1章 一〇月三日 Birthday_of_the_memory
「上条ちゃん? この追試を頑張らないとすけすけ見る見るだけじゃすまないのですよ?」
静まり返った放課後の教室にいるのは二人の人物。
教卓からちょこんと頭だけを出しているのは、この一年七組のクラス担任である月詠小萌。身長一三五センチ、見た目年齢一二歳で
発火能力者(パイロキネシス)を専攻しているこの女性は、どう見ても幼女なその体型から『月詠小萌は虚数学区で研究された不老不
死に関する貴重なサンプル』とまで言われるほどだ。
一方、そんな机にへばりついている平々凡々な高校生——上条当麻は白紙のままの解答用紙を恨めしそうに眺めては担任に抗議の言
葉を送る。
「うだっー! 無理だって! 上条さんには粉末(エルプラーゼ)やら錠剤(メトセリン)やら、その他諸々の薬品の構造式なんて覚
えられません!!」
「なに言ってるのですか! 上条ちゃん以外はみんな完璧だったのです。やればできる子なのですから頑張るのですよ!」
おぉーっ、と一人で勝手に盛り上がっている担任を横目に上条は溜め息をついた。
本日の日付、一〇月三日。
大覇星祭での疲れをイタリアで吹き飛ばす予定のはずが、結局いつもどおりに不幸な上条は向こうでも一暴れしてきたのだ。その結
果が学園都市への強制連行と強制入院である。そして今日にいたるわけだが——、
ともに追試の常連である青髪ピアスの席を睨みつける。
(なにやってるかわかんねぇ土御門はともかく……アイツまでいないってのはどうゆうことだよ。あんまし考えなかったけど、俺って
魔術とのいざこざで入院ばっかしてろくに勉強してねぇよな? ……いや、普段からしてなかったんだが。もしかして……もしかした
らの話ですが、上条さんすっごいピンチ?)
そんな上条の不安に気づいたかのように小萌先生が喋りだす。
「一人なのが気になるのですか? 上条ちゃんってば世話がかかるのです……えへ、進級とかテストのことなら心配ご無用なのですよ。
えへへ、上条ちゃんには私がじぃっくりと教えてあげるので、えへえへへへ、覚悟して欲しいのですよー」
ニコニコニコニコと眩しいほどの笑みを浮かべる小萌先生を見て、今日は終バス乗れねぇな、とひときわ大きく溜め息がこぼれた。
静まり返った放課後の教室にいるのは二人の人物。
教卓からちょこんと頭だけを出しているのは、この一年七組のクラス担任である月詠小萌。身長一三五センチ、見た目年齢一二歳で
発火能力者(パイロキネシス)を専攻しているこの女性は、どう見ても幼女なその体型から『月詠小萌は虚数学区で研究された不老不
死に関する貴重なサンプル』とまで言われるほどだ。
一方、そんな机にへばりついている平々凡々な高校生——上条当麻は白紙のままの解答用紙を恨めしそうに眺めては担任に抗議の言
葉を送る。
「うだっー! 無理だって! 上条さんには粉末(エルプラーゼ)やら錠剤(メトセリン)やら、その他諸々の薬品の構造式なんて覚
えられません!!」
「なに言ってるのですか! 上条ちゃん以外はみんな完璧だったのです。やればできる子なのですから頑張るのですよ!」
おぉーっ、と一人で勝手に盛り上がっている担任を横目に上条は溜め息をついた。
本日の日付、一〇月三日。
大覇星祭での疲れをイタリアで吹き飛ばす予定のはずが、結局いつもどおりに不幸な上条は向こうでも一暴れしてきたのだ。その結
果が学園都市への強制連行と強制入院である。そして今日にいたるわけだが——、
ともに追試の常連である青髪ピアスの席を睨みつける。
(なにやってるかわかんねぇ土御門はともかく……アイツまでいないってのはどうゆうことだよ。あんまし考えなかったけど、俺って
魔術とのいざこざで入院ばっかしてろくに勉強してねぇよな? ……いや、普段からしてなかったんだが。もしかして……もしかした
らの話ですが、上条さんすっごいピンチ?)
