3
土御門元春は黙考していた。
最近、義妹の舞夏の様子がおかしい。
思えば先月のいつだったか、隣の上条宅に突っ込んで行ってからおかしくなっている。
いや、厳密に言えば突っ込んで行った時点でおかしかったが。
とにかく、以前のように「兄貴ー」と笑いながらとてとて寄ってくる事がなくなってしまった。
なんだこれは。反抗期なのか。自分は舞夏に反抗されるような事をしたのか。
否。そんなはずはない。
毎日記入している門外不出の『舞夏育成ノート』にはそのような記述は一切ない。
万一あったとしても自分がそのような愚行を犯しておいて、忘れるはずがない。
ではなぜ…?
「にゃー…」
べちゃり、と音がしそうなくらいの脱力ぶりでテーブルに突っ伏すシスコン軍曹。
そのテーブルには舞夏が早起きして作ったのであろう、味噌汁が入った鍋が置いてある。
その鍋を見つめながらシスコン軍曹は再び思考の渦に身を投じる。
最近、義妹の舞夏の様子がおかしい。
思えば先月のいつだったか、隣の上条宅に突っ込んで行ってからおかしくなっている。
いや、厳密に言えば突っ込んで行った時点でおかしかったが。
とにかく、以前のように「兄貴ー」と笑いながらとてとて寄ってくる事がなくなってしまった。
なんだこれは。反抗期なのか。自分は舞夏に反抗されるような事をしたのか。
否。そんなはずはない。
毎日記入している門外不出の『舞夏育成ノート』にはそのような記述は一切ない。
万一あったとしても自分がそのような愚行を犯しておいて、忘れるはずがない。
ではなぜ…?
「にゃー…」
べちゃり、と音がしそうなくらいの脱力ぶりでテーブルに突っ伏すシスコン軍曹。
そのテーブルには舞夏が早起きして作ったのであろう、味噌汁が入った鍋が置いてある。
その鍋を見つめながらシスコン軍曹は再び思考の渦に身を投じる。
事の発端は天草式の少女が上条の部屋を訪れた日だ。
舞夏と楽しくホワイトシチューをつつくはずだったのに、当の舞夏が突然血相を変えてベランダの壁をぶち抜き上条宅へと突入していった。
ほどなくして戻ってきたと思えば味噌汁がどうのこうので舞夏クッキングタイムに入ってしまった。
こうなると兄でも手がつけられない。
話だけでも、と一度だけ邪魔をした時があったが、その時は凄まじいボディブローを食らい一撃KOされている。
それからというものの、舞夏の味噌汁奮闘記に付き合わされ続けている。というか味噌汁しか出てこない。
愛する義妹の手料理と言えど、一ヶ月以上も毎日味噌汁しか出てこないとなると流石のシスコン軍曹も飽きてくる。
(にゃー…。味は文句なしなんだが、以前のような愛がないにゃー。これでは俺の腹は満たせないんだぜい)
しかし、こんな事を意見すれば待っているのは悶絶ボディブローだ。味噌汁をぶちまけたくなかったら黙って食べるしかない。
「食べ物に不自由するのは結構つらいぜい。カミやんも毎日こんな生活なのかにゃー」
思わずそんな独り言を放った直後、土御門はあるとんでもない可能性に気付いてしまう。
舞夏と楽しくホワイトシチューをつつくはずだったのに、当の舞夏が突然血相を変えてベランダの壁をぶち抜き上条宅へと突入していった。
ほどなくして戻ってきたと思えば味噌汁がどうのこうので舞夏クッキングタイムに入ってしまった。
こうなると兄でも手がつけられない。
話だけでも、と一度だけ邪魔をした時があったが、その時は凄まじいボディブローを食らい一撃KOされている。
それからというものの、舞夏の味噌汁奮闘記に付き合わされ続けている。というか味噌汁しか出てこない。
愛する義妹の手料理と言えど、一ヶ月以上も毎日味噌汁しか出てこないとなると流石のシスコン軍曹も飽きてくる。
(にゃー…。味は文句なしなんだが、以前のような愛がないにゃー。これでは俺の腹は満たせないんだぜい)
しかし、こんな事を意見すれば待っているのは悶絶ボディブローだ。味噌汁をぶちまけたくなかったら黙って食べるしかない。
「食べ物に不自由するのは結構つらいぜい。カミやんも毎日こんな生活なのかにゃー」
思わずそんな独り言を放った直後、土御門はあるとんでもない可能性に気付いてしまう。
舞夏がおかしくなったのは上条当麻の部屋に行ってからだ。
