ホワイトデー企画
とある炎の『純白返礼』(ホワイトリフレクション)
とある炎の『純白返礼』(ホワイトリフレクション)
[1]夕暮れ時の再会
思えば切欠は些細なことだった。
学園都市に溢れる不良達。
彼らが喫煙、飲酒、暴行などの行為を行なうことはもはや日常茶飯事。
だからこそ彼らを取り締まる警察なり警備員(アンチスキル)なり風紀委員(ジャッジメント)なりがいるのだ。
この場合も大人しく通報すればこのような事態にはならなかっただろう。 多分。
(ファミレスに食事に来ただけだったと言うのに)
店の前にたむろしている不良の少年達がタバコをポイ捨てするのを見つけて説教をかます。
彼女の連れはそんな熱血教師だった。
いい先生だとは思う。
だからこそ、いまだに不良達に説教をかます担任の教師をいかにして連れ出すべきかと姫神秋沙は首を捻った。
「まったく。正義感が強いのも困りもの」
誰に言うでもなく一人呟く。
「姫神ちゃんも言ってあげてください! 未成年者の喫煙は成長に様々な弊害を及ぼすのですよ!」
それ、先生が言っても説得力ない――、と思ったが不良達は口々に
「おうおう、ちびっ子がいきがってくれちゃってYO」
「締めちゃう?絞めちゃう?」
「拉致っちまうか?」
「おいおい、やばくネそれ?」
「関係ないっしょ、やっちまえ」
などと頭の悪そうな事を言っている。
不穏な発言が増えてきたし、そろそろ潮時だとばかりに
「小萌。ひとまず退却」
とちびっ子先生の手を引いて一目散に不良達から姫神は逃走を開始。
そうなると当然相手も追いかけてくるわけで、現在に至るわけだ。
以上説明終わり。
「姫神ちゃん、まだ先生のお話は終わってなかったのですよ、あの子達には喫煙を止めさせないといけないのですよー」
「小萌。馬の耳に念仏って言葉知ってる?」
ちびっ子先生は「姫神ちゃんは先生を馬鹿にしてるのですねー!?」と走りながら器用に怒り路地裏を駆け抜ける。
両手を振り上げて猛然と抗議しつつ後ろに向かって「タバコは20歳になってから!!」と大声で呼びかける。
彼らは彼らで全力で追いかけてくるが狭い通路に置かれたポリバケツなどの障害物にぶつかり一人、また一人と姿を消して行く。
こちらは細身の女の子と更に小柄な女性の2人、するりと抜けて距離を離す。
「姫神ちゃん、行き止まりなんですよー」
残念、狭い路地の終点は緑色のフェンスに遮られた袋小路になっていた。
少し考えてから黒い髪を翻して垂直にジャンプして緑のフェンスをよじ登る。
「くっ……」
ガシャンガシャンと路地裏に騒音が鳴る。
なんとか上りきって下に居るちびっこ先生へと手を差し伸べる。
「小萌。引き上げるから」
そこでハッと顔を上げ、少女は何者かに蹴り飛ばされフェンスから転げ落ちてしまった。
「ハッ、舐めたことしてくれんじゃねぇか」
痛む体を無理やり起こしてフェンスの頂点を見れば、夕日を背にフェンスの上に立つ金髪の革ジャン男が一人。
「あんまりナメタことしてっと大火傷する羽目になんだよ」
捻くれた視線を眼下に向けやはり捻くれたような口調で言う。
どうやら、脱落したと思っていた不良達は援軍でも呼んで先回りしていたのだろう、姫神の後ろの路地から不良達が顔を出す。
フェンスの向こうから先生が心配そうな顔で呼びかけてきた。
「姫神ちゃん!!大丈夫なのですか!」
大丈夫じゃないけど、親指を立てて彼女は応えた。
(これは最悪、せめて小萌だけでも……)
少女の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。
きっとこんなピンチの場面に颯爽と現れてくれるのは本の物語の中だけなんだろうけど、とその姿を打ち消した。
「へへへ、ボスはな強能力者(レベル3)の発火能力者なんだぜ、こんがり小麦色に焼いてもらうんだな」
どうやらフェンスの上の革ジャン男は不良の元締めらしい。 どうでもいいけど。
「ボス、こっちのちびがきが俺たちに説教してきたんでさぁ、あっちからお仕置きしてやりましょうや」
途端、夕日の赤に混じって斎条と呼ばれた男の右手に紅蓮の炎が宿った。
「小萌ッ!!」
