ミサカ一三五一〇号はその存在に息を飲み、強大な力に身を震わせ肩を抱き寄せた。
二槍の雷が交わることはなかった。理性を失った獰猛な牙はどちらも獲物を捕らえることもなく——、
一人の少女によって打ち消された。
(これが美琴お姉様の……ミサカたちのお姉様(オリジナル)である超電磁砲(レールガン)の力なのですね、とミサカは目の前の光
景に唖然としながらも美琴お姉様の素晴らしさに感嘆の溜息をこぼします)
ミサカたちが放った雷撃の槍を美琴は自分で生み出したかのように操作し、全てを放電しきってしまった。
両側からの雷撃を同時に操作するなど、たとえ超能力者(レベル5)であろうとも一瞬のミスが命取りになるような行為だった。そ
もそも受け止めること自体が間違っている。
周囲に被害が及んでしまうが、普通は相殺とゆう選択肢を受諾してしまうだろう。
その妥協を拒絶し、平然として困難をやってのける。超電磁砲(レールガン)とはそういう存在なのだ。
「——アンタたち、もうやめなさいっ!!」
感情の高ぶりを示すように全身で激しい火花をまとうと、美琴はミサカたち二人に怒号を飛ばした。
今日が初対面のミサカ一三五一〇号にとっては、当然だが、美琴に怒鳴られることも初体験だ。眉根を寄せた表情で睨まれミサカ一
三五一〇号はすくみ上がってしまう。
「ちょっと来なさい」
もはやどうすればいいかわからないミサカ一三五一〇号は大人しくその言葉に従った。ミサカ一〇〇三二号も特になにも言わず美琴
に歩み寄る。
美琴たちを取り巻いていた人だかりはミサカたちが戦闘を始めると散り散りになって逃げていたが、それでも能力者同士の喧嘩など
珍しくないので今では再び喧騒が戻ってきている。
美琴は路上の片隅に逸れて苛立ちを隠さず告げる。
「ったく——地下街のど真ん中でなにやってんのよ? 姉妹喧嘩くらい別にいいんだけど……さっきのはやりすぎだからね?」
怒られるということ自体、ミサカ一三五一〇号には経験が足りないのだ。
(あぁ……ど、どうすればいいのでしょう、とミサカは不測の事態に対応できずに慌ててしまいます)
美琴と目が合った瞬間、肩をすくめ目を瞑ってしまった。
すぐ近くに人の体温を感じる。きっと美琴だろう。
一発くらい雷撃をくらうのでは、とミサカ一三五一〇号が身構えた瞬間だった。
「お、おお、お姉様が三人もぉおおおおおおおっ!?」
騒がしい地下街に一際大きな嬌声が響き渡る。
二槍の雷が交わることはなかった。理性を失った獰猛な牙はどちらも獲物を捕らえることもなく——、
一人の少女によって打ち消された。
(これが美琴お姉様の……ミサカたちのお姉様(オリジナル)である超電磁砲(レールガン)の力なのですね、とミサカは目の前の光
景に唖然としながらも美琴お姉様の素晴らしさに感嘆の溜息をこぼします)
ミサカたちが放った雷撃の槍を美琴は自分で生み出したかのように操作し、全てを放電しきってしまった。
両側からの雷撃を同時に操作するなど、たとえ超能力者(レベル5)であろうとも一瞬のミスが命取りになるような行為だった。そ
もそも受け止めること自体が間違っている。
周囲に被害が及んでしまうが、普通は相殺とゆう選択肢を受諾してしまうだろう。
その妥協を拒絶し、平然として困難をやってのける。超電磁砲(レールガン)とはそういう存在なのだ。
「——アンタたち、もうやめなさいっ!!」
感情の高ぶりを示すように全身で激しい火花をまとうと、美琴はミサカたち二人に怒号を飛ばした。
今日が初対面のミサカ一三五一〇号にとっては、当然だが、美琴に怒鳴られることも初体験だ。眉根を寄せた表情で睨まれミサカ一
三五一〇号はすくみ上がってしまう。
「ちょっと来なさい」
もはやどうすればいいかわからないミサカ一三五一〇号は大人しくその言葉に従った。ミサカ一〇〇三二号も特になにも言わず美琴
に歩み寄る。
美琴たちを取り巻いていた人だかりはミサカたちが戦闘を始めると散り散りになって逃げていたが、それでも能力者同士の喧嘩など
珍しくないので今では再び喧騒が戻ってきている。
美琴は路上の片隅に逸れて苛立ちを隠さず告げる。
