序章 動き出す歯車 revenger_of_darkness
「チッ。まだ慣れねえな」
少年は自販機の前で愚痴をこぼしていた。
左手で地面に落とした小銭を拾い、そのままペットボトルを取ると能力を使いキャップを吹き飛ばす。
右手には財布が握られている。しかし、その右手は人間のそれではなかった。
少年は自販機の前で愚痴をこぼしていた。
左手で地面に落とした小銭を拾い、そのままペットボトルを取ると能力を使いキャップを吹き飛ばす。
右手には財布が握られている。しかし、その右手は人間のそれではなかった。
義手。
一言で言えばそれなのだが、ここは技術が『外』より30年進んでいると言われる学園都市。
外観一つとっても一目見ただけでは到底義手とは見抜けない。
当然、機能も普通の義手とは比べ物にならない。
この義手は脳が発する電気信号を電波として受信し、ほとんど本物に近い動きを実現するという学園都市最新鋭の医療機器である。
もっともまだ試作段階の物であり、公には流通していない。
どうやら『スクール』の『上』の連中が大急ぎで手配させたものらしい。
外観一つとっても一目見ただけでは到底義手とは見抜けない。
当然、機能も普通の義手とは比べ物にならない。
この義手は脳が発する電気信号を電波として受信し、ほとんど本物に近い動きを実現するという学園都市最新鋭の医療機器である。
もっともまだ試作段階の物であり、公には流通していない。
どうやら『スクール』の『上』の連中が大急ぎで手配させたものらしい。
(バカな連中だ)
垣根は頭の中で笑っていた。
自分は『第一候補』になりアレイスターへの直接交渉権を獲得しようと『上』の指示を無視して好き放題に動いた。
その結果は『スクール』のメンバー二名死亡、リーダー垣根帝督の敗北。おまけに『ピンセット』までも失った。
全てにおいて彼は負けたのだ。
闇の世界において、敗北とは死を意味する。例え、その戦場で生き永らえたところで今度は学園都市の暗部の人間により処分される。
それはレベル5とて例外ではない。
彼も本来であれば処分されるはずだった。現に『原子崩し』の女は処分されたと下部組織の男から聞いた。
なのに自分はこの待遇だ。
反乱分子なのに『上』の連中は自分を処分できない。それどころか、この期に及んでまだ仕事を持ってくるときた。
こんな愉快な話があるだろうか。
意識を取り戻して右手の義手に気付いた時には笑いが止まらなかった。
改めて自分の能力の価値を思い知らされる。
と同時に腹立たしさがこみ上げてくる。
垣根は頭の中で笑っていた。
自分は『第一候補』になりアレイスターへの直接交渉権を獲得しようと『上』の指示を無視して好き放題に動いた。
その結果は『スクール』のメンバー二名死亡、リーダー垣根帝督の敗北。おまけに『ピンセット』までも失った。
全てにおいて彼は負けたのだ。
闇の世界において、敗北とは死を意味する。例え、その戦場で生き永らえたところで今度は学園都市の暗部の人間により処分される。
それはレベル5とて例外ではない。
彼も本来であれば処分されるはずだった。現に『原子崩し』の女は処分されたと下部組織の男から聞いた。
なのに自分はこの待遇だ。
反乱分子なのに『上』の連中は自分を処分できない。それどころか、この期に及んでまだ仕事を持ってくるときた。
こんな愉快な話があるだろうか。
意識を取り戻して右手の義手に気付いた時には笑いが止まらなかった。
改めて自分の能力の価値を思い知らされる。
と同時に腹立たしさがこみ上げてくる。
無様に地べたに貼り付けられながら拳を受け続けたあの瞬間。
遂に第一位を超えたと確信した瞬間に味わった敗北感。
