インフィニット・ファンタジー @ ウィキ
レポート第3回
最終更新:
infinit-fantasy
-
view
第三回
順調にアタゴへと近づくシンは、ニノセキを出発し竜ヶ岳の麓まで辿り着いた。それまでに何もなかった事は言うまでもない。
さて、竜ヶ岳というのは、アタゴの西側を覆うように聳え立つ山並みの事である。
一つの山、というわけではなく、幾つもの山が途切れなく繋がった尾根であり、その様がまるで伝説上の生物『竜』の背のようであるから、という理由で名づけられた。
物々しい名前に相応しく、天候も変わりやすければ凶暴な野生動物が出て来ることもあるという危険な場所であり、それが故にアタゴの堅牢な守りに一役買っている、とも言える。
一つの山、というわけではなく、幾つもの山が途切れなく繋がった尾根であり、その様がまるで伝説上の生物『竜』の背のようであるから、という理由で名づけられた。
物々しい名前に相応しく、天候も変わりやすければ凶暴な野生動物が出て来ることもあるという危険な場所であり、それが故にアタゴの堅牢な守りに一役買っている、とも言える。
当然その名と威容はシンも聞き及ぶ所であり、登山の前に麓の寄り合い所にて腹ごしらえと準備を整える。
食事処ツクヨミにてそのたらしっぷり……否、人付き合いの良さを遺憾なく発揮し、旅人(男)からアタゴの情報収集等をして、お勧め登山グッズを一揃い購入していざ行かんと竜ヶ岳に挑みかかった。
食事処ツクヨミにてそのたらしっぷり……否、人付き合いの良さを遺憾なく発揮し、旅人(男)からアタゴの情報収集等をして、お勧め登山グッズを一揃い購入していざ行かんと竜ヶ岳に挑みかかった。
特に何の問題もなく頂上まで辿り着き、ふと気になって山小屋に寄るシン。
竜ヶ岳は確かに危険な場所だが、アタゴへ向かうにあたって通らねばならない場所。当然のように各所に避難や休息用の山小屋が設置してあり、兵士なども不測の事態や敵対勢力の侵入防止の為に配置されている。
といっても、普通に昇り降りするだけの道には兵士の姿はなかったが。
竜ヶ岳は確かに危険な場所だが、アタゴへ向かうにあたって通らねばならない場所。当然のように各所に避難や休息用の山小屋が設置してあり、兵士なども不測の事態や敵対勢力の侵入防止の為に配置されている。
といっても、普通に昇り降りするだけの道には兵士の姿はなかったが。
ともあれ山小屋に立ち寄ると、なにやら様子のおかしいおっさん二人と若者一人が火鉢に固まって暖をとっているではないか。装備を見てみると、竜ヶ岳に挑むにはあまりに無謀な薄さ。いちいち気にしなければいいものを、シンはやはりというべきか嘴を突っ込んだ。
若いんだしイケる! と考えた馬鹿が若者で、文無し故の薄着がヨコスカというおっさんだった。
哀れに思ったのかはたまた天性のお人好しか。シンはヨコスカに食料や装備一式をPON☆とくれてやった。若者も便乗してヨコスカと一緒に下りていく運びとなり、これで二人は安心だろうと胸をなでおろすシンだったが、問題はもう一人。もやし体型のおっさんは何やら絶望したような顔で反応も鈍い。
親身になって話を聞いてみると、アタゴから女房子供を捨ててヨシワラの女と駆け落ちしたものの、途中で装備一式剥ぎ取られて逃げられたというのだ。
哀れに思ったのかはたまた天性のお人好しか。シンはヨコスカに食料や装備一式をPON☆とくれてやった。若者も便乗してヨコスカと一緒に下りていく運びとなり、これで二人は安心だろうと胸をなでおろすシンだったが、問題はもう一人。もやし体型のおっさんは何やら絶望したような顔で反応も鈍い。
親身になって話を聞いてみると、アタゴから女房子供を捨ててヨシワラの女と駆け落ちしたものの、途中で装備一式剥ぎ取られて逃げられたというのだ。
これには流石のシンも怒りを覚え、一発ぶん殴った後に滔々と諭し始めた。