「ったく——地下街のど真ん中でなにやってんのよ? 姉妹喧嘩くらい別にいいんだけど……さっきのはやりすぎだからね?」
怒られるということ自体、ミサカ一三五一〇号には経験が足りないのだ。
(あぁ……ど、どうすればいいのでしょう、とミサカは不測の事態に対応できずに慌ててしまいます)
美琴と目が合った瞬間、肩をすくめ目を瞑ってしまった。
すぐ近くに人の体温を感じる。きっと美琴だろう。
一発くらい雷撃をくらうのでは、とミサカ一三五一〇号が身構えた瞬間だった。
「お、おお、お姉様が三人もぉおおおおおおおっ!?」
騒がしい地下街に一際大きな嬌声が響き渡る。
地下街で発電系能力者(エレクトロマスター)二人が喧嘩をしている。
その報告が届いたのは『学び舎の園』からちょうど目的地であった『風紀委員活動第一七七支部』に移動していた最中だった。
『もしもし? まだこっちに着いてないですよね。ちょっと寄り道してもらえますか?』
電話越しに同僚の初春飾利が用件を報告した。
たかが喧嘩ぐらいで風紀委員(ジャッジメント)が出る必要はないのだろう、仕事放棄というわけではないが正直そう思ったので素
直に言ったところ、
『まぁ、異能力者(レベル2)ほどの能力者みたいなんで、私もそう思うんですけど……でも行った方が良いと思いますよ?』
もったいぶった言い方に今すぐにでも背後から頭の花をむしり取ってやろうと思った。
が——、
『どうも「御坂」さんもそこにいるみたいで……』
前言撤回ですの。今度お礼に何かおごってあげますわ。
空間転移(テレポート)で学バスから途中下車し、白井黒子は驚異的な速度で地下街へ向かった。
その報告が届いたのは『学び舎の園』からちょうど目的地であった『風紀委員活動第一七七支部』に移動していた最中だった。
『もしもし? まだこっちに着いてないですよね。ちょっと寄り道してもらえますか?』
電話越しに同僚の初春飾利が用件を報告した。
たかが喧嘩ぐらいで風紀委員(ジャッジメント)が出る必要はないのだろう、仕事放棄というわけではないが正直そう思ったので素
直に言ったところ、
『まぁ、異能力者(レベル2)ほどの能力者みたいなんで、私もそう思うんですけど……でも行った方が良いと思いますよ?』
もったいぶった言い方に今すぐにでも背後から頭の花をむしり取ってやろうと思った。
が——、
『どうも「御坂」さんもそこにいるみたいで……』
前言撤回ですの。今度お礼に何かおごってあげますわ。
空間転移(テレポート)で学バスから途中下車し、白井黒子は驚異的な速度で地下街へ向かった。
ともすれば鼓膜を破りそうなほどの大声にミサカ一三五一〇号は閉じていた目を見開いて振り返った。
そこには自分よりも二〇センチほど小柄な、リボンで髪をツインテールにまとめた少女——白井黒子が、さも驚いたという表情でわ
なないていた。その視線は美琴、ミサカ一三五一〇号、ミサカ一〇〇三二号の三人を行ったり来たりしている。
(この少女は誰なのでしょう、とミサカは初対面の少女を見て素直に疑問に思います)
お姉様と言っていたし、もしかして美琴の知り合いかと思って見てみると——、
「あぁ……これが不幸だぁーってやつなのかしら」
さっきまでの威厳などどこへやら、がっくりとうなだれた超能力者(レベル5)がそこにはいた。
ミサカ一〇〇三二号も初めて見た人物のようで不思議そうに美琴を眺めている。
『これは美琴お姉様の知り合いと見ていいのでしょうか、とミサカ一三五一〇号は美琴お姉様の態度からはそうは思えないので率直な
意見を求めます』
『知り合いだとは思いますがお姉様(オリジナル)はひどく憔悴していますね、とミサカ一〇〇三二号はあなたの意見に若干の同意と、
かなりの疑問を含めて回答します』
ネットワーク上で会話をしていると突如として美琴とミサカたちの真ん中に白井が現れた。
音もなく、衣服をたなびかせることもなく……それは写真を切り抜き、貼り付けたかのような挙動だった。
「お、お姉様っ! こ、こここ、これはいったいどうゆうことなんですの!? 大覇星祭のときにお姉様のお母様にはお会いなりまし
たけれど、あ、あああのときにはご姉妹がいたなんて言わなかったじゃないですのっ!!」
