「だから、やっぱり義妹の手料理が至高なんだにゃー」
「それはお前の嗜好や! 愛情があれば消し炭だって食べるのが漢の義務なんやでー!?」
「そんな事言ったって、目の前に義妹手製料理があったら青髪はどうするのかにゃー?」
「……食べるッ、けれども!!」
昼休み。弁当そっちのけで熱くソウルをぶつけ合っているのは上条の悪友だった。チンピラファッションのよく似合う義妹信奉者(シスコン)土御門と、エセ関西弁を操る青い髪の大男、青髪ピアスだった。どうやら手料理についての重大な会議らしい。そんなものに関わっていたら弁当箱をひっくり返す等の不幸が起きるのは目に見えていたため、上条は我関せずとばかりに手製の弁当をつついている。
今日のメニューは肉のない肉じゃがとほうれん草のおひたし。本当はここにてんぷらがあるはずだったのだが、揚げる傍からインデックスに食べられ露と消えてしまっている。
(せっかく、姫神からレシピ教えてもらったっていうのに……)
手間隙かけた数々のてんぷらは一つも上条の口に入っていない。一つもだ。早起きして、手間のかかる下ごしらえと、熱い油の飛沫に耐えた痛みはまったく報われず、残ったものは動物性タンパク質のない寂しげなお弁当。
「かみやん、かみやんはどう思うよ!?」
「第三者としての意見、聞かせて欲しいんだにゃー」
「……自分が作らなくていいなら、何も文句はない……」
何十年も耐えてきた主婦みたいに上条はつぶやき、青髪は首を傾げ、土御門は哀れみの目で上条を見つめた。
「……まぁその、なんだ、かみやんにもいい義妹が見つかるといいにゃー?」
「やから義妹にこだわるのは愚の骨頂やていうとるやろ!? 美女か美少女か美幼女なら等しく愛すのが漢の道なんやで!?」
「……ていうかそんな簡単に義妹なんてみつからねーよ」
「それは嘘だ!!」
「それは嘘や!!」
「なんでだよ!?」
そんな感じに日常は過ぎていく。
「それはお前の嗜好や! 愛情があれば消し炭だって食べるのが漢の義務なんやでー!?」
「そんな事言ったって、目の前に義妹手製料理があったら青髪はどうするのかにゃー?」
「……食べるッ、けれども!!」
昼休み。弁当そっちのけで熱くソウルをぶつけ合っているのは上条の悪友だった。チンピラファッションのよく似合う義妹信奉者(シスコン)土御門と、エセ関西弁を操る青い髪の大男、青髪ピアスだった。どうやら手料理についての重大な会議らしい。そんなものに関わっていたら弁当箱をひっくり返す等の不幸が起きるのは目に見えていたため、上条は我関せずとばかりに手製の弁当をつついている。
今日のメニューは肉のない肉じゃがとほうれん草のおひたし。本当はここにてんぷらがあるはずだったのだが、揚げる傍からインデックスに食べられ露と消えてしまっている。
(せっかく、姫神からレシピ教えてもらったっていうのに……)
手間隙かけた数々のてんぷらは一つも上条の口に入っていない。一つもだ。早起きして、手間のかかる下ごしらえと、熱い油の飛沫に耐えた痛みはまったく報われず、残ったものは動物性タンパク質のない寂しげなお弁当。
「かみやん、かみやんはどう思うよ!?」
「第三者としての意見、聞かせて欲しいんだにゃー」
「……自分が作らなくていいなら、何も文句はない……」
何十年も耐えてきた主婦みたいに上条はつぶやき、青髪は首を傾げ、土御門は哀れみの目で上条を見つめた。
「……まぁその、なんだ、かみやんにもいい義妹が見つかるといいにゃー?」
「やから義妹にこだわるのは愚の骨頂やていうとるやろ!? 美女か美少女か美幼女なら等しく愛すのが漢の道なんやで!?」
「……ていうかそんな簡単に義妹なんてみつからねーよ」
「それは嘘だ!!」
「それは嘘や!!」
「なんでだよ!?」
そんな感じに日常は過ぎていく。
昼休みが終わり、チャイムが教室に鳴り響く。いつもは教師が来る寸前まで喋っているのだが、二人は上条が醸しだす悲しみのオーラに気圧され自らの席へと戻っていく。
その隣をすり抜け、やってくる影があった。
「上条君。あれから。てんぷら作った?」
「……非女神か。上条さんはそこはかとなくやさぐれてるんで、そっとしといてくれると嬉しい」
クラスメイトの姫神だ。魔術師の要塞となったビルで一度死んだ後蘇生されたり、文化祭で通りすがりの追跡封じ(ルートディスターバー)に襲われたりとドラマティックな人生を送っているものの、クラスに堕フラグ男や全属性対応型オタク、多重スパイに子供先生まで揃っているため目立たないでいる不遇の人である。
