垣根帝督は学園都市第二位の超能力者(レベル5)だ。
この世に存在しない物質を行使する能力―――『未元物質』
その力は数字の順番では一つしか違わない『超電磁砲』を圧倒的に上回るだろう。
大多数の人間を造作もなく躯に変えてしまえる強大で恐ろしい、悪魔の如き力。
この世に存在しない物質を行使する能力―――『未元物質』
その力は数字の順番では一つしか違わない『超電磁砲』を圧倒的に上回るだろう。
大多数の人間を造作もなく躯に変えてしまえる強大で恐ろしい、悪魔の如き力。
だが、それでも垣根帝督は「二位でしか」なかった。
頂点ではないのだ。
頂点ではないのだ。
数多の人間に恐れられ、散々化け物と罵られても、
雨のように降り注ぐ悲劇に晒され続けても「まだ」二位なのだ。
雨のように降り注ぐ悲劇に晒され続けても「まだ」二位なのだ。
『メンバー』を取り纏めていた博士とやらを叩き潰し、地獄の縮図と化した場でふと自身の立場を振り返った垣根は改めてその事実を認識する。
「……クソったれがっ!」
ガンッ、と既にボロボロになった建物の壁を蹴りつけた。
事後処理にやってきた黒服の男達はそんな垣根を避けるようにして作業を進める。
当然だ。いくら垣根が普段無用の殺戮をしないとはいえ、彼の気分次第でそんなものいくらでも変わる。
そして今垣根の機嫌は一目でわかるほど悪い。八つ当たりで殺されては堪らないとばかりに黒服の男達は垣根と距離をとり、ただ黙々と体を動かす。
社会の底辺を這いずるクズでも命は惜しいということだ。
そんな様子の男達に一層気分を害した垣根は大きく舌打ちしてその場を離れる。
あからさまにホッとする男達に苛立ちを覚えないわけではなかったが、同時にそんな小物などどうでもよくもあった。
事後処理にやってきた黒服の男達はそんな垣根を避けるようにして作業を進める。
当然だ。いくら垣根が普段無用の殺戮をしないとはいえ、彼の気分次第でそんなものいくらでも変わる。
そして今垣根の機嫌は一目でわかるほど悪い。八つ当たりで殺されては堪らないとばかりに黒服の男達は垣根と距離をとり、ただ黙々と体を動かす。
社会の底辺を這いずるクズでも命は惜しいということだ。
そんな様子の男達に一層気分を害した垣根は大きく舌打ちしてその場を離れる。
あからさまにホッとする男達に苛立ちを覚えないわけではなかったが、同時にそんな小物などどうでもよくもあった。
垣根の思考を支配するのはたった一つ。
―――所詮自分は第二位の、第二候補(スペアプラン)
反吐が出るほど胸糞悪い『現実』だ。
アレイスターにとっていくらでも代替えが利く捨石同然の存在。
足掻こうがもがこうが垣根の位置はそこ止まりだった。
アレイスターにとっていくらでも代替えが利く捨石同然の存在。
足掻こうがもがこうが垣根の位置はそこ止まりだった。
冗談じゃねえ、と心中で吐き捨てる。
それと同時に浮かぶのは第一候補(メインプラン)である白い少年。
それと同時に浮かぶのは第一候補(メインプラン)である白い少年。
己の立場にどれ程の価値があるかも分かっていないクソガキ。
唯一『未元物質』を越えた先に置かれる存在。
学園都市第一位にして最強と謳われる超能力者(レベル5)
唯一『未元物質』を越えた先に置かれる存在。
学園都市第一位にして最強と謳われる超能力者(レベル5)
「……―――『一方通行』(アクセラレータ)」
ドロリと、垣根はまるで呪詛を唱えるようにその名を呟いた。
呪うかのように垣根帝督が呟いてから僅か数時間、血みどろになり這いずったのは一方通行ではなく垣根の方だった。
(何……を、何所が、間違っ……た―――?)