白井の瞳はひどくキラキラしていたのだが、ミサカ一三五一〇号は逆にその輝きで背中に嫌な汗をかいてしまった。
なんというか——この少女は危険な気配がする。理屈ではなく感覚で理解した。
それをミサカ一〇〇三二号に告げると、
『ミサカもこの少女からは生理的な嫌悪感がします、とミサカ一〇〇三二号は初対面で申し訳ないですが本音を言わせてもらいます。
つけ加えると……先ほどのミサカ一三五一〇号からも同様の怖気を感じました、とミサカ一〇〇三二号はあなたを射撃した理由につい
て言及させてもらいます』
苦笑いを続けている美琴を見ると、どうやら悲しいことに同じ感覚なのだろうと容易に想像できる。
「ですけど——」と不意に白井が真剣な声音で美琴を見据えた。
その表情に美琴が過剰に反応したようにミサカ一三五一〇号には見えた。
「あまりにも似過ぎではありませんか? ——っ! もしやお姉様は三つ子なんですのってゆーかこうなりゃお姉様だろうがそっくり
さんだろうがみんなまとめて頂きますわ!!」
直後、美琴の鉄拳が白井の額に吸い込まれていった。
そこには自分よりも二〇センチほど小柄な、リボンで髪をツインテールにまとめた少女——白井黒子が、さも驚いたという表情でわ
なないていた。その視線は美琴、ミサカ一三五一〇号、ミサカ一〇〇三二号の三人を行ったり来たりしている。
(この少女は誰なのでしょう、とミサカは初対面の少女を見て素直に疑問に思います)
お姉様と言っていたし、もしかして美琴の知り合いかと思って見てみると——、
「あぁ……これが不幸だぁーってやつなのかしら」
さっきまでの威厳などどこへやら、がっくりとうなだれた超能力者(レベル5)がそこにはいた。
ミサカ一〇〇三二号も初めて見た人物のようで不思議そうに美琴を眺めている。
『これは美琴お姉様の知り合いと見ていいのでしょうか、とミサカ一三五一〇号は美琴お姉様の態度からはそうは思えないので率直な
意見を求めます』
『知り合いだとは思いますがお姉様(オリジナル)はひどく憔悴していますね、とミサカ一〇〇三二号はあなたの意見に若干の同意と、
かなりの疑問を含めて回答します』
ネットワーク上で会話をしていると突如として美琴とミサカたちの真ん中に白井が現れた。
音もなく、衣服をたなびかせることもなく……それは写真を切り抜き、貼り付けたかのような挙動だった。
「お、お姉様っ! こ、こここ、これはいったいどうゆうことなんですの!? 大覇星祭のときにお姉様のお母様にはお会いなりまし
たけれど、あ、あああのときにはご姉妹がいたなんて言わなかったじゃないですのっ!!」
白井の瞳はひどくキラキラしていたのだが、ミサカ一三五一〇号は逆にその輝きで背中に嫌な汗をかいてしまった。
なんというか——この少女は危険な気配がする。理屈ではなく感覚で理解した。
それをミサカ一〇〇三二号に告げると、
『ミサカもこの少女からは生理的な嫌悪感がします、とミサカ一〇〇三二号は初対面で申し訳ないですが本音を言わせてもらいます。
つけ加えると……先ほどのミサカ一三五一〇号からも同様の怖気を感じました、とミサカ一〇〇三二号はあなたを射撃した理由につい
て言及させてもらいます』
苦笑いを続けている美琴を見ると、どうやら悲しいことに同じ感覚なのだろうと容易に想像できる。
「ですけど——」と不意に白井が真剣な声音で美琴を見据えた。
その表情に美琴が過剰に反応したようにミサカ一三五一〇号には見えた。
「あまりにも似過ぎではありませんか? ——っ! もしやお姉様は三つ子なんですのってゆーかこうなりゃお姉様だろうがそっくり
さんだろうがみんなまとめて頂きますわ!!」
直後、美琴の鉄拳が白井の額に吸い込まれていった。
白井は傍観を決め込んでいた上条に引っ張られてどこかへ行ってしまった。
去り際に、
「ちょ、殿方!? 貴方につかまれると空間転移(テレポート)ができませんの! ですから放して——ってお姉様ぁっ! そっくり
さんに浮気しそうになった黒子を許してください! やはり黒子はお姉様一筋ですの、一生ついて行きますわ——ってだから貴方は早
く放してください!! お姉様ぁあああっ!!」
