——十二月。
世間一般では年末に向けて何かと忙しくなり、かつ、20日を過ぎればあるイベントに向けて大いに盛り上がる次期である。
超能力開発を目的として作られた学園都市においてもそれは同様である。
色とりどりのイルミネーションが煌びやかに町並みを飾って浮かれた雰囲気になり、道を行きかうのもその多くがカップルで
連れ立っている姿が多い。
そんな賑やかな喧騒の中で、不機嫌な様子で歩く学生の姿があった。
「まったく、クリスマスだのイブだのと浮かれまくって。私たち学生の本分はこんな浮かれているべきものでは無いでしょうがっ!
どいつもこいつも色恋に走りまくりやがってっ!!」
ぶつぶつと呟きながら苛立ちもあらわに大股でずんずんと進んでいくのは吹寄制理。
面倒見がよく、その委員長気質なところや、ある男子生徒に対する行動からも「頼れる姉御」「吹寄姐さん」「対上条最終兵器」
などと呼ばれている。
彼女がいきり立っているのには訳がある。
冬休みに入り、常日頃から頭を痛ませる原因となっている男子生徒とも顔を合わせる機会が減り、少しのんびりできると思って
いたのにばったり会ったのだ。
しかも、会うなりいきなりそいつは「こんな時期なのに何の出会いも無い上条さんに優しい手を差し伸べてください!」などと抜
かして迫ってきたのだ。
当然、そんなあほなことをいう頭に教育的指導(なんだか周りを見ていて感じていた自分のいらいら含む)の渾身のヘッドバット
を喰らわせたやったわけだが。
というか、自分だってそんな出会いなんかあるわけないのだ。
なまじ相手が普段の言動に自覚の無い男だったので余計に腹が立ったのだ。
そんなことがあったので街の様子が一層気に障ってくる。
はぁ、と溜息をついて上を見上げる。
耳から入ってくる音楽は無理だが、こうしていればとりあえずカップル連れの姿を見ないですむ。
すると、吹寄はあることに気がついた。
「あ、月が大きい……」
見れば、どうやらもうすぐ満月になりそうな様子である。
後ろを通り過ぎるカップルの会話を漏れ聞くところによると、どうやら24日に満月を迎えるらしい。
よく言われるホワイトなんとやらにならなくても、月を眺めてロマンチックに〜などという言葉は右から左へ聞き流すが、月を眺め
るのも悪くは無いかも、などと思った。
ちょうど、寮の部屋にはこの間通販で買ったある品物がその他大勢と一緒に置いてある。
先だっての流星群が観測されると話題になったころ、夜星空をずっと見上げていても首が疲れず肩がこらないとの広告に惹かれ
て買ってしまったその名も『見上げるクン』、首に巻く保温性の覆いと頭を支える補助棒がついているものである。
肩が疲れずしかもアルファ波が出るとのことで勢いで勝ったはいいが、あいにくと予定の日は雨で使う機会が無かったのである。
「ま、使わずに置いとくのもなんだしね……」
そうと決まれば話は早い。早速寮に帰って準備をしようとさらに足を速める吹寄だが、さらにあることに気が付いた。
実はその商品、二個セットで買うとさらにお買い得ということで二個注文してしまったのだ。
届いた商品を見て自分のポカミスに恥ずかしくなったものだが、さて、どうするか。
実を言えば周りが浮かれている最中に一人寂しく月を見るというのもなんだかなぁ、というものだ。
いやいや、別に浮かれようなど気にするわけではないのだが、何となく『独り』じゃない『一人』でいるのもしゃくに障る。
となれば誰かを誘ってみるのもいいかもしれない。
「うーん……」
だが、生憎とクラスメイトの女生徒たちはそれぞれ予定があるらしいので、今から自分の思いつきに誘うのも気が引ける。しかし
このまま一人で見る訳にもいかない。どうするか。
世間一般では年末に向けて何かと忙しくなり、かつ、20日を過ぎればあるイベントに向けて大いに盛り上がる次期である。
超能力開発を目的として作られた学園都市においてもそれは同様である。
色とりどりのイルミネーションが煌びやかに町並みを飾って浮かれた雰囲気になり、道を行きかうのもその多くがカップルで
連れ立っている姿が多い。
そんな賑やかな喧騒の中で、不機嫌な様子で歩く学生の姿があった。
「まったく、クリスマスだのイブだのと浮かれまくって。私たち学生の本分はこんな浮かれているべきものでは無いでしょうがっ!
どいつもこいつも色恋に走りまくりやがってっ!!」
ぶつぶつと呟きながら苛立ちもあらわに大股でずんずんと進んでいくのは吹寄制理。
面倒見がよく、その委員長気質なところや、ある男子生徒に対する行動からも「頼れる姉御」「吹寄姐さん」「対上条最終兵器」
などと呼ばれている。
彼女がいきり立っているのには訳がある。
冬休みに入り、常日頃から頭を痛ませる原因となっている男子生徒とも顔を合わせる機会が減り、少しのんびりできると思って
いたのにばったり会ったのだ。
しかも、会うなりいきなりそいつは「こんな時期なのに何の出会いも無い上条さんに優しい手を差し伸べてください!」などと抜
かして迫ってきたのだ。
当然、そんなあほなことをいう頭に教育的指導(なんだか周りを見ていて感じていた自分のいらいら含む)の渾身のヘッドバット
を喰らわせたやったわけだが。
というか、自分だってそんな出会いなんかあるわけないのだ。
なまじ相手が普段の言動に自覚の無い男だったので余計に腹が立ったのだ。
そんなことがあったので街の様子が一層気に障ってくる。
はぁ、と溜息をついて上を見上げる。
耳から入ってくる音楽は無理だが、こうしていればとりあえずカップル連れの姿を見ないですむ。
すると、吹寄はあることに気がついた。
「あ、月が大きい……」
見れば、どうやらもうすぐ満月になりそうな様子である。
後ろを通り過ぎるカップルの会話を漏れ聞くところによると、どうやら24日に満月を迎えるらしい。
よく言われるホワイトなんとやらにならなくても、月を眺めてロマンチックに〜などという言葉は右から左へ聞き流すが、月を眺め
るのも悪くは無いかも、などと思った。
ちょうど、寮の部屋にはこの間通販で買ったある品物がその他大勢と一緒に置いてある。
先だっての流星群が観測されると話題になったころ、夜星空をずっと見上げていても首が疲れず肩がこらないとの広告に惹かれ
て買ってしまったその名も『見上げるクン』、首に巻く保温性の覆いと頭を支える補助棒がついているものである。
肩が疲れずしかもアルファ波が出るとのことで勢いで勝ったはいいが、あいにくと予定の日は雨で使う機会が無かったのである。
「ま、使わずに置いとくのもなんだしね……」
そうと決まれば話は早い。早速寮に帰って準備をしようとさらに足を速める吹寄だが、さらにあることに気が付いた。
実はその商品、二個セットで買うとさらにお買い得ということで二個注文してしまったのだ。
届いた商品を見て自分のポカミスに恥ずかしくなったものだが、さて、どうするか。
実を言えば周りが浮かれている最中に一人寂しく月を見るというのもなんだかなぁ、というものだ。
いやいや、別に浮かれようなど気にするわけではないのだが、何となく『独り』じゃない『一人』でいるのもしゃくに障る。
となれば誰かを誘ってみるのもいいかもしれない。
「うーん……」
だが、生憎とクラスメイトの女生徒たちはそれぞれ予定があるらしいので、今から自分の思いつきに誘うのも気が引ける。しかし
このまま一人で見る訳にもいかない。どうするか。
などと頭を悩ませていた時、ふとある男子生徒の姿が浮かんだ。
「なっ、何でこんなときにあいつのことを思い出さないといけないのよ!」
とひとしきり呟いていたが、他にいい案も思い浮かばず、さりとて、このままあの男を誘うというのも何だか気分が良くない。
「まぁ、あいつも出会いが無いとか騒いでいたし。ふむ、どうしようかしらね……」
すると、ちょうどそこに別のカップルの声が聞こえてきた。
『せっかくの満月が曇りだったらどうする〜』
甘々な会話はこの際置いておいて、その内容からヒントをもらうことにする。
「そうね、賭けてみることにしますか。その日がちょうど晴れてたら、あいつを誘ってみようかしらね。それなら面白そうだし」
こうして、吹寄の予定が一つ増えた。
現金なもので、そうなると今までつまらなかった周りの景色も別に気に障らなくなった。
それどころか、その日が早く来ないかと思うほどである。
一つの懸案事項が解決されて、すっかり気を良くした吹寄は足取りも軽く帰宅していった。
「なっ、何でこんなときにあいつのことを思い出さないといけないのよ!」
とひとしきり呟いていたが、他にいい案も思い浮かばず、さりとて、このままあの男を誘うというのも何だか気分が良くない。
「まぁ、あいつも出会いが無いとか騒いでいたし。ふむ、どうしようかしらね……」
すると、ちょうどそこに別のカップルの声が聞こえてきた。
『せっかくの満月が曇りだったらどうする〜』
甘々な会話はこの際置いておいて、その内容からヒントをもらうことにする。
「そうね、賭けてみることにしますか。その日がちょうど晴れてたら、あいつを誘ってみようかしらね。それなら面白そうだし」
こうして、吹寄の予定が一つ増えた。
現金なもので、そうなると今までつまらなかった周りの景色も別に気に障らなくなった。
それどころか、その日が早く来ないかと思うほどである。
一つの懸案事項が解決されて、すっかり気を良くした吹寄は足取りも軽く帰宅していった。
さてさて、彼女の賭けがどうなったのかは、一人の乙女の秘密である。