とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 3-355

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

「土御門ー土御門ー、あんたの妹、彼氏いたんだねー」
学園都市の高校の教室で、薄い茶髪をショートボブにした少女――桐嶋 透子(きりしま とうこ)が、にやにやとした笑みを浮かべ、いつものように青髪ピアスと談笑する土御門元春に、そう話しかける。
次の瞬間、ごぅっと風切り音が教室に響き、透子が教室の後ろ、窓側の角に押し付けられる。
「詳しく、聞かせて貰おうか」
がしぃっという擬音を鳴らし、透子の両肩を掴んで、土御門は詰問する。
「痛いんだけ・・・わ、判りましたぁ!」
透子の反論は、サングラス越しの目線で制され、そして茶髪少女の言葉で、物語は幕を開ける。
意訳すれば、透子のバイト先であるファーストフード店に舞夏と少年(茶髪少女もイイと思った)が来店し、二人で仲良くランチを楽しんでいたこと。女性向けの洋服店の紙袋を少年が持っていた事から、二人で買い物を楽しんでいたのかも、あと帰るときは舞夏が少年の腕を抱き締めるようにしていた、故に、彼氏だと思って・・・となる。
カップめんならば3つが完成するだけの時間を掛けてそれを聴きだした土御門は、無言のまま、透子を解放。
透子がその場に崩れ落ちるのを余所に、土御門は自分の席へと足を向ける。
「そういえば」
決して大きくはない、しかしよく通る声が、不気味な静けさに包まれる教室に響く。
教室にいた人間が声のした方を見ると、黒い長髪の少女、姫神がいた。
「彼、来てない」
姫神の視線の先には、土御門、青髪ピアスと共に、このクラスのデルタフォース(3バカトリオ)の一翼を成す少年、上条当麻の席があった。
「おい・・・まさか」
「いや、“旗男”ならあるいは」
「あの旗男・・・!」
誰もがまさかと思い、同時にもしやと疑いを拭いきれない中、がたんっ、と荒い音を立てて、一人の男が立ち上がる。
「つ、土御門くんー?んな怖い顔してどしたー」
冷や汗を浮かべ、若干呂律を狂わせ、青髪ピアスが問い掛ける。
「俺は、戦う理由を見つけた」
ぽつり、と呟き、土御門は教壇の上に立ち、そして教室を見渡す。
「勇猛果敢な紳士淑女諸君!」
日頃の軽い言動からは想像できない真面目な声で、土御門は言う。
「諸君らが感じている不満を俺自身、ここ数ヶ月、身を以て体験してきた。数多のフラグの乱立、周囲を顧みぬラブコメディ――俺たちは、耐えに耐えてきたのだ」
静まりかえった教室で、廊下で、土御門の演説は響く。
「しかし、それも今日で終わりだ。今日という日は、我々にとって大いなる歴史的転換点となるだろう」
言葉を切り、そして続ける。
「フラグの力を無自覚に行使し、我々に辛酸を舐めさせてきたかの少年に、俺は制裁を加える!」
誰かが息を呑む音が、妙に大きく聞こえる。
「諸君等に問う。フラグは旗男のみのものか?!」
「否!否!否!」
第二次世界大戦のとある国のとある国防軍の兵士のように、クラスメートは答える。
「ならば諸君等に問う。諸君等の敵は誰か?!」
「旗男!旗男!旗男!」
いつの間にかクラスに集結した他のクラスの生徒達も、いっせいに唱和する。
「――俺は、この歴史的転換点を、諸君らの様な勇士らと共に迎えられたことを深く感動している!そして、俺たちの胸には一つの誓いがある。その誓いとは!例え如何なる困難があろうとも、我ら反旗男解放戦線は今日のように揺るぎなく、永久に不滅であろう!」