あまつさえ、こうして生き永らえた屈辱。
遂に第一位を超えたと確信した瞬間に味わった敗北感。
あまつさえ、こうして生き永らえた屈辱。
もっとも、一方通行のあの猛攻を受けて生きていられるのは覚醒した『未元物質』でかろうじてガードしていた垣根しかいないだろう。
それでも垣根の自尊心はズタズタに引き裂かれていた。
ボロボロだった体の傷は少しではあるが癒えてきている。
しかし失った誇りは戻らない。今となってはその誇りが何だったのかすらわからない。
それでも垣根は歩き出す。
それでも垣根の自尊心はズタズタに引き裂かれていた。
ボロボロだった体の傷は少しではあるが癒えてきている。
しかし失った誇りは戻らない。今となってはその誇りが何だったのかすらわからない。
それでも垣根は歩き出す。
「さて…と。とりあえずあの女に挨拶しに行かないとな」
まだ彼にはやる事がある。
第1章 表と裏と光と影と Intersecting_speculation
1
十一月二十一日、学園都市は異常なまでの活気に満ちていた。
三日後に迫った一端覧祭の準備に大忙しだからだ。
三日後に迫った一端覧祭の準備に大忙しだからだ。
この一端覧祭は大覇星祭と同じく世界最大規模の文化祭であり、大覇星祭と同じく世界に公開されるので注目度も高い。
しかも演劇やクイズショーなどを学生達が能力をフルに使って演出する為、下手な映画よりも見応えがある。
一端覧祭には大覇星祭のように他校と得点を競い合うというのはないが、クリスマスイブの丁度一ヶ月前という事で学生(特に女生徒)にとって一つ大きな意味がある。
しかも演劇やクイズショーなどを学生達が能力をフルに使って演出する為、下手な映画よりも見応えがある。
一端覧祭には大覇星祭のように他校と得点を競い合うというのはないが、クリスマスイブの丁度一ヶ月前という事で学生(特に女生徒)にとって一つ大きな意味がある。
「毎年思うんだが、この時期の女子って妙に殺気立ってないか?」
浜面仕上はいつもとは違いすぎる街並を見て溜息とともに言う。
「それは、はまづらが、鈍感なだけ」
隣にいる少女はバッサリと斬り捨てる。
上下ピンクのジャージで街を歩き回るのは意外と目立つらしい。微妙に好奇の視線が突き刺さる。
右を見れば青髪で体格のいい少年が「俺はいつでも誰でもオッケーなんやでぇ~。」などと喚いている。
左を見れば黒髪ツンツン頭の少年が電撃を浴びながら「不幸だ~!」などと叫んでいる。
なんか聞き覚えのある声だがおそらく気のせいだろう。
浜面仕上はいつもとは違いすぎる街並を見て溜息とともに言う。
「それは、はまづらが、鈍感なだけ」
隣にいる少女はバッサリと斬り捨てる。
上下ピンクのジャージで街を歩き回るのは意外と目立つらしい。微妙に好奇の視線が突き刺さる。
右を見れば青髪で体格のいい少年が「俺はいつでも誰でもオッケーなんやでぇ~。」などと喚いている。
左を見れば黒髪ツンツン頭の少年が電撃を浴びながら「不幸だ~!」などと叫んでいる。
なんか聞き覚えのある声だがおそらく気のせいだろう。
彼らは現在『表』の住人として生活している。
先月激闘の末、学園都市第四位を退けた無能力者はその後『アイテム』下部組織を脱退し、普通の無能力者として生活している。
そして隣にいる少女、滝壺理后となぜか同居生活を続けている。
先月激闘の末、学園都市第四位を退けた無能力者はその後『アイテム』下部組織を脱退し、普通の無能力者として生活している。
そして隣にいる少女、滝壺理后となぜか同居生活を続けている。
(いや、まあ確かにこいつには幸せになってもらいてえけどよ。確かに俺としてもやる事があるわけだけどよ)
