とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-133

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集



(9.木曜日15:46)
上条の踵から頭頂まで悪寒が一気に駆け抜け、上条は総毛立った。
まるで背後から氷の刃物を背中に突きつけられたみたいで、頭の中で何かが「ニゲロ!ニゲロ!」と叫んでいる。それなのに硬直してしまった身体は上手く反応してくれなかった。
(早く元凶を確認しなければヤバイ)という思考と(イヤだ。そんなもの見たくない)と思う感情がケンカしている。それでも強引に首を右に回すと、10mほど先に一人の男が立っているのが見えた。
その男の外見にはこれといった特徴はなかった。もしその男の写真だけを見たなら、だれもが普通の人間だと判断しただろう。逆にいえば、その男は不自然なほどに平凡であった。そして、今その男の周りを満たす空気は生理的な嫌悪感を上条にもたらしていた。
その男の口元がにやりと笑ったと思うとこちらに歩いてきた。いや、正確には歩いてはいなかった。男の足は全く動いていないのだから。それでも床を滑るように男は近づいて来た。
5m。上条はようやくガチガチ鳴ろうとする奥歯を無理矢理噛み締めることができた。
3m。腹の底に力を溜めるように鼻から息を吸い込むことができた。
それでもトイレで「どうしたの!秋沙」と吹寄制理があげた大声に気付く余裕はなかった。
2m。ようやく右拳を握りしめることができた。
1m。男の少し開いた口の奥に鋭く尖った犬歯が見えた。
その瞬間「うわあぁぁっ!」上条は絶叫を放ち、無意識のうちに右拳をその男の左頬に叩き込んだ。
バキッ!!とその男を殴った瞬間、上条は右拳に異様な手応えを感じた。男の皮膚はまるで金属のように硬かった。そして殴った上条の体温を根こそぎ奪いそうなほど冷たかった。
しかも、上条が右手にその痛みを感じる前にその金属の殻が突然爆(は)ぜたような衝撃が走った。右手が男を貫いたような手応えはあった。それは砂の像を突き崩すような感触だった。そして右手には金属を殴ったような痛みと痺れるような感覚も残っている。
それなのに目の前には殴る前と全く変わらない男の顔があった。こうなると、さっき右拳が本当に当たったのかどうかさえも分からなくなった。
戸惑う上条に対して、男が口元を緩めて笑みを浮かべると、まるで陽炎のように消えていった。
姫神秋沙が女子トイレから飛び出してきたのはその直後だった。上条に駆け寄るなりその右手を握りしめてきた。
上条は姫神秋沙の手の暖かさに痺れている右手が癒されていくのを感じながら、なぜ「吸血鬼」が姿を消したのかをぼんやり考えていた。
(「幻想殺し(イマジンブレーカー)」が「吸血鬼」にも効いたのか?それとも、天敵である姫神が出てくるのを察知して逃げ出したんだろうか?)
「「吸血鬼(ヤツ)」、 なのか?」
「そう。」
「どこだ?」
「わからない。でも。この学校にはもういない。それは確か。」
後から追いかけてきた吹寄制理はここで何か異常なことが起こったことには気付いたようだが、上条と姫神秋沙の会話が一体何を意味しているのか理解することができなかった。


