神裂火織は長身な方だ。
世界的に見て小柄な日本人の女性としては特別に高く、まず同性相手では相手を見下ろす事になる。
相手が男性ならば見下ろすか、それとも対等の目線か、だ。
だから、彼と対峙した時に見上げる事になるのは
彼が特別と感じられて少し恥ずかしかったり嬉しかったりする。
とある教会の廊下を歩く彼女の視線の先にはとがった金髪と
お世辞にも趣味のいいとは言えない柄のシャツがあった。
どちらも教会には相応しくなく、まず間違いでない事を確信させる。
と、その件の人物の方から声をかけてきた
「お、ねーちん。どうかしたのかにゃー?」
「土御門、こんなところにいましたか。最大主教が探していましたよ」
その言葉に土御門は笑うが、サングラスで隠された瞳の奥の意志は解らない。
「そんな理由ならばっくれさせてもらうんだぜぃ。どーせ言葉の事だろうし」
「……あの言葉遣いは貴方の仕業だったのですか。
悪戯も度が過ぎると身を滅ぼしますよ?」
「毎度毎度滅茶苦茶な事おしつけてくれる無茶な上司にひとさじの復讐を…
自由無き労働者のささやかな権利だにゃー」
「ひとさじどころではないでしょう」
軽口の応酬。ヒトと話す時は真面目一辺倒な神裂だが土御門といる時は別だ。
付き合いが長いのでそれなりの対応も出来る。
とはいえ、根が真面目な事には変わりは無い。
彼女が彼を探していたのはこのようなやりとりをする為ではない。
神裂はおもむろに頭を下げた。
「……何の真似かにゃー?」
「いえ、礼を、と思いまして」
土御門は首をひねる。本当に何の事か解らないようだ。
「刺突杭剣…いえ使徒十字の件です。
アレが持ち出された時にかなり頑張ってくれたそうじゃないですか」
「結局俺はほとんど役に立たなかったんだが……何でそれでねーちんが礼を言うのかにゃー?」
「いえ。ただ嬉しかったものですから」
そう、嬉しかったのだ。
結果的には違ったとはいえ、最初は刺突杭剣だと考えられていた。
聖人を殺す剣が使用された時にまず狙われるのは聖人である神裂火織である。
神裂は彼が一番大事なものを決めている事を知っている。それが自分で無い事も。
そして彼が助ける人を選ぶ事を決めた人間だという事も解っている。
人を選ばず全てを救う事を決めた自分とは決して相容れない人間だ。
そんな彼が、しかし間接的にとはいえ自分を助けようと動いてくれた事、
それがただ嬉しかった。
彼の守りたいものの中に入ってると錯覚出来たから。
「そうニコニコされると何か気味が悪いぜぃ…」
頬に一筋の汗をかく土御門とニコニコ微笑み続ける神裂火織。
普段とは逆の立場に神裂の笑みは一層深くなる。
(ホントに……………嬉しかったのですよ?)
英国に来たばかりで右も左も解らなかった時に色々教えてくれた事も。
仕事を始めたばかりの頃に色々面倒をかけてしまい謝ったら
いつもの軽薄な笑いを浮かべて
「気にする事はないにゃー。むしろ礼なら体では———へぶぁっ!?」
と言って有耶無耶にしてくれた事も。
自分がまずい対応をしてしまったらさりげなくフォローをいれてくれる事も。
思いつめて相談したら冗談まじりに一応の解決策を示してくれる事も。
嘘にまみれて解りにくい優しさを感じられる全ての事が嬉しい。
「そうですね。食事でも奢りましょうか。美味しいお店を見つけたのですよ」
「イギリス料理だけは勘弁にゃー?」
そう言って教会の扉を開く。
世界的に見て小柄な日本人の女性としては特別に高く、まず同性相手では相手を見下ろす事になる。
相手が男性ならば見下ろすか、それとも対等の目線か、だ。
だから、彼と対峙した時に見上げる事になるのは
彼が特別と感じられて少し恥ずかしかったり嬉しかったりする。
とある教会の廊下を歩く彼女の視線の先にはとがった金髪と
お世辞にも趣味のいいとは言えない柄のシャツがあった。
どちらも教会には相応しくなく、まず間違いでない事を確信させる。
と、その件の人物の方から声をかけてきた
「お、ねーちん。どうかしたのかにゃー?」
「土御門、こんなところにいましたか。最大主教が探していましたよ」
その言葉に土御門は笑うが、サングラスで隠された瞳の奥の意志は解らない。
「そんな理由ならばっくれさせてもらうんだぜぃ。どーせ言葉の事だろうし」
「……あの言葉遣いは貴方の仕業だったのですか。
悪戯も度が過ぎると身を滅ぼしますよ?」
「毎度毎度滅茶苦茶な事おしつけてくれる無茶な上司にひとさじの復讐を…
自由無き労働者のささやかな権利だにゃー」
「ひとさじどころではないでしょう」
軽口の応酬。ヒトと話す時は真面目一辺倒な神裂だが土御門といる時は別だ。
付き合いが長いのでそれなりの対応も出来る。
とはいえ、根が真面目な事には変わりは無い。
彼女が彼を探していたのはこのようなやりとりをする為ではない。
神裂はおもむろに頭を下げた。
「……何の真似かにゃー?」
「いえ、礼を、と思いまして」
土御門は首をひねる。本当に何の事か解らないようだ。
「刺突杭剣…いえ使徒十字の件です。
アレが持ち出された時にかなり頑張ってくれたそうじゃないですか」
「結局俺はほとんど役に立たなかったんだが……何でそれでねーちんが礼を言うのかにゃー?」
「いえ。ただ嬉しかったものですから」
そう、嬉しかったのだ。
結果的には違ったとはいえ、最初は刺突杭剣だと考えられていた。
聖人を殺す剣が使用された時にまず狙われるのは聖人である神裂火織である。
神裂は彼が一番大事なものを決めている事を知っている。それが自分で無い事も。
そして彼が助ける人を選ぶ事を決めた人間だという事も解っている。
人を選ばず全てを救う事を決めた自分とは決して相容れない人間だ。
そんな彼が、しかし間接的にとはいえ自分を助けようと動いてくれた事、
それがただ嬉しかった。
彼の守りたいものの中に入ってると錯覚出来たから。
「そうニコニコされると何か気味が悪いぜぃ…」
頬に一筋の汗をかく土御門とニコニコ微笑み続ける神裂火織。
普段とは逆の立場に神裂の笑みは一層深くなる。
(ホントに……………嬉しかったのですよ?)
英国に来たばかりで右も左も解らなかった時に色々教えてくれた事も。
仕事を始めたばかりの頃に色々面倒をかけてしまい謝ったら
いつもの軽薄な笑いを浮かべて
「気にする事はないにゃー。むしろ礼なら体では———へぶぁっ!?」
と言って有耶無耶にしてくれた事も。
自分がまずい対応をしてしまったらさりげなくフォローをいれてくれる事も。
思いつめて相談したら冗談まじりに一応の解決策を示してくれる事も。
嘘にまみれて解りにくい優しさを感じられる全ての事が嬉しい。
「そうですね。食事でも奢りましょうか。美味しいお店を見つけたのですよ」
「イギリス料理だけは勘弁にゃー?」
そう言って教会の扉を開く。
ロンドンは今日も霧につつまれて、何もかもぼやけてしまっている。
そんな中を珍妙な恰好をした日本人ふたりがとても楽しそうに歩いていく。
そんな中を珍妙な恰好をした日本人ふたりがとても楽しそうに歩いていく。