その時だった。
「ゼロにするっ!」
天使の羽は、一人の男によって、全て受け止められた。
一閃の風が彼の背後にいた天草式十字凄教に吹きつける。猛烈な突風に、体ごと吹き飛ばされたメンバーもいた。
悠然と立ちはだかった男も、両足がアスファルトに食い込み、数十センチ引き下がった。だが、倒れない。
男は右手に持つ剣を一振り払った。
レイピアのように細い長剣はブクブクと膨れ上がり、起伏が激しい赤黒い剣へと変貌する。
魔剣フルンティング。
彼は両手で剣を握ると、重く竣功な斬撃を繰り出した。
ガキィイィン!!
大きな金属音が周囲を響かせた。
魔剣の斬撃を平然と受け止めたのは、白の翼を持った少女の槍だった。四〇メートル以上離れていた『天使』は、一瞬で彼との距離を詰めていた。
「むぅんッ!」
アスファルトに亀裂を入れるほどの踏み込みで、『天使』をなぎ払った。『天使』はその方向ベクトルに身を任せるように空へと舞い上がる。それと同時に数十枚の羽が彼を襲った。
彼は魔剣フルンティングを回転させ、一羽も残らず霧散させた。
金髪で端正な容姿を持つ男性で、紺のスーツを着込んだ後ろ姿は、天草式の人々の目にとまった。
一人の女性が彼の正体に気づく。
「……『騎士団長(ナイトリーダー)』?」
その声を聞いた男は一瞬横顔を見せ、唇を緩めた。
一閃の風が彼の背後にいた天草式十字凄教に吹きつける。猛烈な突風に、体ごと吹き飛ばされたメンバーもいた。
悠然と立ちはだかった男も、両足がアスファルトに食い込み、数十センチ引き下がった。だが、倒れない。
男は右手に持つ剣を一振り払った。
レイピアのように細い長剣はブクブクと膨れ上がり、起伏が激しい赤黒い剣へと変貌する。
魔剣フルンティング。
彼は両手で剣を握ると、重く竣功な斬撃を繰り出した。
ガキィイィン!!
大きな金属音が周囲を響かせた。
魔剣の斬撃を平然と受け止めたのは、白の翼を持った少女の槍だった。四〇メートル以上離れていた『天使』は、一瞬で彼との距離を詰めていた。
「むぅんッ!」
アスファルトに亀裂を入れるほどの踏み込みで、『天使』をなぎ払った。『天使』はその方向ベクトルに身を任せるように空へと舞い上がる。それと同時に数十枚の羽が彼を襲った。
彼は魔剣フルンティングを回転させ、一羽も残らず霧散させた。
金髪で端正な容姿を持つ男性で、紺のスーツを着込んだ後ろ姿は、天草式の人々の目にとまった。
一人の女性が彼の正体に気づく。
「……『騎士団長(ナイトリーダー)』?」
その声を聞いた男は一瞬横顔を見せ、唇を緩めた。
神裂火織は浮遊感に襲われていた。
当たり前だ。
自分は二〇メートルほどの高さまで体が浮いているのだから。
「…なっ?」
誰かに担がれている。そして、自分を抱えたまま常人離れした脚力で跳び上がっている。状況確認に思考を働かせようとした彼女の耳に、
「大丈夫か?ジャパニーズのガキんちょ」
という女性の声が聞こえた。
ふいに彼女の全身に風が纏いつく。下には着地する道路が迫っていた。衝撃を少しでも和らげるために風の魔術で上空へと押し上げ、ブーツの金属音と共に地面に着いた。そして、着地したと思うと、その体躯を乱暴に投げられた。神裂火織の体が天草式のメンバーに受け止められた。
彼女の周囲に天草式の人々が寄ってくる。一人ひとり怪我を負っていたが、彼女の為に涙を流し、心配するだけの余力は残っていた。「『女教皇(プリエステス)』様!」「出血が酷い!誰か回復魔術の準備を!」「歩ける奴は、倒れてる負傷者に肩を貸せ!」「包帯を!早くその傷を防がないと!」という声を聞きつつ、神裂はわき腹を抑えたまま、眼前に背を向けて立っている二人の人物に目をやった。
「申し訳ありません……『騎士団長(ナイトリーダー)』、シルビア…」
神裂の声は、『近衛侍女(クイーンオブオナー)』の騎士服を纏ったシルビアの耳に届いた。金髪の彼女は両腰の鞘から二本の剣を抜き放った。文字が刻まれている刃が太陽の光を浴びて輝いている。口に皺を寄せた笑いをする女性は背中ごしに、
「まだまだアンタはガキだね。ここからは、オネーさんたちに任せときなさい」
「天草式の退場は予定より早いが、相手がドラゴンとなればな…。神裂、天草式を引き連れて早くここから離れておけ」
天草式十字凄教のメンバーはその声を聞くまでも無く、撤退しようとした時、
当たり前だ。
自分は二〇メートルほどの高さまで体が浮いているのだから。