そんな上条の不安に気づいたかのように小萌先生が喋りだす。
「一人なのが気になるのですか? 上条ちゃんってば世話がかかるのです……えへ、進級とかテストのことなら心配ご無用なのですよ。
えへへ、上条ちゃんには私がじぃっくりと教えてあげるので、えへえへへへ、覚悟して欲しいのですよー」
ニコニコニコニコと眩しいほどの笑みを浮かべる小萌先生を見て、今日は終バス乗れねぇな、とひときわ大きく溜め息がこぼれた。
* *
下駄箱に体を預けてうつらうつらと船を漕いでいる少女を見て、上条は小首をかしげた。
(完全下校時刻すぎてんのに、なにやってんだ?)
小萌先生のつきっきり補修は結果的に三時間も行なわれた。もはや夕暮れ時を過ぎ、少しずつ夜へ近づいている。
いつまでも眺めているわけにはいかないので上条は少女に近づく。
「起きろ、姫神。こんなとこで寝てると風邪ひくぞー」
熟睡状態なのか姫神秋沙はいくら揺さぶっても起きる気配がなかった。
仕方なく上条は制服の上着を姫神の脚にかけ、その隣に座る。
部活動も終了して喧騒のすぎさった校舎で、姫神の穏やかな寝息だけがはっきりと聞こえてくる。すぅすぅと繰り返される単調なリ
ズムは、さながら電車の振動のように上条の意識まで奪っていこうとする。
「姫神ー、そろそろ起きねぇか? おーい、姫神さーん?」
ふらふらと揺れる顔を覗き込む。
大覇星祭は大変だったし……やっぱ疲れてんだろうな。
九月十九日から一週間にわたって行われる大規模な体育祭——それが大覇星祭である。その初日、姫神秋沙は魔術師に襲われ重体に
陥った。ローマ正教の『使徒十字(クローチェディピエトロ)』による科学の駆逐。すべての人が成功を望んでいた大覇星祭を奪われ
ること。その恐るべき両事態は避けられたが、姫神はその争いに巻き込まれてしまった。
カエル顔の医者のおかげで怪我のあともなく今は前と変わらず生活していたようなのだが——。
(どうせ歩いて帰るんだし、もう少し寝させてやるか)
上条には心地よさそうに眠っている姫神の寝顔がとても神聖なものに感じられた。
(完全下校時刻すぎてんのに、なにやってんだ?)
小萌先生のつきっきり補修は結果的に三時間も行なわれた。もはや夕暮れ時を過ぎ、少しずつ夜へ近づいている。
いつまでも眺めているわけにはいかないので上条は少女に近づく。
「起きろ、姫神。こんなとこで寝てると風邪ひくぞー」
熟睡状態なのか姫神秋沙はいくら揺さぶっても起きる気配がなかった。
仕方なく上条は制服の上着を姫神の脚にかけ、その隣に座る。
部活動も終了して喧騒のすぎさった校舎で、姫神の穏やかな寝息だけがはっきりと聞こえてくる。すぅすぅと繰り返される単調なリ
ズムは、さながら電車の振動のように上条の意識まで奪っていこうとする。
「姫神ー、そろそろ起きねぇか? おーい、姫神さーん?」
ふらふらと揺れる顔を覗き込む。
大覇星祭は大変だったし……やっぱ疲れてんだろうな。
九月十九日から一週間にわたって行われる大規模な体育祭——それが大覇星祭である。その初日、姫神秋沙は魔術師に襲われ重体に
陥った。ローマ正教の『使徒十字(クローチェディピエトロ)』による科学の駆逐。すべての人が成功を望んでいた大覇星祭を奪われ
ること。その恐るべき両事態は避けられたが、姫神はその争いに巻き込まれてしまった。
カエル顔の医者のおかげで怪我のあともなく今は前と変わらず生活していたようなのだが——。
(どうせ歩いて帰るんだし、もう少し寝させてやるか)
上条には心地よさそうに眠っている姫神の寝顔がとても神聖なものに感じられた。
姫神が目を覚ましたのはそれから十分ほど後のことだった。
「お、やっとお目覚めか」
「……」
寝起きでなかなか焦点が定まらないのか、まだ意識は夢の中なのか、姫神は上条の投げかけに無言で応じた。
「ったく、こんなところで寝るなって——ぐぼぁっ!?」
上条の言葉を無視してくりだされる手加減無視の右ストレート。吸い込まれるように顔面直撃コースに乗った拳は上条を思いっきり
吹っ飛ばした。姫神の体は震えていて、その視線もいっこうに険しいままである。
さっきの神聖さはどこへやら、鬼のような気配をまとって立ちつくす姫神だった。