(10.木曜日16:10)
上条と姫神秋沙は公園のベンチに並んで座っていた。当然手をつないで。先ほどまでの全力走で疲れた体をクールダウンさせているのだ。
「ハァ、ハァ、 姫神、 大丈夫か?」
「大丈夫。 ちょっと疲れたけど。 楽しかったかな」
「ハァ、楽しかった?姫神って意外とアスリートなんだな」
「鬼ごっこみたいだったからかな」
(本当は君と一緒だったから)という本心がどうしても口に出せない姫神秋沙であった。
あの後
「上条!何があったの?きっちり説明なさい。」
「なんでもない。じゃ!俺達ちょっと急ぐから。小萌先生によろしく!」
と詰め寄ってきた吹寄制理の言葉をさえぎって姫神秋沙の手を引き脱兎のごとく駆けだした。
「ちょっと待ちなさい。何なのよ。これはーっ!」
背後からの吹寄制理の叫び声はこの際無視して全速力で走り続けた。
(ああ、きっと明日になったら俺と姫神が駆け落ちしたという話になっていて、ついでに尾ひれが付いて、既に隠し子がいるってことにされるんだ。)
「ちょっとアンタ」
(そして皆から「おめでとう」って盛大な祝福(リンチ)を受けるんだ!そうだ!きっとそうに違いない)
「なに見せついてんのよ!」
上条の理性が「吸血鬼」という災厄から無意識に目を背けたいと思っていることも手伝って頭の中の妄想劇が延々と続いている間に自分に向けられた呼びかけをいつも通りにスルーしてしまっていた。
隣の姫神にトントンと右腕をつつかれ、上条の意識はようやく現実世界に還ってきた。
「バチバチ」という聞き慣れた放電音におそるおそる顔を上げると、目の前には学園都市第三位の「超電磁砲(レールガン)」常盤台中学の御坂美琴が立っていた。
「ねえアンタ、確か今月から、不純異性交遊って一般人が勝手に取り締まっても、お咎めなしってことになったんだっけ?」
「みっみっ御坂さん。そんな規制緩和は学園都市(ここ)ではありません。きっとガセネタです。それにこれは不純異性交遊なんかじゃありません。」
「ゴチャゴチャうっさいのよ。アンタは。いっぺん臨死(い)ってみる?」
御坂美琴は既に臨界電圧(10億ボルト)に達しているようで、その身体はバチバチと帯電し、うっすらと紫色に発光していた。(エネルギー充填120%、艦長!超電磁砲いつでも発射可能です!)と中の人が言っていそうな勢いだ。
上条はこれまで雷撃の槍でも砂鉄の剣でも、たとえ超電磁砲だろうが御坂美琴の攻撃は全て打ち消してきた。その右手で。しかし右手が姫神秋沙の手を握っている今、上条にそれらを打ち消すことはできない。
(くそっ!右手を離せば「吸血鬼(やつ)」がまたやって来る。でも今電撃を食らったらご臨終(おしまい)だ。しかも姫神まで道連れにしちまう。どうする?)
考えがまとまらない上条に御坂美琴から雷撃の槍が放たれた。とっさに右手を離して雷撃の槍を迎え撃った。そして再び姫神秋沙の手を握ろうと右手を伸ばしかけたが
「だから、何やってんのよ。アンタはーっ!」
怒声とともに上条と姫神の間を引き裂くように激しい閃光と衝撃波が突き抜けた。
身体が順応してしまっている上条は踏ん張れたが、姫神は衝撃波に耐えきれずベンチの後の植え込みに背中から倒れ込んでしまった。倒れた姫神は植え込みに身体が挟まってしまったようで起きあがれずに手足をジタバタさせていた。
「ばかやろう。この状況で「超電磁砲(レールガン)」なんて、洒落にならねえぞ!」
「どうせ、アンタには効かないんでしょうがーっ!」
「これには訳があるんだよ!」
「アンタは、いつも、いつも!」
「危ない。止めろ!」
「他の女とイチャイチャしてーっ!!」
「砂鉄の剣で切られたら上条さんは死んでしまいます!」
「うるさい、たまには当たりなさいよ!!!」
「コラ!「超電磁砲(レールガン)」3連射なんて、近所迷惑だろうが!」
御坂美琴と仲良く(?)超電磁砲(レールガン)のキャッチボールを続ける上条は、直ぐにでも姫神秋沙の所に行ってやりたかったが、未だ植え込みから抜けられない姫神秋沙に流れ弾が当たらないようにするには姫神秋沙から距離をとるしかなかった。
「いい加減にしろ!」と上条が言いかけた時、また、「吸血鬼(ヤツ)」が現れた。


(11.木曜日16:25)
あの時と同じ悪寒が上条を突き抜けた。そして御坂美琴の3m後に立っている特徴のない男の顔を視界に捉えると、上条の身体はまたも硬直してしまった。上条が最初に動かせたのは口だった。
「御坂、こっちに来い」
「何言ってんのよ、バカ!」
逆上していた御坂美琴は背後の異変にまだ気付いていなかった。
「いいから早く!」
「なっ、何なのよ?」
上条の切迫した口調にようやく御坂美琴の表情にも戸惑いの色がみえた。しかし、その時すでに男は御坂美琴のすぐ後まで近づいていた。ようやく異変に気付いた御坂美琴が後を振り向くと、その眼前に男の顔があった。
その男の両手が正面から御坂美琴の両肩をつかんだ瞬間、ビックリした御坂美琴は反射的に10億ボルトの電撃を男に浴びせてしまった。
相手が「吸血鬼」だと知らない御坂美琴は一般人に電撃を浴びせてしまった思い激しく動揺していた。さらに、その相手が電撃を全く気にしない様子でさらに顔を近づけてくることに、「えっ?」と一瞬動きが止まってしまった。
「御坂あぁぁーっ!」
今、上条と御坂美琴のあいだの距離はおよそ5m。上条は地を蹴って走り始めたが、そのほんの数歩の距離が絶望的な長さに感じられた。
(間に合うか?いや、絶対に間に合わせる!)
上条は握りしめた右拳を振り出した。
上条の右拳が「吸血鬼」の顔面に届いたのは、まさに「吸血鬼」が御坂美琴の首筋に牙をたてようとした瞬間であった。
「バキッ」という学校の時と同じ手応えを右拳が感じると「吸血鬼」も同じように姿を消した。
「大丈夫か?御坂」
御坂美琴の背後からその両肩をつかんで上条が尋ねたが、何が起こったのか良く判らず呆然とする御坂美琴はしばらく返事ができずにいた。
「(まさか、間に合わなかったのか?)御坂、ちょっと見せてみろ」
そう言うや否や、いきなり上条は御坂美琴のブラウスのボタンを2つ外し、襟ぐりに突っ込んだ指で襟元を広げて御坂美琴の首筋をのぞき込んだ。
(えっ、えっ、何?)
御坂美琴は、今度はパニックで身体が固まってしまった。その上、上条が御坂美琴の首筋を調べるために指先でさすったりするものだから御坂美琴はますます身体を強ばらせていた。
そんなことに全く気づかない上条は、首筋に何の異常もないことを確認すると一気に緊張が解け、止めていた息が「ふーっ」と漏れてしまった。
御坂美琴はというと、既に緊張の弦が限界まで張りつめている状況で上条から首筋に熱い吐息を吹きかけられたものだから、ビクンッと身体を震わせて「アンッ」という嬌声を出してしまった。
一瞬の沈黙の後、自分が出してしまったなまめかしい声を思い出し、御坂美琴は耳まで真っ赤に染めあげた。
「何やってんのよ!アンタは?」
「何って、そりゃ...」
と言いかけた上条はようやく御坂美琴と自分の位置関係を確認した。背後から襟元を覗き込んでいる上条の位置からは御坂美琴の首筋だけでなく鎖骨のくぼみやパステル柄の可愛いブラに包まれた慎ましやかな膨らみまでもしっかり堪能することができた。その事実に気付いて硬直した上条が御坂美琴から離れることができたのは視線がしっかり二つの膨らみを往復した1.17秒後であった。


