とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 2-989

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匿名ユーザー

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「わかったよ、御坂。なら、罰ゲームをやり直そうぜ」

 その言葉に、思わず振り返る美琴。
 頭の中は真っ白で、ポカンとした顔のままだ。
 おそらくはずいぶんと間抜けな顔になっているだろうが、上条は美琴を真っ直ぐに見ながら真剣な口調で再び言った。
「うん、お前の言うとおりだからな。今度はちゃんと最後までやろうぜ、罰ゲーム」

 だから、どうしてコイツはいつもこうなのだろう。
 ずるい、と思う。
 いつもいつもふざけた態度しかとらないくせに、私が本当に必要としている瞬間(とき)、本当に伝えたいことを感じてくれて、
本当に必要な言葉をいともあっさりと投げてくるなんて――――。
 それも、自分のことは気に掛けず、なじっていた筈の私のことを気に掛けて――――。
 これじゃあ、いつまでたっても私が勝てるわけ無いじゃない。
 ああ、だから私はコイツのことが――――。

 美琴がその感情をはっきりと自覚する前に、上条の言葉が美琴の注意を再び外界に向けさせる。
「? どうかしたのか美琴? 罰ゲーム、やるんだろ?」
「ッッ!! そっ、そうよっ! もっ、文句あるのっ!?」
 慌てて答える美琴。
 何か、今一瞬自分にとって致命的な事を考えそうになってたみたいだけど、気にしないでおく。
「いや、文句は無いけど、お前のほうこそ、なんか、おかしくないか?」
「おっ、おかしくなんか無いわよ! おかしいと思うのはアンタの方がおかしいからでしょ!?」
「はあっ!? 何言ってんだよお前は!?」
 途端、ギャアギャアと騒ぎ出す二人。
 けれど、それは先程までの険悪な様相のものではなく、気心の知れた者同士がじゃれ合うようなもの。
 その証拠に、美琴の顔には口元に笑みが浮かんでいる。
 そんな騒がしい、けれど心地よいやりとりをしながら美琴は感じていた。
 ――――これくらいがちょうどいいのかな、と――――。

                    ◇                    ◇

「で、罰ゲームって、結局何をやるんだ?」
 ひとしきり騒いだ後に上条が美琴に尋ねると、口元に手を当てて、んー、と考えた美琴はおもむろに、
「とりあえず決まるまでブラブラしよっか?」
 と、お気楽にのたまいました。
「はぁ!? とりあえずブラブラって何にも考えてないのかよ!?」
 と上条が騒ぐが、先程の馬鹿騒ぎで何やら機嫌のよさそうな美琴は
「いーじゃないのよ。アンタは今日一日終わるまで私に付き合うんだから。コレ、決定だからね?」」
 などと楽しそうに上条の先を歩いていく。
「なんか、こないだも似たようなことしなかったか?」
 上条は呟くが、当の御坂の機嫌が良さそうなのでそのまま付いて行くことにした。



                    ◇                    ◇

 それから二人は、放課後の学園都市をいろいろと散策していった。
 美琴の洋服を見にデパートに足を運んだり(といっても、基本的に常盤台中学は寮以外制服着用義務なので購入せず)、
その近くの装飾店で洋服の倍以上の時間アクセサリーを眺めていたり(しかし美琴が言い出せないで何も購入できず)、
さらにペットショップで生まれたばかりの子猫を見て(しかし常盤台寮はペット禁止であり何より美琴の体質的に以下略々)。
 そんなこんなで歩き回ること数時間。
 女の子のウインドーショッピングに付き合わされた上条はすっかり疲労困憊していた。
「ちょっと、なに疲れきってんのよアンタは」
 そんな上条に向かって美琴は言うが、
「いや、ふつー疲れるだろ……」
 返す言葉にも勢いが無い。
 トラブルを解決するために走り回るときには常人にはありえないくらいの体力を誇る上条も、女の子との買い物には悪戦
苦闘しているようである。
「何言ってんのよ。別に大量に買った荷物を運ばせてるわけでもないのにジジむさいわよ?」
「いや、それとこれとは別だって……」
 まあ、こういうところが男女の買い物に対する違い、と言ったところか。
 一方の美琴は上条の様子に眉を寄せていたが、ふと目に入ったモノに妙案を思いつく。
「なら次はあれにするわよ」
 美琴が指差す先にあるのは――――。
「映画?」
 そう、映画館であった。
 というか、うら若き女の子がそういう風に指を差すもんじゃありませんよ美琴さん。
「そうよ。あすこなら座りながらだから足も休めるし、一石二鳥でしょ?」
 説明しながら自らのアイデアに、さらに感心した様子。
「じゃ、行くわよ♪」
 そう言ってずんずん先に進んでいく美琴。
 それを慌てて追いかけていく上条であった。