「立ち上がれ、諸君!そして我に続け!いまこそ真の自由を、奪われたフラグを取り戻すのだ!」
土御門の演説は、教室を埋め尽くす怒号で締めくくられ、土御門率いる兵士達は教室を出撃した。
後には、気絶したままの茶髪少女と、席についたままの姫神、握り締めた拳をわなわなと震わせる吹寄、そして
「ななななんですかーこれはっ!」
教室の入り口で、一部始終を見ていた幼女にしか見えない女性、我らがミニマムティーチャー小萌先生。
「まったくもー、まるで学生闘争みたいですよー授業もあれくらい真面目にやってくれればいいのに」
ぶーたれながらも教壇に立ち、閑散とした教室を見渡す。
「さーて、取り敢えず朝の会「「先生」」
小萌先生の声を遮り、姫神と吹寄が立ち上がる。
「急用が出来たので、早退します」
「私も。同じ」
二人の少女は言い放つと、鞄を手に、教室を去ろうとする。
「まちなさいー二人揃ってどこ行く気ですかーっ!」
二人は立ち止まって振り向き、そして答える。
「「戦いに」」
そう言い残し、二人は校則を無視し、廊下を駆けてゆく。
後には、ご立腹の小萌先生と、気絶したままの透子が残されるだけ。



Part:2/上条の寮

さて、時は土御門率いる解放戦線が教室を飛び出す少し前へと遡る。
件の“旗男”―――――上条当麻は困惑していた。
(あれ~、一体なぜこんな状況になったのでせう?)
自問自答を繰り返しながらも右手を使い降り注ぐ雷撃の槍―――もはや、雨と称しても問題ない量のそれを防ぐことは忘れない。そして防ぎながら上条は今に至るまでを振り返ってみた。
始まりは呼び鈴を鳴らす音だった――――ピンポーンッ♪…………返事がない。
来客は少し考えた後………ピンポピンポピンポピンポーン♪♪呼び鈴を連打し始めた。
「だぁ~~~、今出るから連打は止めろ!……いや止めて下さい!!ちょッ…!」
ピンポ♪ピンポーン♪ピンポーンッ♪
(軽くスルーされたッ!?しかも、なんだかリズミカルに!?)
訪問者は当初の目的を忘れたのか、上条の呼びかけを無視し、呼び鈴を鳴らすのに夢中になっているようだ。
それを認識した上条は、学校の準備を中断して慌てて玄関に向かった。
「はい!今出るから!!だからマジで連打を止めて下さい!ってか止めろ~~」
そう叫びながら、上条がドアを開けるとそこには、隣人である土御門の義妹の土御門舞夏と、ビリビリこと「超電磁砲」の御坂美琴が――――――――――――――――
メイド服を着て立っていた。
「…………………………………ハァ~~~~~~!?」
思考停止から一分程が経っただろうか、ようやく上条は現実を認識し始め、とりあえずドアを閉めた。
(イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、ナンですかコレッ!もしや新手の魔術師か!?それともオヤジがまた大魔術を無意識に発動させたのか!?)
上条は混乱しながらもそこまで考えを進め同時に落ち着いてきた頭で玄関に目を向けると、
せっかくの来客をいつまでもドアの前で待たすのもなんだと思い再びドアを開けようとした瞬間―――――――
「だ、か、ら、早く開けなさいよ~~~!!!」
という今までスルーされ続けていた御坂の叫びと、バチッという音が聞こえ、ドアが宙を舞った。
「はぃ~~~ッ!?」

「御坂御坂ーそろそろ止めないかー?つーかご主人様に電撃喰らわすなんて、メイドとしてアウトだとおもうぞー」
上条家に於ける絶望的かつ熾烈な攻防戦は、土御門舞夏の声で停戦となった。
「・・・それもそうね」
雷撃を止め、しかし相変わらず怖い目で上条を見据えたまま、美琴は言う。
「一体全体何なんだこの状況は!とカミジョーさんはパニクりつつも状況説明を求めます!」
肩で息をしたまま、かなり混乱した上条が眼前のメイドさん達に問い掛ける。
「これは・・・か、課外授業なの!」
「・・・はい?」
「なんども言わせんなぁ!課外授業でメイドの実直研修ってのがあって、それでやむを得ずあんたのとこに来たって訳!ね、舞夏」
「お、おー。そうだなー」
「そう!ってことで、今日1日、あんたは私の課外授業に付き合ってもらうから!」
「お、ぉぅ・・・いやつーか私は学校があるのですがそちらはどうすればいいのでせう?」
「良いわね?」
「・・・はい」
初弾命中から僅か数秒、上条当麻は大破轟沈した。
(まったく、御坂も素直じゃないなー)
そんなやり取りを見つつ、舞夏は心中で呟く。
(一緒に居たいならそう言えばいいのになー)
無論、課外授業なんて真っ赤な嘘だが、この少年はそれに気づいてはいない。
(ま、そこがいいとこでもあるんだがなー)


