交差する乙女心 -Valentine_Day-』
二月十四日。
この日には様々な呼び名があるのは誰もが分かっていることだろう。
バレンタイン・デー。
セントバレンタインデー。
聖バレンティヌス記念日。
恋人達の愛の誓いの日。
製菓会社の陰謀の日―――。
もちろん、この風習は学園都市でも広まっている。
最先端科学マンセーな現実的(アンチオカルト)の街でも幻想に入り浸ることくらいはあるのだ。
よって、この日(と前日あたり)の学園都市のチョコレート及び菓子類の需要率は急激に上昇する。
今頃街の各地ではラブコメ漫画で見るような桃色空間が出来上がっていることだろう。
「……」
そんな中、平凡な高校生・上条当麻は教室の窓から外を眺めていた。
今は昼休み。
大半の学生が食堂などで昼飯を貪っている時間帯だ。
しかし上条は自分の席で一人ポツンと座っている。
別に彼は弁当を持ってきてもう食べた、とかではなく、“不幸にも”食べ物にありつくだけのお金がなかったのだ。
上条は思う。
おかしい。
これはどう考えてもおかしい。
昨日の夕方までは、財布にはしっかりと四桁単位のお金を入っていたはずだった。
重量の異変に気付かなかったのは札がほとんどだったからか。
だがおかしいものはおかしい。
何故に一晩で数千円のお金が消し飛んでいるのか。
お陰で飯はおろかジュース一本すら買えない。
……腹減った。
空腹を音で訴えようとする自分の胃袋を宥めながら、上条は教室を見渡してみた。
彼以外にも教室で飯を食わずに色々な事をやっている人々がいるが、その連中は既に食べ終わった勝ち組だ。
上条のような負け組はこの教室にはいない。
はぁー……、と彼は溜め息を付くと、
「……あー、チョコが欲しい」
直後、側頭部に裏拳が飛来した。
ゴキィッ!! と壮絶な音を立てて上条当麻の頭が九〇度横に倒れる。
拳を放ったのはクラスメイトの土御門元春だった。
「……テメェ、今度オレの前でそんな言葉吐いたらこれだけじゃ済まさねえぜよ」
「げ……ぶ……っ、クソ。不意打ちは卑怯……」
拳を固く握り締める土御門に上条は打たれた側頭部を押さえながら抗議する。
が、土御門は何を仰いますやら、といった風に、
「はっ、『背中刺す刃』ことカミカゼ特攻隊部隊長・土御門さんに卑怯、とな? チッチッチッ、卑怯と嘘の塊のオレにそんな言葉は届かないぜい」
「学園生活(プライベート)に仕事は持ち込まないんじゃなかったのかよ……。それより、お前さっきまで食堂でサバイバルやってなかったっけ?」
「もうやってきたんだにゃー。んで、得た戦利品はサンドウィッチ一個。こんなもん腹の足しにもなんないぜい」
そう言うと、土御門は手に持っていた戦利品を上条に見せる。
戦争状態の中で無事に持って帰る事ができたのか綺麗なままの食料(サンドウィッチ)に、上条の喉がゴクリと鳴る。
「……ああ、そういえばカミやん、金持ってきてなくてジュースすらも買えないんだっけ」
「いんや大丈夫。お前が俺に汗水流して手に入れた食料をあげるなんてステキイベント期待してないから」
「カミやんは親友を信じることができないのかにゃー。……そうだにゃー、土御門さんと賭けをして勝ったらあげてもいいぜい」
「ホントか? 嘘じゃねーだろうな!?」
「嘘じゃない嘘じゃない。その代わり賭けに勝ったら、だぜい?」
「おっしゃあ、ドンと来い! 今の上条さんならどんな賭けにでも勝てる気がするぜ!!」
ア○パ○マ○よろしく元気一〇〇倍、上条当麻。
それを聞いた土御門はニヤリ、と上品とは言えない笑みを浮かべ、
賭けの内容を発表した。
この日には様々な呼び名があるのは誰もが分かっていることだろう。
バレンタイン・デー。
セントバレンタインデー。
聖バレンティヌス記念日。
恋人達の愛の誓いの日。
製菓会社の陰謀の日―――。