「上条君。……また。女の子でも助けたの?」
「あー、ツッコミする気力もないけどあえて言おう俺が疲れてるイコール女の子絡みだと思ったら大間違いだッ!!」
「じゃあ。どうしたの?」
「……揚げたてんぷら、インデックスに全部食われた」
「……やっぱり。女の子絡み」
最後の呟きは上条に届かなかったらしい。上条は体を起こし、そのままの勢いで仰け反り頭を抱える。
「あーもう! あのはらぺこシスターさんはッ!! 家主に対する気遣いを知らないのか!? こう、具体的には料理とか料理とか料理とかッ!!」
とはいえインデックスは電子レンジを爆発物だと認識するような家事音痴であり、料理を仕込むのはそれはそれで重労働であったりする。基本を知らない人間に料理を教えるのは中々大変なことなのだ。
「……ようするに。上条君は。女の子の手料理が食べたいの?」
「いや、てゆーかインデックスが家事の手伝いでもしてくれれば……」
「女の子の手料理が食べたいの?」
「確かに食べたいかって聞かれたら食べたいけど……」
「女の子の手料理が食べたいの?」
「うん食べたい。……ってさっきから何なんだ姫神!? お前は何が言いたい!?」
姿勢をただし、こちらの机に手をかけた姫神に向き合う。自然と距離が近くなり、どこかでかいだ覚えのある、姫神の髪の匂いを感じ、
「「…………っ!!」」
お互いに大きく仰け反る。
何となく気まずくなって上条は視線を逸らす。教室に目を泳がせ、あー吹寄さんが味気なさそうなパン食べてるなー、などと視線を紛らわせていると、
「……今度。晩御飯、作ってあげてもいい。けど」
そんなことを姫神は口にした。
その隣をすり抜け、やってくる影があった。
「上条君。あれから。てんぷら作った?」
「……非女神か。上条さんはそこはかとなくやさぐれてるんで、そっとしといてくれると嬉しい」
クラスメイトの姫神だ。魔術師の要塞となったビルで一度死んだ後蘇生されたり、文化祭で通りすがりの追跡封じ(ルートディスターバー)に襲われたりとドラマティックな人生を送っているものの、クラスに堕フラグ男や全属性対応型オタク、多重スパイに子供先生まで揃っているため目立たないでいる不遇の人である。
「上条君。……また。女の子でも助けたの?」
「あー、ツッコミする気力もないけどあえて言おう俺が疲れてるイコール女の子絡みだと思ったら大間違いだッ!!」
「じゃあ。どうしたの?」
「……揚げたてんぷら、インデックスに全部食われた」
「……やっぱり。女の子絡み」
最後の呟きは上条に届かなかったらしい。上条は体を起こし、そのままの勢いで仰け反り頭を抱える。
「あーもう! あのはらぺこシスターさんはッ!! 家主に対する気遣いを知らないのか!? こう、具体的には料理とか料理とか料理とかッ!!」
とはいえインデックスは電子レンジを爆発物だと認識するような家事音痴であり、料理を仕込むのはそれはそれで重労働であったりする。基本を知らない人間に料理を教えるのは中々大変なことなのだ。
「……ようするに。上条君は。女の子の手料理が食べたいの?」
「いや、てゆーかインデックスが家事の手伝いでもしてくれれば……」
「女の子の手料理が食べたいの?」
「確かに食べたいかって聞かれたら食べたいけど……」
「女の子の手料理が食べたいの?」
「うん食べたい。……ってさっきから何なんだ姫神!? お前は何が言いたい!?」
姿勢をただし、こちらの机に手をかけた姫神に向き合う。自然と距離が近くなり、どこかでかいだ覚えのある、姫神の髪の匂いを感じ、
「「…………っ!!」」
お互いに大きく仰け反る。
何となく気まずくなって上条は視線を逸らす。教室に目を泳がせ、あー吹寄さんが味気なさそうなパン食べてるなー、などと視線を紛らわせていると、
「……今度。晩御飯、作ってあげてもいい。けど」
そんなことを姫神は口にした。
そして二人はスーパーにいる。
(……いやちょっとまておかしい。何かがおかしい。素数を数えるんだ……)
晩御飯作ってあげる発言の後、そんな迷惑かけられない、そんなの迷惑じゃない、等の応酬があった挙句姫神の「一人で食べても。美味しくない」という発言に納得してしまい、押し切られる形となってしまった。
(いや別に困るわけじゃないっていうかむしろありがたいんだけれどしかし女の子を部屋に上げるのってインデックスと土御門妹はノーカンで……ていうか何テンパってるんだ俺は!?)