「…なっ?」
誰かに担がれている。そして、自分を抱えたまま常人離れした脚力で跳び上がっている。状況確認に思考を働かせようとした彼女の耳に、
「大丈夫か?ジャパニーズのガキんちょ」
という女性の声が聞こえた。
ふいに彼女の全身に風が纏いつく。下には着地する道路が迫っていた。衝撃を少しでも和らげるために風の魔術で上空へと押し上げ、ブーツの金属音と共に地面に着いた。そして、着地したと思うと、その体躯を乱暴に投げられた。神裂火織の体が天草式のメンバーに受け止められた。
彼女の周囲に天草式の人々が寄ってくる。一人ひとり怪我を負っていたが、彼女の為に涙を流し、心配するだけの余力は残っていた。「『女教皇(プリエステス)』様!」「出血が酷い!誰か回復魔術の準備を!」「歩ける奴は、倒れてる負傷者に肩を貸せ!」「包帯を!早くその傷を防がないと!」という声を聞きつつ、神裂はわき腹を抑えたまま、眼前に背を向けて立っている二人の人物に目をやった。
「申し訳ありません……『騎士団長(ナイトリーダー)』、シルビア…」
神裂の声は、『近衛侍女(クイーンオブオナー)』の騎士服を纏ったシルビアの耳に届いた。金髪の彼女は両腰の鞘から二本の剣を抜き放った。文字が刻まれている刃が太陽の光を浴びて輝いている。口に皺を寄せた笑いをする女性は背中ごしに、
「まだまだアンタはガキだね。ここからは、オネーさんたちに任せときなさい」
「天草式の退場は予定より早いが、相手がドラゴンとなればな…。神裂、天草式を引き連れて早くここから離れておけ」
天草式十字凄教のメンバーはその声を聞くまでも無く、撤退しようとした時、
ドッパァアン!!
ガラスを割るほどの轟音が鳴り響いた。
先ほど消滅した無数の羽が突如出現し、再び周囲を覆い尽くした。
それを見た天草式は言葉を失うが、シルビアと『騎士団長(ナイトリーダー)』は眉一つ動かさない。
次の瞬間、羽は一か所の方角に向けて、怒涛の勢いで集積した。
それは、天草式の方角では無い。
『魔神』。
交差点の中心に浮かんでいた一人の少年に襲いかかったのだ。
『魔神』の僕である『天使』の攻撃が主を標的にするという予想外の展開に、天草式を驚かせた。ギザギザの白い球体となった『魔神』の周囲が、突然、パキンッ!という音でガラスの破片のように球体が崩壊し、『魔神』は姿を現した。
「……く、くっくっく…」
『魔神』は黒髪を右手でかきあげ、神裂の血痕が残るアスファルトに立っている一人の男を見た。
「これだけか?もっと余を楽しませろぉ…オッレルス」
『魔神』の瞳には、碧眼の成年が映っていた。水色のロングシャツに麦色のジャケットとズボンを履いている男で、普段の優柔不断そうな表情は一切消え、『魔神』を強烈な視線で貫いていた。
安物の茶色の靴を踏みしめ、股を広げた。両手をポケットから抜き、姿勢を正す。金髪の前髪で見え隠れしている碧眼は、強い意志が宿っていた。右手首を左手で掴むと、数回手首を振った。そして―――――
先ほど消滅した無数の羽が突如出現し、再び周囲を覆い尽くした。
それを見た天草式は言葉を失うが、シルビアと『騎士団長(ナイトリーダー)』は眉一つ動かさない。
次の瞬間、羽は一か所の方角に向けて、怒涛の勢いで集積した。
それは、天草式の方角では無い。
『魔神』。
交差点の中心に浮かんでいた一人の少年に襲いかかったのだ。
『魔神』の僕である『天使』の攻撃が主を標的にするという予想外の展開に、天草式を驚かせた。ギザギザの白い球体となった『魔神』の周囲が、突然、パキンッ!という音でガラスの破片のように球体が崩壊し、『魔神』は姿を現した。
「……く、くっくっく…」
『魔神』は黒髪を右手でかきあげ、神裂の血痕が残るアスファルトに立っている一人の男を見た。
「これだけか?もっと余を楽しませろぉ…オッレルス」
『魔神』の瞳には、碧眼の成年が映っていた。水色のロングシャツに麦色のジャケットとズボンを履いている男で、普段の優柔不断そうな表情は一切消え、『魔神』を強烈な視線で貫いていた。
安物の茶色の靴を踏みしめ、股を広げた。両手をポケットから抜き、姿勢を正す。金髪の前髪で見え隠れしている碧眼は、強い意志が宿っていた。右手首を左手で掴むと、数回手首を振った。そして―――――
「では、私が満足させてやる」
五メートルを超える巨大メイスが、『魔神』に直撃した。
バゴォ!と鈍い打撃音が鳴る。
