◆プロローグ ~花弁舞い散る季節に暗躍~
春。
それは生命の最も活気づく季節だ。
桜咲く並木道には幾人もの学生が歩き、談笑している。
中には喧嘩の様なものも見えるが、それもまた日々の一つだろう。
時刻は夕方。
学生ばかりの道を照らす日の光も既に落ち込み、弱々しい。
されど、街は活気づき、未だにその声を絶やす事はなさそうだ。
此処は人口の八割を学生で占める巨大都市。
一般的に超能力者と呼ばれる者達の研究、開発を主とする巨大な実験場。
しかし、道行く人々はその様な事を気にするでなく、楽しそうに歩いている。
その笑顔や笑い声は本物だ。
詰まる所、
「のんびりやねぇ」
誰かが呟くがその通り。
今日も学園都市は平和なのであった。
それは生命の最も活気づく季節だ。
桜咲く並木道には幾人もの学生が歩き、談笑している。
中には喧嘩の様なものも見えるが、それもまた日々の一つだろう。
時刻は夕方。
学生ばかりの道を照らす日の光も既に落ち込み、弱々しい。
されど、街は活気づき、未だにその声を絶やす事はなさそうだ。
此処は人口の八割を学生で占める巨大都市。
一般的に超能力者と呼ばれる者達の研究、開発を主とする巨大な実験場。
しかし、道行く人々はその様な事を気にするでなく、楽しそうに歩いている。
その笑顔や笑い声は本物だ。
詰まる所、
「のんびりやねぇ」
誰かが呟くがその通り。
今日も学園都市は平和なのであった。
○
茜色の光が差し込み照らす広い部屋。
その部屋には幾つもの棚が在り、其処に収まった多くの本が棚を彩っていた。
此処は放課後の図書館だ。
本を捲る音が響く。
それは横に二つずつ並んだ棚の奥から聞こえた。
広めに間をとられたスペース。
其処には一つの長方形のテーブルが置かれていた。
そのテーブルには現在、向かい合うようにして二つの影がある。
一人はテーブルに肘をつき頬に手を当た少女。
もう一人は上半身を投げ出しているといった体勢の男性だ。
「直人」
少女はテーブルに乗った本に片手を乗せつつ呟くように言った。
黒の長髪を頭の両側でリボンで結った髪型。
俗に言うツインテールの下には、鋭い目付きと整った顔立ちがある。
その身は青を基調としたスカートとブレザーという服装に包まれていた。
「なんだー、智」
それに応えるのは髪を短く刈った体格の良い男――直人だ。
だるそうな表情の中、やはりだるそうな目は黒の瞳が微妙に振動している。
一目瞭然。
今にも彼の意識が落ちそうな事を如実に知らせてくれた。
彼の姿はまだ寒いと言うのに何故か半袖の白Yシャツというもの。
ちなみに下は普通の学校指定のズボンだ。
見てる方まで寒くなってきた。
ともあれ、
「さっきも言ったけど。起きてた?」
「おーう、起きてたぞー」
彼は相変わらず身を投げ出したまま顔だけを動かして少女――智を見上げる。
彼女は無表情のまま彼を見下すように、
「じゃあ、さっきまで私が話してた事を言いなさい。一字一句間違わずに」
「ん」
彼は了解の意を持った言葉を放つ。
と同時に僅かに身を起こし、座っていた椅子に背を預けた。
そのまま腕を組み、彼は目を瞑りながら思考の中を纏めて言うように、
「確か壮絶なテロリストどもの戦いが巻き起こり、俺とお前が戦地に残されてエロエロな展開の話だったな」
自信満々に彼は頷いた。
うんうん、と自分の説明に満足げに頷く彼を見て智も頷く。
それから清々しい笑顔を浮かべ、
「氷点下って寒いのよ?」
瞬間、白い風が吹く。
「……あぁ、寒いな。たぶん、俺が今体感してるのがそれだ」
再び表情を通常状態の無表情へと戻す。
無理矢理な笑顔は疲れるのだ。
見れば彼は目を閉じたまま鼻水を垂らして小刻みに揺れていた。
その体には霜が降りていたが、智は気にせず手を置いていた本を持ち上げ、開いた。