Part:3/上条の寮の近く

反旗男解放戦線(A.F.R.F.)が出撃してから10分ほど、吹寄と姫神は極端に人口密度の低い学生寮街を駆けていた。言うまでもなく、目指すは上条当麻の自宅である。
「急がないと。今回は。本当に危ない」
巡航としてはかなりのハイペースを維持したまま、姫神が言う。
「うん。ったく、うちのクラスの連中はなんでお祭り騒ぎになると一致団結するかなー」
「・・・彼が。関わってるから?」
「多分、いや確実にそうね。ったくあの旗男が――ん?」
不意に吹寄が立ち止まり、そして疑問を投じる。
「待って、おかしくない?」
少し先行した姫神が振り返る。
「場の流れであのバカが舞夏に手を出したと思ったけど・・・もしあのバカが相手だとしたら、なんで桐島さんはそう言わなかったの?」
「・・・言われてみれば。確かに」
「気になるな・・・」
「なら。確かめてくればいい。上条君の様子は。私が見てくる」
吹寄を見据えたまま、姫神は言い放つ。
「・・・あの混乱の中、辿り着ける?」
「・・・」
姫神はそれに答えることなく、ただ口元を真一文に結び、吹寄を見据える。
「・・・わかった」
先に折れたのは、吹寄だった。
「コイツで決めよう」
そう言って、ポケットからコインを取り出す。
「表なら、貴女がアイツの家に行く。裏なら、私がアイツの家に行く」
「わかった。それならいい」
「じゃ、いくよ」
――――――――――チャリーンッ……………パシッ!
弾かれ空高く宙を舞ったコインは、回転しながら本来の持ち主である吹寄の手に収まる。
「…………開けるわよ?」
「うん。開けて」
吹寄の問い掛けに対して、姫神は僅かな緊張感を含んだ表情ながらも決意のこもった声で応えた。
それを確認した吹寄は、満足そうに笑った後、手を退かした。
「…………………………………表」
(……やった!)
思わずあげかけた歓喜の声を心の内側に抑えつけながら姫神は、吹寄の様子を窺う。
「………表ね。じゃあ、貴女にアイツの事は任せるわ。」
(あ~ぁ、肝心な時は、上手く行かないものね)
そんなことを考えながら、しかしそれを表に出すことなく吹寄はそう言い、頭を瞬時に切り換えた。
(ともかくあの子にもう一度話を聞く必要があるわね。)
今後のとりあえずの方針を決めると、姫神に向かって、
「また後でね」
と言い、返事を待たずに学校へと走り始めた。
「あっ……………」
(行ってしまった。)
もの凄い勢いで走り去った吹寄を見やりつつ、ため息をついた。


Part:4/高校の近く

(教室から出たときは気絶したままだったから、いるとすれば・・・保健室か)
そんな事を考えつつ、一度来た道を駆け戻り、見慣れた校門を抜け、自分のげた箱から内履きを出して、速攻で履き替える。
(よーし、まだ帰ってない)
茶髪少女の靴箱を覗き、革靴がまだあることを確認。そして、保健室を目指し走り始める。
(それにしても、なんであんな事言ったのかな?)
古びた廊下を駆けながら、吹寄は今朝の出来事を反芻していた。
普通の学校ならば笑い話に終わるかもしれないが、相手はこと妹に関してはハートマン先任軍曹以上の恐ろしさを発揮するシスコン軍曹土御門だ。大騒ぎになることは簡単に想像できる。
(直接、聞くしかないか)
結論をだすと共に保健室に到達し、古びた扉を軽くノック。
「失礼します」
控えめにそう言って扉を開き、うっすらと消毒薬の匂いが漂う室内へと足を踏み入れる。
「すいません、桐島透子さんは?」
「んー?さっき起きて、もう教室に戻ってると思うけど」
吹寄の問いに、保健室担当の美人女性教師が答える。
「ありがとうございます、失礼します」
必要最小限の言葉だけを残し、吹寄は退室し、自らの教室へと廊下を駆ける。最早校則なんて無いも同じだ。
(革靴がまだあったってことは、まだ校内にいるはず・・・!)
階段を駆け上がり、教室の扉を乱暴に開く。
「桐島さん!」
だが答える者はいない。少女の席を見やると、先ほどはあった鞄が無くなっている。
「逃がしたか・・・いや、まだ間に合う!」
悔しそうに呟き、今度は玄関へと駆け出す。
震える両足を叱咤激励し、玄関に入り、少女の靴箱を開く。
女子生徒用の赤い内履きが、そこにはあった。
「--っ」
校門へと至る道を見やるが、そこに人影はない。
「逃がした--っ」
悔しそうに呟き、両手を握りしめる。
10秒程そうして冷静さを取り戻し、鞄に手を入れて、携帯電話を取り出す。慣れた手つきでアドレス帳から番号を呼び出し、コールする。
液晶には、「姫神 秋沙」の文字。程なくして、少女の声が電話から聞こえる。

