とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 2-154

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匿名ユーザー

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「学園都市にいる学生達の為に『中』と『外』を比べて見せるようにしてるわけだけど、そうやって『外』か
らやって来た企業にしてみれば、せっかく普段は見ることの出来ない学園都市に入ったんだから、自分
たちが持ち込んだ技術や情報を見せるだけじゃなく、都市内にあるものを見ようとしたって不思議はない
じゃん。だけど、都市内ならともかく『外』から来た部外者に貴重なデータをそう簡単には見せるわけが無
いだろうし、そうした外部向けの為に社会見学祭に参加している各企業や研究機関の内容を紹介してる
のが『パンフレット』ってわけじゃん」
 黄泉川の言葉に上条が聞き返す。
「『パンフレット』が作られた理由は分かりましたけど、別にそんなの俺らに教えてくれててもいいんじゃな
いっすか?」
「いやいや、そうもいかないじゃん。学園都市が持っていたり都市内の研究機関が保有する技術や情報
は管理が厳しいからね。ちょっとした物でも取り扱いにはうるさいのよ。だから、サンプル品扱いで出され
ている物の遣り取りには色々な制約が絡んでくるじゃん。その一つである『パンフレット』だっておいそれと
は上げるわけにはいかないんじゃん」
「え? あれって、サンプル品なんですか?」
「そうじゃん。いくら簡単な紹介だからって、学園都市にある技術の一端を解説してるんだよ? 然るべ
き規制を掛けない事にはそこから辿られた情報を持って行かれる事だって有り得る訳じゃん。そうした事
を防ぐために、学園都市にある印刷・出版関係に属する所が集まって作るのがあの『パンフレット』なわ
けじゃん」
「なんか凄そうっすね」
「実際凄いじゃんよ。普通に読むのはいいけどそれをデータとして残そうとするのは出来なくなるようにし
てあるし、時間経過とともに文字のインクが劣化していくから祭りが終わった後に『外』に持ち出そうとして
も意味が無くなる様に出来てるじゃん」
 ちなみに、黄泉川が語るとおりである。
 肉眼で見る分には気が付かないが、特殊なインクと製紙を使った製本のために、不可視域のレベルで
出る反射光がちょうどジャミング効果のように働き、対象を光学的に捉えるカメラはもとより、電子的に保
存するデジタル機器に対してもコピーを取る事は不可能と言える。さらに、紙自体も特殊な処理がなされ
ている為にページに直接上書きして内容を残す事も出来ず、加えてインクとの反応により祭りの期間が
終わる頃には文字が識別できないようになり、ただの分厚くて重い紙の束に成り変るほどである。
「そうやって使われている学園都市の技術に対して対価を払う必要があるじゃん。外部から来てるところ
は自分たちの情報を公開したり、代金を支払う事で手に入れることが出来るけど、学園都市の学生に対
しては求められる事が違うんじゃんよ」
「どう違うんですか?」
「会場となっている全ての場所を回って一定数以上の出展ブースを見て回ってそれをレポートに纏める
事と、最低一つ、出展してるところと自分個人が契約を結んで企業なんかの研究や開発に協力する事が
条件になってるじゃん。期間中に全ての会場を回ろうとするとなるときっちり計画しとかないとスケジュー
ルに追われるだけになっちゃうだろうし、そもそも能力の高い学生は学校側が契約してる企業以外の所
と個人的に契約を結ばれる事を嫌う事が多いからね。申請しても学校側が許可しないってことも多いじゃ
ん。それに、個人的に契約を結ぶ事が出来なかった場合にはペナルティが科されることになってるから
ね。普通に考えると割に合わないって思えるじゃんよー」
 確かに、黄泉川の言うとおりである。
 ここまで聞いたところでは、デメリットばかりが目立っている様に思えてくる。
 それほどのリスクに対して得る程のものがあると言うのだろうか?

