とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-303

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匿名ユーザー

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(20.木曜日19:45)
上条と姫神秋沙は少し遅めの夕食をとることになった。
朝作っておいた夕食は、幸いにも暴食シスターの魔の手を逃れ、未だ冷蔵庫の中にその偉容を残していた。

「さあ姫神食ってくれ。とはいっても朝の残りをレンジで温めたものだけどな」
「上条君の夕食は?」
「俺はカップラーメンで良いから」
「君の方が疲れているはず」
「いいから、いいから」
「じゃあ。半分こ」
「いいのか?(これが正しい居候の気遣いなんだぞ。インデックス)」

件の暴食シスターとは異なる反応に心の中で涙していた上条に姫神が話しかけてきた。

「さっきは有り難う。
 それと。変なこと言ってゴメン。
 いつか。私の『吸血殺し(ちから)』だって他人の役に立つ日が来る。
 そうだね。きっと」

例え吸血鬼であってももう誰も殺したくないと姫神秋沙は願っている。
そのことを知っているからこそ、上条はどう応えたらいいのか迷ってしまった。
上条が口を開こうとした時、上条の携帯が振動した。

「悪い、姫神。土御門から電話だ。ちょっと外に出てくる。」
「どうして外に?」
「そっ、それはだな。姫神。
 もし電話の土御門に姫神が今俺の部屋にいるって気付かれたらどうなる?
 明日学校でヤツがどれほど話に尾ひれをつけるか分かったもんじゃないだろ。
 じゃあ、すぐ帰ってくるから。
 姫神は先に飯(めし)食っていてくれ。」

携帯を握って部屋を出た上条は、台所の窓の下にしゃがんで土御門のコールに応えた。

「上条だ」
「カミやんに2つ報告がある。良い知らせと悪い知らせだ。どっちからにする?」

「どうせどっちも同じなんだろ。じゃあ、悪い方からだ。」
「魔術師の侵入を許しちまった。
 集まってきたのは弱小組織や中堅組織の他に、はぐれの魔術師までいたな。
 良くもまあ短時間であれだけ色んな連中が集まってきたもんだ。
 吸血鬼を使って一気に組織のステータスをあげたいんだろう。
 そういやローマ正教の下部組織の連中もいたぜ。
 あそこも、カミやんの活躍(せい)で、今は背に腹は代えられないみたいだな。
 奴らは何か協定を結んだみたいで、複数のルートから同時に侵入してきやがった。
 大半のルートは俺達が潰したが、1ダースほどの連中が網をすり抜けやがった」
「やっぱり学園都市の中で戦いが始まっちまうのかよ。くそっ!」
「俺達はこれから追撃を始める」

「じゃあ、良いヤツって何だ?」
「吸血鬼を完全に消滅させる方法が分かった」
「あのな。先にいっとくけど、姫神に殺させるっていうのはナシだぞ」
「ああ、それ以外の方法だ」
「えっ?そうなのか。で一体どんな方法だ?」
「簡単なことだ。カミやん、姫神を殺せ!」

「姫神を殺せ?
 ちょっと待て。一体どういうことだ」
「だから言ってるだろ。吸血鬼を完全に消滅させたきゃ姫神を殺すしかない」

「姫神が死ぬことと吸血鬼の消滅に何の関係があるんだよ!」
「今日学園都市に吸血鬼が現れたおかげで吸血鬼なんて生き物がこの世に存在しないことが証明された」

「おい、一体何言ってんだ。意味分かんねえぞ」
「カミやん。おかしいと思ったことはないか?
 もし吸血鬼なんて化け物がいたなら、なぜ人間の世界は終わっていない?
 例えヤツらが獲物の数を管理していたとしても、小さくない被害があったはずだ。
 なのに吸血鬼の被害に関する記録が姫神の時以外何一つ残っていないのは何故だ?
 吸血鬼を始末する秘密組織があったのか?
 『吸血殺し』が世界中にいたのか?
 そんな記録も一切無いんだぜ。
 そもそも吸血鬼を見たという記録も残ってないのに、なぜ皆その存在を信じている?
 『吸血殺し』がいるからか?
 吸血鬼の存在に関しては何もかもが矛盾だらけなんだよ。」

