(二日目)10時22分
「なぜ本気を出さぬ?」
『魔神』は三〇メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。
「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」
『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。
「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」
ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。
『魔神』は三〇メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。
「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」
『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。
「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」
ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。
粉塵爆発。
周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。
己が身は「反射」を使い、無傷。
ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、三〇メートル先に立つ少年の姿を見た。
「…チッ!」
『魔神』もまた、無傷だった。
周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。
己が身は「反射」を使い、無傷。
ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、三〇メートル先に立つ少年の姿を見た。
「…チッ!」
『魔神』もまた、無傷だった。
「…ふむ。会話の途中とは頂けないな。『魔王』よ」
「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」
「王は神になれない。人であるがゆえに、な」
「アァ?」
「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」
「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」
「余より下等な生物を見下して何が悪い?」
「…テメェ!!」
「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」
『魔神』が右手をかざした。
「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」
「王は神になれない。人であるがゆえに、な」
「アァ?」
「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」
「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」
「余より下等な生物を見下して何が悪い?」
「…テメェ!!」
「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」
『魔神』が右手をかざした。
突如、轟音と共に爆風が吹き荒れる。
白髪の少年は一瞬で右方に逸れると、体中に触れた大気を操り、圧縮させる。
衝撃波。
秒速二〇〇メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。
遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空五〇メートルに浮かぶ。
衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように一〇〇メートル先まで舞っていた。
衝撃波。
秒速二〇〇メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。
遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空五〇メートルに浮かぶ。
衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように一〇〇メートル先まで舞っていた。
それでも『魔神』は無傷だった。
塵一つ、制服に付いていない。
塵一つ、制服に付いていない。
『魔神』は平然と言葉を投げかける。
「分かったであろう?」
「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」
「分かったであろう?」
「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」
「その通りだ。しかし、これは私、いや俺の能力と言った方がいいのか。『上条当麻』としての能力に過ぎん」
「…何だと?」
「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」
白髪の少年は絶句した。
(あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…)
『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。
「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」
白髪の少年は絶句した。
(あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…)
『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。
「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」
パン!と『魔神』の右腕から服が弾け飛んだ。
右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。
「構えよ。『魔王』」
その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。
右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。
「構えよ。『魔王』」
その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。
「――――――――――――――――――――――『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』」
突如、辺りが眩い光に覆われた。大気圏すら突破する巨大な光線が、放たれた。
(二日目)10時28分
「知りたいですか?」
唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。
声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。
絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。
名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。
「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。
「皆、お下がりなさい」
その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。
熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。
「知りたいですか?」
唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。
声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。
絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。
名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。
「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。
「皆、お下がりなさい」
その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。
熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。
「今、外では大規模な戦闘が展開されています」
「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」
「いいえ」
「これはたった二人の能力者の戦いです」
「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」
「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」
「いいえ」
「これはたった二人の能力者の戦いです」
「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」
「これは――――――――――――――――――――――――――――――『戦争』です」
御坂美琴は至宝院久蘭に目を向けた。
全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。
実際に、その通りなのである。
「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」
久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。
「…ええ」
御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。
「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」
ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。
全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。
実際に、その通りなのである。
「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」
久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。
「…ええ」
御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。
「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」
ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。
そもそも『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』が別々に順位を付けられている時点で、両者には絶対的な隔たりがあるのだ。
久蘭が言う『戦争』という言葉も決して的外れな表現では無い。
半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。
今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。
彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。
至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。
「これを…」
「!!これって」
久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。
「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」
「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」
半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。
今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。
彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。
至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。
「これを…」
「!!これって」
久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。
「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」
「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」
「平気ですよ。もう一着ありますから」
「…はい?」
いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。
「お姉様、これを」
久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。
「ありがとう。風水」
久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。
その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。
「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」
そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。
いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。
「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」
「…本当に、いいの?」
「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」
至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。
「ありがとう、久蘭。大切にするわ」
いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。
「お姉様、これを」
久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。
「ありがとう。風水」
久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。
その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。
「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」
そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。
いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。
「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」
「…本当に、いいの?」
「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」
至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。
「ありがとう、久蘭。大切にするわ」
「そうでないと困ります。一着一〇〇〇万程しましたから♪」
ぶっ!と予想以上の値段に御坂美琴は吹いた。
「ちょ、これ!そんなにするの!?」
「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」
「…サラリとへヴィなことを言うわね」
美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。
「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」
「ちょ、これ!そんなにするの!?」
「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」
「…サラリとへヴィなことを言うわね」
美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。
「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」
御坂は袖を通すと、その場で一回転した。くるりとコートが靡く様は、常盤台中学で培われた御坂美琴の高貴さに、より一層、箔がついているように思われる。