「そんなに大変なのに何で吹寄は『パンフレット』を貰おうとしたんだよ?」
 上条からの問いに対し、吹寄の答えははっきりしない。困ったように 『ええと…、あの…』 等と歯切悪く
返すだけである。
 そんな彼女の反応を見てニヤニヤしながら黄泉川が爆弾となる言葉を述べる。
「いやいや、学生にとってそう悪い事だらけとも限らないじゃん」
「ちょっ、せ、先生!」
 慌てて吹寄が止めようとするが、時既に遅し、
「その『パンフレット』を持っている生徒は何処かしらと契約を結ぶって言ったじゃん。だから、自分達と契
約を結んで欲しい所は割と優遇してサンプルを渡してくれそうなもんじゃん。最終的に何処と契約を結ぶ
かは生徒の自由意志になってるから、上手くすればサンプル品の山を持ち帰ってくる事だって出来る訳
だからね。リスクはでかいが当たれば得るものもでかくなるって訳じゃん」
「そ、そんなに欲張ったりはしませんよ!」
 黄泉川の説明に思わず大声を出してしまう吹寄。
 だが、彼女のそんな態度が今の解説が当たらずとも遠からじ、といったところである事を表してしまって
いる。
 ニヤニヤと笑い続けている黄泉川はもとより、『そっかー、サンプル品狙いかー。吹寄らしいっちゃらし
いよなー』 と呟く上条の二人に見られ続けた吹寄は、
「と、とにかく、私はこれから忙しいから貴様もさっさと集合場所に向かいなさいよ!」
 などと叫ぶようにして足早に立ち去っていく。
 そんな彼女を見送った上条も、『じゃあ、そろそろ俺も行かなきゃ……』 と言いながら黄泉川と別れて歩
き出そうとする。
 だが、ガシッ、という音と共に襟首を掴まれて黄泉川のもとに引き寄せられる。
 見れば、笑顔だが目は笑っていない様子。
「ふっふっふっ、しょ、う、ね、んー? ウチのことを気付かなかった事に対して何にも無しで済ますつもり
なのかー?」
 というかマジでコワイですヨ黄泉川先生? っていうか肩に置かれた手がギリギリって、痛タタタタ!?
「ちょ、待って待って先生! だからそれは先生がいつもと違う格好だったから分からなかったんですっ
てばって、痛、痛いですって、ギブギブ、ギブ!」
「それはあんな命懸けの遣り取りをしたってのに少年がこれっぽっちも覚えようとしてないからじゃんよ。
あとこんな窮屈な格好はウチだってしたくてしてる訳じゃないんだよ学校が公式の場に出るんだからきち
んとしろって煩いから仕方なくしてるだけじゃん!」
 思わず付いて出た一言がどうやら地雷を踏んだらしく、さらにギリギリと締め上げられていく上条。
 薄れゆく意識の中でどうにか言葉を紡ぐ。
「きょ、今日は言わないでおこうと思ってたけど言うぞー。せーの、不幸…だー……」



 どうにかこうにか黄泉川の機嫌を直してもらった上条は、ようやく解放されるとほうほうの体でクラスの
集合場所となっている所へ辿り着く事が出来た。
 見れば、どうやら自分が最後だったようである。
「もう! 遅いですよ上条ちゃん! 迷子になっちゃったかと心配しちゃったじゃないですか!」
 担任の小萌先生から早速叱られる上条。
「いや、これにはいろいろとですね先生……」
「そんな事は良いですから早く皆の所に言って下さいなのですよ!」
 後ろからグイグイと押されながら注意が続く。
 クラスの輪に混じった上条が見回すと、吹寄と目が合う。が、フン、とばかりに目を逸らされる。
 そんな上条に対して、『イヤー色々大変だったみたいだにゃーカミやん』 などと声が掛かるがこちらは
徹底的に無視、無視の方向でいく。
 そんなこんなで小萌先生による点呼も終わり、最後の諸注意が話されている。
「……ですから皆さんは自由行動で見学してもらって構いませんけど、できれば二、三人のグループで行
動する事をお勧めするのですよー。一人で動くのも良いですけど、皆で相談しながら見て回ると自分が気
が付かなかった所も知る事が出来るかもしれませんからー。後ですね、……」
 なおも諸注意を語ろうとする小萌先生だが、その時、会場各所に設けられているスピーカーが、アナウ
ンスの音を流し始める。

 『ただ今よりーぃ…ぃ……、第○○回ーぃ…、社会見学祭をーぉ…ぉ……、始めます…ぅ……』

 途端に周囲がざわつき始める。
 先程まではまだ人の動きも少なかったが、今は活発に動き回り始めた為に上条たちの一クラス分の人
数がじっと立ち止まったままでいると、大きな交通妨害となりかねない。
 それを見た小萌先生、仕方なく話を切り上げると
「もう! しょうがないのでお話しはこれで終わりです! 皆さん怪我などしないように見て来て下さいねー」
 『はーい!』、などと途端に元気に返事をする生徒たち。現金なものである。
「それじゃあ今日の終わりの集合時間まで、解散します! 皆さん楽しんできてくださいなのですよー」
 その言葉が終わるか終わらないかの内に動き出すクラスメイトたち。
 めいめいがそれぞれ考える予定にそって別れて行く。
 ある者達は比較的固まってグループで動こうとし、別の者は二、三人で連れ立って、また他の者は一人
でと、皆思い思いの方法で祭りに参加していく。


 その多くは常と変わらぬ行事を楽しみ、ある者はそこに隠された意味を知ることになり、またある者は
人知れず騒動に巻き込まれることにもなる。
 されど、今はただ、これからの予定に心躍らせて歩き出すのみ。


 何はともあれ、社会見学祭、その始まりである。

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