「はまづら?」
(それにしたっていきなり同居はねえだろ…。何考えてんだあの巨乳警備員)
「はまづら」
(しかもこいつはこいつで全然意識もしないでくっついてくるし…。この一ヶ月色んな意味で生きてる心地がしないぜ)
「はまづら!」
クイクイ、と滝壺は浜面の袖を掴んで少し強い口調で問いかける。とは言っても彼女の平坦な口調での話なのでその些細な変化に気付けるのは浜面だけだ。
「ん?ああ、どうした?」
「はまづらが、ボーっとしてる」
「…そのセリフをお前に言われるとはな」
「はまづら。どこ行くの?」
「ああ、ちょっとした知り合いの所だ。割と大事な話があるからな」
「?」
滝壺は首を傾げるが、浜面は構わず進む。滝壺も置いていかれないようについていく。
「ちょっとした交渉だよ。今の状態のままじゃ流石に色々とまずいだろ?」
「何がまずいの?」
「今の状態だよ。いくら何でも同居状態はまずいだろ。それにお前は学校の寮が手配されてるって話じゃないか。だったらそっち行った方が生活しやすいぞ」
浜面は何の気なしに言ったが、その言葉は滝壺を怒らせるには充分すぎた。
「はまづら。やっぱり鈍感」
ボソリ、と小声で恨み事を言う滝壺の背中から黒いオーラが出ているのは気のせいだ。と浜面は自分に言い聞かせていた。
「はまづら?」
(それにしたっていきなり同居はねえだろ…。何考えてんだあの巨乳警備員)
「はまづら」
(しかもこいつはこいつで全然意識もしないでくっついてくるし…。この一ヶ月色んな意味で生きてる心地がしないぜ)
「はまづら!」
クイクイ、と滝壺は浜面の袖を掴んで少し強い口調で問いかける。とは言っても彼女の平坦な口調での話なのでその些細な変化に気付けるのは浜面だけだ。
「ん?ああ、どうした?」
「はまづらが、ボーっとしてる」
「…そのセリフをお前に言われるとはな」
「はまづら。どこ行くの?」
「ああ、ちょっとした知り合いの所だ。割と大事な話があるからな」
「?」
滝壺は首を傾げるが、浜面は構わず進む。滝壺も置いていかれないようについていく。
「ちょっとした交渉だよ。今の状態のままじゃ流石に色々とまずいだろ?」
「何がまずいの?」
「今の状態だよ。いくら何でも同居状態はまずいだろ。それにお前は学校の寮が手配されてるって話じゃないか。だったらそっち行った方が生活しやすいぞ」
浜面は何の気なしに言ったが、その言葉は滝壺を怒らせるには充分すぎた。
「はまづら。やっぱり鈍感」
ボソリ、と小声で恨み事を言う滝壺の背中から黒いオーラが出ているのは気のせいだ。と浜面は自分に言い聞かせていた。
2
「結局、彼らはどうなったんですか?」
『ん?まぁこっちで保護するって話にはなったんだけど…。正直、私としては反対なのよねー。貝積の野郎がしつこくてさー』
「どういう事なんですか?」
『今戦争が起きそうな話は知ってるでしょ?んで、学園都市と手を組んでる組織が内乱起こしちゃってさー』
「それとこれと何の関係があるんです?」
『単純にそこまで時間と人を割けないって事。「猟犬部隊」は再編の目処が立たず、「未元物質」と「原子崩し」も失って今の学園都市は満身創痍なのよねー』
そこで電話口の女は一つ溜息を挟んで、
『イギリスの動向に注意しつつ、ローマも相手にしなきゃいけない状況なのに、更に厄介事を持ち込まれちゃたまんないわけよ』
女はそう言ってはいるが、口調からしてそこまで困っているようには感じられない。
『ん?まぁこっちで保護するって話にはなったんだけど…。正直、私としては反対なのよねー。貝積の野郎がしつこくてさー』
「どういう事なんですか?」