「お、やっとお目覚めか」
「……」
寝起きでなかなか焦点が定まらないのか、まだ意識は夢の中なのか、姫神は上条の投げかけに無言で応じた。
「ったく、こんなところで寝るなって——ぐぼぁっ!?」
上条の言葉を無視してくりだされる手加減無視の右ストレート。吸い込まれるように顔面直撃コースに乗った拳は上条を思いっきり
吹っ飛ばした。姫神の体は震えていて、その視線もいっこうに険しいままである。
さっきの神聖さはどこへやら、鬼のような気配をまとって立ちつくす姫神だった。
そんなこんなで上条たちは一緒に放課後の第七学区を歩いていた。
姫神はというと、さっきの先制攻撃以来ぶすっとしていて取りつく島もなかった。
そうして何度目かになる押し問答を繰り返していた。
「姫神、なんであんなところで寝てたんだ?」
「君こそ。どうして私の隣にいたの?」
それに対する弁解も同じものだ。
「いや、さっきのは悪かったって。驚かそうとしてたわけじゃなくて——」
「わかってる。……そんなの。わかってる」
不意の切返しが今までとは違ったものだったので上条は言葉に困ってしまった。
(んーっ、機嫌は戻ったのか? いや、でも、さっきの一撃は熊でも殺せそうな威力だったしなぁ)
唸る上条を横目で睨むと少しだけ語気が強くなった。
「なんだかとても失礼なことを考えている気がするんだけど」
「い、いえ! そんな滅相もございません! ワタクシはいつでも世界の平和と愛について真剣に考えています!」
無言のまま姫神はスタスタと早足で歩いていってしまう。
「……上条君」
駆け足で追いかけようとした矢先、姫神の声で上条の動きが止まる。
姫神は振り返らずに前を向いたままだったが、気持ちだけは真っ直ぐに上条に向かっている気がした。
どんな話をされても驚かずに聞いてやろうじゃねぇか! と気合を入れていた上条だったが、
「君は。七日の予定ある?」
「はい?」
あっさりと出鼻をくじかれた。
「だから。……秋祭りの日。もう予定は決まっているの?」
七日。秋祭り。予定。
(なに一つ身に覚えが——じゃなくて、記憶がないから俺にはなんのことだかさっぱり。……ってか、あれ? 駄フラグばっかの上条
さんになにが起きているのですか? この展開って……あれれ? まさか……いや、落ち着け! 相手は姫神だぞ? いや、でも姫神
だって実は結構……じゃなくて! 姫神がこんな大胆な——)
「——君? 上条君?」
「はいっ! で、でもでも上条さんにだって心の準備が——って、姫神ぃっ!?」
思考の渦に完璧に飲み込まれていた上条は近づいていた姫神にまったく気づいていなかった。
姫神はというと、さっきの先制攻撃以来ぶすっとしていて取りつく島もなかった。
そうして何度目かになる押し問答を繰り返していた。
「姫神、なんであんなところで寝てたんだ?」
「君こそ。どうして私の隣にいたの?」
それに対する弁解も同じものだ。
「いや、さっきのは悪かったって。驚かそうとしてたわけじゃなくて——」
「わかってる。……そんなの。わかってる」
不意の切返しが今までとは違ったものだったので上条は言葉に困ってしまった。
(んーっ、機嫌は戻ったのか? いや、でも、さっきの一撃は熊でも殺せそうな威力だったしなぁ)
唸る上条を横目で睨むと少しだけ語気が強くなった。
「なんだかとても失礼なことを考えている気がするんだけど」
「い、いえ! そんな滅相もございません! ワタクシはいつでも世界の平和と愛について真剣に考えています!」
無言のまま姫神はスタスタと早足で歩いていってしまう。
「……上条君」
駆け足で追いかけようとした矢先、姫神の声で上条の動きが止まる。
姫神は振り返らずに前を向いたままだったが、気持ちだけは真っ直ぐに上条に向かっている気がした。
どんな話をされても驚かずに聞いてやろうじゃねぇか! と気合を入れていた上条だったが、
「君は。七日の予定ある?」
「はい?」
あっさりと出鼻をくじかれた。
「だから。……秋祭りの日。もう予定は決まっているの?」
七日。秋祭り。予定。
(なに一つ身に覚えが——じゃなくて、記憶がないから俺にはなんのことだかさっぱり。……ってか、あれ? 駄フラグばっかの上条
