『題不明』
P.M 6:30
東京西部を一大開発した超能力開発機構である学園都市。
住人の八割が学生で占められているこの街は、当然、夜ともなれば夜遊びを控えさせるための措置が取ら
れる為に人影が一気に減る。
そんな人気の無い道路を一人の少年が歩いていた。
ただし、その足取りは覚束無げで、右に左にふらふらと揺れ、今にも倒れそうである。
よく見ればその身体はボロボロであり着ている服も何だか妙にくたびれている。
「ったくありえねえんだよこちとら朝の6時前からぶっ続けで動き回されてようやく帰ってこられたのが夜って
のはどういうわけなんだよコンチクショウ」
黄昏た顔でブツブツと呟いているのは上条当麻、この街で“無能力者”という認定を受けた学生の一人、但
し右手に少々特殊な事情が備わっている人物だ。
疲労困憊で歩いている彼だが、独白しているように今日一日は大変な働きをしたのである。
掻い摘んで言うと午前五時四十分に学園都市を襲撃しに来た魔術師に始まり、果ては世界中を巻き込んで
同時多発的に発生した複数の騒動を文字通り世界を飛び回って解決させられて、ようやく帰宅しようとしてい
る所である。
(具体的に言おうとすると怖いおじさん達がやって来てしまうので明言は割愛する。というかあれだ、どうして
も知りたい人は“暦”を読んでみなさいとぶっちゃけてみる。だが決して何があったか全貌は知る事は出来な
いし自分はMWの廻し者ではないので過度の期待はしないなどそこの所はよろしく。)
東京西部を一大開発した超能力開発機構である学園都市。
住人の八割が学生で占められているこの街は、当然、夜ともなれば夜遊びを控えさせるための措置が取ら
れる為に人影が一気に減る。
そんな人気の無い道路を一人の少年が歩いていた。
ただし、その足取りは覚束無げで、右に左にふらふらと揺れ、今にも倒れそうである。
よく見ればその身体はボロボロであり着ている服も何だか妙にくたびれている。
「ったくありえねえんだよこちとら朝の6時前からぶっ続けで動き回されてようやく帰ってこられたのが夜って
のはどういうわけなんだよコンチクショウ」
黄昏た顔でブツブツと呟いているのは上条当麻、この街で“無能力者”という認定を受けた学生の一人、但
し右手に少々特殊な事情が備わっている人物だ。
疲労困憊で歩いている彼だが、独白しているように今日一日は大変な働きをしたのである。
掻い摘んで言うと午前五時四十分に学園都市を襲撃しに来た魔術師に始まり、果ては世界中を巻き込んで
同時多発的に発生した複数の騒動を文字通り世界を飛び回って解決させられて、ようやく帰宅しようとしてい
る所である。
(具体的に言おうとすると怖いおじさん達がやって来てしまうので明言は割愛する。というかあれだ、どうして
も知りたい人は“暦”を読んでみなさいとぶっちゃけてみる。だが決して何があったか全貌は知る事は出来な
いし自分はMWの廻し者ではないので過度の期待はしないなどそこの所はよろしく。)
どうにかこうにか学園都市に帰ってこれた上条だが、我が家となっている学生寮まではもうしばらく歩いてい
かないと辿り着けない。
その距離を考えて足が止まりそうになるが、今ここで止まってしまえばへたり込んでしまい道路だろうとその
まま寝てしまいそうになるので何とか歩き続けている。
だが、もう本当に体力の限界、これ以上はどうしても無理、と判断した上条は目に留まったベンチまでなんと
か足を動かし、疲れた身体をドッカとベンチに投げ出し、背もたれにもたれ掛かる。
(あーだめだこのままじゃ寝てきそうだこのまま寝るとマズイよなそういえばインデックスは一日中放ったらか
しだったけど大丈夫だったかなでもダメだもう動けそうにねえほんのすこしだけやすんでもいいかやすんだら
ちゃんとりょうにかえるからそうしちま…おう……か……)
しっかりと繋ぎ止めているつもりの意識が睡魔に負け、やがて暗闇に入り込もうとしていたそのとき、
かないと辿り着けない。
その距離を考えて足が止まりそうになるが、今ここで止まってしまえばへたり込んでしまい道路だろうとその
まま寝てしまいそうになるので何とか歩き続けている。
だが、もう本当に体力の限界、これ以上はどうしても無理、と判断した上条は目に留まったベンチまでなんと
か足を動かし、疲れた身体をドッカとベンチに投げ出し、背もたれにもたれ掛かる。
(あーだめだこのままじゃ寝てきそうだこのまま寝るとマズイよなそういえばインデックスは一日中放ったらか
しだったけど大丈夫だったかなでもダメだもう動けそうにねえほんのすこしだけやすんでもいいかやすんだら
ちゃんとりょうにかえるからそうしちま…おう……か……)
しっかりと繋ぎ止めているつもりの意識が睡魔に負け、やがて暗闇に入り込もうとしていたそのとき、