「——って俺ってば雑用ですか? 今回はしかたねぇけどさぁ……ちくしょう不幸だぁあああっ!!」
そう叫んでいたが気にしたら負けだ。
また、ミサカ一〇〇三二号も「あの人が心配なのでミサカはここで失礼します、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)も心
配ですが、所詮あの人と比べるほどじゃないな、と自己完結し二人の追跡を開始します」と言って追っかけて行ってしまった。
台風のように現れた白井がいなくなると美琴は大げさなくらい盛大に溜息をついた。
「ごめんね、アンタたちをあの子に知られるわけにはいかないんだわ。踏み込んで欲しくないってのもあるけど……あの性格だから。
姉妹(シスターズ)が九〇〇〇人近くいるなんて知られたら、なにが起きるかわからないし」
うんざりした様子で口を開いた。
その言葉にミサカ一三五一〇号は胸を締めつけられる。
(あぁ、美琴お姉様はベタベタされるのが嫌いなのですね、とミサカはさきほどの少女にミサカと同様の雰囲気を感じてしまったこと
に愕然とします。これを機にミサカもお姉様(オリジナル)と呼び方を戻した方がいいのですね、とミサカは落ち込みながらも渋々で
すがそう決めることにします)
行き着いた結論にミサカ一三五一〇号が呆然としていると美琴はそれに気づき、
「……アンタも、あんなふうになっちゃダメなんだからね? わかった?」
諭すように告げる美琴だが今のミサカ一三五一〇号には死刑宣告もいいとこだ。
(ミサカはこれからなにを糧に生きればいいのでしょう、とミサカはいもしない神様にすがるような気分で聞いてみます)
「それにね——」
少しうつむきながら美琴は付け加える。
「アンタは本当の妹なんだから……その、お姉様とかじゃなくて……『お姉ちゃん』とかでいい、のよ?」
真っ赤になってそう言ったがそれでもかなり恥ずかしかったのか「あ、でも気が向いたらっていうか、別にそう言ってほしいわけじ
ゃなくてね? アンタがそう呼びたいなら……その……ね?」と両手をバタバタさせながら言い訳がましいことを言った。
……お姉ちゃん?
停止寸前だったミサカ一三五一〇号の思考回路に不自然な語彙(キーワード)が入ってきた。
(お姉様(オリジナル)は今なんと言ったのでしょう、とミサカは自分の聴覚器官に異常がないか念入りに確認してみます。……機能
正常(オールグリーン)、ということは本当に『お姉ちゃん』と言ったのでしょうか、とミサカはいまだに信じられない事態に思考が
追いつかなくて対処できません)
美琴は相変わらず呆けてしまっているミサカ一三五一〇号に小さく溜息をつくも、柔らかな笑顔を浮かべる。
「ほら、いつまでもここにいるわけにはいかないでしょ? 私も病院まで一緒に行くから、さっさと戻るわよ!」
言うが早いか、もはや競歩では、と疑いたくなる速度で美琴は歩き出してしまう。
「あ、待ってください……その……お、お姉ちゃん? とミサカは恐る恐る口に出してみます」
一度だけ美琴は立ち止まり——、
「行くわよ」
と呟いてまた歩きだしてしまった。ただ、その頬には鮮やかな紅葉が訪れていたが。
ミサカ一三五一〇号は美琴に駆け寄り、歩調を合わせて歩きだす。
「お・ね・え・さ・まぁーっ」
「だぁああああっ!? だから、それはやめなさいって——」
思いっきり嫌な顔をされてしまったが、それでも歩幅は小さく、さっきよりゆっくりと歩いてくれた。
自分たちは造られた関係だが、それでも本当の姉妹として肩を並べて歩くことができる。そう思うと、ミサカ一三五一〇号の足取り
は自然と軽くなっていった。むろん隣に美琴の存在を感じるからなのだが。
だからこそ——さりげなく手を握ろうとするのは止められない。
(この際ですから性別も血縁関係も無視の方向でいきます、とミサカは憎き恋敵を出し抜くために決意を新たにします)
ミサカ一三五一〇号の、恋する乙女としての戦いはやっとこさ始まったばかりだ。
去り際に、
「ちょ、殿方!? 貴方につかまれると空間転移(テレポート)ができませんの! ですから放して——ってお姉様ぁっ! そっくり