さんになにが起きているのですか? この展開って……あれれ? まさか……いや、落ち着け! 相手は姫神だぞ? いや、でも姫神
だって実は結構……じゃなくて! 姫神がこんな大胆な——)
「——君? 上条君?」
「はいっ! で、でもでも上条さんにだって心の準備が——って、姫神ぃっ!?」
思考の渦に完璧に飲み込まれていた上条は近づいていた姫神にまったく気づいていなかった。
おかげで裏返った返事をし、挙句の果てには目の前にいた姫神を再びビクつかせ——、
「どうしたの?」
両手を胸の前で握りしめ、不思議そうな視線を向けてくる姫神がいた。
「あ……いや、そうだよな! さっきと同じノリでもう一回殴るなんて姫神はしないよな!」
「……私のことを。どうゆうキャラだと思っているの?」
呆れた声で姫神は呟いた。
(あ、でもさっきあんな殺人パンチくらった後だし、それくらいは誰だって警戒するって……いや、姫神さん? あぁ、そんな目で見
ないで! ワタクシ上条当麻にそちらの趣味は……って、青髪ピアスと同じ視線を向けないでぇっ!!)
うろたえる上条の反応などもとから気にしてないかのように姫神は淡々と話を進める。
「それで。予定はある?」
そんな姫神のようすに上条も自然と落ち着きを取り戻し、
「ん? いや、予定とかそんなもんねぇけど。っつーか秋祭りだったか? そんなんあるの今知ったしな!」
上条当麻は夏休みの初め頃から『エピソード記憶』、つまり『思い出』に関する記憶を失っていた。
その原因はわからないが、上条は自分が記憶喪失だということを隠して生活している。
全ては一人の少女のため。『記憶を失う以前の』上条当麻を演じ続け、その少女の笑顔を守り通すため。
禁書目録(インデックス)。
それが少女の名前だった。完全記憶能力を持った必要悪の教会(ネセサリウス)に所属する魔術師。一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記
憶している魔道書図書館。
インデックスは上条の学生寮でともに生活している。同棲だからといって絵に描いたような素敵イベントがあるわけでもなく、日夜
財布の中身と献立に頭を悩ませるばかりだ。
そのためこの時期に秋祭りがあることなどまったく知らなかった。
「で……誘うのが俺なんかでいいのか?」
魔術師やら『非日常(オカルト)』な世界に足を踏み入れて経験豊富な上条だったが、こうゆうことにはめっきりだった。
上条の発言に一瞬だけきょとんとする姫神。
それでもすぐに上条の発言を理解したようで、穏やかな笑顔を浮かべて、
「期待させたみたいだけど。それに応えることはできない。みんなで行くつもり」
その言葉で一気に自分の勘違いを知った上条は、
「そ、そうだよな! みんな! みんなでだよな! HAHAHAッ!! 姫神、言っとくけど、わかってたからな? フラグまみれ
の上条さんにとってこんなの日常茶飯事ですのことよ?」
「ぐだぐだ」
一言で上条のプライドはぶった切られた。
「はぁ……で、みんなってクラス全員か? だとしたら多すぎじゃね?」
「さすがに全員は無理。残念だけど。私は吹寄とインデックスを誘うから」
吹寄とインデックスか。
インデックスは大覇星祭のときにクラスのみんなに溶けこんでしまったので吹寄とも問題はないだろう。
「じゃ、俺は土御門と青髪ピアスとかでいいか?」
「それでかまわない。もう遅いから詳しいことは明日にでも学校で。こんなに遅くまで迷惑かけたよね」
「……じゃあ姫神が残ってたのってこれを俺に言うためだったのか?」
思えば放課後に姫神と会ってからまともな内容を話したのは今が最初だった。
ということはその可能性が一番高かったのだが——、
「それが正しいかったとしても。そうゆうことを聞くのは配慮にかけると思う」
「うっ! ……ごもっともで」
今日だけでかなりの失態を姫神にさらしてしまい、しゅんとなる上条だった。それでも姫神の顔を見ると、まぁいいか、という気に
なってくる。
(あんなことがあったってのに笑っていられるんだから、喜んでいいんだよな?)