「――――で、映画っつっても何観るんだ?」
 問う上条に対して美琴は答えない。
 何故なら、彼女は今とてつもない難題に立ち向かっているからである。
「ええと、今やってるのは……『ラブリーミトンのカエル』? ああ、あのゲコ太とかいうストラップのカエルのやつか、んで、
『超機動少女カナミン』か、ほうほう、んであとは、『もう恋なんてしない』? よく分からないけど恋愛モノ、か? おーい御坂、
早くしないと次の上映時間が始まるぞー」
 そんな声も届かない。
(うう、なんかよくわかんないアニメは論外として、ゲコ太を観たいけどそんなこと言ったらまたからかわれるだろうし、ううー)
 なかなか難しいようです。
 結局、子供っぽいと思われたくはない美琴は残った映画を選んで入場料を払ったのだった。
 (ちなみに、学生料金ということで割増《!》だったが)
 その際、上条の顔が一瞬、ほんの一瞬がっかりしたような気もしたが、気のせいだろう。

 そうして館内に入って席に着き、いざ映画が始まってみるとその内容はイタリアの恋愛映画のようだった。
 今さらながらそのことに気付いた美琴は
「ま、まあ、始まっちゃったんだし、これは、もう、最後まで観ないといけないわよね」
 と、いかにもそれっぽく弁解する。
 暗がりだから顔が赤くなってるのはバレていない、筈。
 ストーリーもそれなりに進んで少し余裕が出来始めた美琴がふと周りを見渡してみると、客席にちらほらといるのはどう
やらカップルばかりのよう。
 相手の肩に頭を乗せていたり、映画そっちのけでお互いに見つめあったりしている姿が目に入る。
 気付いた当初はすぐに目を逸らしたのだが、いったん気にしだすとついそちらに注意がいってしまう。
 ややあって、美琴は一つの決心をする。
 普段の彼女からは到底想像も出来ないような行動。
(こ、これくらいなら不自然じゃないわよね、大丈夫よね!)
 体はガチガチに固まり、手はぶるぶると震えて全然自然な感じではないが、そんなことは今のテンパってる美琴には分かる
はずもない。
(ええい、女は度胸よ見てなさい!)
 誰に向かって見せるのかは謎だが、ついに美琴は動く!!


 左の座席に座る上条が置いている右手に、そっと、だが確実に自分の左手を置いた。




 文にしてしまえばたったそれだけのことに尋常でない労力を費やす。
 上条の体に触れてからしばらくは身動き一つできずにいたが、それでもしばらくすると余裕が出てくる。
 隣にいる上条はどんな反応をしているのか。
 触れた手をどけられなかったことから嫌がられてはいないと思うが、どう思っているのか。
 しばらくもじもじとしていたが、そっと窺うように目を向ける。
 と、そこにあったのは――――、


 静かに寝息を立てながら眠りこけていた上条の姿であった。


 それを見て、美琴は思う。
(なによなによ、今日は私にずっと付き合ってもらうって言ったのに何で勝手に寝ちゃってるのよ! そりゃあ少しはしゃぎ過
ぎて連れ回したかもしれないけどまがりなりにも女の子と二人でいて勝手に寝るってのはどういうことよ! そんなに私と一緒
に居たのは疲れることだったの? じゃあそうやって言えばいいじゃないのよ! 嫌々付き合ってもらってもちっとも嬉しくなん
か無いのよ!)
 目に涙まで浮かんでくる。
 が、ひとしきり激情が滾ると、今度はすぐに冷えていく。
 つい先ほどまで抱いていた高揚感は消え、あるのは空虚さと虚脱感。
(あーあ、何だか一人で空回りしてたみたい。なんか疲れちゃった……)
 そして、ほんの数瞬目を瞑っているつもりだったのが、はしゃいでいた疲れからかそのまま自分も眠っていってしまう美琴で
あった。

                    ◇                    ◇

 上条がふと目を覚ましたのは微かな違和感を感じたためであった。
 放課後に逢った美琴が何だかこの間の罰ゲームが途中半端で終わったことを怒っているようだったのでそれに付き合うと
言ったら散々連れ回された。
 いや、別にそれはいいのだが立ち寄る店が悉く男子には立ち入りにくいところであったために余計に疲れてしまったのだ。
 しかし、そんなことは言い訳に過ぎない。
 最後まで付き合うと言いながら自分が勝手に寝てしまうなど、あってはならないことである。
(やべえ!)
 慌てて起き上がろうとした上条だが、体が動かない。
 特に、右半身が痺れたような感じがする。
(一体何が……って!!)
 目を向けた上条の視界に飛び込んできたのは――――、


 己の肩に頭を寄りかからせ、おまけに腕を抱え込むようにして握っている美琴の姿であった。


(……え!? 何!? ちょっと待って、何一体これどういうこと!?)
 突然の光景に軽くパニックになりかける上条。
 どうも美琴は完全に寝入っているようで、こちらが身動きしたのに目を覚ます様子も無い。
 これほどの至近距離だとこちらがドキドキしているのが伝わってしまいそうである。
 肩に触れている髪からは軽くシャンプーの香りがするし、握られている右手からは体温が伝わってくるし、規則正しく動いて
いる肩はとても華奢に見えるし、傾けられている顔にある口元からは――――、
「……って、おーいみさかさーん」
 途端、げんなりと萎える上条。
 見れば、その口元からは僅かに、僅かにだが涎が一筋垂れていた。
「おいおーい、お前はどこのお子ちゃまなんですかー?」
 軽口を叩きながら自分の服に落ちた、小さな一滴を空いている左手で掬い取る。
 シミになったらヤだし。
 そうして取った水分を拭き取ろうとして、ハタと困った。
 拭くものが無い。
 ハンカチがあるのは美琴に掴まれている右側のポケットだし、ティッシュのある左のポケットから取り出そうにも左手は既に
濡れて塞がっている。
(うーん。どうすっかなー)
 このとき上条は起きたばかりで頭がはっきりと回っていなかった。
 だから、そんな行動に出たのかもしれない。
 しばらくボーっとしたままそれを見ていたが、まあいいやーとばかりに手についている小さな雫を舐め取った。