もはや痛みなんて関係ない、なんとかして男を止めないと、とフェンスに駆け寄り声を張り上げる姫神。
「ぼ、暴力はいけないのですよッきゃああああああ――」
革ジャン男が腕を振るうと炎もそれに伴って燃焼範囲を広げ大きな渦になり狭い路地裏は赤一色に染まった。
「小萌ぇぇッ!!」
少女の声がビルの狭間に悲しく反響し、
「フン、この程度で炎だと? 片腹痛いとはこの事だね」
灼熱の炎の中から小馬鹿にしたような口調の言葉が返ってきた。
学園都市に溢れる不良達。
彼らが喫煙、飲酒、暴行などの行為を行なうことはもはや日常茶飯事。
だからこそ彼らを取り締まる警察なり警備員(アンチスキル)なり風紀委員(ジャッジメント)なりがいるのだ。
この場合も大人しく通報すればこのような事態にはならなかっただろう。 多分。
(ファミレスに食事に来ただけだったと言うのに)
店の前にたむろしている不良の少年達がタバコをポイ捨てするのを見つけて説教をかます。
彼女の連れはそんな熱血教師だった。
いい先生だとは思う。
だからこそ、いまだに不良達に説教をかます担任の教師をいかにして連れ出すべきかと姫神秋沙は首を捻った。
「まったく。正義感が強いのも困りもの」
誰に言うでもなく一人呟く。
「姫神ちゃんも言ってあげてください! 未成年者の喫煙は成長に様々な弊害を及ぼすのですよ!」
それ、先生が言っても説得力ない――、と思ったが不良達は口々に
「おうおう、ちびっ子がいきがってくれちゃってYO」
「締めちゃう?絞めちゃう?」
「拉致っちまうか?」
「おいおい、やばくネそれ?」
「関係ないっしょ、やっちまえ」
などと頭の悪そうな事を言っている。
不穏な発言が増えてきたし、そろそろ潮時だとばかりに
「小萌。ひとまず退却」
とちびっ子先生の手を引いて一目散に不良達から姫神は逃走を開始。
そうなると当然相手も追いかけてくるわけで、現在に至るわけだ。
以上説明終わり。
「姫神ちゃん、まだ先生のお話は終わってなかったのですよ、あの子達には喫煙を止めさせないといけないのですよー」
「小萌。馬の耳に念仏って言葉知ってる?」
ちびっ子先生は「姫神ちゃんは先生を馬鹿にしてるのですねー!?」と走りながら器用に怒り路地裏を駆け抜ける。
両手を振り上げて猛然と抗議しつつ後ろに向かって「タバコは20歳になってから!!」と大声で呼びかける。
彼らは彼らで全力で追いかけてくるが狭い通路に置かれたポリバケツなどの障害物にぶつかり一人、また一人と姿を消して行く。
こちらは細身の女の子と更に小柄な女性の2人、するりと抜けて距離を離す。
「姫神ちゃん、行き止まりなんですよー」
残念、狭い路地の終点は緑色のフェンスに遮られた袋小路になっていた。
少し考えてから黒い髪を翻して垂直にジャンプして緑のフェンスをよじ登る。
「くっ……」
ガシャンガシャンと路地裏に騒音が鳴る。
なんとか上りきって下に居るちびっこ先生へと手を差し伸べる。
「小萌。引き上げるから」
そこでハッと顔を上げ、少女は何者かに蹴り飛ばされフェンスから転げ落ちてしまった。
「ハッ、舐めたことしてくれんじゃねぇか」
痛む体を無理やり起こしてフェンスの頂点を見れば、夕日を背にフェンスの上に立つ金髪の革ジャン男が一人。
「あんまりナメタことしてっと大火傷する羽目になんだよ」
捻くれた視線を眼下に向けやはり捻くれたような口調で言う。
どうやら、脱落したと思っていた不良達は援軍でも呼んで先回りしていたのだろう、姫神の後ろの路地から不良達が顔を出す。
フェンスの向こうから先生が心配そうな顔で呼びかけてきた。
「姫神ちゃん!!大丈夫なのですか!」
大丈夫じゃないけど、親指を立てて彼女は応えた。
(これは最悪、せめて小萌だけでも……)
少女の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。
きっとこんなピンチの場面に颯爽と現れてくれるのは本の物語の中だけなんだろうけど、とその姿を打ち消した。
「へへへ、ボスはな強能力者(レベル3)の発火能力者なんだぜ、こんがり小麦色に焼いてもらうんだな」
どうやらフェンスの上の革ジャン男は不良の元締めらしい。 どうでもいいけど。