(12.木曜日16:30)
上条の右手を外したのは上条本人ではなく、ようやく植え込みから抜け出せた姫神秋沙であった。上条に駆け寄るなり、御坂美琴の襟ぐりに掛かったままの右手をつかんで一気に引き剥がして上条を自分の方に振り向かせた。
「この子は大丈夫!」
そういう姫神秋沙の口調がなぜかトゲトゲしいことに、上条は(「吸血鬼(ヤツ)」がいたから気が高ぶってんだろう)と見当違いのことを考えていた。
「「吸血鬼(ヤツ)」は?」
「いなくなった」
「やっつけたのか?」
「わからない。でも。もうこの辺りに気配はない」
一方、突然割り込んできた姫神と上条の会話を聞いて御坂美琴はなぜかカチンときた。
さらに、二人が再び手を繋いでいるのを見てムカッとした。
まるで自分が主役の舞台に部外者が突然乱入してきて主役の座を奪われたような感じだった。
(そんなこと許せるわけ無いじゃない)
御坂美琴はつかつかと上条に歩み寄ると、上条の左手をぎゅっと握りしめた。
「どうした、御坂?」
「何でもないわよ。」
「いや、御坂さんはなぜ上条さんの左手を握っているかと尋ねているのですが?」
「うっさい。その女(ひと)が右手だっていうんだったら、私は左手に決まってんでしょ!」
「はあ?おまえ、何言ってんの?」
「なによ!あんたは痴漢に襲われたか弱い女の子を寮まで送ってあげようとかいうそういう優しさはないわけ?」
(お前のどこがか弱いんだよ。)
(でも、御坂が「吸血鬼(やつ)」のことをただの痴漢だと思っているならそうしとこう。もし事情(わけ)を話せば、コイツはきっと「じゃあ私も一緒に吸血鬼退治に行くわよ」って言いそうだし)
「わかったよ。御坂。常盤台の学生寮まで送ってくよ」
「最初(はな)っから、そう言ってれば良いのよ」
上条はもはやこの状況を受け入れざるを得なくなったことを諦めつつも、つい愚痴ってしまった。
「しっかし、両手が塞がっちまうと頬が痒くてもかけないんだよな。」
すると姫神秋沙が「どこ痒いの?」といって上条の右頬を右手でさすってきた。
「あっ、ありがとう。姫神」
上条は姫神の予想外の行動につい赤面してしまった。
そして上条が赤面する様子を見てしまった御坂美琴はついにキレた。
身体が瞬間的に反応し、その右腕を上条の左腕に巻き付けて姫神から上条を引き離すように引き寄せた。
そして左手でポケットから取り出したハンカチを握りしめて睨みつけてきた。
「アンタ、痒いところがあるなら、わ・た・し・に言いなさい。さあ、どこが痒いの?」
獲物を狙う捕食者(プレデター)のような視線に耐えきれず、上条は御坂美琴から視線をそらしてしまった。
「あの~、御坂さん。お怒りで気付きにならないのかもしれませんが、その~、私の左腕が、当たってるんですが...」
「当ててんのよ。文句ある?」

そして3人を沈黙がつつんだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー