とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-360

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匿名ユーザー

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『いつか君が変わるとしても~外伝~』



 とあるマンション。
 かつては学園都市最強の能力者、一方通行―アクセラレーター―が眠る一室。
 一方通行の眠りは深い。この部屋の主となって数日もすると、自然と眠りは深く、長くなった。
 日々、特にすることもないので昼を過ぎても目覚めない。
『飼い猫は長ければ20時間ぐらい眠るけど、その理由を知っているかしら?
 餌を探しに行く必要もないし、敵に襲われることが無い安全な寝場所があるからよ。
 特にすることもないから安心して眠り続けられる』
 と、同じ居候の身である芳川桔梗が語っている。(一方通行自身も居候であるが)
 とにかく、彼は日が昇り、雀のさえずりとともに朝を迎えることなどまったくなかったのだが――
 この日の朝だけは違った。
 目が覚めてすぐ、天井が目に映る。
 仰向けのまま、ぼんやりと思考する。
(……何だァ?)
 暑苦しい。
 全身が発汗しているのが分かる。
 布団の中が妙に暑い。
 上下ともに白い就寝着―先日、買い物で購入させられたパジャマ―が肌に張り付いている。
 『向き』―ベクトル―操作による反射を使えばどうにでもできるだろうが、
 もはやこうしたことに能力を使う余裕はまったくと言っていいほどない。
 チョーカー型電極のバッテリーを無駄使いするわけにはいかなかった。
 布団がもぞもぞ動く。
 一方通行は動いていない。動いたのは別の何かだ。
 思考が急速に早まる。
(ってことは……あのクソガキか)
 思い当たるのは打ち止め―ラストオーダー―と呼ばれる少女だった。
 とある事件以来、彼と彼女は二人三脚で生きている。
 秋も終わりに近いとはいえ、彼はこの暑さに耐えられなかった。
 反射を使ない生活を始めてそれなりに日を重ねているが、慣れなていないことは決して少なくない。
 同時に能力に頼りきった生活をしていた彼には、こうした体験は未知だった。
(ガキの体温だけでこんなに暑くなンのか?でなけりゃァ、熱でもあンじゃねェのか……)
 一方通行の左側の布団が不自然に盛り上がっている。
 彼が眠っている間にこっそり潜り込んだのだろう。
(やっぱこいつは――ガキだ)


 布団の左端を掴む。
「おい、クソガキ」
 そして布団を引っ張り、床へ落とすと、
「さっさと起き……」
 色素の薄い“長い”髪が目に入り、
「……?」
 空色の布に白いウサギの絵柄が散りばめられたパジャマが、
 丸みを帯びた少女の体を窮屈そうに包んでいた。
 汗に濡れてパンパンに張った服が体の輪郭を強調している。
「――――」
 すらりとした長い手足。
 きゅっと引き締まった腰。
 前開きのシャツのボタンのいくつかが取れていて、胸元を押し上げる膨らみがある。
 白い肌が服の裾のあちこちから覗かせている。
「――――な」
 顔立ちの整った、大人びた少女の寝顔がそこにあった。
「ん……」
 艶のある甘い声が少女の唇から洩れる。
「……おはようだけど、ってミサカはミサカは…もうちょっとだけお休みなさい」
 独特の口調で告げると、声は小さな寝息に変わる。
 一方通行の覚醒した思考が急停止した。



「でもね、あなたの布団に入って寝るまでは特に何もなかったよってミサカはミサカは
 前後の状況を整理してみたり。……それにしても、『お姉様』―オリジナル―より
 大きいんじゃないかなってミサカはミサカは胸の大きさにどきどきしたり」
 少女は自身の胸を両腕で抱き寄せたり、長い髪や体をいじることに夢中になっている。
(こいつが――あのクソガキ?)
 一方通行は今でも信じられない状況に頭を悩ませていた。
 状況は理解している。
 目が覚めて、気がついたら体が大きくなっていた。
 それだけだ。
 だが、それが一夜にして起きたことが問題だった。
 これだけ急激に肉体を成長させることは、どれだけの劇薬を用いても不可能だ。
 少女の肉体年齢は十歳のものから、十代後半といえるほどの変化をしている。
 打ち止め以外の妹達―シスターズ―でさえ、一日辺り一年分の成長促進が限界だった。
 超能力による『肉体変化』―メタモルフォーゼ―の一種という可能性もあるが――
「というか、起きる前に何かしなかったかミサカはミサカはあなたを疑ってみたり」
 一方通行の肩が落ちた。
 肉体がどれだけ成長しようと、精神年齢と記憶情報までは変わらないらしい。
 安堵したのか呆れたのか、よく分からない溜め息が出た。


「おまえ、今の自分の状況分かってンだろうな?」
 うん、と真っ直ぐに彼を見て少女は頷いた。
 その表情は、彼の隣を歩いていた小さな少女のようで、彼がよく知る一万人の少女達によく似ていた。
 何か、重い鈍器で頭を殴られたような気分だった。
 それを察したのか、少女が話題を変える。
「それでねってミサカはミサカはあなたに手伝ってもらいたかったり」
「何で俺がお子様のお着替えを手伝わなきゃならねェンだよ」
「今はお子様じゃないよってミサカはミサカは小さすぎて上手く脱げないことを訴えたり」
「ああ、そうかい」
 少女――打ち止めが背を向ける。
 腰まである茶色の髪をシーツの上に垂らしたまま、残っているシャツのボタンを外していく。
 両腕で前を隠しながら、肩を抱くように窄める。
「あ、あんまりじろじろ見ないでねってミサカはミサカは……」
 一方通行は少女の汗の匂いに若干戸惑いつつも、襟を掴んでシャツを下げ降ろしていく。
 幸い、難しい作業ではなさそうだった。
 曲線を描く、少女とも女性ともいえる肢体が露になっていく。
 白い首筋。
 丸みを帯びた肩と腕。
 真っ直ぐに伸びた背筋。
 汗に濡れ、火照った肌が暖かい。
(だからどうした?体がでかくなろうが、こいつはあのクソガキだろォが)
「腕下げろよ。そしたら今度は後ろに回して腕を抜いて――」
 そのとき、



 ――がちゃっと音を立ててノブが回り、部屋の扉が押し開かれる。
 眠そうに目を擦りながら踏み込んできたのは、芳川桔梗だった。
「一方通行……もう起きてるの?打ち止めがいないんだけど、こっちに――」
 芳川の目に映ったのは、少年に服を脱がされている少女。
 部屋には汗の匂い。
『――――』
「――――」
「よ、芳川……?」
「芳川だねってミサカはミサカはおはようーって挨拶してみたり」
「――愛穂ー?ねえ、ちょっとこっちに来てくれない?」



 この後、一方通行が一時間ほど問い詰められたのは言うまでもない。

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