「立派になった貴殿を、このような形で相間見えることになるとは…まことに残念である」
一切の躊躇なく『魔神』に重い一撃を放った男は、そう呟いた。
『魔神』の下で、その光景を見ていたオッレルスは左手を構える。
メイスを持った男は、異変に気付いた。
「むっ…?」
「そのメイス…色々と細工をしていたようだが、すまぬな。余の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が全て壊してしまった」
「…その能力は、相変わらず健在であるか」
『魔神』はメイスをゆっくりと押すと、物凄い勢いでその男の巨体と『棍棒(メイス)』は吹き飛ばされ、反対側の歩道橋の手すりに激突する。鉄筋は歪に曲がるほどの衝撃を受けるが、水平な立ち位置になりながらも、両足で手すりを踏みしめ、その衝撃を押し殺した。
『魔神』が触れたと思われる『棍棒(メイス)』の一部には、手形のような焼けた跡があった。
折れ曲がった手すりを蹴飛ばし、長身の男は歩道橋の地面にメイスを突き刺した。
バギバギィィイ!と亀裂が走り、その男が立っている場所を中心に、歩道橋は二つ折りに分断された。アスファルトの道路に身が落ちていく刹那に、彼の頭上に白の一閃が通りすぎた。
『天使』の槍。
音速を超えた速度で彼に襲いかかっていた。
それに気づいた彼は、絶妙なタイミングを見計らい、振りむくことなく回避した。
『天使』の槍は『魔神』の眼前を通り過ぎ、数百メートル離れているモノレールの線路を貫通した。欠片も残さず、直径2メートル程の穴がポッカリと開いていた。
瓦礫の音と共に着地した男は、メイスにまとわりついた欠片を、片手で一振りして肩に担いだ。
白いシャツに青のクロスのデザインが入っている。その下にはロングの青いシャツを着込み、青のジーンズを履いていた。茶髪に厳格な表情をした男が言葉を吐いた。
「…かつて、私がお前に負けたことは、正しき運命だったと思っている」
筋肉質の体躯をした長身の男、『後方のアックア』ことウィリアム=オルウェルは五メートルを超えるメイスを構える。
「仮にあの時、私が貴様の右腕を斬り落としたなら、ドラゴンの能力は、清い心を持つ貴殿ではなく、飽くなき野望を持つ者共に渡っていただろう。亡きフィアンマの手に渡っていたらと思うと、今でも怖気がする」
ウィリアムは『魔神』と、その隣に舞い降りた『天使』を見つめ、言葉をつづけた。だが、『魔神』の耳には届いていなかった。
顔を手で隠したまま、肩を震わせていた。
『天使』は無言で『魔神』を見つめていた。
「くっくっくっくっく……」
笑い声を必死に抑えているような声が、ウィリアムとオッレルスの耳に届いた。
無表情で『魔神』を見ていた『天使』は、視線を二人に移すと、両手を広げた。翼を動かし、彼女の周囲に再び羽が舞うと、瞬時に『天使』の両手に収束しはじめ、二本の白い槍を形成した。
「「……ッ!!」」
即座にウィリアム=オルウェルとオッレルスは身構える。
天使は眼前で二本の槍をクロスさせ、冷たい視線で聖人と魔神になりそこねた魔術師を見つめた。だが、彼女の視線は、二人から目が離れた。
そして、ウィリアム=オルウェルとオッレルス、シルビア、『騎士団長(ナイトリーダー)』も気づいた。
バゴォ!と鈍い打撃音が鳴る。
「立派になった貴殿を、このような形で相間見えることになるとは…まことに残念である」
一切の躊躇なく『魔神』に重い一撃を放った男は、そう呟いた。
『魔神』の下で、その光景を見ていたオッレルスは左手を構える。
メイスを持った男は、異変に気付いた。
「むっ…?」
「そのメイス…色々と細工をしていたようだが、すまぬな。余の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が全て壊してしまった」
「…その能力は、相変わらず健在であるか」
『魔神』はメイスをゆっくりと押すと、物凄い勢いでその男の巨体と『棍棒(メイス)』は吹き飛ばされ、反対側の歩道橋の手すりに激突する。鉄筋は歪に曲がるほどの衝撃を受けるが、水平な立ち位置になりながらも、両足で手すりを踏みしめ、その衝撃を押し殺した。
『魔神』が触れたと思われる『棍棒(メイス)』の一部には、手形のような焼けた跡があった。
折れ曲がった手すりを蹴飛ばし、長身の男は歩道橋の地面にメイスを突き刺した。