「・・・もしもし?」
感情をあまり表に出さない姫神のしては珍しく、その声はどこか精気を欠いていた。
「大丈夫?」
意図していた言葉は頭から消え、思わず心配の言葉を投げかける。
「私は・・・平気。大丈夫だから。そっちの首尾は?」
それを察したのだろうか、姫神はこちらの心配が杞憂と思えるような力強い声でこちらの首尾を問う
(――強いな)
吹寄制理は素直にそう思う。
姫神は大覇星祭の最中、怪我を負い病院に搬送され、途中脱落した。やっとクラスにも馴染み始めたにも関わらずだ。なのに、彼女―――
姫神は見舞いに行った私達に対して、「大丈夫。」と微笑んで見せたのだ。
大丈夫な訳がない。彼女にとって初めての学校行事だったのだ。悔しかっただろう………しかし、それを全く表に出さず、見舞いに来た私達を励ますような彼女
は、強く、美しく見えた。その姿を瞼の裏に思い起こしながら吹寄は、下手な慰めなどではなく、相方への万感の思いを込め報告を始めた。
「ごめん。逃がした」
「・・・そう」
姫神は“逃がした”という言葉に対する疑問を抑え、続きを促す。それを受け吹寄も応える。
「やっぱり何かがおかしいわ。桐島さんとは表向きには入れ違いになったんだけど・・・どうにも私達を意図的に避けてるようにしか思えないの」
「・・・」
無言で何かを考えている姫神に重ねて言う。
「早退したって考えるのが妥当かもしれない、でも何かが引っかかるの」
姫神は吹寄に対し、一言投げかける。
「―――――なら、どうしたい?」