もちろん、この風習は学園都市でも広まっている。
最先端科学マンセーな現実的(アンチオカルト)の街でも幻想に入り浸ることくらいはあるのだ。
よって、この日(と前日あたり)の学園都市のチョコレート及び菓子類の需要率は急激に上昇する。
今頃街の各地ではラブコメ漫画で見るような桃色空間が出来上がっていることだろう。
「……」
そんな中、平凡な高校生・上条当麻は教室の窓から外を眺めていた。
今は昼休み。
大半の学生が食堂などで昼飯を貪っている時間帯だ。
しかし上条は自分の席で一人ポツンと座っている。
別に彼は弁当を持ってきてもう食べた、とかではなく、“不幸にも”食べ物にありつくだけのお金がなかったのだ。
上条は思う。
おかしい。
これはどう考えてもおかしい。
昨日の夕方までは、財布にはしっかりと四桁単位のお金を入っていたはずだった。
重量の異変に気付かなかったのは札がほとんどだったからか。
だがおかしいものはおかしい。
何故に一晩で数千円のお金が消し飛んでいるのか。
お陰で飯はおろかジュース一本すら買えない。
……腹減った。
空腹を音で訴えようとする自分の胃袋を宥めながら、上条は教室を見渡してみた。
彼以外にも教室で飯を食わずに色々な事をやっている人々がいるが、その連中は既に食べ終わった勝ち組だ。
上条のような負け組はこの教室にはいない。
はぁー……、と彼は溜め息を付くと、
「……あー、チョコが欲しい」
直後、側頭部に裏拳が飛来した。
ゴキィッ!! と壮絶な音を立てて上条当麻の頭が九〇度横に倒れる。
拳を放ったのはクラスメイトの土御門元春だった。
「……テメェ、今度オレの前でそんな言葉吐いたらこれだけじゃ済まさねえぜよ」
「げ……ぶ……っ、クソ。不意打ちは卑怯……」
拳を固く握り締める土御門に上条は打たれた側頭部を押さえながら抗議する。
が、土御門は何を仰いますやら、といった風に、
「はっ、『背中刺す刃』ことカミカゼ特攻隊部隊長・土御門さんに卑怯、とな? チッチッチッ、卑怯と嘘の塊のオレにそんな言葉は届かないぜい」
「学園生活(プライベート)に仕事は持ち込まないんじゃなかったのかよ……。それより、お前さっきまで食堂でサバイバルやってなかったっけ?」
「もうやってきたんだにゃー。んで、得た戦利品はサンドウィッチ一個。こんなもん腹の足しにもなんないぜい」
そう言うと、土御門は手に持っていた戦利品を上条に見せる。
戦争状態の中で無事に持って帰る事ができたのか綺麗なままの食料(サンドウィッチ)に、上条の喉がゴクリと鳴る。
「……ああ、そういえばカミやん、金持ってきてなくてジュースすらも買えないんだっけ」
「いんや大丈夫。お前が俺に汗水流して手に入れた食料をあげるなんてステキイベント期待してないから」
「カミやんは親友を信じることができないのかにゃー。……そうだにゃー、土御門さんと賭けをして勝ったらあげてもいいぜい」
「ホントか? 嘘じゃねーだろうな!?」
「嘘じゃない嘘じゃない。その代わり賭けに勝ったら、だぜい?」
「おっしゃあ、ドンと来い! 今の上条さんならどんな賭けにでも勝てる気がするぜ!!」
ア○パ○マ○よろしく元気一〇〇倍、上条当麻。
それを聞いた土御門はニヤリ、と上品とは言えない笑みを浮かべ、
賭けの内容を発表した。
「今日一日カミやんがチョコ及び菓子全般を一個たりとも貰わなければこのサンドウィッチはくれてやるぜい!! プラスアルファで義妹から貰ったこのチョコも!!」
土御門の黒人差別撤廃ボイコットじみた早口宣言に周囲の喧騒がピタリと止まる。
そして、何かを言いたそうな視線が主に土御門に集中する。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