そこに書いてあるのは、とある研究グループの経過報告だ。
「それでだけど、私達の学校で行われてる研究、中々進まないらしいのよ」
「んぁ、次世代飛行機の開発だったか。演算ユニットとか良いのがあるからなぁ、うちは」
身を振り霜を取っ払った直人は未だ腕を組んだまま言う。
その上で彼は急に表情を変化させた。真剣という表情へだ。
「で、なんで俺等にそんな話が?」
その言葉に、ええ、と智は頷き、
「さっきも言った通り、理由は研究の難航。それで、生徒会の私達に御下命が下ったわけ」
彼女は本のページを一枚捲り続く言葉を放つ。
「早い話がどこかから技術者かっぱらってこいって事ね」
「無茶言うもんだな」
腕組みを解き、直人は膝に手を置く。
驚きの混じった呆れ顔になる彼を見て良く変わる表情だと思いつつ智は本を閉じた。
「まぁ、近々"外"から結構優秀な学生が来るらしいから、それに期待してるわ」
本をテーブルの中央に投げ出す。
同時に腕と足を組んで背を椅子に預けた。
直人は、眉を顰め、
「おいおい、それで良いのか?"外"つったらこの学園都市よりも数十年分も技術が遅れてる場所だぞ?」
「外にも出てる学園都市の技術はあるわよ。それを拾って勉強したんでしょう」
でもなぁ、と再度腕を組んで唸る直人。
智はそれを見て溜息を一つ。
その部屋には幾つもの棚が在り、其処に収まった多くの本が棚を彩っていた。
此処は放課後の図書館だ。
本を捲る音が響く。
それは横に二つずつ並んだ棚の奥から聞こえた。
広めに間をとられたスペース。
其処には一つの長方形のテーブルが置かれていた。
そのテーブルには現在、向かい合うようにして二つの影がある。
一人はテーブルに肘をつき頬に手を当た少女。
もう一人は上半身を投げ出しているといった体勢の男性だ。
「直人」
少女はテーブルに乗った本に片手を乗せつつ呟くように言った。
黒の長髪を頭の両側でリボンで結った髪型。
俗に言うツインテールの下には、鋭い目付きと整った顔立ちがある。
その身は青を基調としたスカートとブレザーという服装に包まれていた。
「なんだー、智」
それに応えるのは髪を短く刈った体格の良い男――直人だ。
だるそうな表情の中、やはりだるそうな目は黒の瞳が微妙に振動している。
一目瞭然。
今にも彼の意識が落ちそうな事を如実に知らせてくれた。
彼の姿はまだ寒いと言うのに何故か半袖の白Yシャツというもの。
ちなみに下は普通の学校指定のズボンだ。
見てる方まで寒くなってきた。
ともあれ、
「さっきも言ったけど。起きてた?」
「おーう、起きてたぞー」
彼は相変わらず身を投げ出したまま顔だけを動かして少女――智を見上げる。
彼女は無表情のまま彼を見下すように、
「じゃあ、さっきまで私が話してた事を言いなさい。一字一句間違わずに」
「ん」
彼は了解の意を持った言葉を放つ。
と同時に僅かに身を起こし、座っていた椅子に背を預けた。
そのまま腕を組み、彼は目を瞑りながら思考の中を纏めて言うように、
「確か壮絶なテロリストどもの戦いが巻き起こり、俺とお前が戦地に残されてエロエロな展開の話だったな」
自信満々に彼は頷いた。
うんうん、と自分の説明に満足げに頷く彼を見て智も頷く。
それから清々しい笑顔を浮かべ、
「氷点下って寒いのよ?」
瞬間、白い風が吹く。
「……あぁ、寒いな。たぶん、俺が今体感してるのがそれだ」
再び表情を通常状態の無表情へと戻す。
無理矢理な笑顔は疲れるのだ。
見れば彼は目を閉じたまま鼻水を垂らして小刻みに揺れていた。
その体には霜が降りていたが、智は気にせず手を置いていた本を持ち上げ、開いた。
そこに書いてあるのは、とある研究グループの経過報告だ。
「それでだけど、私達の学校で行われてる研究、中々進まないらしいのよ」
