とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 3-301

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匿名ユーザー

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 上条は自分の感性をそれなりに信じていた。
 だから姫神と別れて学生寮に向かう途中の公園で、一人の少女を見たとき思わず立ち止まってしまった。
 時刻は七時半。街灯なしでは道路を歩くのさえ危険なほど夜は深まっている。そんな中で少女は制服姿のまま、ずぶ濡れでベンチに
座っていた。こんな季節に水浴びはありえないだろうし、雨にうたれたなんて論外。となると——、
(強度(レベル)による迫害(いじめ)か……)
 目の前の少女も学園都市において学生として生活しているからには能力を開発したのだろう。ここは時間割り(カリキュラム)で薬
を飲んだり、頭に電極をぶっ刺したりと外から見れば異様なことを平然と行っている。そのため全ての学生がなにかしら開発を施され
、その結果を背負って過ごしている。
 しかし、それは能力の強度(レベル)に大きく依存する。
 学園都市では暴力や学力ではなく能力の強度(レベル)が基本である。結局のところそういった個人の権力を示すものは、必然的に
上下関係を生み出してゆく。原因の全てが環境に依存しているとは思っていないが、当然のように自己の価値を否定されるのだ。周囲
からの反応は大きな一因となるだろう。
(くそっ、あれじゃ本当に風邪ひいちまうじゃねぇか!)
 近くの自動販売機から暖かくて比較的飲みやすそうな『撫子ミルクティー』を買って少女に歩み寄る。少女は上条の気配に気づいて
顔をあげたので、持っていた缶を見せる。
「そんな格好じゃ風邪ひくだろ。これ、おごってやるから」
 少女は手に持っている缶をじぃーっと睨みつけると、
「——ゴメン」
 高めの透き通った声だ。
「ん?」
「おごってくれるんなら、アタシ冷たいのがいいかな。熱いの飲めないんだ」
 少女の体は濡れて冷えていると思ったのだがどうやら取越し苦労だったようだ。しかし、飲めないとはどうゆうことだろう? 猫舌
なら冷めてから飲めばいいだけ。苦手とでも言えばいいはずだ。
(まぁ、言い間違いみたいなもんだろ。気にしても無駄かな)
 缶を少女の隣、ベンチの上に置く。
「ったく、しかたねーな。ちょっと待っててくれよ?」
 「うん」と頷いた少女を背にし、今度は『ヤシの実サイダー』を買ってベンチの隣に座る。
「ほら。これでいいか?」
「ありがと」
 喜んで缶ジュースを受け取る少女を眺める。
 遠くからではっきりと見えなかったのか、少女の制服はそこまで濡れているわけではなかった。少し湿っている程度と言えるかもし
れない。短めに整えられた黒髪はしっとりとして街灯に鈍く輝き、風呂上りのような印象を受ける。しかし、少女の足元にはくっきり
と大きな水溜りの跡が見受けられた。
(事情を聞くのは……やりすぎか? でもとりあえず家出かどうかは確認すっか。そうだったら、申し訳ないけど小萌先生にでも)
 小萌先生はかなりの世話好きで、心理学を応用してまで家出少女を保護する人物。ぶつくさ言われそうだが信頼はできる。
「ね、アタシの顔なんかついてる?」

「うわぁあああっ!?」
 無遠慮に見すぎたのか、少女が上条の顔を覗き込んできた。
「え? やっぱなんかついてるの? たはぁー……恥ずかしぃー」
「いや、そうゆうわけじゃ——」
 そう言うと、お返しとばかりに立ち上がって上条を観察してくる。
「ふーん。……ほぇーっ……ん、……ふむふむ……」
(な、なんだよ。俺が見てたのそんなに嫌だったのか? そうなのか、そうなんだなそうなんですね!?)
 上条は、今にもベンチの上で「ごめんなさい! でもワタクシ上条当麻に不謹慎な気持ちはありませんよ?」と土下座までして謝ろ
うとしていた。潔い言えば聞こえはいいが、もはや情けない条件反射とも言える。
 それを遮るように少女の顔がさらに近づいて、
「アタシ、因幡里数葉(いなばりかずは)ていうの」
「へ?」
 いきなりの自己紹介だった。しかし上条を驚かせるのはこれだけではなかった。

「たはは、いきなりだったか……。んとね、キミが噂の上条当麻クンだね?」

 このずぶ濡れ少女こと、因幡里数葉が言うには、一部で上条は有名らしい。
 曰く、
「だってさぁ、夜にスキルアウトと追いかけっこしたり、街中で意味わかんない能力者と喧嘩してたり……果ては常盤台中学の超能力
者(レベル5)ともバチバチやってるじゃん? しかもかなりの入院経験者でお見舞いにはお菓子とおもちゃが大好きなシスターさん
までやってくるらしいじゃない! こりゃ気になるってものよ。そう思わない?」
 加えて、
「それに同じ学校の子は『ストライクゾーンは幼女から教師まで』とか『角を曲がれば女の子にぶつかってる』とか『立てたフラグは
三桁を超えた』とか言われてるみたいだし。あぁ……なんか『カミやん病は空気感染するんだにゃー』とか『カミジョー属性は鉄壁の
女すら攻略するんや』とか意味わかんないことも言われてるよね」
 と言うことらしい。
(あの野郎ども俺がいないところでそんな評価を……。この憎しみどうしてやろうか? ここは思い切って、階段の踊り場にある窓か
ら二人を投げっぱなしジャーマンスープレックスで池にぶち込んでやるってのがいいか)
 と上条がクラスにいる二人の馬鹿への報復を考えていると、
「それなのに……無能力者(レベル0)、だもんね。そりゃ有名になるでしょ」
 上条は今の因幡里の言葉に少しだけ影を感じた。
 自分自身が無能力者(レベル0)だからこそ感じるものなのか、それとも因幡里自身が与えるものか。どちらにせよいい気分になる
ような気配ではない。
 とりあえず当初の予定どおり家出かどうか聞こうとした上条だったが、
「んじゃ、アタシそろそろ行くよ! これでアタシにもフラグが立ったみたいだし、また会えるかもね?」
「なっ、おい! ちょっと待てって!」
 たははっ、と——少し変な笑い方だが——笑いながら因幡里は駆け出していってしまった。
 一人残された上条はぼんやりと照らされた公園の時計に目をやって不意に思った。
 インデックスを忘れていた。
 ただ今の時刻は午後八時すぎ。寮に着くにはもう三〇分ほどかかるだろう。
 帰宅すればあの欲望丸出し腹ペコシスターがいることを考えると、今から頭がズキズキと痛む上条だった。

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