(まさか…)
そしてその上条当麻は関わった女性に対して高確率かつ平等にフラグを立てる旗男だ。
(そんな事が…)
その上条当麻は日々食糧難に苦しんでいる。
(あるはずが…)
そして舞夏は上条宅から帰還後に究極の味噌汁開発に明け暮れている。
これらの事実から推測される事は…。
(まさか…)
そしてその上条当麻は関わった女性に対して高確率かつ平等にフラグを立てる旗男だ。
(そんな事が…)
その上条当麻は日々食糧難に苦しんでいる。
(あるはずが…)
そして舞夏は上条宅から帰還後に究極の味噌汁開発に明け暮れている。
これらの事実から推測される事は…。
「ふざけるなああああああああ!!!!!!!おのれ!!!上条当麻ああああああああ!!!!!!!!!」
ガタッ!!と凄まじい勢いでシスコン軍曹は立ち上がり野太い声で叫ぶ。
「外国人巫女様お嬢様妹巨乳でこ女子高生豊乳シスター爆乳エロスお姉さん堕天使エロメイド隠れ巨乳と散々フラグを立てておいてまだ足りぬか!!!!」
いつもの軽い口調は完全に吹っ飛んでいる。この男、マジである。
「今までは大目に見てきたが舞夏だけは許せん!!もう見過ごす事はできんっっ!!!!!!!」
そう宣言すると土御門はベランダではなく部屋の壁をぶち抜いて上条宅へと侵攻していくのであった。
「外国人巫女様お嬢様妹巨乳でこ女子高生豊乳シスター爆乳エロスお姉さん堕天使エロメイド隠れ巨乳と散々フラグを立てておいてまだ足りぬか!!!!」
いつもの軽い口調は完全に吹っ飛んでいる。この男、マジである。
「今までは大目に見てきたが舞夏だけは許せん!!もう見過ごす事はできんっっ!!!!!!!」
そう宣言すると土御門はベランダではなく部屋の壁をぶち抜いて上条宅へと侵攻していくのであった。
4
一端覧祭を控えいつも以上の喧騒が広がる学園都市の中でこの空間は静かだ。
ちょっとアルコールの匂いが鼻につくが、それでもどこか心地良さを感じる事ができる。
辺りは一面真っ白で清潔感そのものだった。
すれ違う人も落ち着いていて平穏な時間を過ごしているように見える。
海原光貴はそんな廊下を歩いていた。
つい今しがたショチトルという少女の見舞いを終えたところだった。
あれから毎日の日課になっているが、未だに口を利いてもらえない。
それでも最初の頃は転院した事も教えてもらえず、病室にすら入れてくれなかったのだから見舞いができているだけでも彼女との距離は確実に縮まっている。
「ようやく、向き合えてきたのでしょうかね」
海原は思わず頬を緩めてしまう。
自分は『組織』を抜け学園都市の暗部へと潜りこんだ。多くの命を奪い、自らの目的の為とあれば大切な人を傷つける事すら考えた程だ。
そんな闇に染まった自分にこんな穏やかな感情がまだ残っていたとは。
まだ少し痛む頭で海原はぼんやりとそんな事を考えていた。
ちょっとアルコールの匂いが鼻につくが、それでもどこか心地良さを感じる事ができる。
辺りは一面真っ白で清潔感そのものだった。
すれ違う人も落ち着いていて平穏な時間を過ごしているように見える。
海原光貴はそんな廊下を歩いていた。
つい今しがたショチトルという少女の見舞いを終えたところだった。
あれから毎日の日課になっているが、未だに口を利いてもらえない。
それでも最初の頃は転院した事も教えてもらえず、病室にすら入れてくれなかったのだから見舞いができているだけでも彼女との距離は確実に縮まっている。
「ようやく、向き合えてきたのでしょうかね」
海原は思わず頬を緩めてしまう。
自分は『組織』を抜け学園都市の暗部へと潜りこんだ。多くの命を奪い、自らの目的の為とあれば大切な人を傷つける事すら考えた程だ。
そんな闇に染まった自分にこんな穏やかな感情がまだ残っていたとは。
まだ少し痛む頭で海原はぼんやりとそんな事を考えていた。
「おや?」
病院を出て携帯電話の電源を入れるとディスプレイに見慣れた番号が表示される。
その番号をプッシュしようとした瞬間、
ヒュン!と空気を切り裂くような音と共に一人の少女が現れた。
「結標さん、トラウマは完全に克服されたのですか?」
「茶化さないで。これでも精神集中して慎重に演算してようやくできたんだから」