「んぁ、次世代飛行機の開発だったか。演算ユニットとか良いのがあるからなぁ、うちは」
身を振り霜を取っ払った直人は未だ腕を組んだまま言う。
その上で彼は急に表情を変化させた。真剣という表情へだ。
「で、なんで俺等にそんな話が?」
その言葉に、ええ、と智は頷き、
「さっきも言った通り、理由は研究の難航。それで、生徒会の私達に御下命が下ったわけ」
彼女は本のページを一枚捲り続く言葉を放つ。
「早い話がどこかから技術者かっぱらってこいって事ね」
「無茶言うもんだな」
腕組みを解き、直人は膝に手を置く。
驚きの混じった呆れ顔になる彼を見て良く変わる表情だと思いつつ智は本を閉じた。
「まぁ、近々"外"から結構優秀な学生が来るらしいから、それに期待してるわ」
本をテーブルの中央に投げ出す。
同時に腕と足を組んで背を椅子に預けた。
直人は、眉を顰め、
「おいおい、それで良いのか?"外"つったらこの学園都市よりも数十年分も技術が遅れてる場所だぞ?」
「外にも出てる学園都市の技術はあるわよ。それを拾って勉強したんでしょう」
でもなぁ、と再度腕を組んで唸る直人。
智はそれを見て溜息を一つ。
「取り敢えずその本に載ってるプロフィールを見てみなさい。結構期待出来そうだから」
「ま、とりあえずはそうだな」
直人の頷きを見ると、智は答えに満足して視線を下に降ろす。
そこにあるのは己の平たい胸と懐にしまった二冊の文庫本だけだ。
認めたくない現実に僅かに顔の筋肉が引き攣る。
が、彼女は気にしない様にしつつ懐に手を入れ、本を取り出した。
そのまま本を開いて、しおりの場所までパラパラと流し読みし、
……あら、これ読み終わったヤツね。
本を閉じた。
どうやら間違った本を持ってきてしまったらしい。
もう一つの本は授業などで使う参考資料として持ってきた物だし。
先程と同じ様に溜息を一つ。
仕方ないので彼女は顔を上げ、
「まだ?」
「早っ!?つか、お前まだ本開けたばっかしだぞ、俺!」
「遅いわね。そのくらいのプロフィール十秒もあれば十分でしょう」
「まだ十秒も経ってないんだが」
「今丁度十秒よ」
「理不尽だー!?」
五月蝿いので叫ぶ彼のこめかみ目掛けて文庫本を投げてやった。
直撃して仰け反った後に動かなくなったが、智の知るところではない。
「で、どう?」
「おおぉおおお……人のこめかみぶち抜いといて、あっさりスルーするか、このクーデレ娘」
「おあいにく様だけどデレはないわよ」
「男の幻想を殺さないでぶぁっ!?」
両手を広げてこちらを見る様が気持ち悪かったので更に懐から一冊取り出して投げてやった。
先と寸分違わぬ位置にぶち当たり彼をノックアウト。密かに心の中でガッツポーズを取る。
しかし、表情はあくまで動かさず、
「……三度目は無いわよ?」
「いだだだ……お前、俺が幾ら肉体強化系の能力者だからってなぁ。てか、どこに入ってたこの本」
自分に当たって落ちた文庫本を拾い上げつつ、首を傾げる直人。
それに対して智は片目を瞑りつつ、つまらなそうに親指で己の胸を指差した。
「……ああ」
彼は何故か神妙に頷き、席を立ち上がる。
その表情は真剣を越え、まるで決戦に挑む戦士の様であり、無謀な実験に挑む馬鹿にも見えた。
ちなみに無謀な実験に挑んだ某科学部部長はその後爆発に巻き込まれて今は入院しているが。
などと思っていると何時の間にか直人が机の向かい側からこちらの隣まで移動して来ていた。
夕日の光を遮って立つ彼はやはり長身で、真剣な表情もあってか少しだけ格好良いと――、
……いや、これは何かの。
眉を顰め、僅かにこの一連の流れを感じ取った智はとある可能性を考える。
そして、彼はその通りに動いた。
こちらの両肩へと手を乗せ、相変わらずの真剣な表情で、
「大丈夫だ、智。俺は胸が無くても十分いけぶほぁっ!?」