「結局何が言いたいんだ?」
「つまりだ。吸血鬼がいて、それを滅ぼす『吸血殺し』がいるんじゃない。
 『吸血殺し』が吸血鬼を生み出しているんだよ。」


(21.木曜日19:55)
「なっ、お前は姫神が吸血鬼だっていいたいのか?」
「いいや。『吸血殺し(ディープブラッド)』だ」

「同じじゃねえか!」
「同じじゃない。
 カミやんが右手で吸血鬼を殴った後、ヤツはどうなった?
 消えちまったよな。
 それは傍にいた『吸血殺し』から逃げた訳じゃない。
 『幻想殺し』に殺されたからだよ」

「殺された?ヤツは公園にも現れたんだぞ」
「ヤツはAIMバーストの奇形種なんだ」
「AIMバースト?」
「簡単に言えば発狂した風斬氷華だ」
「ヒューズ=カザキリか?」
「風斬氷華は学園都市の230万人のAIM拡散力場が生みだした存在だ。
 姫神はたった一人でそれ以上のものを生み出しているんだ。
 ヤツは吸血鬼の姿をしたテレズマの塊だ。
 生命力という砂を詰め込んだ皮袋だと思えばいい。
 ただ、その外殻は硬質化したテレズマで覆われ恐ろしく頑丈だ。
 しかも貯め込んだ生命力を失うまでは外殻が傷付いても瞬時に再生する。
 だから『超電磁砲(レールガン)』の電撃位じゃ堪えなかった。
 『幻想殺し』は一撃でヤツの外殻を破壊して貯め込んだ生命力を霧散させた。
 だからもう一度生命力を補充するまでヤツは復活できなかったんだ。
 それでもヤツの核を潰さない限り何度でも復活しちまう」

「じゃあ、その核というヤツが」
「そう、姫神の中にある」

「だから姫神を殺せと...って。
 イヤ、ちょっと待て。おかしいだろ。
 お前は吸血鬼を生み出したのが姫神だって言ったよな。
 でも吸血鬼を滅ぼしたのだって姫神だろ?
 自分で生み出して自分で滅ぼすなんて、矛盾してないか?」
「姫神は吸血鬼を消しはしたが、滅ぼした訳じゃない」

「どういうことだ?」
「吸血鬼の行動原理は人間の生命を宿主に集めることだ。
 辺りの人間の生命を食らい尽くしたから宿主に戻った。ただそれだけなんだ。」

「じゃあ吸血鬼に噛まれた人間が吸血鬼になるっていうのは?」
「回帰衝動(リユニオン)だ。
 噛まれた人間にはヤツの因子が注ぎ込まれる。
 その因子は被害者の肉体や精神全てを食いつぶしそれを純粋な生命力に錬成するんだ。
 それを動力源に被害者を吸血鬼と同じ行動原理に従わせちまう。
 本人の意思とは関係なくな。
 そして全てを食らい尽くしたら、錬成した生命力を姫神に注ぎ込んでお終いだ。
 あとには燃えカス(灰)しか残らない。
 それに、その莫大なエネルギーで自己防衛を図るから並の人間じゃ手に負えない。
 一撃で身体を破壊しない限りな」

「どうしても姫神を元凶にしたいみたいだな。
 じゃあ姫神が吸血鬼を使って生命を集める目的ってなんだ?
 説明できんのかよ!
 目的もないのに人を殺しているとでも言うのか?」
「元凶は姫神じゃない。別の奴がいる」

「えっ?」
「『吸血殺し』はそもそも姫神の本来の能力じゃないんだ。
 姫神はその能力をある魔術師によってねじ曲げられているのさ」

「魔術師だって?
 魔術を使えば能力者に別の能力を上書きできるのか?」
「そいつは無理だ。
 だが、能力者から発現した能力の方向をねじ曲げることはできる。
 姫神の本質は「集めて」、「錬成し」、「与える」ことだ。
 そしてあの吸血鬼も本来は「竜脈からテレズマを集める」式神のような存在だった。
 魔術師は式神へ与える命令の中の「竜脈」を「人間」に「テレズマ」を「生命」にねじ曲げやがった。
 だから吸血鬼は人間を襲うのさ」

