とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 3-153

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匿名ユーザー

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 一方通行(アクセラレータ)は眼前に広がる光景を疑い、そして嫌悪した。
 人が汚らしく血肉を撒き散らし、無様な物になり下がる瞬間は何度も見てきた。
 筋肉、脂肪、軟骨、硬骨、眼球、舌、耳、鼻、大腸、小腸、胃袋、肝臓、心臓、肺、神経、髄液、脳漿(のうしょう)——人間とい
う生物から噛み千切れるもの、引きずり出せるもの、抉り取れるもの、そのほとんどを見たことがあった。色、臭い、手触り、だいた
いは覚えている。味わったこともある。
 だが——、
 それでもこの空間は異常だった。
「ねぇ、一方通行(アクセラレータ)? ここがアタシの居場所なの。『人間』を否定されて、『生物』さえも拒絶されちゃった。実
験動物(モルモット)だって褒め言葉の一つなんだから。……唯一の望みだってどうせ叶わないんだけどさ」
 楽しそうな表情で、悔しそうな声で、涙を浮かべて少女は言った。
 少女は子猫のように軽やかに駆け出し部屋の中心に近づくと、なにかしらの溶液が入っている円筒形の機器を優しくなぞる。
 その中に浮かぶ生命の律動を眺めて一方通行は思い出す。
『んー、眠るように死んじゃいたいかな? ポックリってやつ』
 それが自分の望みだと少女は言った。
 眼前の光景はその望みをむさぼるように喰い散らかしていた。
「——それでもね、ちょっとだけ期待しちゃうわけよ。なんかすっごい人が助けてくれるんじゃないかって……アタシだって女の子だ
もん。妄想の一つや二つくらいするわ」
 部屋の壁一面に全身の部位をさらされて、それでもなお少女は生き続けている。
 肉体とは異なる次元で繋がっている少女の片割れたち。
 自分自身の心臓を眺めながらなにを思っているのだろうか、一方通行には想像もできなかった。
 けれど、
「だからね——」
 少女の言葉を遮った。
「ごちゃゴチャうるせェンだよ」
 血を浴びて生活してきた自分のなにができるかなんてわからない。——いや、考えたくもない。
 正直、目の前の少女だってどうでもいい。
 ただ——あんなふうに笑う顔が気に入らない。
「で、オマエはなンだぁ? 結局ナニが言いてェンだ。生憎と俺の能力じゃ殺スしかできねェンだけどよ」
 現状から逃げ出すなにかを望むだけの日常。望んでもいないことを機械的に繰り返す。昔の自分を見ているようだった。
「あ、アタシは——」
「ン?」
 少女の瞳から液体が流れる。
「……たす……け、て……ここから連れ、出して……お願い……」
 呼応するように部屋中の眼球が瞳孔を広げ、心臓が早鐘を鳴らしていく。
「チッ——晩飯には帰るからナ。じゃなきゃアイツがうるせェからよォ」
 ゆっくりと首のチョーカーに指を伸ばす。
 躊躇うことなどありはしなかった。
 一方通行にとって誰かを救うのは慣れていない。けれどもう……初めてではないのだから。

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