バギバギィィイ!と亀裂が走り、その男が立っている場所を中心に、歩道橋は二つ折りに分断された。アスファルトの道路に身が落ちていく刹那に、彼の頭上に白の一閃が通りすぎた。
『天使』の槍。
音速を超えた速度で彼に襲いかかっていた。
それに気づいた彼は、絶妙なタイミングを見計らい、振りむくことなく回避した。
『天使』の槍は『魔神』の眼前を通り過ぎ、数百メートル離れているモノレールの線路を貫通した。欠片も残さず、直径2メートル程の穴がポッカリと開いていた。
瓦礫の音と共に着地した男は、メイスにまとわりついた欠片を、片手で一振りして肩に担いだ。
白いシャツに青のクロスのデザインが入っている。その下にはロングの青いシャツを着込み、青のジーンズを履いていた。茶髪に厳格な表情をした男が言葉を吐いた。
「…かつて、私がお前に負けたことは、正しき運命だったと思っている」
筋肉質の体躯をした長身の男、『後方のアックア』ことウィリアム=オルウェルは五メートルを超えるメイスを構える。
「仮にあの時、私が貴様の右腕を斬り落としたなら、ドラゴンの能力は、清い心を持つ貴殿ではなく、飽くなき野望を持つ者共に渡っていただろう。亡きフィアンマの手に渡っていたらと思うと、今でも怖気がする」
ウィリアムは『魔神』と、その隣に舞い降りた『天使』を見つめ、言葉をつづけた。だが、『魔神』の耳には届いていなかった。
顔を手で隠したまま、肩を震わせていた。
『天使』は無言で『魔神』を見つめていた。
「くっくっくっくっく……」
笑い声を必死に抑えているような声が、ウィリアムとオッレルスの耳に届いた。
無表情で『魔神』を見ていた『天使』は、視線を二人に移すと、両手を広げた。翼を動かし、彼女の周囲に再び羽が舞うと、瞬時に『天使』の両手に収束しはじめ、二本の白い槍を形成した。
「「……ッ!!」」
即座にウィリアム=オルウェルとオッレルスは身構える。
天使は眼前で二本の槍をクロスさせ、冷たい視線で聖人と魔神になりそこねた魔術師を見つめた。だが、彼女の視線は、二人から目が離れた。
そして、ウィリアム=オルウェルとオッレルス、シルビア、『騎士団長(ナイトリーダー)』も気づいた。
『魔神』と『天使』に2,95inロケット弾が直撃した。
強烈な光と共に、爆撃音と衝撃波が生まれた。
大量の酸素を吸って巨大化した炎は辺りを覆い尽くし、ビルのガラスがはじけ飛ぶ。歩道橋は熱で歪み、衝撃波によって根こそぎ吹き飛ばされた。
天草式のメンバーが悲鳴を上げるが、それすらも塗りつぶす爆音が鳴り響き、瞬く間に煙が彼らを覆い尽す。
バババババババババッ!という機械音がなり、猛スピードで接近する機体がある。
天草式を黒い影が覆った。
学園都市最新鋭の軍用ヘリコプター『AH-89 ストライカー』が第一二学区の上空を舞い、そのプロペラ音よりも巨大な『ワルキューレの騎行』の曲が、そのヘリコプターから上空一〇〇メートルで流されていた。
騒音に近い音量で鳴り響く『ワルキューレの騎行』の尊大な音楽と共に、『AH-89 ストライカー』の出口がスライドする。
「ロケット弾は当たったか?」
軍用ヘリのパイロット、マーク=スペースは告げた。
『はい。間違いなく』
「なら、お前たちの仕事はこれで終わりだ。私たちをここで降ろして退却しろ!御苦労だったな!」
『Yes!BOSS!』
首領(ボス)と呼ばれた少女は、黒いマントを靡かせると、そのまま軍用ヘリから落下した。
続いて、黒いマントを羽織った赤髪の男が、上空一〇〇メートルから真っ逆さまに飛び下りた。
そして、四万枚に及ぶカードが『AH-89 ストライカー』から、ばら撒かれた。
真下には『魔神』と『天使』がいる交差点の中心があり、黒煙の隙間から二人の人影が見えた。
大量の酸素を吸って巨大化した炎は辺りを覆い尽くし、ビルのガラスがはじけ飛ぶ。歩道橋は熱で歪み、衝撃波によって根こそぎ吹き飛ばされた。
天草式のメンバーが悲鳴を上げるが、それすらも塗りつぶす爆音が鳴り響き、瞬く間に煙が彼らを覆い尽す。
バババババババババッ!という機械音がなり、猛スピードで接近する機体がある。
天草式を黒い影が覆った。
学園都市最新鋭の軍用ヘリコプター『AH-89 ストライカー』が第一二学区の上空を舞い、そのプロペラ音よりも巨大な『ワルキューレの騎行』の曲が、そのヘリコプターから上空一〇〇メートルで流されていた。
騒音に近い音量で鳴り響く『ワルキューレの騎行』の尊大な音楽と共に、『AH-89 ストライカー』の出口がスライドする。