「魔術師が姫神の能力に細工をしたって言うのか?
 だったら。魔術師(おまえ)達で解呪はできないのか?」
「無茶言うな。カミやん。
 実際に実行した魔術師はわからん。
 だが書き込まれた術式は史上最高の魔術師エドワード=アレクサンダーのものだ。
 こいつは自動制御の魔法陣だ。
 解呪の難しさは『法の書』クラスだ。
 それに『聖ジョージの聖域』や『竜王の殺息』以上の防御魔術が組込まれているハズだ。
 現在の魔術師がいくら束になってもかなやしない。」

「お前達でもどうしようもないのかよ。
 しかし、その魔術師はなんで姫神に生命を集めさせてるんだ?」
「魔術師の計画では姫神に1万人の生命を集めるつもりだったらしい。
 1人の男に与えるために」

「たった一人のために1万人もの人間を殺すっていうのか?
 1万人もの生命を踏みにじろうってヤツは誰だ!ぶん殴ってやる!」
「残念だが、カミやんにはその男は殴れない」
「お前、知ってるのか?一体誰だ?」

「そいつの名は……上条当麻!」


(22.木曜日20:07)
「かっ?今、カミジョウトウマっていったのか?」
「そうだ、姫神は『神上計画』の補助計画(セカンドプラン)の鍵だったんだ」

「カミジョウケイカク?なんだそれ?」
「絶対能力進化(レベル6シフト)計画の一つだ。
 神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くものを造り出すためのな。
 姫神はカミやんを覚醒させるための起爆装置なんだよ。
 そして集められる1万人もの生命は起爆装置に充填される起爆剤なんだ」

「待て、待て。お前の話はぶっとんじまっているぞ。
 何で絶対能力者(レベル6)なんだ。
 これは魔術師じゃなく学園都市の話なのか?
 そもそも無能力者(レベル0)の俺がなんで出てくるんだよ。
 姫神の話だって10年も前の話だろうが」
「じゃあ聞くが、カミやんの『幻想殺し(イマジンブレーカー)』はいつからあった?」

「それは……」
「もう10年以上前から『神上計画』は始まっていたんだよ。学園都市の闇の奥でな」

「(俺を覚醒させるために1万人の人間が殺されるって?何だよそれ。悪い冗談だろ)
 やっぱり、おかしい。
 学園都市の人間が1万人も死んじまうような計画なんて実行できるわけ……」
「いや、ちょうど学園都市には死んでも困らない連中がいるんだ」

「ひょっとしてスキルアウトことを言っているのか?」
「スキルアウトだって一応学生だ。
 さすがに1万人も死ねば、統括理事会だろうが隠蔽できやしない。
 他にいるだろう?今は学園都市にいないだけで」

「まさか妹達(シスターズ)か?」
「そうだ、元々が非合法の体細胞クローン達だ。
 シスターズに利用価値が無くなった時、闇に葬るには都合の良い計画だと思わないか。」

上条は御坂妹ことミサカ10032号をよく知っている。
出会った時は実験動物としてただ殺されるだけの運命を甘受していた。
でも今は人として生きようとしていることを知っている。

「あいつらを廃棄物扱いするっていうのか?
 ふざけやがって。
 そんな計画、ぶっ潰してやる」
「今のところ、この計画は凍結中だ。
 10年前の第2次起動実験に先槍騎士団が介入した事は奴らにも予想外だったようだ。
 奴らは計画を一旦凍結して時機をうかがうことにしたんだ。
 だから姫神が学園都市に来た時、奴らは秘密裏に『吸血殺し』に足枷までつけやがった。
 おかげで、数日『吸血殺し』が発動した程度じゃ吸血鬼は実体化しなくなった。
 だがな、オリアナの一撃がその足枷に傷を付けやがった。
 緩み始めた足枷は今では完全に外れちまっている。
 今、姫神は非常に危うい状態にある。
 奴らの意図は判らないが、『吸血殺し』はなんとかしなくちゃならない」

「でも『吸血殺し』はお前達でも解呪できないんだろ?」
「だから解呪じゃなくて、一撃でそいつを破壊するんだよ。完全にな」
「俺の『幻想殺し』なら破壊できるってことか?」
「そうだ。ただ姫神の場合やっかいな場所に術式が刻まれている」

「やっかいな場所?」
「カミやんの『幻想殺し』は神の奇跡だろうが何だろうが触れただけで破壊できる。
 逆に言えば、触れられなきゃ何もできないってことだ。
 実はこの術式は姫神の体内に刻まれている。
 普通に生活していれば、決してカミやんが触れることがない場所だ」

