◇◇◇
到着した選手は後続の選手が到着するまで競技会場から離れてはならない。
短距離走ならそんなに長くはないだろう、しかしマラソンなら1着の選手はかなりの時間待たされることになる。
完走率30%以下の難関競技であるこの競技もご多分に漏れず競技時間はかなり長めだ。おそらく大覇星祭の午前中に行われる競技では最長時間だろう。
といっても全部の種目に全部の学園が参加するわけではなく、学園都市の各地にある競技会場で同時進行で行われていくのだ。
同じ学園でも違う学年はいまごろ別の競技に汗を流している頃だろう。
「ふー、なんとかなったぜ、この競技考えたやつがいたら上条さんは必殺の右ストレートを叩き込むところですよ、はい」
シュッシュッ、競技場の端っこの芝生でドカっと腰を降ろしてシャドーボクシングの真似事をしながら上条は隣に座った白井黒子に話しかけた。
白井はそんな上条をチラリと見て、目を逸らしてしまう。
そんな態度に既視感を覚え、んっ?と視線をそらした先に回りこんで白井の目を覗き込んでみる。
「ちょ・・・ジロジロとみないでくださいな」
放たれる言葉自体はアレだが口調は別に嫌がってるわけではなさそうに聞こえた。
「顔が赤いぞ、白井。熱でもあんのか? どれどれ」
顔を赤くしてこわばる白井の前髪を左手で掬い上げて上条は自分の額を白井の額にコツンと当てる。
「うわ、なんかあついぞ!?風邪か!?」
「ち、ちがいますわよ、風邪なんかじゃないですわ」
思わぬ急接近で余計に顔を赤くしたツインテールの少女は思いっきり動揺しながら両手をワタワタと振って否定の意を伝える。
「そういえば、さっき走ってる途中でお前舌噛んでたな、大丈夫だったか?見せてみろ」
上条は優しげな笑みを浮かべてから、ベーってしてみろ、とジェスチャーを交えて更に接近する。
その無防備さに白井はおもわず、け、けっこうです、とうろたえまくり顔を真っ赤にしながら拒否する。
無理やり連れて来たからおこってんのかなぁ? 上条は頭をポリポリと掻きながらいまだに下を向いてブツブツ言う白井から視線を動かして。
自分の肩にかけてある大きめのスポーツタオルに目を落とした。
検索・・・風邪の症状・・・発熱 発汗 倦怠感 などの症状が現れる。 対処方法・・・汗をこまめにふき取る 水分補給
そんな情報を自分の頭から引っ張り出すと、近くにいた運営委員の学生に
「わりぃ、飲み物とかあるかな?」と聞いてみた。
運営委員は上条の事をチラッとみて自分の足元にあったクーラーボックスを開いてスポーツ飲料のペットボトルを渡してくれた。
サンキュー、そう運営委員に言うと500mlのペットボトルをもって再び芝生で座り込んでた白井黒子の元に歩いていき
白井の頭に自分の肩に掛かっていた大き目のスポーツタオルを被せた。
白井がスポーツタオルの隙間から、なんですの?といった感じの視線を向けてくる。
上条は白井と視線の高さを合わせるようにしゃがみこんで
「日差し強いとキツイだろ、これでも被っとけよ、大分違うらしいぞ。」
タオルの上から白井の頭をポンポンと軽く叩いた。
そして白井の隣に回ってドカッと腰を下ろして左手でニュっと白井の顔の前に先ほどもらってきたスポーツ飲料のペットボトルを差し出した。
怪訝そうな瞳で上条を見てくる白井をニコっとさわやかに見つめ返して
「水分もしっかり取っておけよ、日射病も体力が落ちてる人間には結構危ないからな」
そんな優しげなことを告げた。
ありがとうございます・・・ですわ、と小動物のように両手でペットボトルを受け取ってグビグビっと飲み始める白井の姿を確認して満足そうに微笑んだ。
一息ついて上条が視線を空に向けたとき
「へぇ・・・アンタ達、随分と楽しそうじゃない」
太陽を背にして青白い火花を体のいたるところからバッチンバッチンさせた御坂美琴の姿を発見した。
◇◇◇