「ロケット弾は当たったか?」
軍用ヘリのパイロット、マーク=スペースは告げた。
『はい。間違いなく』
「なら、お前たちの仕事はこれで終わりだ。私たちをここで降ろして退却しろ!御苦労だったな!」
『Yes!BOSS!』
首領(ボス)と呼ばれた少女は、黒いマントを靡かせると、そのまま軍用ヘリから落下した。
続いて、黒いマントを羽織った赤髪の男が、上空一〇〇メートルから真っ逆さまに飛び下りた。
そして、四万枚に及ぶカードが『AH-89 ストライカー』から、ばら撒かれた。
真下には『魔神』と『天使』がいる交差点の中心があり、黒煙の隙間から二人の人影が見えた。
右手に剣と、金色の鎖で巻かれた円形のアクセサリーを持った魔術師は、金色の長髪を靡かせ、詠唱する。
「Dieu du feu prete le pouvoir a moi…」
(火の神よ。私に力を…)
赤い髪をした、2メートルを超える大男が告げた。
「J'entends mon souhait et s'il vous plait ai laisse Dieu qui donne la punition que je sers――」
(私が仕える王よ、私の願いを聞き入れてください――)
「Dieu du feu prete le pouvoir a moi…」
(火の神よ。私に力を…)
赤い髪をした、2メートルを超える大男が告げた。
「J'entends mon souhait et s'il vous plait ai laisse Dieu qui donne la punition que je sers――」
(私が仕える王よ、私の願いを聞き入れてください――)
少女は、剣を握り締め、唄う。全身を黒い衣装で覆い尽くした姿は、年齢不相応の威厳を纏っていた。
「La flamme ouvre mon destin afin que lumieres de la lumiere solaires en haut de mon chemin…」
(太陽の光が、私を照らすように、炎は私の覇道を切り開き…)
少年は唄う。右目の下にはバーコードの刺青があり、神父の黒服が強い風に吹きつけられていた。
「Avec ma réputation, je prie.Veuillez me donner le grand pouvoir――」
(私の名の下に、願います。彼らを斃すに足りる力をお与えください)
「La flamme ouvre mon destin afin que lumieres de la lumiere solaires en haut de mon chemin…」
(太陽の光が、私を照らすように、炎は私の覇道を切り開き…)
少年は唄う。右目の下にはバーコードの刺青があり、神父の黒服が強い風に吹きつけられていた。
「Avec ma réputation, je prie.Veuillez me donner le grand pouvoir――」
(私の名の下に、願います。彼らを斃すに足りる力をお与えください)
少女は言葉を紡ぐ。
「Il y a me dans la constance avec Dieu…」
(神と共に永劫に在れ、誓う…)
赤髪の神父は言葉を紡ぐ。
「Donnez-moi pouvoir de la condemnation,L'arbitre a retiré――」
(私に断罪の力を与え、彼らに罰をお与えください――)
「Il y a me dans la constance avec Dieu…」
(神と共に永劫に在れ、誓う…)
赤髪の神父は言葉を紡ぐ。
「Donnez-moi pouvoir de la condemnation,L'arbitre a retiré――」
(私に断罪の力を与え、彼らに罰をお与えください――)
そして、彼らは唱えた。
「La flamme du rouge en flammes,」
(紅蓮の炎よ、全てを滅せよ!)
「Je dis un nom de mon Roi!」
(我が王の名を告げる!)
「La flamme du rouge en flammes,」
(紅蓮の炎よ、全てを滅せよ!)
「Je dis un nom de mon Roi!」
(我が王の名を告げる!)