『-----なら、どうしたい?』
「きまってる。桐島さんを見つけて、あの話の詳細を聞き出す。唯一の手掛かりを逃すわけにはいかない」
静かながら芯のある問いに、凛とした答え。
『――わかった。お願い』
「任せて。そっちはお願いね」
『うん。それじゃ』
電子音が通話終了を告げ、液晶が待ち受け画面へと戻る。
「さて・・・どうするか」
携帯を鞄の定位置に戻し、腰に手を当てて考える。
(桐島さんの連絡先は知らないし・・・誰かに聞こうにも、ウチのクラスは全員A.F.R.F.に参加中で、聞けるとは思えない、か・・・)
右手を顎にやり、更に考え込む。
静寂の中、制服が擦れる微かな音がする。
どこかの教室から、最早天然記念物に指定されそうなくらい数が減った熱血体育会系教師の、廊下に立っていろと言う声が微かに反響して聞こえてくる。
(・・・そうだ、小萌先生なら知ってるはず)
決断。そして職員室へと続く廊下を歩き、他の教室と同じく古びた扉を叩く。
「失礼します」
本日二度目の台詞を言い、職員室へと入る。
教室2つ分の空間に設置された大量のデスク。奧には応接室や校長室へと続く扉があり、左手には大きな窓が、右手には教科書や参考書、辞書が詰め込まれた本棚がずらりと並ぶ。
ざっと室内を見渡すが、探し求める人はいない。小さいから死角にいるのかも、と背伸びしてみるが、やはりいない。多分、授業に出ているのだろう。
「おー、どうしたミスセイリさん。どうしましたか?」
比較的入り口の近くの席で、「ナウでヤングな若者語」と書かれた本を読んでいた英語担当のカナダ人教師、皆にアダムと呼ばれる教師が、くるりと向き直ってそう問いかける。
「小萌先生を探しているんですけど、いないみたいですね」
「あぁ、彼女なら授業中だよ。急ぎの用なら呼び出そうか?」
「あっいや、大丈夫です。ちょっとクラスメートの連絡先をお聞きしたいだけですから」
内線電話を手に、白い歯と爽やかかつ眩しいスマイルを振りまくイングリッシュティーチャーアダムを、慌てて制止する。
「そうか・・・で、知りたいのはトウマ君の連絡先かな?」
「なっ・・・なんでそうなるんですかっ!」
だぁんっ!とデスクを力いっぱい叩く。
「あーごめんなさい。さっきも彼の連絡先と住所を聞きに来た生徒がいてね、つい」
両手を合わせ、頭を下げて謝罪。滑稽だが、彼の精一杯の謝罪の現れだ。
「――さっき早退した、桐島透子さんです。かなり具合が悪そうで、心配になって」
大方、A.F.R.F.の誰かだろうと当たりをつけて、要件を嘘を加えて伝える。
「ミストウコさんのアドレスね・・・OK、ちょっと待ってて」
顔を上げ、何故か少し楽しそうな顔を浮かべ、アダムはキーボードを叩く。
「あった。今プリントするよ」
うぃぃぃ、という音を立て、机の隅に置かれた小型プリンターからコピー用紙が吐き出される。
「はいこれだ。ちょっと離れてるね。ここからだと、バスで行くことになるね」
コピー用紙を手渡しつつ、アダムは言う。
「そうですね、さすがに隣の学区まで歩きはキツいですから」
ゴシック体でタイプされた文字を見やり、折りたたんで鞄にしまいつつ、吹寄は答える。
「ありがとうございました。失礼します」
そう言って軽く一礼し、吹寄は職員室を後にする。
「ちゃんと授業後に行くんだよー」
去って行く背中に言葉を投げ、アダムは読みかけの本を手にする。
(さっきはミストウコさんがトウマ君のアドレスを聞きに来て、今度はミスセイリさんがミストウコさんのアドレスを聞きに来た・・・いや、青春だね)


Part:5/上条の寮

土御門率いるA.F.R.F.の精鋭、規模にして一個小隊30名は、3つの分隊に散会し、上条当麻の自宅がある学生寮で突入の機会を伺っていた。
一つは、一階の正面玄関に布陣する、射撃同好会の会長であるポニーテールの少女が率いるC分隊。
一つは、非常階段から迂回侵攻する、青髪ピアス率いるB分隊
そして、エレベーターから侵攻する、土御門率いる主力のA分隊。
「土御門、他の連中から連絡があったよ」
「作戦中だ。隊長と呼べ」
念動力系の能力者であり、小隊の通信を担う少女の報告を、土御門が遮る。
「・・・失礼しました。B、C分隊より入電。戦闘配置完了」
「わかった」
そう言って、土御門は立ち上がり、待機する兵士たちの先頭に立つ。それを合図に、能力者は自らの力の準備を始め、能力無き者は、エアガンやらガスガンを構える。
「時間だ。状況を始めろ」
簡素で静かな命令。それを合図に、A分隊の兵士達が一斉に動く。
先頭の兵士が扉を開き、2番目の兵士が玄関を制圧。3番目がバスルームを制圧し、4番目以降がリビングを制圧する。
教本通りの室内突入をこなす級友達を見やり、土御門は満足げな笑みを浮かべた。
「・・・誰も、いない?」
リビングに突入したひとりが呟き、次いでバスルームやトイレを制圧した兵士も
同じ事を報告する。
「他の分隊から連絡は」
「各分隊、接触していません」
「逃げられたか・・・」
土御門は呟くと、通信担当の少女を見やり、そして令する。
「各分隊より偵察を出せ。そう遠くにはいないはずだ」
風が鳴り、一度言葉を切り、そして続ける。
「旗狩の時間だ」


Part:6/上条の寮の近く

「よし!恒例の“アレ”行くぞっ!テレビの前の子も一緒に!せ~~~のっ・・・不幸だぁ~~~~~!!」
噂の彼こと、上条当麻は辺りを窺いながら走りつつ、そう叫んだ。
(ナゼ、コンナコトニ?)
思い返しても、全くもって意味が分からない。とりあえず、電話が掛かってきて―――――