「……上条君。大根を。買おうと思ってるんだけど」
顔を覗きこまれる。
「……ッ!? だ大根!? いいな大根! メニューはふろ吹きそれともおろし!?」
「……サラダに。しようと思うんだけれど」
「サラダ? ……大根って、生で食べれるの? ああいや、大根おろしも生だから大丈夫だろうけど」
「……食べてからの。お楽しみ」
上条が大根サラダの味を想像して歩く隣、姫神はいくつかの野菜を見繕ってカゴへと入れていく。大根と玉葱、それにじゃがいも。
「ああ、カゴ持つよ」
姫神が肘に抱えるカゴの取っ手を掴み、姫神の手を抜こうとする上条。けれど姫神はとっさに肘を固め、カゴを手放そうとはしない。
「……大丈夫。だから」
「大丈夫って、鞄もあるんだし重いだろ」
「でも」
「でもじゃない。俺が持ちたいんだから持たせろっての」
右手で取っ手を掴み、左手で姫神の肘を開かせた。すると、
「………………っ!!」
触れていた肌の奥、筋の強張った感触があった。同時に姫神は顔を背け、不自然な姿勢で硬直する。
「っと、ごめん、痛かったか?」
「……なんでも。ないから」
「いやでも、腕が凄く硬直してるんですが……」
呟きつつ上条が姫神の腕からカゴを抜くと、
「……。上条君に。強引に開かれて。無理矢理。奪われただけ」
「何を言ってるんですか姫神サン!?」
「……別に。上条君が。私の(カゴ)を無理矢理奪っただけで」
「やめて! 俺の世間体が今まさに無理矢理奪われる!」
女の子連れでスーパーにいる、というそれだけで妙に視線を集めている(気がする)のに、会話の内容が割りとシャレにならない。
「んで! 次は何を買うんだ!?」
楽しそうに薄ら笑いを浮かべる姫神の軌道を修正させて、強引に突破を試みる。
「……。こっち」
姫神が先導してスーパーの中を歩いていく。コースはスーパーの外周だ。上条も数歩遅れてついてゆき、精肉コーナーへと辿り着く。
「姫神!? 豚バラブロックが八十八円だぞ!?」
「……今日のメインは。こっち」
そう言って手に取ったのは鶏ムネ肉だった。……同時に豚ブロックもカゴに入れる辺り、悲しいくらいに主婦してるなぁと思いながら上条も同じものを手に取る。
「……上条君は。どれくらい食べる?」
「俺か? 俺はフツーだけど、インデックスがなー……」
「……。そう」
「……姫神さん、そのため息は一体なんなんでしょうか……?」
「なんでも。ない」
気が無いように応えながら、けれど鶏肉を籠に入れる手つきは荒い。勢い良く三パックを放り込んだ。
(……いやちょっとまておかしい。何かがおかしい。素数を数えるんだ……)
晩御飯作ってあげる発言の後、そんな迷惑かけられない、そんなの迷惑じゃない、等の応酬があった挙句姫神の「一人で食べても。美味しくない」という発言に納得してしまい、押し切られる形となってしまった。
(いや別に困るわけじゃないっていうかむしろありがたいんだけれどしかし女の子を部屋に上げるのってインデックスと土御門妹はノーカンで……ていうか何テンパってるんだ俺は!?)