「『破滅の枝(レーヴァテイン)』!!」
「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!!」
「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!!」
再び、巨大な炎に埋め尽くされた。
火柱は交差点の中心を真紅に包み、瞬時に一〇〇メートル以上まで昇った。
『AH-89 ストライカー』は紙一重で直撃を回避し、その場を離れて行った。火山のマグマが噴き出るような光景が出現し、ドロドロとした火の塊が周囲に飛び散る。アスファルトでさえ、三〇〇〇度を超える高熱に耐えきれず溶け始めていた。植林された木々に火は燃え移り、交差点の東西に建っていた一〇階建てのビルは崩壊した。轟音が鳴り響き、四か所の道の内、三つの道路が横倒れたビルによって塞がれる。
高熱の余波が天草式のメンバーたちを襲い、心を凍りつかせた。
爆心地から二〇〇メートル以上は離れている。だが、そこで繰り広げられた戦いの熱波は伝わってきた。様々な戦いを経験してきた彼らでも、眼前で起こっている激戦は彼らの理解を越えていた。
額から血を流している野母崎は、気を失った諫早を肩に担ぎながら、その光景を見てポツリと漏らした。
「……俺は、夢を見てるのか?」
彼の言葉は、天草式の心中を吐露する言葉だった。
次元が違う。
『魔神』といえど、肉体は人間。
それに躊躇なくミサイルを撃ち込み、教皇級の魔術を次々に叩き込んでいた。真っ赤に燃えあがる火柱の前にいる六人の魔術師は、誰も彼も名だたる『魔術師(カイブツ)』。
火柱は交差点の中心を真紅に包み、瞬時に一〇〇メートル以上まで昇った。
『AH-89 ストライカー』は紙一重で直撃を回避し、その場を離れて行った。火山のマグマが噴き出るような光景が出現し、ドロドロとした火の塊が周囲に飛び散る。アスファルトでさえ、三〇〇〇度を超える高熱に耐えきれず溶け始めていた。植林された木々に火は燃え移り、交差点の東西に建っていた一〇階建てのビルは崩壊した。轟音が鳴り響き、四か所の道の内、三つの道路が横倒れたビルによって塞がれる。
高熱の余波が天草式のメンバーたちを襲い、心を凍りつかせた。
爆心地から二〇〇メートル以上は離れている。だが、そこで繰り広げられた戦いの熱波は伝わってきた。様々な戦いを経験してきた彼らでも、眼前で起こっている激戦は彼らの理解を越えていた。
額から血を流している野母崎は、気を失った諫早を肩に担ぎながら、その光景を見てポツリと漏らした。
「……俺は、夢を見てるのか?」
彼の言葉は、天草式の心中を吐露する言葉だった。
次元が違う。
『魔神』といえど、肉体は人間。
それに躊躇なくミサイルを撃ち込み、教皇級の魔術を次々に叩き込んでいた。真っ赤に燃えあがる火柱の前にいる六人の魔術師は、誰も彼も名だたる『魔術師(カイブツ)』。
「どうだ?ステイル=マグヌス。ストレス解消には持って来いだろう?」
空からフラフラと落ちてきた黒のベレー帽を、風の魔術で操作する。帽子を手元に置いたバードウェイは、瓦礫に腰をかけ、先ほど彼女と一緒に『AH-89 ストライカー』から飛び降りてきた不良神父に声をかけた。
バードウェイは黒のマントを纏い、高級感ある紺色のコートに白のプリーツブラウス、デザインの良い薔薇の刺繍が入った黒のストレッチベロアパンツを履いていて大人びた印象を受ける。
眼下にバーコードのような刺青のある神父は、煙草を口にくわえながら、
「ああ。あの男は、一度全力で焼き尽くしてやりたいと思ってたんだ。礼を言うよ」
大きな煙を吐いた。
眼前には大きな火柱があり、轟々と燃え上っている。彼らが立っている道路の付近にも、火球が落下するが、誰一人として気にかけていない。例え、彼らの真下に落ちたとしても、彼らの会話を阻害する材料には成り得ないからだ。
「アンタ…まさか、バードウェイ?!」
赤を基調とした『近衛侍女(クイーンオブオナー)』の正装をしたシルビアが、金髪の少女を見て言った。シルビアの隣に立つオッレルスは頭をかきながら、苦笑する。
「『明け色の陽射し』のボスが出てくるとは…いやはや、『神上派閥』のコネクションは凄いな…」
「……む」
バードウェイとステイルを眼の端に捉えたウィリアムは直後、何かを察知したように火柱に向けた。
同様に『騎士団長(ナイトリーダー)』も無言で視線を返した。
ステイルは腰を上げ、煙草を地べたに捨てる。
「でも――」
彼は、吸いかけの煙草を踏みしめ、火を消す。そして、火柱の中に見えている『何か』を強い視線で眼前を見つめた。
