とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-523

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匿名ユーザー

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「学園都市はコソコソと何をやっている?」
垣根は最も聞きたい事をストレートに聞いた。
「新たな『戦力』の増強だけど」
雲川もストレートに答える。
「『戦力』?何だ?遂に本格的に戦争でも始める気か?」
「いずれは…だけど。今は学園都市も『外』も内部状況が良くない。事実上、停戦状態だけど」
「まぁ学園都市はわかるが…何だ、『外』もゴタゴタやってるのか?」
「さっきもちょっと触れたけどイギリスでクーデターがあったらしい。ローマも教皇の謎の負傷で大混乱。どの陣営も敵地を攻め込めるような状況じゃないわけだけど」
「どこにでも反乱分子ってのはいるんだな」
垣根は口笛を吹きながら過去の自分を思い出し、笑う。
「だがそれだけじゃない。ロシアが不穏な動きを見せているみたいなんだけど」
「ロシア?」
「ロシアのある集団が『原石』と『残骸』を回収し始めたんだけど。」
「『原石』ねえ…。『残骸』はまだわかるが、何だってそんな特異体なんか集めてんだ?コレクションにでもする気か?」
「『原石』がこの戦争の行方を大きく変える…私はそう思っているんだけど?」
「仮にそうだとして、こっちには最高の『原石』がいるんだろ?二つか三つ持っていかれたくらいでどうにかなるもんでもないだろ」
雲川は背筋を伸ばし一拍置いてから答える。
「確かにここには削板軍覇がいる。即戦力として戦える力は充分にあると思うけど」
雲川はさらに一拍置いて、
「その削板が何者かによってやられている。殺されない程度にだけど。しかもアレイスターに『原石』への警告までしたもんだ」
「そいつはまた面白ぇ野郎だな」
垣根は感心したように言う。
「これが何を意味するかはわかるでしょ?『原石』を戦争に使わせまいとする連中もいるわけだけど」
「アレイスターの野郎が使わずにいられるわけがねえな」
垣根はあっけらかんと断言する。
「それに『原石』は本当に未知の存在でもあるわけだけど。削板を見ればわかるが、とにかく能力そのものが稀少で特異だ。出力すらも定かではない」
「そんな危険物を能力開発の素人集団に取られるわけにはいかねえ…そういう事か」
雲川は頬杖をつくと、
「もし、半覚醒で暴発した場合どれほどの暴走になるかわからない。仮に覚醒したとしてどれほどの能力が発現するかもわからない。学園都市にとってマイナスはあってもプラスはないわけだけど」
「だから全ての『原石』を学園都市に集めて、あわよくば新たなレベル5を作り出すって事だな」
「そこまで具体的な事はわからない。まぁ、あなたの推測が一番無難だとは思うけど。もっとも、そうなれば警告を無視するわけだから奴も黙ってないだろうけど」
「で、その回収状況はどうなのよ?」
「8割方は回収できてるみたいだけど。きちんとした数もわからないからきっちり全部ってわけにはいかないだろうがな」
雲川は右目にかかった前髪をカチューシャで掻き上げて、
「例え一つでも向こうに回収されればそれが命取りになる可能性がある。もし、それが『当たり』なら一方通行クラスの能力者が敵に回る可能性があるわけだけど」
「そうなったら『上』は大慌てだろうなぁ」
垣根は人事のように言うが、一方通行の本当の強さは自分が一番わかっている。義手をつけた右手がうずいたのがわかった。
「だから『上』はあなたを生かしたと思うんだけど」
「別に学園都市の為に戦う気なんかねえよ。俺は自分の敵以外は傷つけたくないタチなんでね」
垣根はそう言うと、聞きたい事は聞き終わったのか立ち上がるとそのまま踵を返した。
雲川はその背中に一言だけ告げる。
「そうそう、削板にもあなたのように『役割』があるわけなんだけど」
「あん?」
「まぁ、直にわかるさ」
雲川は薄く、薄く笑うと再び椅子を繋げて寝転んでしまう。
垣根は意味がわからなかったが、考えてもわからないとわかると食堂を去っていった。


「本当に、この学校はいろんな刺激に溢れてるな」
雲川は笑う。天使とも悪魔とも無邪気とも妖艶とも取れるような笑顔で。


行間

とあるアパートメントに一通の手紙が届いた。
差出人はとある里親の友人だった。
まずその手紙を見たボンヌドダームの女は我が目を疑った。そしてすぐさま同居人の青年に手紙を渡す。

手紙の内容は里親が何者かに殺害された事。そしてその里親の子供が何者かに連れ去られたという事。その何者かの目撃情報として機械の装甲を身に纏った集団がいた事。

青年は激昂した。
彼は学園都市に牽制の意味を込めた襲撃を行っている。それは『原石』の保護なら構わないが、彼らの生活を脅かす事をするのなら容赦なく叩き伏せるという事だった。
そして学園都市はその牽制を無視した。これは回収や保護といったものではない。
青年はあの少女に自分の手で幸福を手に入れてくれ、と言った。
そして少女はその幸福を手に入れるべく、あの里親と共に新たな人生を歩むはずだった。
青年の頭にアパートメントを出て行く時の少女の幸せそうな顔が浮かび上がる。
しかしその幸福はあっさりと奪われようとしている。いや、もう奪われているのかもしれない。

青年の眼がある一つの『モノ』に変わろうとしている。
もはや酌量の余地は無かった。
警告はした。その上で学園都市が『原石』を使い潰す覚悟があるのなら、彼らの自由を奪い取るというのなら、青年が取るべき行動は一つしかない。
青年の見た目に変化はない。しかし彼の周りにはこの世にあらざる空気が漂っている。何にも形容できないオーラがある。

「行ってくる」

青年は一言だけ告げるとアパートメントから出て行った。
ボンヌドダームの女は引き止める事はしなかった。いや、指一本動かす事すらできなかった。
世界中で一番彼の事を理解しているであろう彼女でさえ、今の青年の雰囲気は異常だった。

学園都市は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった。もう引き返す事はできない。
ボンヌドダームの女はかつてない戦慄を感じながら一つだけ、確信にも似た事を考えていた。


学園都市はこの世界から跡形もなく消滅する―――と。


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