上条はそんな場所はどこだろうと考えていたら急に赤面してしまった。

「カミやん、今エッチい事を考えただろ。」
「そっ、そんなことはない」

上条は携帯に向かって首をブンブン振った。
しかしインデックスの首輪の時も同じ妄想をしかけたことを今の上条が知る由もなかった。

「そんなことより、それはどこなんだ?」
「この術式は吸血鬼を生み出しているんだぜ。だとしたら?」
「吸血鬼だとすると、まさか!」
「そうだ、頸動脈の内側に刻まれているんだ。
 吸血鬼も実際は血を吸ってたんじゃない。
 被害者の頸動脈に自分の術式を書き込み(コピー)していやがったのさ。」

「だったら俺には手出しできないじゃないか」
「そうか?俺はカミやんなら何とかするじゃないかと期待しているんだがな」
「どういうことだ?」
「カミやんが『幻想殺し』をほんの2mm外側に拡げれば良いんだ。
 そうすりゃ、姫神の首筋に触れるだけで全てが解決する。」
「そんなのどうすりゃできるんだよ?
 自分でも『幻想殺し』の正体が分かんねえのに。
 くそ!俺の右手はこんな時に役にも立たねえのかよ!」


(23.木曜日20:16)
「ぶわっははははっ!」
突然の土御門の笑い声に上条は困惑してしまった。
「スマン、カミやん。
 カミやんがマジに悩むからつい調子に乗っちまった。
 冷静になってみろ。
 もっと簡単な方法があるだろう。
 カミやんもよく世話になっているあのカエル顔の医者(せんせい)だよ。
 あの医者なら姫神の頸動脈を切ったところで鼻歌交じりですぐに直しちまう」
「そっ、そうか!」

「俺達は今夜中に魔術師どもを捕捉し学園都市から叩き出す。
 カミやん、今夜は姫神の傍に付き添ってやれ。
 そして朝になったら姫神を病院に連れて行け。
 それでハッピーエンドだ!」
「そうか、良かっ」
「ガシャン」「きゃあーっ!」

上条の安堵の声をガラスが割れる音と姫神秋沙の悲鳴がかき消した。
姫神秋沙の悲鳴に、上条は携帯を手に持ったまま部屋に駆け込んだ。
丁度ベランダの割れた窓から『歩く教会』を着たまま連れ去られる姫神秋沙の姿が見えた。

「土御門。姫神がさらわれた」
「何だと!奴らこんなに早く。
 いや、学園都市に内通者が居やがったんだ。くそっ!」
「俺は姫神を追うぞ」

「待て、カミやん。その前に大切な話がある」
「姫神のこと以上に大切な話があるのか!」
「だから姫神のことだ」
「なに?」

「まず確認だ。姫神は『歩く教会』を着たままさらわれたんだな?」
「ああ」
「それなら『歩く教会』の魔力を追跡すれば、奴らの行き先は分かる。
 多分17学区の工場か11学区の倉庫か19学区の廃ビルあたりだろう。
 奴らは学園都市を脱出する前に吸血鬼の存在を確認するはずだ。
 そこで捕獲できればそれで良し、手に負えなければ『吸血殺し』に殺させるなり、
 学園都市に吸血鬼を残して逃げ出しゃいいとでも思っているハズだ」
「無責任な連中だな」

「それより、さっきの話は魔術師どもには感づかれるなよ」
「どうしてだ?吸血鬼なんていないって判れば魔術師だって」
「その方が厄介なんだよ。
 相手が無限の魔力を持つ吸血鬼だと思っているから奴らは警戒している。
 果たして自分たちの手に負えるだろうかとな。
 しかし、相手が只の女子高生なら?
 これほど御しやすい相手はいないだろ。
 暗示をかけて敵陣で封印を解かせりゃ敵を皆殺しにしてくれる。
 しかも封印させてから回収すれば莫大なテレズマまで手に入る。
 理想的な殺戮兵器だ」
「なんだよ、それ」

「しかも、厄介なことは姫神には器がないんだ」
「どういうことだ」
「普通、個人差はあっても人間には蓄えられるテレズマに限界がある。
 軽自動車にはどうやったって100tのガソリンは積めないだろ。
 でも姫神にはその限界が無いんだ。
 普通の人間なら一瞬で燃え尽きちまうような量のテレズマだって蓄えられる。
 だからこそ、こんな計画の実験台にされちまったんだ」
「……」