「ボス、こっちのちびがきが俺たちに説教してきたんでさぁ、あっちからお仕置きしてやりましょうや」
途端、夕日の赤に混じって斎条と呼ばれた男の右手に紅蓮の炎が宿った。
「小萌ッ!!」
もはや痛みなんて関係ない、なんとかして男を止めないと、とフェンスに駆け寄り声を張り上げる姫神。
「ぼ、暴力はいけないのですよッきゃああああああ――」
革ジャン男が腕を振るうと炎もそれに伴って燃焼範囲を広げ大きな渦になり狭い路地裏は赤一色に染まった。
「小萌ぇぇッ!!」
少女の声がビルの狭間に悲しく反響し、
「フン、この程度で炎だと? 片腹痛いとはこの事だね」
灼熱の炎の中から小馬鹿にしたような口調の言葉が返ってきた。
パチン――。
大きな指鳴りの音が響くと周囲に渦巻いていた炎はある人物の元へと収束しやがて指先に灯る程度の小さな火へと姿を変える。
フー、と大きく息を吐く音は何故だかよく響いてその場にいる誰もが息を呑んだ。
(この声……)
沈みかけた夕日を背に長身のシルエットから伸びる長い影が姫神の元まで伸び、その人物は口を開いた。
「ボクがわざわざイギリスくんだりから慣れない飛行機にまで乗って辺境の島国にまで足を運んだのは、この人に会うためなんだぞ?
それをこんなに手荒にされてしまっては、温和な僕もちょっと頭に来てしまうんだが」
「あ、アナタは」
とりあえず、燃えとけ――、と聞こえるはずの無い声が姫神の耳に届き、いつの間にかばら撒かれたカードが一斉に効果を発揮した。
炎、それは一面の炎だった。
夕焼けよりも紅く、そして強い。
革ジャン男が振るった迎撃の炎はあっさりと飲み込まれ更に勢いを増した炎によって自らの体を焼く。
革ジャンに燃え移った金髪の男がフェンスから飛び降りて逃げる姿を見た。
炎の明かりに照らされた赤い路地を見れば他の不良達も火にまかれて一目散に逃げ惑っている。
やがて我さきにと蜘蛛の子を散らすように居なくなってしまう。
(一応手加減してる。それに小萌と私のところだけ燃えてない)
完全に炎を制御しているのか燃え盛る紅蓮の炎は少女とちびっ子先生の周囲だけはぽっかりと空白を空けるかのように
避けて燃えていた。
夕日が更に沈み、逆光から開放された姫神の視線の先にその人物は居た。
まるでフェンスの向こうのちびっ子先生を守るように悠然と。
炎の魔術師ステイル=マグヌスは3月14日の学園都市に現れたのだった。
大きな指鳴りの音が響くと周囲に渦巻いていた炎はある人物の元へと収束しやがて指先に灯る程度の小さな火へと姿を変える。
フー、と大きく息を吐く音は何故だかよく響いてその場にいる誰もが息を呑んだ。
(この声……)
沈みかけた夕日を背に長身のシルエットから伸びる長い影が姫神の元まで伸び、その人物は口を開いた。
「ボクがわざわざイギリスくんだりから慣れない飛行機にまで乗って辺境の島国にまで足を運んだのは、この人に会うためなんだぞ?
それをこんなに手荒にされてしまっては、温和な僕もちょっと頭に来てしまうんだが」
「あ、アナタは」
とりあえず、燃えとけ――、と聞こえるはずの無い声が姫神の耳に届き、いつの間にかばら撒かれたカードが一斉に効果を発揮した。
炎、それは一面の炎だった。
夕焼けよりも紅く、そして強い。
革ジャン男が振るった迎撃の炎はあっさりと飲み込まれ更に勢いを増した炎によって自らの体を焼く。
革ジャンに燃え移った金髪の男がフェンスから飛び降りて逃げる姿を見た。
炎の明かりに照らされた赤い路地を見れば他の不良達も火にまかれて一目散に逃げ惑っている。
やがて我さきにと蜘蛛の子を散らすように居なくなってしまう。
(一応手加減してる。それに小萌と私のところだけ燃えてない)
完全に炎を制御しているのか燃え盛る紅蓮の炎は少女とちびっ子先生の周囲だけはぽっかりと空白を空けるかのように
避けて燃えていた。
夕日が更に沈み、逆光から開放された姫神の視線の先にその人物は居た。
まるでフェンスの向こうのちびっ子先生を守るように悠然と。
炎の魔術師ステイル=マグヌスは3月14日の学園都市に現れたのだった。
ここでつづく……とかありえないよね、でもつづく。