土御門率いるA.F.R.F.が、旗狩り作戦展開の為の準備を進めている中、上条はソワソワと正座をしていた。対面には御坂が同じように正座している。
最初は学校を理由に断るつもりだったのだが、強引に了承させられた上条に、
「ま~、い~じゃん、い~いじゃん、メイドさんを雇うのは男のロマンなんだろ~?それに~、御坂じゃ不満なのか~?」
舞夏が御坂を指して言うと、御坂は肩をビクッと震わせ、顔を赤くした。
「・・・ちょっと、土御門―――」
しかし相手は上条である。御坂のそんな様子に気づくことも無く、
「・・・なぜソレをッ!まさか土御門から聞いたのか~!?あの野郎」
ブツブツとここに居ない胡散臭さ満載のグラサン野郎に呪詛を吐いていた。
そんな上条と御坂を見やり、
(はぁ~、先が思いやられるな~)
と物思いに耽る舞夏だったが、閃いたとばかりに口元を笑みの形に歪め―――未だ呪詛を吐き続ける上条と、固まっている御坂に向かって口を開いた。
自分の世界へと飛び立っていた2人にとって、次の言葉は予想外だった。
「それじゃ~、御坂~、私は行くけど後は頑張るんだぞ~」
「「・・・へっ?」」
思わず顔を見合わせる上条達に対し、
「私は~、寮に戻って~ご奉仕しないといけないんだな~~~」
唖然とする二人に、もう用はないとばかりに背を向け舞夏は去っていった。
後にはあまりのことに声すら出ない2人が残った。
今日は銀髪シスターもおらず、家には上条と御坂のみがおり、お互いに妙に意識してしまう。
意を決して話しかけようとした上条だが、
「「・・・あのさ」」
見事にハモってしまい膠着してしまう。
かれこれ、一時間もした頃だろうか上条の携帯が鳴った。


Part:7/上条の寮の近く

(これは。かなりまずい)
吹寄と別れてから10分後、学生寮街の一角、噴水のある広場の片隅で様子を伺い
つつ、姫神は呟いた。
視線の先では、一度解散したA.F.R.F.達がエアガンやガスガンといった武器を手に再集結しつつあり、総司令官たる土御門が部隊編成を行っている。
残された時間は、後僅か。
そう判断した姫神は、鞄からまだ新しい携帯電話を取り出し、あまり多くはないアドレス帳から番号を呼び出す。
(お願い。出て!)
数回の煩わしい呼び出し音の後、相手が電話に出たことを示すカチャッという音が響く。
「上条君。今。家にいる?」
『姫神か?』
電話の向こうから、聞きなれた少年の声が響く。
「まだ。家にいるの?」
『おう。あー、悪ぃ、ちょっと今立て込んでて学校行けそうにな』
「今すぐ。そこを離れて。大変な事になってる」
自分でも驚く程キツい声で、そう告げる。
『――っ。まさか、魔術側が?』
それまでとは打って変わり、真剣な声で上条は問い掛ける。
「そうじゃない――」
次の言葉を言うより早く、A.F.R.F.が移動するのが見えた。
「説明してる時間がない。早く逃げて!」