覚醒し、暴走した一方通行の『黒翼』によって肉を割かれ、骨を砕かれながら垣根は思う。
残り数分も持たずに死ぬであろう体で、走馬灯を見ることもなくただ思考する。
残り数分も持たずに死ぬであろう体で、走馬灯を見ることもなくただ思考する。
何故、奴なのか と。
声すら出せなくなった体で呻くように思考する。
神が住む天界の片鱗たる力を振るい、世界中の軍隊以上になったはずの自分が、
滑稽なほどあっさりと肉塊へと変わっていくのは何故だ。
滑稽なほどあっさりと肉塊へと変わっていくのは何故だ。
一方通行の力の本質に、役割に気付いて尚、どこかで納得していない自分が居る。
それは子供の駄々と同じようなものであることも理解はしていた。
それでもこの最期の時に垣根帝督は思わざるをえない。
それは子供の駄々と同じようなものであることも理解はしていた。
それでもこの最期の時に垣根帝督は思わざるをえない。
―――何故だ、と。
「ぐ、ガァッ―――!!!」
『黒翼』は容赦無く垣根の身体を削る。
圧倒的な力、一方的な虐殺。
理性を無くし咆哮を上げる一方通行に垣根は声にならない声で叫ぶ。
圧倒的な力、一方的な虐殺。
理性を無くし咆哮を上げる一方通行に垣根は声にならない声で叫ぶ。
(俺とテメェの何が違う!! なんでテメェだけが力も第一候補(メインプラン)の立場も拠り所も何もかも手に入れる!!?)
―――垣根が欲した全てを一方通行は手に入れていた
(被った血の量か!?)
―――それはお互い大差無いはずだ
(見てきた地獄の数か!!?)
―――裏の世界で泥にまみれた年月は絶対に負けていない
(くだらねえポリシーか!!?)
―――そんなものが何の役に立つというのだ
(俺の何がテメェに劣るっていうんだっ―――!!!!)
流した血も降りかかった悲劇の重さも汚れた期間も、決して一方通行が勝っているはずがないのに、
世界は垣根帝督を選ばない。
己に理不尽な世界を恨み、『第一候補』(メインプラン)になれなかった『第二候補』(スペアプラン)は絶叫する。
声という名の音に成っていなくとも彼は世界を、一方通行を罵り叫んだ。
千切られた腕の痛みも粉砕されていく骨の音も感じることはない。
声という名の音に成っていなくとも彼は世界を、一方通行を罵り叫んだ。
千切られた腕の痛みも粉砕されていく骨の音も感じることはない。
あるのは唯ひたすらに全てを呪う心だ。
力を手に入れた者への嫉妬、嫌悪、恐れ、憎しみ。
力を手に入れた者への嫉妬、嫌悪、恐れ、憎しみ。
支離滅裂で歪んだ感情のみが垣根を支配していた。
本当に目指していたモノも抱えていた何かも忘れ、呪詛をまき散らしながら垣根帝督は死んでいく。
もしも垣根が勝者で正気で、相対していた者の方が今の垣根のように死んで逝こうとしていたなら、彼は散々馬鹿にし蔑んで笑ったことだろう。
吠えるだけで力の足り無え奴の逆恨みかよ、と。
そんな己が最も蔑み嘲笑う死を演じるのが自分自身とはなんという皮肉だろうか。
垣根も頭の隅ではそんな自分を嘲笑う冷静な自分がいるのは分かっている。
どれほど今の自分が惨めなのかも、垣根の在り方に反しているのかも。
もしも垣根が勝者で正気で、相対していた者の方が今の垣根のように死んで逝こうとしていたなら、彼は散々馬鹿にし蔑んで笑ったことだろう。
吠えるだけで力の足り無え奴の逆恨みかよ、と。
そんな己が最も蔑み嘲笑う死を演じるのが自分自身とはなんという皮肉だろうか。
垣根も頭の隅ではそんな自分を嘲笑う冷静な自分がいるのは分かっている。
どれほど今の自分が惨めなのかも、垣根の在り方に反しているのかも。
全て分かっていても駄目だった。
自分を選ばなかった世界が憎い
アレイスターが憎い
そして何より、『一方通行』が憎い
アレイスターが憎い
そして何より、『一方通行』が憎い
その涸れること無い憎悪は、潰され砕かれた身体をも動かした。
叩きつけられる『黒翼』に縋ってでも垣根は身体を起こす。
そして、
汚く血に塗れ、あちこちひしゃげた身体で、彼の感情と同じく歪みきった眼を開き垣根帝督は起き上った。
叩きつけられる『黒翼』に縋ってでも垣根は身体を起こす。
そして、
汚く血に塗れ、あちこちひしゃげた身体で、彼の感情と同じく歪みきった眼を開き垣根帝督は起き上った。
いや、起き上ったとは垣根が感じただけに過ぎない。
実際は、使い物にならない腕を支えにして僅かに上半身を起こした程度だ。
だがそれで十分だった。
垣根の視界にはっきりと一方通行が映っている。
暴走し咆哮する『黒翼』の持ち主の全身が見える。
実際は、使い物にならない腕を支えにして僅かに上半身を起こした程度だ。
だがそれで十分だった。
垣根の視界にはっきりと一方通行が映っている。
暴走し咆哮する『黒翼』の持ち主の全身が見える。
垣根は、哂った。
見た者は十人中十人嫌悪しか抱かないであろう邪悪な笑みだった。
見た者は十人中十人嫌悪しか抱かないであろう邪悪な笑みだった。
「確かにその力は第一候補(メインプラン)だよ!
