とある授業の社会見学 第二章 Dance Dance Fairy-s
学園都市が熱気に包まれている。
喧騒の中周りを見回せば、人、人、人。
上条たちは現在、集合場所となっていた会場の一つから移動しているところであった。
彼らと同じように別の場所へ移動しようとしている学生たちは、携帯を操作して各種情報サービスを呼
び出しながら次に見て回るところを思案、相談している。
そんな中、よく見れば分厚い本(と言えるのか疑問は残るが)を片手に不慣れな様子で辺りを見比べな
がら歩いていく大人の姿も見かけることがある。
なるほど、あれが先程言われていた外部参加者なのか、などと考えながら道を進む上条に対し、横合
いから声が掛かる。
「おーいカミやん。これからどこへ行くつもりなのかにゃー」
尋ねてきた土御門に対して
「は?」
と、きょとんとした様子で振り返ると、その隣にいる青髪ピアスから声が飛んできた。
「カミやーん。ウチらはこれから立体映像開発研究機構出向第三技術分室主催の出展ブースに行かな
あかんのやで? そっちは方向が違うやんよー」
「……今さらながらに思うんだが、ずいぶんと怪しげなところだよな、そこ」
「なにゆうてんねん! 立体映像なんやで?! 能力者が見せる幻覚じゃない、れっきとした本物がそこ
に存在するんやで?! 二次元の画面の中でしか動くことの出来なかった彼女たちがそこから飛び出し
て自由に動き回れるんやで?! それを見に行かずして何を見に行くっちゅねん!!」
「とりあえず色々言いたい事はあるけど、立体映像を見に行く目的はそれか。あと、立体映像にしたって、
“本物”にはならないと思うぞ」
「うるさい! 一人だけ抜け駆けしたカミやんにはわからんわ! ウチらはずっと仲間やと思っていたのに
裏切りやがって! こうなったら土御門と二人でモテないもん同士寂しく結束しちゃるワイ!」
「あー、立体映像の中身が何かは分かんないしにゃー。あと、オレには舞夏がいるから別に寂しくは無い
んだぜい」
「なんだとお前もか!」
血涙を流しながら土御門に掴みかかる青髪ピアスを眺めていたが、あまりにも騒がしくなってきたので、
土御門から青髪ピアスを引き剥がしながら
「分かった分かった。その立体映像の展示してるところに行ってやるからとりあえず落ち着けって」
と宥めることにした。
ようやく二人を落ち着かせたのだが、先程言われたことが気になったため、
「けど、一人だけ抜け駆けしたって何の事だ?」
と、何気なく尋ねると、次の瞬間、目の前の二人から殺気が吹き荒れてきたので慌てて飛び退く。
「え?! 何々?! 何で急にそんな反応してるんですか?! あと土御門! そんな本気出す構えとっ
てんじゃねえ! お前の本気は洒落にならねえんだよ!」
焦る上条を前にして、ついさっきまでの騒ぎなど嘘のように固い結束で結ばれた土御門と青髪ピアスは
じりじりと間合いを詰めながら語りあう。
「ほほう。カミやんはどうやら周りにあれだけの女の子たちがいながらこんなこと言ってるようやで?」
「自覚なしとはなかなか舐めてるようなんだぜい。それとも、分かった上で敢えてそういってるのかにゃー?」
「いずれにしても」
「ああ。一度天誅をくらうべきなんだぜい」
どうやら判決が出た模様である。というか、これでは検察側と裁判長の二人が結託してませんか?など
という上条の内心をよそに、二人は絶妙のコンビネーションで距離を詰めてくる。
何とかしてこの場からの離脱を図ろうと上条が視線を逸らせた次の瞬間、二人が飛び掛ってきた。
必死に抵抗するも、あっけなく勝負が付いて上条は二人から友情と言う名の拳を受けて地に沈んだ。
喧騒の中周りを見回せば、人、人、人。
上条たちは現在、集合場所となっていた会場の一つから移動しているところであった。
彼らと同じように別の場所へ移動しようとしている学生たちは、携帯を操作して各種情報サービスを呼
び出しながら次に見て回るところを思案、相談している。
そんな中、よく見れば分厚い本(と言えるのか疑問は残るが)を片手に不慣れな様子で辺りを見比べな