「……上条君。大根を。買おうと思ってるんだけど」
顔を覗きこまれる。
「……ッ!? だ大根!? いいな大根! メニューはふろ吹きそれともおろし!?」
「……サラダに。しようと思うんだけれど」
「サラダ? ……大根って、生で食べれるの? ああいや、大根おろしも生だから大丈夫だろうけど」
「……食べてからの。お楽しみ」
上条が大根サラダの味を想像して歩く隣、姫神はいくつかの野菜を見繕ってカゴへと入れていく。大根と玉葱、それにじゃがいも。
「ああ、カゴ持つよ」
姫神が肘に抱えるカゴの取っ手を掴み、姫神の手を抜こうとする上条。けれど姫神はとっさに肘を固め、カゴを手放そうとはしない。
「……大丈夫。だから」
「大丈夫って、鞄もあるんだし重いだろ」
「でも」
「でもじゃない。俺が持ちたいんだから持たせろっての」
右手で取っ手を掴み、左手で姫神の肘を開かせた。すると、
「………………っ!!」
触れていた肌の奥、筋の強張った感触があった。同時に姫神は顔を背け、不自然な姿勢で硬直する。
「っと、ごめん、痛かったか?」
「……なんでも。ないから」
「いやでも、腕が凄く硬直してるんですが……」
呟きつつ上条が姫神の腕からカゴを抜くと、
「……。上条君に。強引に開かれて。無理矢理。奪われただけ」
「何を言ってるんですか姫神サン!?」
「……別に。上条君が。私の(カゴ)を無理矢理奪っただけで」
「やめて! 俺の世間体が今まさに無理矢理奪われる!」
女の子連れでスーパーにいる、というそれだけで妙に視線を集めている(気がする)のに、会話の内容が割りとシャレにならない。
「んで! 次は何を買うんだ!?」
楽しそうに薄ら笑いを浮かべる姫神の軌道を修正させて、強引に突破を試みる。
「……。こっち」
姫神が先導してスーパーの中を歩いていく。コースはスーパーの外周だ。上条も数歩遅れてついてゆき、精肉コーナーへと辿り着く。
「姫神!? 豚バラブロックが八十八円だぞ!?」
「……今日のメインは。こっち」
そう言って手に取ったのは鶏ムネ肉だった。……同時に豚ブロックもカゴに入れる辺り、悲しいくらいに主婦してるなぁと思いながら上条も同じものを手に取る。
「……上条君は。どれくらい食べる?」
「俺か? 俺はフツーだけど、インデックスがなー……」
「……。そう」
「……姫神さん、そのため息は一体なんなんでしょうか……?」
「なんでも。ない」
気が無いように応えながら、けれど鶏肉を籠に入れる手つきは荒い。勢い良く三パックを放り込んだ。
「ただいまー、インデックス、インデックスー?」
買い物袋を提げて部屋に帰り、インデックスに声をかけるが返事が来ない。いつもなら座敷犬宜しく駆け寄ってきたり、おかえりの声が聞こえるはずなのに。
「インデックスー? 帰ったぞー?」
靴を脱ぎ部屋へと上がって、台所に買い物袋を置き奥へと歩いていく。その後ろでは姫神が取り残されていた。
(……ただいま。……帰った。……全部。家族に向ける。もの)
インデックスと姫神は良く似ている。外見ではなく、上条当麻との関係性がだ。
様々なものを失い――少なくとも表面上は――天涯孤独の身の上。先天的にせよ後天的にせよ、魔術という常識外の世界で、そこすら逸脱したとされるモノに関わる登場人物(キャラクター)。
同じように助けられ、けれどインデックスは上条に、姫神は小萌に預けられた。
(私が先に助けられてたら。ここにいたのは。私だったの。かな……)
そんなもしもはありえない。様々な事柄が重なってインデックスはここにいる。姫神もまた同じように。そもそも、インデックスと上条が出会わなかったのなら姫神と出会うこともなかったのだろう、けれど――
「――……上条。君。上がっても。いい?」
「あー悪い、適当に上がってくれー」
姫神が身を屈めローファーを脱ぐ。部屋に上がって上条を追うとなんだか愕然としているようなポーズで固まっており、
「し……死んでる……!!」
「……ただの。屍のようだ」
ただの屍はシスター服のまま(というかそれ以外の服がないのだが)ベッドの上で寝返りをうっており、ごはんー、だのなんだの呟いている。
「……寝かしとくか」
「……それが。いい」
買い物袋を提げて部屋に帰り、インデックスに声をかけるが返事が来ない。いつもなら座敷犬宜しく駆け寄ってきたり、おかえりの声が聞こえるはずなのに。
「インデックスー? 帰ったぞー?」
靴を脱ぎ部屋へと上がって、台所に買い物袋を置き奥へと歩いていく。その後ろでは姫神が取り残されていた。
(……ただいま。……帰った。……全部。家族に向ける。もの)
インデックスと姫神は良く似ている。外見ではなく、上条当麻との関係性がだ。
様々なものを失い――少なくとも表面上は――天涯孤独の身の上。先天的にせよ後天的にせよ、魔術という常識外の世界で、そこすら逸脱したとされるモノに関わる登場人物(キャラクター)。
同じように助けられ、けれどインデックスは上条に、姫神は小萌に預けられた。
(私が先に助けられてたら。ここにいたのは。私だったの。かな……)
そんなもしもはありえない。様々な事柄が重なってインデックスはここにいる。姫神もまた同じように。そもそも、インデックスと上条が出会わなかったのなら姫神と出会うこともなかったのだろう、けれど――
「――……上条。君。上がっても。いい?」
「あー悪い、適当に上がってくれー」
姫神が身を屈めローファーを脱ぐ。部屋に上がって上条を追うとなんだか愕然としているようなポーズで固まっており、
「し……死んでる……!!」
「……ただの。屍のようだ」
ただの屍はシスター服のまま(というかそれ以外の服がないのだが)ベッドの上で寝返りをうっており、ごはんー、だのなんだの呟いている。
「……寝かしとくか」
「……それが。いい」