そう返答した結標の背中には低周波振動治療器はなかった。常に携帯してあった懐中電灯もない。
これはあの日、結標が『仲間』に誓った覚悟の証。
自身のトラウマがどうこうという問題ではない。自分の力で『仲間』を助ける。ただその一点。その一点が結標淡希を突き動かしている。
「それにしても、よくここにいるとわかりましたね」
「あなたの行動パターンくらいわかってるわよ」
結標はぶっきらぼうに答える。
「それはそれは」
海原は少し笑みを浮かべて、
「ところで用件は何でしょう?もしかして一端覧祭のデートのお誘いですか?」
「まだ平和ボケしてるんだったら、そのニヤけた顔にコルク抜きでもぶち込んであげようかしら?」
結標は不適な笑みを浮かべながら海原へ冷たい視線を送る。
懐中電灯を持たない今、結標の攻撃は予備動作なしで繰り出される事になる。その事を瞬時に理解した海原は降参とばかりに両手を上げる。
「仕事…ってほどじゃないんだけど、ちょっと協力して欲しい事があるのよ」
海原は表情を少し引き締め答える。
「先日の『残骸』の件ですか?」
結標は頷くと付いてこい、と言わんばかりに歩き出す。
「あなたは察しが良くて助かるわ。世界中に散らばっていた『残骸』が急に回収されたのは知っているわよね。それでちょっとばかり引っかかる事があるのよ」
「引っかかる事…ですか?」
海原は正面からテントの骨組みを持った男子高校生を避けながら結標に先を促す。
「私は以前、地上に落ちた『残骸』を回収してるけど、その時は一方通行に破壊されてるの。でもここにきて学園都市が急に『残骸』を回収し始めてるの」
「『残骸』は『外』の連中が血眼になって回収に飛んでいるはずですが…そもそも、それが『残骸』だと言う確証は?」
「ないわ。ただ、この件で人員不足の『アイテム』がわざわざ『外』まで出向いてる事を考えるとあながち嘘でもなさそうじゃない?」
「さっき世界中と仰りましたが、それが本当だとしたらそれなりの数の『残骸』が既に地上にあるという事になりますが…」
「いくつか地上に落下していたんでしょう。『外』の連中に回収されても問題ないとは思うのだけれど…データを失うのが嫌なのかしらね」
「しかし何で今なんでしょうね?貴女が『残骸』を回収したのは九月半ば。二ヶ月も経った今頃になって回収し始めるというのは…」
「それが引っかかってるのよ。『外』は今戦争直前で混乱しつつある。レベル5を二人も失った今の学園都市に寄り道をしている余裕があるとは思えないわ」
「しかし、それが寄り道ではなく近道だとしたら」
海原が質問するように返す。
結標は足を止め、天を仰ぎ、答える。
「もしかしたら私達にとっても近道になるかもしれないわね」
病院を出て携帯電話の電源を入れるとディスプレイに見慣れた番号が表示される。
その番号をプッシュしようとした瞬間、
ヒュン!と空気を切り裂くような音と共に一人の少女が現れた。
「結標さん、トラウマは完全に克服されたのですか?」
「茶化さないで。これでも精神集中して慎重に演算してようやくできたんだから」
そう返答した結標の背中には低周波振動治療器はなかった。常に携帯してあった懐中電灯もない。
これはあの日、結標が『仲間』に誓った覚悟の証。
自身のトラウマがどうこうという問題ではない。自分の力で『仲間』を助ける。ただその一点。その一点が結標淡希を突き動かしている。
「それにしても、よくここにいるとわかりましたね」
「あなたの行動パターンくらいわかってるわよ」
結標はぶっきらぼうに答える。
「それはそれは」
海原は少し笑みを浮かべて、
「ところで用件は何でしょう?もしかして一端覧祭のデートのお誘いですか?」
「まだ平和ボケしてるんだったら、そのニヤけた顔にコルク抜きでもぶち込んであげようかしら?」
結標は不適な笑みを浮かべながら海原へ冷たい視線を送る。
懐中電灯を持たない今、結標の攻撃は予備動作なしで繰り出される事になる。その事を瞬時に理解した海原は降参とばかりに両手を上げる。
「仕事…ってほどじゃないんだけど、ちょっと協力して欲しい事があるのよ」
海原は表情を少し引き締め答える。
「先日の『残骸』の件ですか?」
結標は頷くと付いてこい、と言わんばかりに歩き出す。