さんに浮気しそうになった黒子を許してください! やはり黒子はお姉様一筋ですの、一生ついて行きますわ——ってだから貴方は早
く放してください!! お姉様ぁあああっ!!」
「——って俺ってば雑用ですか? 今回はしかたねぇけどさぁ……ちくしょう不幸だぁあああっ!!」
そう叫んでいたが気にしたら負けだ。
また、ミサカ一〇〇三二号も「あの人が心配なのでミサカはここで失礼します、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)も心
配ですが、所詮あの人と比べるほどじゃないな、と自己完結し二人の追跡を開始します」と言って追っかけて行ってしまった。
台風のように現れた白井がいなくなると美琴は大げさなくらい盛大に溜息をついた。
「ごめんね、アンタたちをあの子に知られるわけにはいかないんだわ。踏み込んで欲しくないってのもあるけど……あの性格だから。
姉妹(シスターズ)が九〇〇〇人近くいるなんて知られたら、なにが起きるかわからないし」
うんざりした様子で口を開いた。
その言葉にミサカ一三五一〇号は胸を締めつけられる。
(あぁ、美琴お姉様はベタベタされるのが嫌いなのですね、とミサカはさきほどの少女にミサカと同様の雰囲気を感じてしまったこと
に愕然とします。これを機にミサカもお姉様(オリジナル)と呼び方を戻した方がいいのですね、とミサカは落ち込みながらも渋々で
すがそう決めることにします)
行き着いた結論にミサカ一三五一〇号が呆然としていると美琴はそれに気づき、
「……アンタも、あんなふうになっちゃダメなんだからね? わかった?」
諭すように告げる美琴だが今のミサカ一三五一〇号には死刑宣告もいいとこだ。
(ミサカはこれからなにを糧に生きればいいのでしょう、とミサカはいもしない神様にすがるような気分で聞いてみます)
「それにね——」
少しうつむきながら美琴は付け加える。
「アンタは本当の妹なんだから……その、お姉様とかじゃなくて……『お姉ちゃん』とかでいい、のよ?」
真っ赤になってそう言ったがそれでもかなり恥ずかしかったのか「あ、でも気が向いたらっていうか、別にそう言ってほしいわけじ
ゃなくてね? アンタがそう呼びたいなら……その……ね?」と両手をバタバタさせながら言い訳がましいことを言った。
……お姉ちゃん?
停止寸前だったミサカ一三五一〇号の思考回路に不自然な語彙(キーワード)が入ってきた。
(お姉様(オリジナル)は今なんと言ったのでしょう、とミサカは自分の聴覚器官に異常がないか念入りに確認してみます。……機能
正常(オールグリーン)、ということは本当に『お姉ちゃん』と言ったのでしょうか、とミサカはいまだに信じられない事態に思考が
追いつかなくて対処できません)
美琴は相変わらず呆けてしまっているミサカ一三五一〇号に小さく溜息をつくも、柔らかな笑顔を浮かべる。
「ほら、いつまでもここにいるわけにはいかないでしょ? 私も病院まで一緒に行くから、さっさと戻るわよ!」
言うが早いか、もはや競歩では、と疑いたくなる速度で美琴は歩き出してしまう。
「あ、待ってください……その……お、お姉ちゃん? とミサカは恐る恐る口に出してみます」
一度だけ美琴は立ち止まり——、
「行くわよ」
と呟いてまた歩きだしてしまった。ただ、その頬には鮮やかな紅葉が訪れていたが。
ミサカ一三五一〇号は美琴に駆け寄り、歩調を合わせて歩きだす。
「お・ね・え・さ・まぁーっ」
「だぁああああっ!? だから、それはやめなさいって——」
思いっきり嫌な顔をされてしまったが、それでも歩幅は小さく、さっきよりゆっくりと歩いてくれた。
自分たちは造られた関係だが、それでも本当の姉妹として肩を並べて歩くことができる。そう思うと、ミサカ一三五一〇号の足取り
は自然と軽くなっていった。むろん隣に美琴の存在を感じるからなのだが。
だからこそ——さりげなく手を握ろうとするのは止められない。
(この際ですから性別も血縁関係も無視の方向でいきます、とミサカは憎き恋敵を出し抜くために決意を新たにします)
ミサカ一三五一〇号の、恋する乙女としての戦いはやっとこさ始まったばかりだ。