薄っすらと微笑んでいるように見える姫神と別れ、上条は家路を急いだ。
「あ……いや、そうだよな! さっきと同じノリでもう一回殴るなんて姫神はしないよな!」
「……私のことを。どうゆうキャラだと思っているの?」
呆れた声で姫神は呟いた。
(あ、でもさっきあんな殺人パンチくらった後だし、それくらいは誰だって警戒するって……いや、姫神さん? あぁ、そんな目で見
ないで! ワタクシ上条当麻にそちらの趣味は……って、青髪ピアスと同じ視線を向けないでぇっ!!)
うろたえる上条の反応などもとから気にしてないかのように姫神は淡々と話を進める。
「それで。予定はある?」
そんな姫神のようすに上条も自然と落ち着きを取り戻し、
「ん? いや、予定とかそんなもんねぇけど。っつーか秋祭りだったか? そんなんあるの今知ったしな!」
上条当麻は夏休みの初め頃から『エピソード記憶』、つまり『思い出』に関する記憶を失っていた。
その原因はわからないが、上条は自分が記憶喪失だということを隠して生活している。
全ては一人の少女のため。『記憶を失う以前の』上条当麻を演じ続け、その少女の笑顔を守り通すため。
禁書目録(インデックス)。
それが少女の名前だった。完全記憶能力を持った必要悪の教会(ネセサリウス)に所属する魔術師。一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記
憶している魔道書図書館。
インデックスは上条の学生寮でともに生活している。同棲だからといって絵に描いたような素敵イベントがあるわけでもなく、日夜
財布の中身と献立に頭を悩ませるばかりだ。
そのためこの時期に秋祭りがあることなどまったく知らなかった。
「で……誘うのが俺なんかでいいのか?」
魔術師やら『非日常(オカルト)』な世界に足を踏み入れて経験豊富な上条だったが、こうゆうことにはめっきりだった。
上条の発言に一瞬だけきょとんとする姫神。
それでもすぐに上条の発言を理解したようで、穏やかな笑顔を浮かべて、
「期待させたみたいだけど。それに応えることはできない。みんなで行くつもり」
その言葉で一気に自分の勘違いを知った上条は、
「そ、そうだよな! みんな! みんなでだよな! HAHAHAッ!! 姫神、言っとくけど、わかってたからな? フラグまみれ
の上条さんにとってこんなの日常茶飯事ですのことよ?」
「ぐだぐだ」
一言で上条のプライドはぶった切られた。
「はぁ……で、みんなってクラス全員か? だとしたら多すぎじゃね?」
「さすがに全員は無理。残念だけど。私は吹寄とインデックスを誘うから」
吹寄とインデックスか。
インデックスは大覇星祭のときにクラスのみんなに溶けこんでしまったので吹寄とも問題はないだろう。
「じゃ、俺は土御門と青髪ピアスとかでいいか?」
「それでかまわない。もう遅いから詳しいことは明日にでも学校で。こんなに遅くまで迷惑かけたよね」
「……じゃあ姫神が残ってたのってこれを俺に言うためだったのか?」
思えば放課後に姫神と会ってからまともな内容を話したのは今が最初だった。
ということはその可能性が一番高かったのだが——、
「それが正しいかったとしても。そうゆうことを聞くのは配慮にかけると思う」
「うっ! ……ごもっともで」
今日だけでかなりの失態を姫神にさらしてしまい、しゅんとなる上条だった。それでも姫神の顔を見ると、まぁいいか、という気に
なってくる。
(あんなことがあったってのに笑っていられるんだから、喜んでいいんだよな?)
薄っすらと微笑んでいるように見える姫神と別れ、上条は家路を急いだ。