がら歩いていく大人の姿も見かけることがある。
なるほど、あれが先程言われていた外部参加者なのか、などと考えながら道を進む上条に対し、横合
いから声が掛かる。
「おーいカミやん。これからどこへ行くつもりなのかにゃー」
尋ねてきた土御門に対して
「は?」
と、きょとんとした様子で振り返ると、その隣にいる青髪ピアスから声が飛んできた。
「カミやーん。ウチらはこれから立体映像開発研究機構出向第三技術分室主催の出展ブースに行かな
あかんのやで? そっちは方向が違うやんよー」
「……今さらながらに思うんだが、ずいぶんと怪しげなところだよな、そこ」
「なにゆうてんねん! 立体映像なんやで?! 能力者が見せる幻覚じゃない、れっきとした本物がそこ
に存在するんやで?! 二次元の画面の中でしか動くことの出来なかった彼女たちがそこから飛び出し
て自由に動き回れるんやで?! それを見に行かずして何を見に行くっちゅねん!!」
「とりあえず色々言いたい事はあるけど、立体映像を見に行く目的はそれか。あと、立体映像にしたって、
“本物”にはならないと思うぞ」
「うるさい! 一人だけ抜け駆けしたカミやんにはわからんわ! ウチらはずっと仲間やと思っていたのに
裏切りやがって! こうなったら土御門と二人でモテないもん同士寂しく結束しちゃるワイ!」
「あー、立体映像の中身が何かは分かんないしにゃー。あと、オレには舞夏がいるから別に寂しくは無い
んだぜい」
「なんだとお前もか!」
血涙を流しながら土御門に掴みかかる青髪ピアスを眺めていたが、あまりにも騒がしくなってきたので、
土御門から青髪ピアスを引き剥がしながら
「分かった分かった。その立体映像の展示してるところに行ってやるからとりあえず落ち着けって」
と宥めることにした。
ようやく二人を落ち着かせたのだが、先程言われたことが気になったため、
「けど、一人だけ抜け駆けしたって何の事だ?」
と、何気なく尋ねると、次の瞬間、目の前の二人から殺気が吹き荒れてきたので慌てて飛び退く。
「え?! 何々?! 何で急にそんな反応してるんですか?! あと土御門! そんな本気出す構えとっ
てんじゃねえ! お前の本気は洒落にならねえんだよ!」
焦る上条を前にして、ついさっきまでの騒ぎなど嘘のように固い結束で結ばれた土御門と青髪ピアスは
じりじりと間合いを詰めながら語りあう。
「ほほう。カミやんはどうやら周りにあれだけの女の子たちがいながらこんなこと言ってるようやで?」
「自覚なしとはなかなか舐めてるようなんだぜい。それとも、分かった上で敢えてそういってるのかにゃー?」
「いずれにしても」
「ああ。一度天誅をくらうべきなんだぜい」
どうやら判決が出た模様である。というか、これでは検察側と裁判長の二人が結託してませんか?など
という上条の内心をよそに、二人は絶妙のコンビネーションで距離を詰めてくる。
何とかしてこの場からの離脱を図ろうと上条が視線を逸らせた次の瞬間、二人が飛び掛ってきた。
必死に抵抗するも、あっけなく勝負が付いて上条は二人から友情と言う名の拳を受けて地に沈んだ。
◇ ◇
それからしばらくして、ようやく起き上がった上条は再び目的地に向かって歩いていた。
「しっかし、こないだの大覇星祭の時もそうだったけど、こんな時間から学生が道一杯にいるのを見ると、
つくづく今日は特別な日なんだなぁって思うよなぁ」
上条が言うとおり、道を行くのはその殆どが学生で占められている。
時間が午前中ということを考えるとより一層そう感じてくる。
「それにしても、何でみんなこんな外にいるんだ?」
気軽な感じで尋ねる上条に対し、青髪ピアスが呆れたように言う。
「おいおいカミやん。それを言うたらウチらかてどうなんよ。他の人らも今から違う会場に行くか、それぞ
れの出先元へ見に行ってるんやないの? だいたいこんなのは学園都市に昔から住んでるなら分かりきっ
た事やない。どうかしたんかやー?」
その何気ない言葉にこそ、上条の意識は反応しかける。それを、絶対の意思でもって身体が反応しな
いようにする
