とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 3-166

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匿名ユーザー

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 ——走る。走る。走る。
 精神が汚染されそうな言葉の羅列が、鼓膜に侵入する。同時に、背後から複数の光球が飛んでくる。
 光球は光球で脅威ではある。だが上条はそれよりも——
 ——身体を爆ぜさせながらもなお向かってくる、機械じみた行動力が恐ろしかった。
 左隣にいたステイルも、疾うに消えている。
 右手で防ぎ、右手で殴り、右手で倒す。左手は姿勢制御のためにのみ使う。
 階段を昇り、降り、余裕のないまま繰り返したせいで今何処を走っているのかも分からない。
 ——廊下を走る。迷走する脳内地図。破滅へのカウントダウン。泡と消える肉体。精神は無意味に。明滅する世界。ブチブチと引きちぎれる音。筋肉。或いは皮膚。流れるは緋色。ヒーローなんていない。世界は何処までも冷たい。
 ——振り、払う。益体もない思考を。模索する。現状の打破を。考えろ考えろ考えろ。
 大体、どうしてこうなった——


 ——足を、踏み入れる。その先にあった世界は呆れるほど平常だった。
 何かの騒音が耳に入りはするが、ロビーを出入りする生徒達は普通そのもの。生徒達は険しい顔で入ってきた上条もステイルも気にせずに——
 ——おかしい。上条は思考する。見た目一般的な学生である上条(じぶん)ならともかく、あからさまに非常識な格好をしたステイルにさえ気を払わないなどということはありえない、と。
 学園都市にも神学系の学校がないわけではない。一つの学区にまとめられてこそいるが、確固として存在している。だが、ステイルの格好は神学生のそれでもないのだ。寧ろ神を蔑ろにしているかのような印象を受ける。実際は違うのだろうが。
 そんなステイルのコトを塾生の誰もが気にしない、というのはどうしたところで異常としか言いようがない。
 上条は嫌悪した。誰も自分の存在に気づかないこの状況を。
 それは、まるで“上条当麻などという人物は存在しないのだ”と言われているようで。
 ——酷く、
「——気に、入らないな」
 がしゃんがしゃんと音がした。
「——ああ、気に入らないね」
 がしゃんがしゃんと音がした。


 表と裏。魔女狩りの王と同じくコアがあるタイプの魔術。位相をずらし通り抜けさせるわけでもなく、一方的にこちらが弾かれるだけの干渉不可。それはもう攻撃ではないだろうか。コアを見つけなければ魔術師だろうと幻想殺しだろうと解除は不可能。そんな高機能を抱えているくせに、ステイルは然程驚いているようには見えない。上条は何よりもそのことに戦慄した。
 一定のレベルに達した魔術師であれば、この程度のコトは然るべき手順を踏めばできてしまう、ということなのだろうか。
 常人が金銭を対価に武装を購入するのと同様に。
 常人にはある制約——法による規制など——は、魔術師にはない、或いは常人を縛るそれとは比べ物にならないほど軽いものなのだろうか。
 ——考えても仕方ないコト。上条は無駄な思考を戒める。
 今は『上条当麻』ですらない。最善を模索する機械であればいいのだ。
 きりきりと螺子を巻く。


 がしゃんがしゃんと音がした。
 音のする方向にステイルが歩いていき、ようやく上条は“それ”を見た。
 特に感慨は湧かなかった。上条はただ、赤黒い液体を撒き散らしている戦闘者の残骸を観察した。
 圧壊しているそれは、まるで桁違いの力に叩き潰されたかのようで——
 ステイルが、十字を切った。


 十字を切る。それはキリスト教において大きな意味を持つ、極めて象徴的な行為だ。
 魔術師は詠唱し、或いは特定の動作を取り、特定の道具を使うことで魔術を発動するらしい。
 ——ならば、外敵の『十字を切る』という動作を感知し発動する魔術、というものはありうるのだろうか?
 その答えがステイルを押し潰すのを防ぐため、上条は不本意ながらステイルを抱き寄せた。
 瞬間、転がっていた残骸は完全に損壊した。
 息をつく間もなく、ぞわり、と悪寒がする。
 上条は無駄を承知で跳んだ。炎が掠ったかのような灼熱感。
 足元にぽたぽたと血が垂れる。
 ステイルを降ろし、改めて上条は“それら”を見る。
「——結「果は未来、未来」は「「時間、時間は一律」———」——」
 無表情で淡々と詠唱する、たくさんの姫神。
 ——何だ、それは。

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