 その瞬間、脳に衝撃が走った。


 大げさでも何でもなく、そう感じた。
 ビクンッ!! と体が大きく震える。
 舐め取った量はごく僅か。
 だが、とてつもない効果。
 舌の先から脳天まで、まるで電流が走ったかのように痺れる感じ。
 それはまるで、一瞬で相手を虜にしてしまう媚薬か、はたまた猛毒か。
 しばし呆然としていた上条であったが、やがてのろのろと動き出すと、再び手を美琴の口元に持っていこうとする。
 そして――――。



                    ◇                    ◇

 美琴が目を覚ましたのはちょうど上条が左手を舐めて体を大きく震わせたときだった。
 薄暗がりの中、目の前には二人の男女が映っていた。
 二人で料理でもしていたのか、たまたま一人が指を怪我したところだった。
 それを見たもう一人は、その怪我した手を口に含む。
 実はこのとき美琴が見ていたのは、映画のワンシーンなのだが、目が覚めたばかりの美琴はそこまで頭が回らない。
 と、隣で身じろぎをする気配を感じ、注意をそちらに向けると自分の口元に指が出されてくる。
 見れば、その指はどうも濡れているようだ。
 だから、美琴はその指を――――、

                    ◇                    ◇

 「うあぅっ!」
 思わず声が出てしまう。
 美琴の口元に手を持っていったら、何故か指を咥えられた。
 しかも、ちゅうちゅうと吸われている。
 何で? とか、どうして? とかいう疑問はわかない。
 それどころじゃない。
 なぜって、舐められてる指からは、ひっきりなしに快感が襲ってくる。
 まるで、美琴の口から指を通して流れているかのようにゾクゾクと背筋を電流が通っていく。
 それを感じながら、思う。
 さっきは唾液を舐めたらあれほどの衝撃を感じた。
 今は、舐められてる指からこんな快感が襲ってくる。
 なら、直接それを舐めてみたら…………?
 その疑問が頭に浮かんだら、上条は次の行動に移って――――。

                    ◇                    ◇

 「んっ、……ちゅむっ、…………んむっ……」
 一心に指を吸っていた美琴だが、突然、口から指が引き抜かれた。
 「……っあっ」
 呆然とした美琴の前に、上条の顔が近づいてくる。
 ふと横を見れば、先ほどの男女が今は口付けをしている。
 ああそうか、と美琴は納得する。
 なら私も同じようにしないと、と思った美琴は目を瞑ってそれを待つ。
 そして、二人の顔は近づいていき――――、



「お 姉 さ ま に 何 さ ら し と ん の じ ゃ こ の 類 人 猿 が あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ!!!!」



 突然の怒号、発生する爆発、目の前を通過する衝撃。
 それら全てが一瞬のうちにおこった。
 目の前から突然消える上条。 そして、スクリーンのあるほうから盛大な破壊音が聞こえてくる。
 あまりの事態に、一瞬キョトンとする美琴。
 だが、次第に意識がはっきりして先ほどまで自分がしでかしていた行為に気が付くと、途端にカーッと顔を真っ赤にする。
 耳たぶまで真っ赤。頭から冗談でなく本当に湯気が出そうな勢いだ。
 口元を押さえてぶるぶると押さえていると、聞き慣れた、だがこの瞬間では最も聞きたくない声が聞こえた。
「お、おおお、おオ姉さまっっ!? い、いイいま何をナサッテイタノですカ!?」
 修正。尋ねてきた方もかなりテンパッているようだ。
 見れば、周りはすっかり明るくなっている。 どうやら映画は終わっていたようだ。
 尋ねてきた声のするほうを向けば、白井黒子が立っていた。
 体はブルブルと震え、顔色は絶えず変化しては赤なのか青なのかよく分からない。顔には血管がいくつも浮かび、口元は
ヒクヒクと痙攣している。
 そんな白井の追及からどうやって逃れようか思案しながら、しばらくは今日のことを思い出して寝られなくなる日が続くんだ
ろうなぁ、と現実逃避する美琴であった。

                    ◇                    ◇

 さて、白井に吹っ飛ばされてスクリーンを滅茶苦茶にした上条は意識を失くして転がっている。
 だが、今日おこったこと全てを考えると幸福と不幸の天秤は一体どちらに傾くのだろうか?
 その判断が出来るようになる日が来るのかどうかはいまだ分からない。


                               END


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