だがだからこそ哀れだなあっ、一方通行ァァア!!!」
だがだからこそ哀れだなあっ、一方通行ァァア!!!」
「テメェはっ! テメェの役割を理解せず! 唯アレイスターのクソ野郎に利用され続ける!!」
「最後はよお、全部なくして、スクラップだ! ゴミ以下のゴミになるまで使われて惨めに死ぬんだよ!!!」
吐き捨てられる言葉。
壊れた身体でどこまで喋りきれているのか最早垣根には分からない。
そもそもあの状態の一方通行に言葉が理解できるかすら危うい。
それでも視線だけは一方通行から外すことはなかったし、罵詈雑言を止めることもなかった。
壊れた身体でどこまで喋りきれているのか最早垣根には分からない。
そもそもあの状態の一方通行に言葉が理解できるかすら危うい。
それでも視線だけは一方通行から外すことはなかったし、罵詈雑言を止めることもなかった。
やがて、喉がおかしな音を立て、大量の血反吐を吐き垣根は再び崩れ落ちる。
『黒翼』に縋りつくことも出来ず、完全に崩れ落ちたのだ。
広がる血の海。
『黒翼』に縋りつくことも出来ず、完全に崩れ落ちたのだ。
広がる血の海。
鬱陶しく縋りついていた存在が倒れたからかそれとも単に潰す為か、これまでで最も強い力を込め、『黒翼』が振り下ろされる。
殆ど見えなくなった眼に映る漆黒に垣根はやはり哂った。
殆ど見えなくなった眼に映る漆黒に垣根はやはり哂った。
「テメェは、死ぬ。
俺みたいに、俺のように……死んでいくんだ」
俺みたいに、俺のように……死んでいくんだ」
予言のように、呪詛のように紡がれた、終ぞ音になることはなかったそれが、
垣根帝督の最期の言葉だった……――――――
垣根帝督が死んで、騒動が終わり、何時ともしれない、何所ともしれない時間と場所で『グループ』の四人は顔を合わせる。
土御門が回収した『ピンセット』を使ってデータを収集するのだ。
いつの間に回収したんだか、と思いつつ一方通行は血がこびり付いたそれを見る。
土御門が回収した『ピンセット』を使ってデータを収集するのだ。
いつの間に回収したんだか、と思いつつ一方通行は血がこびり付いたそれを見る。
付着している血は垣根のモノだろうことは簡単に推測できた。
『垣根帝督』 学園都市第二位の超能力者(レベル5)で、『第二候補』(スペアプラン) だった男。
過去形になってしまった男に一方通行は思考を巡らせる。
いや、正確には過去形になってしまった男の「最期の言葉」に……。
いや、正確には過去形になってしまった男の「最期の言葉」に……。
一歩通行には届いていたのだ。
音にも声にもならなかったあの呪詛が。
音にも声にもならなかったあの呪詛が。
あの男はある意味もう一人の一方通行だ。
何か一つでも狂っていれば一方通行もあの男のようになっていたのかもしれない。
もしくはなるのかもしれない。
何か一つでも狂っていれば一方通行もあの男のようになっていたのかもしれない。
もしくはなるのかもしれない。
あの「最期の言葉」通りに……―――
「チッ―――」
考えて、一方通行は舌打ちする。
なるものか。
自分にはやるべきことがある。
垣根の言葉通りになるつもりなど到底ない。
そして、敗者の言葉にかまけている暇はなど 一切ない。
自分にはやるべきことがある。
垣根の言葉通りになるつもりなど到底ない。
そして、敗者の言葉にかまけている暇はなど 一切ない。
「残念だったなァ、俺は、ならねェよ……―――」
誰にも聞こえない程小さな呟きは、そのまま溶けて消えていった。