「あなたは察しが良くて助かるわ。世界中に散らばっていた『残骸』が急に回収されたのは知っているわよね。それでちょっとばかり引っかかる事があるのよ」
「引っかかる事…ですか?」
海原は正面からテントの骨組みを持った男子高校生を避けながら結標に先を促す。
「私は以前、地上に落ちた『残骸』を回収してるけど、その時は一方通行に破壊されてるの。でもここにきて学園都市が急に『残骸』を回収し始めてるの」
「『残骸』は『外』の連中が血眼になって回収に飛んでいるはずですが…そもそも、それが『残骸』だと言う確証は?」
「ないわ。ただ、この件で人員不足の『アイテム』がわざわざ『外』まで出向いてる事を考えるとあながち嘘でもなさそうじゃない?」
「さっき世界中と仰りましたが、それが本当だとしたらそれなりの数の『残骸』が既に地上にあるという事になりますが…」
「いくつか地上に落下していたんでしょう。『外』の連中に回収されても問題ないとは思うのだけれど…データを失うのが嫌なのかしらね」
「しかし何で今なんでしょうね?貴女が『残骸』を回収したのは九月半ば。二ヶ月も経った今頃になって回収し始めるというのは…」
「それが引っかかってるのよ。『外』は今戦争直前で混乱しつつある。レベル5を二人も失った今の学園都市に寄り道をしている余裕があるとは思えないわ」
「しかし、それが寄り道ではなく近道だとしたら」
海原が質問するように返す。
結標は足を止め、天を仰ぎ、答える。
「もしかしたら私達にとっても近道になるかもしれないわね」
5
垣根帝督はとある高校の校門前に立っていた。
ミディアムヘアの金髪を靡かせ、校門前で佇む彼の姿は他校から殴り込みを仕掛けに行く不良のようにも見える。
当然、とある高校の生徒からの視線が集まるが、垣根はそんな事は気にしない。彼の目的は一つしかないからだ。
ミディアムヘアの金髪を靡かせ、校門前で佇む彼の姿は他校から殴り込みを仕掛けに行く不良のようにも見える。
当然、とある高校の生徒からの視線が集まるが、垣根はそんな事は気にしない。彼の目的は一つしかないからだ。
そんな彼に横合いから話しかけてくる人物が一人。
「こんな所で立って何をしているのですかー?」
垣根は声のした方向に視線を移すが何もない。
いや、いた。
自分の肘あたりに、訝しげな視線を向ける一人の幼女が。
「見ての通りここは高校ですよー?服装を見る限りあなたはここの生徒には見えませんが…?」
幼女にしては話し方が妙に大人びている。だが問題はそこではない。なぜ高校の敷地内に堂々と小学生と思しき幼女がいるのか。
しかしそこは紳士な垣根。警戒されないように優しい口調で言葉を返す。
「俺はここの生徒に用事があるんだよ。もし迷子ならここの職員を訪ねるといいよ」
「私は迷子なんかじゃありませんよー?と言うかここの先生です」
この小学生、中々面白い事を言うじゃねえか、と垣根は頭の中で感心する。しかし、こんな子供に構っていられるほど暇ではない。
「とりあえず職員室にでも行こうか」
垣根は幼女と共に学校敷地内に入ろうとするが幼女は断固阻止する。
「殴り込みはいけないのです!何か理由があるのなら先生が聞くのです!」
幼女は垣根の左足をガッチリとホールドしている。
まだ続けるのかこのガキ、と紳士な垣根が眉間に皺を寄せかけると、
「月詠先生。何をなさっているんです?」
今度は落ち着いた、大人の女性の声が聞こえた。声の主は教師を絵に描いたような黒縁眼鏡に整った髪、これと言って特徴のない顔といい教師の鑑みたいな女だった。
垣根はこの女がこの高校の教師であると確信すると、
「ここの高校の雲川芹亜という方に会いに来たんですが」
いきなり尋ねられた女教師は不審に思いながらも、雲川という生徒について考える。が、そんな生徒がいたという記憶はない。生憎だけど知らないわね、と答えようとした時、
「雲川ちゃんですか?だったらこの時間だと食堂にいるんじゃないですかー?」
また幼女が口を挟んできた。うんざりしながら幼女に視線を戻すと幼女は続ける。
「彼女はいつも食堂の椅子を繋げて寝ているのです。今ちょうど昼休みも終わったところですし、早く行かないと雲川ちゃん寝ちゃいますよ」