「これ、似合うかしら?」
等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。
「ええ、とっても。よくお似合いですわ」
「そ、そう?」
「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」
「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」
カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して、一番近くにいた金髪の常磐台生に話しかける。
「ねえ、さっき撮った画像、見せてくれる?」
御坂に突然話しかけられた女子は、慌ててペコリと頭を下げ、両手でゲコ太ストラップが付いたピンク色の携帯を献上した。
「え?あ、はい!どうぞ!」
手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。
「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど……やっぱりこれ、似合わないわよね?」
それを聞いた女子生徒は、両手でブンブン!と手を振りながら、御坂の意見を否定した。
「そ、そんなことありません!すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観です!」
「そう?ありがと♪」
御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。
彼女は分け隔てなく生徒に接しているつもりなのだが、学園都市第一位というレッテルが
「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子の週刊お姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」
「……そう。よかったわね」
ツッコミたい衝動に駆られた御坂だったが、これ以上彼女に言及すると、愛しのお姉様について熱く語り出すのは目に見えていたので、何とか押し留まった。
二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。
「これ、似合うかしら?」
等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。
「ええ、とっても。よくお似合いですわ」
「そ、そう?」
「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」
「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」
カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して、一番近くにいた金髪の常磐台生に話しかける。
「ねえ、さっき撮った画像、見せてくれる?」
御坂に突然話しかけられた女子は、慌ててペコリと頭を下げ、両手でゲコ太ストラップが付いたピンク色の携帯を献上した。
「え?あ、はい!どうぞ!」
手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。
「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど……やっぱりこれ、似合わないわよね?」
それを聞いた女子生徒は、両手でブンブン!と手を振りながら、御坂の意見を否定した。
「そ、そんなことありません!すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観です!」
「そう?ありがと♪」
御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。
彼女は分け隔てなく生徒に接しているつもりなのだが、学園都市第一位というレッテルが
「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子の週刊お姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」
「……そう。よかったわね」
ツッコミたい衝動に駆られた御坂だったが、これ以上彼女に言及すると、愛しのお姉様について熱く語り出すのは目に見えていたので、何とか押し留まった。
二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。
「さてと、では美琴さんには一体何をしてもらいましょうか?」
「はい?」
久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。
「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」
「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」
「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」
「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」
御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えない。
「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」
「な、なんのことかしら?」
久蘭は美琴の傍に駆け寄り、そっと耳打ちする。
久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。
「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」
「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」
「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」
「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」
御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えない。
「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」
「な、なんのことかしら?」
久蘭は美琴の傍に駆け寄り、そっと耳打ちする。
「大覇星祭の三日目の昼休みと五日目の夜…」
「っ!!!」
御坂美琴は絶句した。
「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」
「な、な、な…」
「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」
「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」
「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」
唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。
「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」
「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。
「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」
御坂美琴は絶句した。
「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」
「な、な、な…」
「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」
「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」
「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」
唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。
「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」
「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。
「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」
「うふ♪わたくし、他の女性と肉体関係を持ったところで諦めるような恋をした覚えはないですので♪」
正々堂々と、満面の笑顔で久蘭は試合続行宣言をした。
「なっっ―――ッ!!?」
強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。
「なっっ―――ッ!!?」
強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。
言葉を詰まらせる御坂を見据え、久蘭は真剣な表情で、その場の空気を破った。
「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」
鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。
「ですから、お願いします」
「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」
鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。
「ですから、お願いします」
久蘭は大きく頭を下げた。
周囲の常盤台生はギョッとした。
常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。
「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」
久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。
御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。
そんな思いは久蘭の声に遮られる。
「風水」
「はい。お姉様」
「協力してくれるわよね?」
「もちろんです」
背後で風水は了解の会釈をする。
周囲の常盤台生はギョッとした。
常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。
「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」
久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。
御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。
そんな思いは久蘭の声に遮られる。
「風水」
「はい。お姉様」
「協力してくれるわよね?」
「もちろんです」
背後で風水は了解の会釈をする。
「今から、常盤台中学の生徒と教職員に『御坂さんはずっとここに居た』という暗示をかけます。風水の派閥の方々は協力してくれるので操作はしませんが、いいかしら?」
「…ええ、お願いするわ」
「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」
「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。
「…ええ、お願いするわ」
「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」
「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。
「それで、黒子さんはどうします?」
美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。
やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。
「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」
「黒子…アンタ、分かってんの?」
行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。
「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」
ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。
「…ありがとう。黒子」
「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。
美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。
やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。
「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」
「黒子…アンタ、分かってんの?」
行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。
「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」
ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。
「…ありがとう。黒子」
「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」
予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。
「…分かったわ。約束するわよ」
ポカン、と。白井は口を開けて、お姉様を見つめた。
思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。
「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」
「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃喰らわせるわよ!」
「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはスキンシップも制限されますのーん?」
思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。
「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」
「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃喰らわせるわよ!」
「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはスキンシップも制限されますのーん?」
「…別にいいじゃない。付き合ってるんだから」
御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。
御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。
お姉様の反応から分かる想定外の新事実に、白井黒子は愕然とする。
「って、お姉様ああああああああああ!?カマかけてみただけなのに、も、もうそこまで進展してますの!?あんなことや?こんなことまで!?」
「って、お姉様ああああああああああ!?カマかけてみただけなのに、も、もうそこまで進展してますの!?あんなことや?こんなことまで!?」
ツインテールの少女の脳内では、「当麻…」「美琴…」などと名前を呼び合い、愛を確かめ合う二人。お姉様は何故か『堕天使エロメイド服』を着用しており、「これ、洗うの大変なんだからね!」と、頬を赤く染めるお姉様に、上条当麻は「へっへっへ。まあ、いいじゃないかぁ★」と、ビリビリと服をやぶ(自主規制)。
ブチッ!と、
白井の頭の中で何かが切れる音がした。
「フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!!
さあ!行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!!よくもお姉様をおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」
鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。
白井の頭の中で何かが切れる音がした。
「フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!!
さあ!行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!!よくもお姉様をおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」
鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。