「カミやん、姫神が蓄えているエネルギーはどれほどだと思う?」
「えっ?」
「『吸血殺し』はいわばエネルギー転換炉だ。
 全く嫌になるぜ。科学サイドでさえまだ夢物語の技術だって言うのにな。
 質量とエネルギーの等価性はアインシュタインの特殊相対性理論から導き出されたものだ。
 物質が内包するエネルギーはその質量に光速の二乗をかけたものに等しい。
 例えば1gの物質を全てエネルギーに変換するとおよそ90兆J(ジュール)になる。
 1gの水素が燃焼するときの化学反応熱がおよそ15万Jだから、その6億倍だ。
 1gで一般家庭が消費するエネルギーのおよそ3000年分をまかなえる」
「……(土御門って本当は頭が良いのか?)」

「すでに、姫神は数十人分の肉体と精神を食いつぶして錬成したテレズマを蓄えている。
 だから、決して気付かれるな。
 もし奴らが気付けば、奴らは直ぐに姫神を連れて逃げ出すぞ。
 自分たちのアジトまで連れ帰れば、後は暗示でも洗脳でも思いのままだからな」
「そんな」
「今から『歩く教会』の魔力を追跡する。カミやんはそこで待っていてくれ。
 じゃあ、一旦切るぞ」


(24.木曜日21:00)
上条はすぐに飛び出したかったが、行き先が判らない以上は連絡を待しかなかった。
土御門から連絡があったのは30分以上たってからだった。

「カミやん。まずいことになった。
 『歩く教会』の反応が2つに分かれちまった。
 それぞれ17学区の工場と11学区の倉庫に向かっている」
「どういうことだ?」
「どうやら、途中で俺達の追跡に気付いて偽装工作をしたようだ。
 カミやんと合流して奴らを叩きたかったが、こうなったら2手に分かれよう」

「どちらでもないってことは?」
「それはない。
 姫神が『歩く教会』を脱げば『吸血殺し』が発動しちまう。
 奴らだって準備が整うまでは姫神から『歩く教会』を奪うことはないだろう。
 俺達は11学区へ向かう。
 カミやんは17学区へ向かってくれ」
「わかった」

「それとカミやんの勝利条件だ」
「勝利条件?」
「まず、姫神の安全を確保しろ。」
「当たり前だ」
「次に、吸血鬼が現れたら『幻想殺し』で破壊しろ」
「了解!」

「『幻想殺し』でやられた吸血鬼が復活するのは12分後だ。
 その間に魔術師達を倒せ。」
「ちょっと待て!
 たったそれだけ?
 それって『幻想殺し』も効果なしってこと?」
「そんなことは無い。『超電磁砲』の電撃の時はたった0.03秒だったんだぜ」

「そんなに厄介なら、お前の方が本命だったらどうすんだ?」
「俺達なら簡単さ。
 一撃で魔術師どもを叩きのめし姫神から108m以上引き離す。
 それでお終いさ。
 あとはカミやんが来るまで待つだけだ。」

「なんだそりゃ?」
「吸血鬼の活動範囲は姫神を中心に半径108m以内だ。
 ただし、吸血鬼の被害者がでればそいつが中継アンテナになっちまう。
 丁度ハンディアンテナサービスみたいにな。
 だから、カミやんは魔術師どもが吸血鬼に噛まれる事態だけは絶対に避けろ」

「もし、12分で片がつかなきゃどうするんだ?」
「吸血鬼が復活するから、吸血鬼退治(ふりだし)に戻るだ」

「姫神に右手を当てたら吸血鬼が消えるって都合の良い話は……」
「ない。
 姫神から吸血鬼に流れる生命力を止めることはできても吸血鬼を消すことはできない。
 吸血鬼が消えるのは辺りの生命を食い尽くすか、蓄えた生命力を使い切るか、
 『吸血殺し』が壊されるか、姫神が死ぬときだけだ」

「つまり、本気で攻撃を仕掛けてくる相手を吸血鬼から庇いながら倒せと?」
「カミやんもやる気が出たみたいだな」
「ああ、うんざりだ」
「健闘を祈る」
「そっちもな」


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