失礼な事を言いやがったので、冷気を凝縮して集めた塊を掌底と共に鳩尾にかましてやった。
吹っ飛んで二転、三転する直人を冷めた目で見下ろしつつ、智は視線を懐に下ろした。
……そんなに無いかしら。
手を当ててみる。
虚しくなったので即座に止めた。
「いつまで寝てるの」
「うぉぉぉ、ちょっと待て……。今のは腹にっ。腹に来た……っ!」
「冷えると御腹壊すわよ」
「冷やしたのお前だからーっ!?」
急に立ち上がって指を差す直人。
それを無視して智は彼が開いたままの本へと視線を移し、
「鷹野結希。将来の志望方向は技術系。外の学校じゃ良い成績だったらしいわよ」
「無視か……」
悲しそうに呟く直人であったが、横目で睨むと意を解したのかこちらへと近づき上から本を見る。
彼の影が智と本にかかったがここは図書館だ。
一応、電気もついているので視力の良い二人にはなんの問題にもならない。
「まぁ、良いんじゃねぇか。こいつ学園都市の方からスカウトしにいったんだろ?」
彼は何度目か分からない腕組みをし、
「期待は出来るな」
自信に満ちた笑みを浮かべつつ、鼻を鳴らした。
それに対して智は疑問の表情と共に体を動かして、自分に覆い被さる様な形の彼を見上げ、
「外へのスカウトなんてしょっちゅうじゃない」
少しばかり首を傾げ、
「その自信はなんなの?」
問うと彼が眉尻を下げて呆れた表情を作り、
「お前が期待出来るって言ったんだろうに。まぁ……一番の理由は」
「理由は?って、ひゃっ」
彼の腕が顔の横を通り過ぎた。
「ここに――って今の声可愛いなぁ」
「……っ」
慌てて顔を逸らして本へと視線を戻す。
そこで彼の指は一枚の写真を指差していた。
「……鷹野結希の写真がどうかしたの?」
写真に写っているのは一人の少女の姿だ。
「ま、とりあえずはそうだな」
直人の頷きを見ると、智は答えに満足して視線を下に降ろす。
そこにあるのは己の平たい胸と懐にしまった二冊の文庫本だけだ。
認めたくない現実に僅かに顔の筋肉が引き攣る。
が、彼女は気にしない様にしつつ懐に手を入れ、本を取り出した。
そのまま本を開いて、しおりの場所までパラパラと流し読みし、
……あら、これ読み終わったヤツね。
本を閉じた。
どうやら間違った本を持ってきてしまったらしい。
もう一つの本は授業などで使う参考資料として持ってきた物だし。
先程と同じ様に溜息を一つ。
仕方ないので彼女は顔を上げ、
「まだ?」
「早っ!?つか、お前まだ本開けたばっかしだぞ、俺!」
「遅いわね。そのくらいのプロフィール十秒もあれば十分でしょう」
「まだ十秒も経ってないんだが」
「今丁度十秒よ」
「理不尽だー!?」
五月蝿いので叫ぶ彼のこめかみ目掛けて文庫本を投げてやった。
直撃して仰け反った後に動かなくなったが、智の知るところではない。
「で、どう?」
「おおぉおおお……人のこめかみぶち抜いといて、あっさりスルーするか、このクーデレ娘」
「おあいにく様だけどデレはないわよ」
「男の幻想を殺さないでぶぁっ!?」
両手を広げてこちらを見る様が気持ち悪かったので更に懐から一冊取り出して投げてやった。
先と寸分違わぬ位置にぶち当たり彼をノックアウト。密かに心の中でガッツポーズを取る。
しかし、表情はあくまで動かさず、
「……三度目は無いわよ?」
「いだだだ……お前、俺が幾ら肉体強化系の能力者だからってなぁ。てか、どこに入ってたこの本」
自分に当たって落ちた文庫本を拾い上げつつ、首を傾げる直人。
それに対して智は片目を瞑りつつ、つまらなそうに親指で己の胸を指差した。
「……ああ」
彼は何故か神妙に頷き、席を立ち上がる。
その表情は真剣を越え、まるで決戦に挑む戦士の様であり、無謀な実験に挑む馬鹿にも見えた。
ちなみに無謀な実験に挑んだ某科学部部長はその後爆発に巻き込まれて今は入院しているが。
などと思っていると何時の間にか直人が机の向かい側からこちらの隣まで移動して来ていた。
夕日の光を遮って立つ彼はやはり長身で、真剣な表情もあってか少しだけ格好良いと――、
……いや、これは何かの。
眉を顰め、僅かにこの一連の流れを感じ取った智はとある可能性を考える。
そして、彼はその通りに動いた。
こちらの両肩へと手を乗せ、相変わらずの真剣な表情で、
「大丈夫だ、智。俺は胸が無くても十分いけぶほぁっ!?」
失礼な事を言いやがったので、冷気を凝縮して集めた塊を掌底と共に鳩尾にかましてやった。
吹っ飛んで二転、三転する直人を冷めた目で見下ろしつつ、智は視線を懐に下ろした。
……そんなに無いかしら。
手を当ててみる。
虚しくなったので即座に止めた。
「いつまで寝てるの」
「うぉぉぉ、ちょっと待て……。今のは腹にっ。腹に来た……っ!」
「冷えると御腹壊すわよ」
「冷やしたのお前だからーっ!?」
急に立ち上がって指を差す直人。
それを無視して智は彼が開いたままの本へと視線を移し、
「鷹野結希。将来の志望方向は技術系。外の学校じゃ良い成績だったらしいわよ」
「無視か……」
悲しそうに呟く直人であったが、横目で睨むと意を解したのかこちらへと近づき上から本を見る。
彼の影が智と本にかかったがここは図書館だ。
一応、電気もついているので視力の良い二人にはなんの問題にもならない。
「まぁ、良いんじゃねぇか。こいつ学園都市の方からスカウトしにいったんだろ?」
彼は何度目か分からない腕組みをし、
「期待は出来るな」
自信に満ちた笑みを浮かべつつ、鼻を鳴らした。
それに対して智は疑問の表情と共に体を動かして、自分に覆い被さる様な形の彼を見上げ、
「外へのスカウトなんてしょっちゅうじゃない」
少しばかり首を傾げ、
「その自信はなんなの?」
問うと彼が眉尻を下げて呆れた表情を作り、
「お前が期待出来るって言ったんだろうに。まぁ……一番の理由は」
「理由は?って、ひゃっ」
彼の腕が顔の横を通り過ぎた。
「ここに――って今の声可愛いなぁ」
「……っ」
慌てて顔を逸らして本へと視線を戻す。
そこで彼の指は一枚の写真を指差していた。
「……鷹野結希の写真がどうかしたの?」
写真に写っているのは一人の少女の姿だ。
首の後ろで結った黒の長髪の下で眩しいばかりの笑顔を浮かべる少女。
彼女の身は紺色のブレザーとミニスカートで着飾られている。
そして、その胸には抱かれる様にして細長い円筒があった。
卒業証書だ。
「ああ――こいつは新一年生だ」
「だから?」
薄々勘付きつつも敢えて問う。
そうする事が会話のマナーだと、智は信じているからだ。
再び視線を直人へと戻すと、彼は口元に笑みを浮かべていた。
「もし研究の方で使えなくても――上手くいけば生徒会役員に引っ張り込めるぜ」
腰に手を当てて楽しそうに言う彼を見て智は頷きを一つ。
確かに彼の言葉にも一理ある。
この生徒会は智と直人の新二年生だけ、しかも二人という事もあり、教師からも心配されている。
その原因は主に智が作ったものなのだが。
ともあれ、ここで一つ新しい生徒会要員を補充するのも良いだろう。
教師陣に余計な心配はさせずに、尚且つ自分達の仕事も数倍は楽になるし。
別名押し付けとも言うが。
改めてプロフィールへと目を通す。
鷹野結希。
今年卒業の新高校一年生。
学園都市の"外"出身。
工学系全般の技術と学力は高く、また性格も極めて良しと判断される。
追記、ボクッ子萌え。
…………。
どういう追記だ、これは。
ともあれ、最初に確かめた通り優秀な人物である事は間違いないようだ。
これならば生徒会のメンバーとしても申し分ない。
だから、智は頷き、
「成る程ね。それじゃあ、担任には私が話を通しておくから――?」
見上げると直人が眉を顰めていた。
……?
何事かと思うと同時に彼に肩を掴まれた。
「智……」
「え……」
唐突な、何か悲しみや憂い、困惑をない混ぜにしたなんとも言えない表情の中、彼は目を閉じた。
なんだろうか、と思うと同時に少し顔が熱くなる。
いや、夕暮れの誰も居ない図書館に二人。
そしてこの様な場面。
まさか彼は――、
「後輩に負けてるからって落ち込むぶるぁあああっ!?」
言い切る前に馬鹿を断罪した。
今度は掌底ではなく拳をぶち込んだせいか、先程よりも勢い良く吹っ飛ぶ直人。
その行く先を見ずに智は勢い良く振り返った。
何故か顔と目尻が熱いがきっと暴れ過ぎたせいだろう。
そうだろう。
そうに違いない。
畜生。
テーブルを思いきり両手で叩くと同時、後ろで何かが崩れる音が響いた。
「……うるさいわよ」
叩いた衝撃でテーブルが揺れたのか本がテーブルから床へと落ちて開く。
視線をそちらへ向けると、
「――!」
思わず目を見開いて固まった。
その原因は彼女が直人の言葉を理解した答え。その一文だ。
落ちた本の中、Bという文字だけが届かぬ境地として輝いて見えていた。
「くぅ……っ」
歯軋りを一つ。
行き場のない怒りを抑え、窓へと歩み寄る。
外にはそこそこ広いグラウンドがある。
其処では部活動なのか、幾人かの生徒が元気良く走り回っていた。
時折爆発などが起きて吹き飛んでいるが許容範囲内だ。
それを楽しそうだ、と思いつつ僅かに笑顔を浮かべ、
「皆、一生懸命生きてるのね……私も頑張らなきゃ」
空を見上げ、これからも頑張ろうと誓う。
夕日が沈み輝く地平線はまるで燃える様に彼女を祝福していた。
彼女の身は紺色のブレザーとミニスカートで着飾られている。
そして、その胸には抱かれる様にして細長い円筒があった。
卒業証書だ。
「ああ――こいつは新一年生だ」
「だから?」
薄々勘付きつつも敢えて問う。
そうする事が会話のマナーだと、智は信じているからだ。
再び視線を直人へと戻すと、彼は口元に笑みを浮かべていた。
「もし研究の方で使えなくても――上手くいけば生徒会役員に引っ張り込めるぜ」
腰に手を当てて楽しそうに言う彼を見て智は頷きを一つ。
確かに彼の言葉にも一理ある。
この生徒会は智と直人の新二年生だけ、しかも二人という事もあり、教師からも心配されている。
その原因は主に智が作ったものなのだが。
ともあれ、ここで一つ新しい生徒会要員を補充するのも良いだろう。
教師陣に余計な心配はさせずに、尚且つ自分達の仕事も数倍は楽になるし。
別名押し付けとも言うが。
改めてプロフィールへと目を通す。
鷹野結希。
今年卒業の新高校一年生。
学園都市の"外"出身。
工学系全般の技術と学力は高く、また性格も極めて良しと判断される。
追記、ボクッ子萌え。
…………。
どういう追記だ、これは。
ともあれ、最初に確かめた通り優秀な人物である事は間違いないようだ。
これならば生徒会のメンバーとしても申し分ない。
だから、智は頷き、
「成る程ね。それじゃあ、担任には私が話を通しておくから――?」
見上げると直人が眉を顰めていた。
……?
何事かと思うと同時に彼に肩を掴まれた。
「智……」
「え……」
唐突な、何か悲しみや憂い、困惑をない混ぜにしたなんとも言えない表情の中、彼は目を閉じた。
なんだろうか、と思うと同時に少し顔が熱くなる。
いや、夕暮れの誰も居ない図書館に二人。
そしてこの様な場面。
まさか彼は――、
「後輩に負けてるからって落ち込むぶるぁあああっ!?」
言い切る前に馬鹿を断罪した。
今度は掌底ではなく拳をぶち込んだせいか、先程よりも勢い良く吹っ飛ぶ直人。
その行く先を見ずに智は勢い良く振り返った。
何故か顔と目尻が熱いがきっと暴れ過ぎたせいだろう。
そうだろう。
そうに違いない。
畜生。
テーブルを思いきり両手で叩くと同時、後ろで何かが崩れる音が響いた。
「……うるさいわよ」
叩いた衝撃でテーブルが揺れたのか本がテーブルから床へと落ちて開く。
視線をそちらへ向けると、
「――!」
思わず目を見開いて固まった。
その原因は彼女が直人の言葉を理解した答え。その一文だ。
落ちた本の中、Bという文字だけが届かぬ境地として輝いて見えていた。
「くぅ……っ」
歯軋りを一つ。
行き場のない怒りを抑え、窓へと歩み寄る。
外にはそこそこ広いグラウンドがある。
其処では部活動なのか、幾人かの生徒が元気良く走り回っていた。
時折爆発などが起きて吹き飛んでいるが許容範囲内だ。
それを楽しそうだ、と思いつつ僅かに笑顔を浮かべ、
「皆、一生懸命生きてるのね……私も頑張らなきゃ」
空を見上げ、これからも頑張ろうと誓う。
夕日が沈み輝く地平線はまるで燃える様に彼女を祝福していた。
「智、現実逃避はいかんと思うぞ」
背後から馬鹿がいらん事を言ったので本日二度目の掌底をぶち込んでおいた。
背後から馬鹿がいらん事を言ったので本日二度目の掌底をぶち込んでおいた。