「上条君。そんな所で寝ると風邪引いちゃうよ?」
そんな声を掛けられた。
重い瞼をどうにか上げ、胡乱な視線を向けるとそこに立っていたのはクラスメイトの姫神秋沙が立っていた。
「どう………。……か…………て……………けど?」
それが自分に対して掛けられたものだと気付くまでに数秒、ボーっとする頭でなんと言ってきたのか尋ねる。
「どうしたの。何だかひどく疲れてるみたいだけど?」
「あー、わりぃ、ちょっと色々あり過ぎたんだけど今は言えないから勘弁してくれないかな」
その言葉を受けた姫神は、しかし、内心を表に出さずその表情を変えることなく語る。
「うん。上条君が。わたしに言いたくないんだったら。いい」
別に上条としては姫神を邪険に扱った訳ではなく、ただ疲労からくる睡魔の為に長くなる説明をする気力が
起きなかっただけなのだが、さすがに今の言い方は悪かったかと思い、言い直そうとする。
「あー、その、姫神……」
「上条君は。昨日。大きな騒ぎがあった後。姿が見えなくて。今日も学校を休んでたから。少し心配だったの」
上条が話すよりも先にポツポツと語る姫神。
「昨日は。バタバタしてて。色々考えてたけど上手く出来なくて。今日も一日会えなかったけど。小萌先生の
用事で学校に残ってたら。最後にこうやって上条君と会えたから。居残りしたら良い事もあるんだね」
ほんの少しの変化、僅かに穏やかな表情を見せる姫神だが、グロッキーでヘタばっている上条はそれに気
が付かない。
「あー、居残りなんかさせられたのかよ。大変だったなー」
聞き様によってはおざなりとも取られる返事。
姫神は少し寂しげにしながらも、続ける。
「本当に。大丈夫?」
その言葉、どうやら自分を気に掛けてくれてるようだと気付いた上条は、一つ頼んでみる事にした。
「ごめん姫神。ちょっとでいいから休んでいい? 朝の騒ぎから今日は一日中バタバタしてて体がもたねえ
んだわ。姫神が帰るときに起こしてくれればいいから」
言うが早いか瞼を閉じ、そのまま意識を落としていく上条。
「あ……」
姫神が答える間も無く、寝息を立て始める。
それを見た姫神は、珍しくそれと分かるくらいに肩を落とすと呟いた。
「女の子と話してるときに。目の前で勝手に寝てしまうなんて。上条君の。馬鹿」
「どう………。……か…………て……………けど?」
それが自分に対して掛けられたものだと気付くまでに数秒、ボーっとする頭でなんと言ってきたのか尋ねる。
「どうしたの。何だかひどく疲れてるみたいだけど?」
「あー、わりぃ、ちょっと色々あり過ぎたんだけど今は言えないから勘弁してくれないかな」
その言葉を受けた姫神は、しかし、内心を表に出さずその表情を変えることなく語る。
「うん。上条君が。わたしに言いたくないんだったら。いい」
別に上条としては姫神を邪険に扱った訳ではなく、ただ疲労からくる睡魔の為に長くなる説明をする気力が
起きなかっただけなのだが、さすがに今の言い方は悪かったかと思い、言い直そうとする。
「あー、その、姫神……」
「上条君は。昨日。大きな騒ぎがあった後。姿が見えなくて。今日も学校を休んでたから。少し心配だったの」
上条が話すよりも先にポツポツと語る姫神。
「昨日は。バタバタしてて。色々考えてたけど上手く出来なくて。今日も一日会えなかったけど。小萌先生の
用事で学校に残ってたら。最後にこうやって上条君と会えたから。居残りしたら良い事もあるんだね」
ほんの少しの変化、僅かに穏やかな表情を見せる姫神だが、グロッキーでヘタばっている上条はそれに気
が付かない。
「あー、居残りなんかさせられたのかよ。大変だったなー」
聞き様によってはおざなりとも取られる返事。
姫神は少し寂しげにしながらも、続ける。
「本当に。大丈夫?」
その言葉、どうやら自分を気に掛けてくれてるようだと気付いた上条は、一つ頼んでみる事にした。
「ごめん姫神。ちょっとでいいから休んでいい? 朝の騒ぎから今日は一日中バタバタしてて体がもたねえ
んだわ。姫神が帰るときに起こしてくれればいいから」
言うが早いか瞼を閉じ、そのまま意識を落としていく上条。
「あ……」
姫神が答える間も無く、寝息を立て始める。
それを見た姫神は、珍しくそれと分かるくらいに肩を落とすと呟いた。
「女の子と話してるときに。目の前で勝手に寝てしまうなんて。上条君の。馬鹿」
「やっぱり。わたしは。女の子としては。見てもらえていないのかな?」
しばらくして、上条の隣に座った姫神は先程の事を考えながら思わず突いて出た言葉に苦笑する。
「無理も。ないのかもね」
思考が悪い方向へ転がっていこうとしたとき、トサッ、という音とともに姫神の肩に重みが加わる。
視線をやれば、寝入った上条がこちらの方に倒れこんできていた。
無表情のまま数秒それを見ていた姫神だが、おずおずと手を伸ばすと元のように座らせようとする。