もやしおっさんは涙ながらに己を悔い、今からでもやり直そうとアタゴに戻る決心をする。
やたらと面倒見の良いシンはそこでもやしおっさんと一泊し、連れ立ってアタゴへ向かって山を降りるのだった。
ミツキ・ウナバラと名乗ったもやしおっさんはシンに深く感謝し、下山したところで別れを告げ、アタゴへと戻っていった。
もやしおっさんは涙ながらに己を悔い、今からでもやり直そうとアタゴに戻る決心をする。
やたらと面倒見の良いシンはそこでもやしおっさんと一泊し、連れ立ってアタゴへ向かって山を降りるのだった。
ミツキ・ウナバラと名乗ったもやしおっさんはシンに深く感謝し、下山したところで別れを告げ、アタゴへと戻っていった。
シンは下山した麓の樹上で一泊し、体力を戻してから再びアタゴへ足を進める。
何事もなくアタゴへ到着し、『小烏丸』を見咎められるも仮許可証を出してその場をやり過ごし、無事アタゴへ到着するのだった。
何事もなくアタゴへ到着し、『小烏丸』を見咎められるも仮許可証を出してその場をやり過ごし、無事アタゴへ到着するのだった。
予定通り世話になる父の親友のお宅へと向かうと、そこにあったのは立派な道場。看板に『シノノノ道場』と達筆な文字で書いてあるのを横目に見ながら門を叩くと、出てきたのはポニーテールの見目麗しい少女だった。
名を名乗ると得心いったように頷いて、『ホウキ・シノノノ』であると名乗り返し、シンを中へと招き入れた。
家の一部が道場となっているようで、気合の入った門下生達の声を聞きながら家に上がり、奥まった場所にある部屋に通された。その部屋こそシノノノ道場の師範であり、父の親友にしてその片腕を切り落とした男『リュウイン・シノノノ』の部屋だったのだ。
家の一部が道場となっているようで、気合の入った門下生達の声を聞きながら家に上がり、奥まった場所にある部屋に通された。その部屋こそシノノノ道場の師範であり、父の親友にしてその片腕を切り落とした男『リュウイン・シノノノ』の部屋だったのだ。
挨拶を済ませると、リュウインはホウキに家人を連れてくるよう言いつけ退室させ、シンとダイジの話に花を咲かせた。
見た目通りリュウインはカッチカチの堅物であるようだったが、ダイジの話をする時だけはとても楽しそうな様子で、二人の絆がどれ程のものかというのを思い知らせてくれる。
しかし、襖の向こうからホウキの声がかかると、一転して元の厳しい表情に戻り、中に入るよう促した。
見た目通りリュウインはカッチカチの堅物であるようだったが、ダイジの話をする時だけはとても楽しそうな様子で、二人の絆がどれ程のものかというのを思い知らせてくれる。
しかし、襖の向こうからホウキの声がかかると、一転して元の厳しい表情に戻り、中に入るよう促した。
紹介されたのは二名。
ジャポニカの現パイロットであり、シノノノ道場の師範代でもある『チフユ・オリムラ』。
学院生であり、チフユの弟にしてシノノノ道場の門下生兼シノノノ家主夫『イチカ・オリムラ』。
いずれ劣らぬ見目の良さと腕の確かさを兼ね備えた人物である。
ジャポニカの現パイロットであり、シノノノ道場の師範代でもある『チフユ・オリムラ』。
学院生であり、チフユの弟にしてシノノノ道場の門下生兼シノノノ家主夫『イチカ・オリムラ』。
いずれ劣らぬ見目の良さと腕の確かさを兼ね備えた人物である。
シノノノ家にはもう一人、IDギルドサブマスターにして五賢人の一人『タバネ・シノノノ』もいるのだが、現在仕事で出払っているらしい。挨拶は後で、ということとなった。
一通り顔合わせも済んだところで、シンはホウキに案内されて宛がわれた自室へ向かい、その広さに恐縮したところを逆に困られる、という変な状況が発生したりしつつも、荷物を置き、とりあえずは正式な許可を頂きにIDギルドへ向かった。
IDギルド警備兵に小烏丸を見咎められたりしながらも、入館したシン。
