っていることに気づかなかった。
「ど、どうしたのよ!?」
美琴が、無用心に近づく。
「——お、お姉様ぁあああああっ!!」
「きゃっ!?」
完全に不意をついたミサカ一三五一〇号の抱きつきは美琴を逃さない。
ここぞとばかりに美琴に頬ずりをするミサカ一三五一〇号。白井と同様の、いやそれ以上の行動に寒気を覚える美琴。
(あ、ああ……これがあの美琴お姉様の柔肌なのですね、とミサカは……こんなまどろっこしい話し方にうんざりしながらミサカは全
力で美琴お姉様とお近づきに——あぁ……この吸いつくような質感、キメの細やかさ、そして……お姉様のお、温度——)
ミサカ一三五一〇号は正常な判断を放棄し、その生まれたばかりの本能と言えるものに従う。
「ちょっ、やめ——ひゃぁ!」
触れるか触れないかの力加減で、美琴の右手を撫でる。
互いの頬を合わせたまま、優しくゆっくりと美琴の耳に息を吹きかける。
美琴の反応を全身で慈しむかのように強く抱きしめる。
「あっ、いやっ——こ、このいい加減に……」
「あぁ……美琴お姉様ぁ、素敵です……ミサカは、ミサカはぁあああああ!!」
もはや完全に理性を失ってしまったミサカ一三五一〇号は白井が見たら発狂しそうな——今でさえ二人の美琴の姿をした少女たちの光景に卒倒寸前だろうが——その行為をしでかそうとする。
(さっきは失敗でしたが今度こそは、とミサカは自分の体温上昇が異常値(エラー)を出して頭がボーっとするのなんか無視してやり
たいようにやってやります。とうとう美琴お姉様の唇に、ミサカの、ミサカの——)
必死に抵抗する美琴を抱きとめながら、その少し潤んだ瞳を見すえる。
その真摯なようで実際は欲にまみれた視線を受けて美琴はこれから自分に訪れる行為を理解した。
「え、嘘でしょ? それはまずいんじゃない? だって私たち姉妹なんだし……ねぇ、ホントにダメだから」
二人の距離が縮まっていく。
「アンタだって女の子——そ、それにあのバカのことす、好きなんでしょ!?」
「——美琴、お姉様」
地下街の電飾で生まれたいくつもの影。ゆっくりと対となったもの同士が重なっていく。
「い、いや……キスなんて……ダメ、なんだから——」
人々の賑わいと鮮やかなイルミネーションに華やぐ地下街、美琴の言葉は遮られた。