『今戦争が起きそうな話は知ってるでしょ?んで、学園都市と手を組んでる組織が内乱起こしちゃってさー』
「それとこれと何の関係があるんです?」
『単純にそこまで時間と人を割けないって事。「猟犬部隊」は再編の目処が立たず、「未元物質」と「原子崩し」も失って今の学園都市は満身創痍なのよねー』
そこで電話口の女は一つ溜息を挟んで、
『イギリスの動向に注意しつつ、ローマも相手にしなきゃいけない状況なのに、更に厄介事を持ち込まれちゃたまんないわけよ』
女はそう言ってはいるが、口調からしてそこまで困っているようには感じられない。
『ところでさ、絹旗ちゃん?』
「何です?」
『新人のあの子、どうよ?』
「超使えないです。敵にやられるだけならまだしも、能力暴発させて超死にましたけど」
『死んでたのかよっ!』
「何であんなのよこしたんです?」
『しょーがないじゃーん。だって「スクール」はうざいし、「ブロック」と「メンバー」は消滅しちゃったし。こっちも人材不足なのだよ』
はぁ、と絹旗は溜息をつく。何でこんなわがままな女が『アイテム』の上役なのだろう。
『やっぱそこはさ、「アイテム」新リーダーの絹旗ちゃんにしか頼めないなーなんて。頼りにしてるんだよー?』
「頼りにしてくれるのは超ありがたいんですけど手回しくらいはきちんとして欲しいんですが」
『どゆ事?』
「先月私が海外出張しに行った事覚えています?あの時、向こうのホテルの予約が取れてなくて超野宿したんですけど?」
『あ…』
「あと先週の回収任務の給料貰ってないんですけど」
『あぅ…』
「ついでに一昨日貨した五千円、超返して下さい」
『いや、あのね、絹旗ちゃん?』
「何ですか?」
『そこは後ばら』
「超却下です」
絹旗は女の言葉を最後まで聞かずに宣告した。
「とりあえず今からそっちに向かいます。それまでに用意しといて下さい。もしできなかったら超デコピンなので」
『いやーーーー!!それはやめてーーーーー!!?前回あれやられて一週間も腫れてたんだからーーーーー!!!!!!』
電話口でぎゃあぎゃあ騒ぐ女を無視して電話を切ると、絹旗は狭い路地裏に消えていった。
「何です?」
『新人のあの子、どうよ?』
「超使えないです。敵にやられるだけならまだしも、能力暴発させて超死にましたけど」
『死んでたのかよっ!』
「何であんなのよこしたんです?」
『しょーがないじゃーん。だって「スクール」はうざいし、「ブロック」と「メンバー」は消滅しちゃったし。こっちも人材不足なのだよ』
はぁ、と絹旗は溜息をつく。何でこんなわがままな女が『アイテム』の上役なのだろう。
『やっぱそこはさ、「アイテム」新リーダーの絹旗ちゃんにしか頼めないなーなんて。頼りにしてるんだよー?』
「頼りにしてくれるのは超ありがたいんですけど手回しくらいはきちんとして欲しいんですが」
『どゆ事?』
「先月私が海外出張しに行った事覚えています?あの時、向こうのホテルの予約が取れてなくて超野宿したんですけど?」
『あ…』
「あと先週の回収任務の給料貰ってないんですけど」
『あぅ…』
「ついでに一昨日貨した五千円、超返して下さい」
『いや、あのね、絹旗ちゃん?』
「何ですか?」
『そこは後ばら』
「超却下です」
絹旗は女の言葉を最後まで聞かずに宣告した。
「とりあえず今からそっちに向かいます。それまでに用意しといて下さい。もしできなかったら超デコピンなので」
『いやーーーー!!それはやめてーーーーー!!?前回あれやられて一週間も腫れてたんだからーーーーー!!!!!!』
電話口でぎゃあぎゃあ騒ぐ女を無視して電話を切ると、絹旗は狭い路地裏に消えていった。