彼のアタゴでの生活、即ちシノノノ家の家族の一員としての生活は、未だ始まったばかりである。
IDギルド警備兵に小烏丸を見咎められたりしながらも、入館したシン。
彼のアタゴでの生活、即ちシノノノ家の家族の一員としての生活は、未だ始まったばかりである。
方や、ミシュアルはといえば。
何か色々ボロボロなジャッカルやマムルークの皆さんと一緒にオマーンに入り、騎士団の宿営地に連れて行かれ、軟禁状態となっていた。
何か色々ボロボロなジャッカルやマムルークの皆さんと一緒にオマーンに入り、騎士団の宿営地に連れて行かれ、軟禁状態となっていた。
まぁ、何をどう言い繕おうとIDの不法所持は立派な犯罪であり、その責任は渡したジャッカルにあると言えど、ミシュアルも放っては置けない。
宿営地にて騎士団副団長――これが驚いた事に、ジャッカルにあって泣いたりしたあの女性である――ビオレ・アマレットに説教をくらい、宛がわれた自室にて待機を命じられた。
待機とはいっても、宿営地の中ならば自由に動き回って構わないので、大したことではない。この辺りは流石に温情がかけられたのであろう。
宿営地にて騎士団副団長――これが驚いた事に、ジャッカルにあって泣いたりしたあの女性である――ビオレ・アマレットに説教をくらい、宛がわれた自室にて待機を命じられた。
待機とはいっても、宿営地の中ならば自由に動き回って構わないので、大したことではない。この辺りは流石に温情がかけられたのであろう。
とはいっても、特に何もする事がないミシュアルは一人鍛錬してみたり、遊戯室で騎士団の人に絡んでみたり、タダ飯をひたすらかっくらったりと適当に日々を過ごしていた。
この軟禁状態も、ミシュアルの身元確認が済むまでだという。
この軟禁状態も、ミシュアルの身元確認が済むまでだという。
この事がミシュアルは少し憂鬱だった。何せ、父母に確認を取るというのだ。
両親に黙って村を飛び出したミシュアルである。後ろ暗いところしかないようなものだ。
意地を張ってみたものの、身元確認に必要であるといわれれば黙るしかない。
しかし、この身元確認さえ済めば、ミシュアルは放免されるというのだから優しいものだ。
多分責任とか折檻とか難儀なあれこれは全部ジャッカルに回っているものと思われる。
両親に黙って村を飛び出したミシュアルである。後ろ暗いところしかないようなものだ。
意地を張ってみたものの、身元確認に必要であるといわれれば黙るしかない。
しかし、この身元確認さえ済めば、ミシュアルは放免されるというのだから優しいものだ。
多分責任とか折檻とか難儀なあれこれは全部ジャッカルに回っているものと思われる。
それが証拠に、たまに見かけるたびに日に日にジャッカルは弱っていった。
疲れ切った様子で体を引き摺りながら歩く様は最早不憫ですらある。
事情を聞くのもなんとなく躊躇われて、ミシュアルはとりあえずの日々を過ごしていた。
それがいけなかったのだ。あまりに退屈すぎたのだ、ミシュアルにとって、この数日は。
疲れ切った様子で体を引き摺りながら歩く様は最早不憫ですらある。
事情を聞くのもなんとなく躊躇われて、ミシュアルはとりあえずの日々を過ごしていた。
それがいけなかったのだ。あまりに退屈すぎたのだ、ミシュアルにとって、この数日は。
騎士団宿営地に来て三日、当然と言うべきか何というべきか、ジャッカルとミシュアルに纏わる噂が騎士団内で誠しやかに囁かれていた。
何せジャッカルは元騎士団の人間らしいし、知り合いも何人かいるようだ。
そして久しぶりに見た彼が子供を連れていた、とくれば出て来る噂など知れている。
何せジャッカルは元騎士団の人間らしいし、知り合いも何人かいるようだ。
そして久しぶりに見た彼が子供を連れていた、とくれば出て来る噂など知れている。
ミシュアル少年は、ジャッカルの隠し子なのではないか?