だが、女子生徒の腕力、ましてや片腕に頭が乗っているという不利な体勢の為に上手くいかない。
しばらく悪戦苦闘していたが、どうやら無理のようだと判断した姫神は、さらに数秒何事かを考える。
そして、やにわ手を伸ばすと上条の頭を遠ざけるのではなくさらに引き寄せた。
そのまま下に下ろすと自分の膝の上に静かに乗せる。
そうして、上条がまだ目を覚まさないでいる事を確認すると、大きく息を吐き出す。
どうやらかなり緊張していたらしい。
しばらくして、上条の隣に座った姫神は先程の事を考えながら思わず突いて出た言葉に苦笑する。
「無理も。ないのかもね」
思考が悪い方向へ転がっていこうとしたとき、トサッ、という音とともに姫神の肩に重みが加わる。
視線をやれば、寝入った上条がこちらの方に倒れこんできていた。
無表情のまま数秒それを見ていた姫神だが、おずおずと手を伸ばすと元のように座らせようとする。
だが、女子生徒の腕力、ましてや片腕に頭が乗っているという不利な体勢の為に上手くいかない。
しばらく悪戦苦闘していたが、どうやら無理のようだと判断した姫神は、さらに数秒何事かを考える。
そして、やにわ手を伸ばすと上条の頭を遠ざけるのではなくさらに引き寄せた。
そのまま下に下ろすと自分の膝の上に静かに乗せる。
そうして、上条がまだ目を覚まさないでいる事を確認すると、大きく息を吐き出す。
どうやらかなり緊張していたらしい。
さらに時間が経つと、上条の頭を優しく撫でながら座っている姫神の姿があった。
「一日遅れたけど。これはこれで。プレゼントになるのかな?」
夜目にもそれと分かるくらいに顔を紅くしながらも幸せそうな顔でいるその珍しい姿は、さらにしばらくして上
条が自分で目を覚まして飛び起きるまで続いた。
飛び起きた上条は自分が膝枕をさせていた事をしきりにあやまっていたが、当の姫神が何となく嬉しそうに
しながら『気にする事は無い』と言ってくれたので首を傾げながらも一安心して寮へと急いで行く。
対する姫神もポカポカと火照った体と同じくらい温かい気持ちのまま帰宅していった。
「一日遅れたけど。これはこれで。プレゼントになるのかな?」
夜目にもそれと分かるくらいに顔を紅くしながらも幸せそうな顔でいるその珍しい姿は、さらにしばらくして上
条が自分で目を覚まして飛び起きるまで続いた。
飛び起きた上条は自分が膝枕をさせていた事をしきりにあやまっていたが、当の姫神が何となく嬉しそうに
しながら『気にする事は無い』と言ってくれたので首を傾げながらも一安心して寮へと急いで行く。
対する姫神もポカポカと火照った体と同じくらい温かい気持ちのまま帰宅していった。
さて、温かく終わってもいいのだが、上条当麻の生活はそうはいかないようである。
世界中を回って問題を解決してきた上条は地球を西回り(西に向けて進む)で一周してきた。
つまり、上条にとっては二月十四日の午前五時四十分に始まって今ようやく終わろうとしている一日も、学
園都市に居たままの人物にとってはすでに二日が経過しているのであった。
それに気が付かない上条は、自ら何の備えもせずに二日間食事の準備を一切しなかった飢えた同居人の
居る部屋のドアを開けようとしていた……。
世界中を回って問題を解決してきた上条は地球を西回り(西に向けて進む)で一周してきた。
つまり、上条にとっては二月十四日の午前五時四十分に始まって今ようやく終わろうとしている一日も、学
園都市に居たままの人物にとってはすでに二日が経過しているのであった。
それに気が付かない上条は、自ら何の備えもせずに二日間食事の準備を一切しなかった飢えた同居人の
居る部屋のドアを開けようとしていた……。
「とうま! 二日も私を放っておいてどこ行ってたの!!」
「なにふざけた事言ってやがんだこちとら一日中世界を飛び回させられたんだから訳分かんないこと言って
んじゃねぇ!」
「とうまの方こそふざけないで! 今日は二月の十五日、それももう終わるんだよ! 二日の間どこで何をし
てたのかきっちり説明して欲しいかも!」
「はあ!? 今日が二月十五日でそれも終わるってんなら俺の二月十五日はどこいったんだよ!?」
「なにふざけた事言ってやがんだこちとら一日中世界を飛び回させられたんだから訳分かんないこと言って
んじゃねぇ!」
「とうまの方こそふざけないで! 今日は二月の十五日、それももう終わるんだよ! 二日の間どこで何をし
てたのかきっちり説明して欲しいかも!」
「はあ!? 今日が二月十五日でそれも終わるってんなら俺の二月十五日はどこいったんだよ!?」
「そ ん な の 知 ら な い も ん !!!」
日がとっぷりと暮れた学生寮の一室からくぐもった音と世にも哀れな悲鳴が聞こえてくるのはそのすぐ後であった。