空からフラフラと落ちてきた黒のベレー帽を、風の魔術で操作する。帽子を手元に置いたバードウェイは、瓦礫に腰をかけ、先ほど彼女と一緒に『AH-89 ストライカー』から飛び降りてきた不良神父に声をかけた。
バードウェイは黒のマントを纏い、高級感ある紺色のコートに白のプリーツブラウス、デザインの良い薔薇の刺繍が入った黒のストレッチベロアパンツを履いていて大人びた印象を受ける。
眼下にバーコードのような刺青のある神父は、煙草を口にくわえながら、
「ああ。あの男は、一度全力で焼き尽くしてやりたいと思ってたんだ。礼を言うよ」
大きな煙を吐いた。
眼前には大きな火柱があり、轟々と燃え上っている。彼らが立っている道路の付近にも、火球が落下するが、誰一人として気にかけていない。例え、彼らの真下に落ちたとしても、彼らの会話を阻害する材料には成り得ないからだ。
「アンタ…まさか、バードウェイ?!」
赤を基調とした『近衛侍女(クイーンオブオナー)』の正装をしたシルビアが、金髪の少女を見て言った。シルビアの隣に立つオッレルスは頭をかきながら、苦笑する。
「『明け色の陽射し』のボスが出てくるとは…いやはや、『神上派閥』のコネクションは凄いな…」
「……む」
バードウェイとステイルを眼の端に捉えたウィリアムは直後、何かを察知したように火柱に向けた。
同様に『騎士団長(ナイトリーダー)』も無言で視線を返した。
ステイルは腰を上げ、煙草を地べたに捨てる。
「でも――」
彼は、吸いかけの煙草を踏みしめ、火を消す。そして、火柱の中に見えている『何か』を強い視線で眼前を見つめた。
「あれだけくらって無傷ってのは、すっきりしないなぁ…」
バオォオオ!!と大きな突風が生じた。
火柱は一瞬にして消え去り、黙々と漂っていた黒煙も吹き飛ばされた。黒焦げた地面が目の前に広がる。焼き尽くされたというより、黒のペンキがぶちまけられた様な光景で、地面にはまだ焼け焦げるような熱がこもっていた。周囲の空気が温められ、蜃気楼のように揺れている。
その中心に、『魔神』は降り立った。
彼の上には、白い翼で体を覆い尽くした『天使』がいた。
白い繭のような翼がゆっくりと動き、一気にその両翼を広げる。
翼の直径は一〇メートル弱ほどで、白いローブと金色のラインで彩られた純白の甲冑で武装していた。少女の姿はまさに『羽を持つ聖騎士(パラディンオブヴァルキリー)』そのものだった。
『天使』の両手に再び、三メートルを超える槍が創造された。白い帯で丁寧に巻かれた柄に、三〇センチほどの鋭い刃が備え付けられている。
『天使』を見たバードウェイとステイルは、
「なんだ、アレは?」
「…あの子、確か天草式の…」
オッレルスは顎に手を当て、『天使』について思考した。
「…『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』で加工された天使だろうな。しかし、天使を受け入れられるだけの器を持つとは…」
シルビアは一本の剣を肩でポンポンと叩きながら、もう一本の剣を持ちかえて、
オッレルスの言葉に続く。
「本来、天使が現世に降臨しただけでもこの世に歪みが生じるのに…人を器としたことでその反動を抑えてるのよ。これも神のなせる業、か…」
『騎士団長(ナイトリーダー)』は、膨れ上がった魔剣フルンティングをアスファルトの亀裂に突き刺したまま、
「天使は神に従事する手足のような存在だ。神の範疇に入るドラゴンが使役していたとしても何ら不思議はないが…」
「天使の討伐は、私の仕事の内に含まれていない。後で上条当麻にターップリと請求することにしようか」
バードウェイの言葉を、メイスを構えたウィリアム=オルウェルは咎めた。
「…軽口を叩いている場合ではないのである」
火柱は一瞬にして消え去り、黙々と漂っていた黒煙も吹き飛ばされた。黒焦げた地面が目の前に広がる。焼き尽くされたというより、黒のペンキがぶちまけられた様な光景で、地面にはまだ焼け焦げるような熱がこもっていた。周囲の空気が温められ、蜃気楼のように揺れている。
その中心に、『魔神』は降り立った。
彼の上には、白い翼で体を覆い尽くした『天使』がいた。
白い繭のような翼がゆっくりと動き、一気にその両翼を広げる。
翼の直径は一〇メートル弱ほどで、白いローブと金色のラインで彩られた純白の甲冑で武装していた。少女の姿はまさに『羽を持つ聖騎士(パラディンオブヴァルキリー)』そのものだった。
『天使』の両手に再び、三メートルを超える槍が創造された。白い帯で丁寧に巻かれた柄に、三〇センチほどの鋭い刃が備え付けられている。