結婚してるかどうかさえ知れないのに隠し子も何もあったものではないが、ともあれそんな噂が存在したのは事実だ。
そして、その噂がミシュアルの耳に入ったのは、本当に不幸としか言いようが無い。
ミシュアルの耳に入れたのは、エリック・スレインという若くて少々チャラい騎士団員。事の真偽を確かめる為に直接たずねてきたのだ。
そして、その噂がミシュアルの耳に入ったのは、本当に不幸としか言いようが無い。
ミシュアルの耳に入れたのは、エリック・スレインという若くて少々チャラい騎士団員。事の真偽を確かめる為に直接たずねてきたのだ。
そんな事が起これば、僕等の悪戯少年ミシュアルである。狼少年や某魚と同じ名前の少年並みに悪知恵の働く彼は、迫真の演技でもってその噂を肯定したのである。
騎士団内に激震が走った。瞬く間にその話は騎士団中に広まり、ヒソヒソ話が絶えなくなった。
事ここに至ってやりすぎた感を覚えるも、最早ミシュアルは開き直るしかない。
騎士団内に激震が走った。瞬く間にその話は騎士団中に広まり、ヒソヒソ話が絶えなくなった。
事ここに至ってやりすぎた感を覚えるも、最早ミシュアルは開き直るしかない。
とりあえず気にしないようにしていると、翌日の夜、ミシュアルの部屋を訪ねる人物がいた。
ヒョウタ・ユバという真面目そうな騎士団員のおっさんである。ミシュアルは、彼相手にも嘘を突き通した。
もう後には引けない。そんな一心からやってしまったミシュアルだったが、それが彼を更に恐怖のどん底に叩き落す事になる。
ヒョウタ・ユバという真面目そうな騎士団員のおっさんである。ミシュアルは、彼相手にも嘘を突き通した。
もう後には引けない。そんな一心からやってしまったミシュアルだったが、それが彼を更に恐怖のどん底に叩き落す事になる。
更に翌日。危機感知能力だけは高いミシュアルは朝食を取らず部屋に引きこもった。
しかし、腹は減るもの。昼食時を少し過ぎたくらいの時間帯を狙って食堂へ向かうと、そこにはミイラのようになったジャッカルがいた。
しかし、腹は減るもの。昼食時を少し過ぎたくらいの時間帯を狙って食堂へ向かうと、そこにはミイラのようになったジャッカルがいた。
ただでさえID不法所持の責任やらがあるのに加えて、隠し子の噂を当の本人であるミシュアルが肯定したのだ。
その心痛胃痛、推して知るべし。更に出会った時の様子から考えて副団長ビオレと只ならぬ関係であったのは薄々想像がつくことであり、もうなんていうか目も当てられない。
その心痛胃痛、推して知るべし。更に出会った時の様子から考えて副団長ビオレと只ならぬ関係であったのは薄々想像がつくことであり、もうなんていうか目も当てられない。
流石に罪悪感が募ったミシュアルは、何か嫌な予感がしながらもジャッカルの様子を確認しようと近づき、声をかけた。
そして、それはやはりトラップだった。
そして、それはやはりトラップだった。
一瞬の隙をついて何者かが背後に回り、しっかりとミシュアルの逃げ道を塞いだのだ。
当然であろう、ここにいる全員がミシュアルより遥かに腕が立つのだ、そんなこと朝飯前である。
最悪の予感と共に訪れた優しい声は、聞き覚えのある女性のものだった。
「あ、これ死んだわ」という確信と共に、ミシュアルは己の所行を悔いた。むざむざ虎の尾を踏んだ事を理解しつつ、ビオレに引き摺られて尋問室へと叩き込まれるのだった。
当然であろう、ここにいる全員がミシュアルより遥かに腕が立つのだ、そんなこと朝飯前である。
最悪の予感と共に訪れた優しい声は、聞き覚えのある女性のものだった。
「あ、これ死んだわ」という確信と共に、ミシュアルは己の所行を悔いた。むざむざ虎の尾を踏んだ事を理解しつつ、ビオレに引き摺られて尋問室へと叩き込まれるのだった。
そこから先は語るに及ばず。
ミシュアルの心に深いトラウマと、『二度と嘘をつかない』という最悪の約束を結ばされてようやく解放され、ミシュアルはボロ雑巾のようになりながら自室のベッドに倒れこんだ。
ジャッカルの味わった苦しみの一部を、身をもって理解する羽目になったミシュアル。彼の明日はどっちだ。
ミシュアルの心に深いトラウマと、『二度と嘘をつかない』という最悪の約束を結ばされてようやく解放され、ミシュアルはボロ雑巾のようになりながら自室のベッドに倒れこんだ。
ジャッカルの味わった苦しみの一部を、身をもって理解する羽目になったミシュアル。彼の明日はどっちだ。