暫く辺りを静粛が支配していたが、スライド式のドアの開閉音がそれを破った。
ずばーん!! とわざとらしい音を立てて教室に入ってきたのは青髪ピアス。
「その賭け、ボクも乗ったでぇーッ!!」
彼の体は戦争から帰還した兵士を思わせるくらいボロボロになっており、手に何も持っていないところを見ると戦いには負けてきたようだ。
この高校の食堂の席は全校生徒分ある訳ではなく、戦争が始まると同時に満席になるので、得た食料は主にお持ち帰りが基本となっている(例:土御門のサンドウィッチなど)。
昼休み開始から暫くしか経っていないのに彼が食堂で食べてくるのは理論上無理なのでそう考える方が妥当だ。
青髪ピアスは上条と土御門のいる場所へと強歩で進んでくると、
「カミやんがチョコを貰わなかったらボクにも分け前や! サンドでもチョコでもどっちでもええ、分けろ!!」
ずびしっ、と土御門を指差しながら恐喝気味に叫ぶ青髪ピアスに上条は、
「はぁ? 中途参加者が贅沢いってんじゃねーよ両方とも俺のモンだ」
「なんやとー!? 分け前くれるのはこっちやお前やない!!」
「おう、いいぜい二人とも。カミやんにはサンド、そっちはチョコでどうだにゃー?」
「オイ、いいのかよ! 畜生割り込み禁止ー!!」
「HAHAHAHA、支配人(マスター)がそう言うんやどう言ったって無駄無駄ぁー」
ぽかぽかと無駄にエネルギーを消費する二人を尻目に土御門は思う。
(アホだぜい、こいつら。“今日一日”ってあと何時間あると思ってるんだにゃー。しかも気付いてないし)
くっくっく、と影で不敵な笑みを浮かべる策士・土御門元春。
ちなみに周囲の人は、言うと土御門が可哀想だったので黙っておくことにしたらしい。
そしてこの時を境に、上条当麻の不幸な(本格的な)バレンタインデーは幕を開けた。
そして、何かを言いたそうな視線が主に土御門に集中する。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
暫く辺りを静粛が支配していたが、スライド式のドアの開閉音がそれを破った。
ずばーん!! とわざとらしい音を立てて教室に入ってきたのは青髪ピアス。
「その賭け、ボクも乗ったでぇーッ!!」
彼の体は戦争から帰還した兵士を思わせるくらいボロボロになっており、手に何も持っていないところを見ると戦いには負けてきたようだ。
この高校の食堂の席は全校生徒分ある訳ではなく、戦争が始まると同時に満席になるので、得た食料は主にお持ち帰りが基本となっている(例:土御門のサンドウィッチなど)。
昼休み開始から暫くしか経っていないのに彼が食堂で食べてくるのは理論上無理なのでそう考える方が妥当だ。
青髪ピアスは上条と土御門のいる場所へと強歩で進んでくると、
「カミやんがチョコを貰わなかったらボクにも分け前や! サンドでもチョコでもどっちでもええ、分けろ!!」
ずびしっ、と土御門を指差しながら恐喝気味に叫ぶ青髪ピアスに上条は、
「はぁ? 中途参加者が贅沢いってんじゃねーよ両方とも俺のモンだ」
「なんやとー!? 分け前くれるのはこっちやお前やない!!」
「おう、いいぜい二人とも。カミやんにはサンド、そっちはチョコでどうだにゃー?」
「オイ、いいのかよ! 畜生割り込み禁止ー!!」
「HAHAHAHA、支配人(マスター)がそう言うんやどう言ったって無駄無駄ぁー」
ぽかぽかと無駄にエネルギーを消費する二人を尻目に土御門は思う。
(アホだぜい、こいつら。“今日一日”ってあと何時間あると思ってるんだにゃー。しかも気付いてないし)
くっくっく、と影で不敵な笑みを浮かべる策士・土御門元春。
ちなみに周囲の人は、言うと土御門が可哀想だったので黙っておくことにしたらしい。
そしてこの時を境に、上条当麻の不幸な(本格的な)バレンタインデーは幕を開けた。