なんでそんな事まで知っているんだ、このガキ。という疑問を飲み込み垣根は少し考える。
様子を見るとあの女教師は雲川自体を知らないだろう。このガキの言ってる事も信用できないが、ここまで具体的に言い切るのなら知っている可能性もある。
もし違かったのなら職員室で尋ねればいいだけだ。何よりさっさとこの面倒臭い状況から抜け出したかった。
そう判断すると「ありがとう、お嬢さん」と幼女に微笑みかけ校舎に向かって歩いていく。
「こんな所で立って何をしているのですかー?」
垣根は声のした方向に視線を移すが何もない。
いや、いた。
自分の肘あたりに、訝しげな視線を向ける一人の幼女が。
「見ての通りここは高校ですよー?服装を見る限りあなたはここの生徒には見えませんが…?」
幼女にしては話し方が妙に大人びている。だが問題はそこではない。なぜ高校の敷地内に堂々と小学生と思しき幼女がいるのか。
しかしそこは紳士な垣根。警戒されないように優しい口調で言葉を返す。
「俺はここの生徒に用事があるんだよ。もし迷子ならここの職員を訪ねるといいよ」
「私は迷子なんかじゃありませんよー?と言うかここの先生です」
この小学生、中々面白い事を言うじゃねえか、と垣根は頭の中で感心する。しかし、こんな子供に構っていられるほど暇ではない。
「とりあえず職員室にでも行こうか」
垣根は幼女と共に学校敷地内に入ろうとするが幼女は断固阻止する。
「殴り込みはいけないのです!何か理由があるのなら先生が聞くのです!」
幼女は垣根の左足をガッチリとホールドしている。
まだ続けるのかこのガキ、と紳士な垣根が眉間に皺を寄せかけると、
「月詠先生。何をなさっているんです?」
今度は落ち着いた、大人の女性の声が聞こえた。声の主は教師を絵に描いたような黒縁眼鏡に整った髪、これと言って特徴のない顔といい教師の鑑みたいな女だった。
垣根はこの女がこの高校の教師であると確信すると、
「ここの高校の雲川芹亜という方に会いに来たんですが」
いきなり尋ねられた女教師は不審に思いながらも、雲川という生徒について考える。が、そんな生徒がいたという記憶はない。生憎だけど知らないわね、と答えようとした時、
「雲川ちゃんですか?だったらこの時間だと食堂にいるんじゃないですかー?」
また幼女が口を挟んできた。うんざりしながら幼女に視線を戻すと幼女は続ける。
「彼女はいつも食堂の椅子を繋げて寝ているのです。今ちょうど昼休みも終わったところですし、早く行かないと雲川ちゃん寝ちゃいますよ」
なんでそんな事まで知っているんだ、このガキ。という疑問を飲み込み垣根は少し考える。
様子を見るとあの女教師は雲川自体を知らないだろう。このガキの言ってる事も信用できないが、ここまで具体的に言い切るのなら知っている可能性もある。
もし違かったのなら職員室で尋ねればいいだけだ。何よりさっさとこの面倒臭い状況から抜け出したかった。
そう判断すると「ありがとう、お嬢さん」と幼女に微笑みかけ校舎に向かって歩いていく。
そんな少年の後ろ姿を呆然と眺める特徴のない女教師――親船素甘は隣にいる幼女教師――月詠小萌に視線を向け、
「あんなどこの馬の骨ともわからない少年を校舎に入れてしまってもいいんですか?それに今は黄泉川先生は休み、災誤先生は未だに療養中なのに…。何かあったら対処できませんよ?」
しかし幼女教師は平らな胸を力いっぱい張ってきっぱりと返答する。
「大丈夫なのです。あの子はそんなに悪い子には見えません」
一体何を根拠に?と親船はさっぱり理解ができずに首を傾げるが、きちんとした理由があった。
初対面なのに「え?こいつ教師なの?」と聞かれなかったという立派な理由が。
「あんなどこの馬の骨ともわからない少年を校舎に入れてしまってもいいんですか?それに今は黄泉川先生は休み、災誤先生は未だに療養中なのに…。何かあったら対処できませんよ?」
しかし幼女教師は平らな胸を力いっぱい張ってきっぱりと返答する。
「大丈夫なのです。あの子はそんなに悪い子には見えません」
一体何を根拠に?と親船はさっぱり理解ができずに首を傾げるが、きちんとした理由があった。
初対面なのに「え?こいつ教師なの?」と聞かれなかったという立派な理由が。