『天使』を見たバードウェイとステイルは、
「なんだ、アレは?」
「…あの子、確か天草式の…」
オッレルスは顎に手を当て、『天使』について思考した。
「…『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』で加工された天使だろうな。しかし、天使を受け入れられるだけの器を持つとは…」
シルビアは一本の剣を肩でポンポンと叩きながら、もう一本の剣を持ちかえて、
オッレルスの言葉に続く。
「本来、天使が現世に降臨しただけでもこの世に歪みが生じるのに…人を器としたことでその反動を抑えてるのよ。これも神のなせる業、か…」
『騎士団長(ナイトリーダー)』は、膨れ上がった魔剣フルンティングをアスファルトの亀裂に突き刺したまま、
「天使は神に従事する手足のような存在だ。神の範疇に入るドラゴンが使役していたとしても何ら不思議はないが…」
「天使の討伐は、私の仕事の内に含まれていない。後で上条当麻にターップリと請求することにしようか」
バードウェイの言葉を、メイスを構えたウィリアム=オルウェルは咎めた。
「…軽口を叩いている場合ではないのである」
「あっはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
『魔神』の笑い声に、皆は戦慄した。
彼の表情を見た『天使』の頬に朱が差し、うっすらと頬笑みを浮かべた。
「良い!真にうれしいぞ!魔術師の者共!余にもっと恐怖というものを与えてみよ!くはははははは!笑いが止まらぬ!前戯にしては少々、余は高ぶりすぎた!くっ!くはははははは!!」
ドラゴンの瞳が『紅く』輝き始めた。
紅い瞳は、六人の魔術師を射抜く。
彼らは震える体を抑え、ドクンッ!と世界が震えるような『竜王の鼓動』を感じた。
ドラゴンが『覚醒』を始めた。
『竜王の鼓動』が大地を、空気を震わせる。それに呼応するように周囲の木々や瓦礫が浮かび上がった。遠くに離れている天草式の人々すらその得体のしれない大気の揺れを感じ取った。神裂は意識が薄れる中、その『鼓動』の正体に気づいた。
彼の表情を見た『天使』の頬に朱が差し、うっすらと頬笑みを浮かべた。
「良い!真にうれしいぞ!魔術師の者共!余にもっと恐怖というものを与えてみよ!くはははははは!笑いが止まらぬ!前戯にしては少々、余は高ぶりすぎた!くっ!くはははははは!!」
ドラゴンの瞳が『紅く』輝き始めた。
紅い瞳は、六人の魔術師を射抜く。
彼らは震える体を抑え、ドクンッ!と世界が震えるような『竜王の鼓動』を感じた。
ドラゴンが『覚醒』を始めた。
『竜王の鼓動』が大地を、空気を震わせる。それに呼応するように周囲の木々や瓦礫が浮かび上がった。遠くに離れている天草式の人々すらその得体のしれない大気の揺れを感じ取った。神裂は意識が薄れる中、その『鼓動』の正体に気づいた。
魔術結社『明け色の陽射し』の首領であり他の魔術師を圧倒する強大な魔術師、バードウェイ。
若干一四歳でルーンを極めた天才魔術師であり、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の一人、ステイル=マグヌス。
聖人でもあり巫女の役割も兼任する『近衛侍女(クイーンオブオナー)』随一の実力者、シルビア。
神の子と聖母の両方の身体的特徴をもつ『聖人』であり、その力は天使にさえ匹敵するウィリアム=オルウェル。
英国で最も力を持つ三派閥の内の一つ『騎士派』のトップに冠する名を持つ男、『騎士団長(ナイトリーダー)』。
かつて『ドラゴン』の力を有し、『北欧王座(フリズスキャルヴ)』を操る最強の魔術師、オッレルス。
若干一四歳でルーンを極めた天才魔術師であり、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の一人、ステイル=マグヌス。
聖人でもあり巫女の役割も兼任する『近衛侍女(クイーンオブオナー)』随一の実力者、シルビア。
神の子と聖母の両方の身体的特徴をもつ『聖人』であり、その力は天使にさえ匹敵するウィリアム=オルウェル。
英国で最も力を持つ三派閥の内の一つ『騎士派』のトップに冠する名を持つ男、『騎士団長(ナイトリーダー)』。
かつて『ドラゴン』の力を有し、『北欧王座(フリズスキャルヴ)』を操る最強の魔術師、オッレルス。
対し、
上条当麻、こと『竜王(ドラゴン)』。
五和を母体として受肉した『天使』。
五和を母体として受肉した『天使』。
『戦争』は、加速する。