“学園都市に昔から住んでいるなら”
言った本人にしてみれば何とも思っていない言葉だろう。実際、青髪ピアスは上条にそう言った後、歩
きながら道中にある様々な催し物を眺めている。
だが、 上条にとってはその言葉こそ、最も注意しなければならないものだ。
なぜなら、上条当麻が夏休みより前の記憶を失っている事は誰にも知られてはいけないのだから。
「しっかし、こないだの大覇星祭の時もそうだったけど、こんな時間から学生が道一杯にいるのを見ると、
つくづく今日は特別な日なんだなぁって思うよなぁ」
上条が言うとおり、道を行くのはその殆どが学生で占められている。
時間が午前中ということを考えるとより一層そう感じてくる。
「それにしても、何でみんなこんな外にいるんだ?」
気軽な感じで尋ねる上条に対し、青髪ピアスが呆れたように言う。
「おいおいカミやん。それを言うたらウチらかてどうなんよ。他の人らも今から違う会場に行くか、それぞ
れの出先元へ見に行ってるんやないの? だいたいこんなのは学園都市に昔から住んでるなら分かりきっ
た事やない。どうかしたんかやー?」
その何気ない言葉にこそ、上条の意識は反応しかける。それを、絶対の意思でもって身体が反応しな
いようにする
“学園都市に昔から住んでいるなら”
言った本人にしてみれば何とも思っていない言葉だろう。実際、青髪ピアスは上条にそう言った後、歩
きながら道中にある様々な催し物を眺めている。
だが、 上条にとってはその言葉こそ、最も注意しなければならないものだ。
なぜなら、上条当麻が夏休みより前の記憶を失っている事は誰にも知られてはいけないのだから。
あの夏の日、あの病室であの少女に語った日からこれまで築いてきた日常。
それを守り、続けていくためには僅かなミスも許されない。
それを守り、続けていくためには僅かなミスも許されない。
「あー、そうだったよなー。なんかお前らにやられたせいでまだちょっと頭がボーっとしてたみたいだわ」
だから、自分も気楽な調子で返す。
だって、今のは本当に何でも無い事の筈なのだから。
自分は今、何でもないように笑えているか? ぎこちなくは無いか? どこかおかしいところは無いか?
そう自問しながらも必死に気持ちを落ち着け、普段どおり振舞うようにする。
その上条に対し、
「んー、カミやん本当に大丈夫かにゃー?」
隣から土御門が声を掛ける。
「だ、大丈夫に決まってるだろ。大した事無いって、ちょっと大げさに言ってみただけだから……」
そう答えても、土御門は何も言わずにこちらを見ているだけだ。サングラスに隠れた目に自分がどう映っ
ているのかは自信が無いがそれでも日常を続けなければいけない。
「な、なんだよ……?」
「んー、まあ、カミやんがそう言うのなら大丈夫なんだろうにゃー」
上条が逆に問い尋ねるとあっさりと返される。
不安は残るが、あまり追求すると藪をつつく事になりかねないので困る。
もどかしさを覚えながらも上条は二人と連れ立って目的地までの道すじを過ごすのだった。
だから、自分も気楽な調子で返す。
だって、今のは本当に何でも無い事の筈なのだから。
自分は今、何でもないように笑えているか? ぎこちなくは無いか? どこかおかしいところは無いか?
そう自問しながらも必死に気持ちを落ち着け、普段どおり振舞うようにする。
その上条に対し、
「んー、カミやん本当に大丈夫かにゃー?」
隣から土御門が声を掛ける。
「だ、大丈夫に決まってるだろ。大した事無いって、ちょっと大げさに言ってみただけだから……」
そう答えても、土御門は何も言わずにこちらを見ているだけだ。サングラスに隠れた目に自分がどう映っ
ているのかは自信が無いがそれでも日常を続けなければいけない。
「な、なんだよ……?」
「んー、まあ、カミやんがそう言うのなら大丈夫なんだろうにゃー」
上条が逆に問い尋ねるとあっさりと返される。
不安は残るが、あまり追求すると藪をつつく事になりかねないので困る。
もどかしさを覚えながらも上条は二人と連れ立って目的地までの道すじを過ごすのだった。