Part:8/上条の寮

(・・・どうすればいいのよ)
気まずい沈黙が降りる中、御坂は舞夏とのやり取りを思い出す。
「御坂、御坂~」
とある土曜日の放課後。いつものように食堂でうだうだしていると、課外奉仕活動とやらで常盤台中学の寮で奉仕活動を行っている舞夏が話しかけてきた。
「何度も言うようだけど土御門、仮にも奉仕中なんだから、雇用者側のあたしに対して呼び捨てはどうかと思うわよ?」
「私と御坂の仲じゃないか~」
(………そーゆー問題だろうか?)
なんだか納得の行かない様子の御坂に対して、
「寮監もいないし、へっちゃらだ~」
本来、人に仕える事を喜びにするメイドという幻想を殺しそうな問題発言を重ねる。
「まぁ、あんたがそれでいいなら良いんだけどね」
自分の中で沸き起こる葛藤を頭の隅に追いやる。
「それで?どうしたのよ?」
「前やったチェスのペナルティで~“1日誰かの専属メイドにな――」
「ゴメン、よ、用をお、思い出したわ、わ」
しゅたっと手を掲げ、引きつった笑顔で走り去ろうとする御坂の方をガシィッと掴む舞夏。
「だからほら~、御坂用に~、メイド服を見繕ってきたんだぞ~」
笑顔を浮かべ、右手で御坂の肩をつかみ、左手でゴスロリ風メイド服を掲げてみせる舞夏。
(ニッコリと微笑んでるけど、目、目が笑ってない)
冷や汗をかきつつも抵抗を試みるが無駄に終わる。
「・・・そ、そうだったかしら?」
「そうだったぞー。あ、一応言っとくけど、この状況からは逃げられないぞ~。逃げた場合は上条に~“アノ”写真を見せるからな~」
「…………ッ!!」
(そんなのあり~!?)
先日、舞夏がチェスの勝負を挑んできた。
ただ勝負するのではつまらない、ということからペナルティをつけることになった。そのときに舞夏が出した条件がこうだ。
勝ったらアイツ―――上条の事をなんでも教える。ただし、負けたら言うことを一つ何であっても聞かなくてはならない。その餌に釣られた御坂は、舞夏の邪悪な笑みにも気づかずに、表面上は如何にも興味がなさそうに―――内心では、拍手喝采を行ったのだ。
勝負の結果としては―――負けた御坂が、負けを取り戻そうと再勝負を挑んでは負け、恥ずかしい写真を撮られ、更に巻き返そうと勝負を挑んでは負けを重ね、今に至る。
「まさか、“超電磁砲”の御坂が約束を破らないよな~」
この言葉に反応したのが行けなかった。その後は早いもので、気がついた(現実を認識した)ら、上条家の玄関におり、なんとなぁ~く気まずい空気に身をまかせていだのだが・・・電話が鳴った。

「悪りぃ御坂、ちょっと出させてもらうぞ?」
返事の代わりに首を縦に振る。それを見た上条は、
「姫神?」
着信相手の名前だろうか?姫神という相手と話し始めた。
「おう。あー、悪ぃ、ちょっと今立て込んでて学校行けそうにな」
いかにもやる気のなさそうな声と表情で応えていたが、急に真剣な表情に変わると、
「――っ。まさか、魔術側が?」
それまでとは打った声で上条は問い掛けている。
(・・・魔術?)
意味が分からないが、そういえば彼が夏休みに、
『魔術師って知ってるか?』
と言っていたことを思い出す。そうして思案に更けている御坂の意識を、上条の声が現実へと引き戻す。
「おぃ!姫神ッ!?・・クソッ!!」
彼は急に立ち上がると御坂に向かって言った。


「逃げるぞ」
携帯を握り締めたまま立ち上がり、上条当麻は言い放つ。
「ちょっ――体何があったの?」
「説明は後だ!早く逃げるぞ!」
問いには答えず、代わりに御坂の手を取り、半ば強引に立ち上がらせる。鍵の壊れた扉を開き、廊下を曲がり、無骨な非常階段を一気に駆け降り、閉ざされた非常扉を開く。
周囲を見やるが、追っ手のらしい姿は見えない。
「こっち。早く!」
声の方を見るやと、寮と寮の合間の路地の入り口に、半ば隠れるようにして姫神がいた。
「やっぱり。こんな状況でも。君は君なんだね」
上条と御坂。手を引くものと手を引かれる者を一別し、安心したような、呆れたような声で姫神が呟く。
「何があったんだ?」
姫神の呟きが聞こえなかったのか、真面目な表情のまま、上条は問い掛ける。
「・・・心当たりはない?」
「・・・ない」
「本当に。知らない?」
「マジで知りません」
「上条君が。舞夏に手を出したって話しになってて。土御門君と学校のみんなが怒って。討伐に来てる」
「・・・はい?」
「・・・アンタって奴は・・・最低」
真面目な表情でそう告げる姫神に対して、呆然とする上条。そして背景に電撃を伴い、目を細めて呟く御坂。
「いやちょっと待ってください!私めはそんなことした覚えは全く御座いませんことよって!だから電撃はやめてくださいっ!」
飛来する電撃を右手で迎撃しつつ、上条当麻は必死に弁解する。
「――静かにして。追っ手が来た」
上条の部屋がある棟に視線を固定したまま、姫神が二人のやり取りを一刀両断する。
「上条君は。逃げた方がいいと思う」
突入するA.F.R.F.を見やり、姫神は言う。
「姫神はどうするんだ?」
「舞夏を探してくる。本人がいれば。誤解は解けると思うから」
「だったら、私も探すわ。多分学校にいると思うし」
「おぅ・・・けど、御坂は寮に戻ったほうがいいだろうな。巻き込むわけに――」
「・・・さっき言ったこと、もう忘れたの?」
上条の言葉を遮り、覗き込むようにして視線を合わせ、御坂は言い放つ。
「今日一日は私に付き合うって」
「けどよ・・・」
「だぁー!ここでグダグダ言っても始まらないでしょ。アンタと私、姫神さんとで手分けして舞夏を探せばいいでしょ」
「・・・私も。それでいいと思う」
「わかったよ」
「それじゃ、行こ」
そう言って、御坂は上条の手をとる。
「姫神」
振り向いて、上条は言う。
「無理、するなよ」
「・・・うん。わかった」
微かに微笑んで、答える。
上条も笑ってそれに答えると、御坂の手を引いて路地の奥へと進んでいった。
「やっぱり。どんな時でも。君は君なんだね」
誰にでもなく呟き、二人が去っていった方を見やる。そして、今いる路地へと向かう兵士たち――青P率いるB分隊のいる方へと駆け出す。


姫神と別れてから5分ほど、学生寮街の外れに位置する路地を、二人は駆けていた。
「とりあえず、お前の学校行って、舞夏を見つけて――」
「真偽を確かめて、騒ぎにケリつけるんでしょ」
「おぅ――にしても、なんでんなデマが流れるかな・・・」
「――本当に、何もしてないでしょうね」
「本当だっ・・・てとぉぅ?!」
上条の弁解を遮り、BB弾が二人の間を掠める。
「見つけたぞ!メイドも一緒だ!」
「本隊に通報。我、旗男を捕捉。交戦に突入せり」
「制圧射撃!メイドには当てるな!」
「旗男をヤレェ!」
コンバットかつ物騒なセリフが背後から飛び、次いでBB弾が次々と二人の周囲に命中する。
「きゃっ?!」
御坂の悲鳴。次いで繋いだ左手が離れる。
足を止めて振り向くと、御坂が転倒してるのがみえた。
「大丈夫か?」
「大丈夫、スカートが絡んだだけ」
御坂は、そう言って立ち上がり、真剣な目のまま微笑んでみせる。
「上条当麻!おとなしくその娘を解放しなさい!」
そんなムードをぶち壊し、少女の声が路地に響く。
振り向くと、身の丈の3分の2はある狙撃銃を背中に担いだ少女がいた。女子用の制服の上に、やたらとポケットがついたジャケット姿。被ったキャップには「shooting_freaks」の文字が刻まれている。
「それと。命令に従わぬ場合、私達は実力行使も持さないので、そのつもりで」
言を紡ぐ間にも、少し遅れてきたクラスメートたちが、元来た道を塞ぐように展開する。
能力者は少ないが、その代わりに皆小銃や機関銃のガスガンを装備し、おまけに統制が取れている。
「――」
「――」
御坂と目を合わせると、無言の頷きが帰ってきた。次いで、上条の左手が握られる。
「聞こえないの!?早くその娘を解放しなさい!」
その声を合図に、二人は回れ右し、再び駆け出した。
「動かないで!」
ポニーテールの少女の声が響くが、二人はそれを無視し、手を繋いだまま走り続ける。
瞬間、上条の眼前の地面が弾け、数瞬遅れて銃声が響く。
一瞬だけ振り向くと、ポニーテールの少女が体操座りの体制で狙撃銃を構えているのが見えた。
「なんで一般生徒が本物(実銃)もってんのよ!」
「射撃同好会の部長なんだよ!部員はあいつしかいないけどな!」
半ばヤケクソに解説しつつ、別の路地へと駆け込み、そして幾らも行かないうちに立ち止まる。
「「行き止まり?!」」
to be continue


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー