「どうしてこうなった……」
K市の東海岸沿いを走る電車に乗って西側へと移動する一人の男がいた。名を
岡部倫太郎。
ガタン。ゴトン。電車が揺れる。
窓からは夕日の光が射し込みベージュ色の内装を赤く染めていた。
平日の夕方、まだ勤労に勤しんでいる者も多く、そうでない者も海岸から漂う瘴気によって自宅に籠っているのだろう。
とにかく電車の車両には岡部と霊体化しているサーヴァントだけで彼の呟きを聞くは他にいない。
何故岡部達が少ない所持金を削ってでも電車に乗って移動しているか。事の発端は数十分あるいは一時間前になる。
岡部達が『ソレ』を見たのは偶然だった。
『ソレ』は想像を遥かに超えたモノだった。
◆
────時間は少し巻き戻る────
汚染された海水。錆び付いたガードレール。潮風の変わりに悪臭が嗅覚を蹂躙し、岡部は不快感に顔を歪める。
「とにかく、ここを離れるか」
怪しげな同盟を真っ向から蹴り飛ばし、自分が強いと思っている奴にノーと言ってやった。
さらにけしかけてきた悪霊を掃討し、完全勝利したわけだ。
勝利の美酒に酔っていたいが、ここは
ヘドラの勢力圏内である。言われなくてもスタコラサッサするに限る。
その時だ。沖の海面からネットリと何かが這い出てくるのを岡部は見た。
一難去ってまた一難。岡部の双瞳はそれらがサーヴァントとしてのステータスを有しているのを確認した。
「ライダー!」
「分かってますわよ!」
マスケット銃の名手アン・ボニーが銃口をそれに向けた瞬間。
「なん……だと……」
それが一体、また一体と海面へ現れる。
鯨のような形態のモノ。
人のような形をしたもの。
完全に人の形をしている者。
数十、数百、数千のサーヴァントステータスを持つ者が現れた。
しかし、彼等は岡部を見ていなかった
彼等は『ソレ』を見ていた。
「マスター! あそこ!」
メアリー・リードが指差すその先に人影があった。
体格からして少女と思われるが、人間である岡部には遠すぎてそれ以上のことは分からない。
だが。
だが……
だが……!
突如現れた艦隊による無数の魔の砲撃。
重機関銃の如き速さで大火砲と呼ぶべき火力が連射し、世界を震えさせる。
少女が突如、別の場所へワープした。
生き残っていた黒いものが蠢く中心へ。そして。
眩い光が視界を埋め尽くす。
水平線の彼方から彼方まで光線が走り、そして爆発する。
光の水爆。超新生爆発(ビッグバン)。消毒を思わせる悍ましい光。
それが海面から現れた者共を破壊、いや消滅させる。
残骸すら残らず、断末魔すら残さず、究極にして完全なる消去(デリート)。
しかし、だ
破壊だけならばまだ分かる。要はビームだと自分の中二病知識で何とか納得させることが可能だ。
だが、破壊はただの破壊ではなかった。
────世界には孔が空いていた。
────比喩ではない。文字通りの意味だ。
汚染された海の景色が、まるで垂れ幕のように垂れ下がっていた。
そして世界が剥がれたその先に。
グロテスクといってもいいほど煌びやかな星空が広がっていた。
岡部は間抜け面のままその穴が閉じて無くなるのを見ていた。
隣でライダーの二人が何かブツブツ言っているが岡部の脳髄には届かない。
頭が理解の許容範囲を超えた破壊を見せられたため、更に戦慄を促す事実に気付くのに時間がかかる。
静か、なのだ。
あれだけの破壊が起きたにも関わらず、近くからは潮騒の、遠くからは喧騒の音が聞こえてくる。
何より恐ろしいのが波だ。穏やかで、そして“綺麗な”海水が波打っている。
空気が旨い。鼻を刺す悪臭が無くなった。
ガードレールの錆びも無くなっていた。
清潔に、凄烈に。ただアレは海の汚濁のみを破壊し尽くしたのだ。
『破壊』だ。浄化ではない。浄化などといえるものか。
「────────────────────────」
何が起きたかなどどうでもよい。ただ、アレはマズイと脳髄の端から端が叫んでいる。
人影がこちらを向いた。
「逃げるぞ!」
逃げられるとは思えない。
だとしても岡部は走る。
走らなければ心臓が勝手に止まってしまいそうだ。
二人は黙って霊体化し岡部に付いていった。
◆
とにかくアレから逃げ出したいという一心で、最寄りの駅に逃げ込む。
「街にいくのにはどれに乗ればいい!!」
駅員は岡部の鬼気迫る表情に驚きはするも、岡部はそんなものに気を割く余裕は無い。
とにかく海。海から離れなくてはならない。あんなモノがいるならヘドラ討伐になど無駄だ。
「申し訳ありませんが、今街にいく電車は全て運転を見合せているのですよ」
「なっ、何故だ!」
「なんでも街中で爆発事故が起きたとかで危険ですし、それにここ最近でニュースになっている殺人犯が現れたとかでテロの可能性もあるとかで」
ニュースの殺人犯────
ジャック・ザ・リッパーか。ということは街中ではサーヴァント戦の真っ最中ということか。
なんてタイミングの悪い。前門のサーヴァント、後門の破壊者。どちらも危険極まりない。ならば────
「運転乗り替えは!」
「ああ、それなら」
◆
そして現在。こうして、電車で呉方面行の電車に乗っている。
ガタン、ゴトンと電車の揺れる音につられて敗残兵の体も揺れる。
朝はあの《白い男》。昼には悪霊。そして夕方はあの破壊者ときている。
あれらに勝てる気がしない。それはライダー達の責任ではなく自分の心根の問題。やり通せるのか俺は。
────まだ見ぬ未来改変者。そいつとも戦わねばならない。
聖杯戦争の混沌は加速し、されど止める者はいない。
いや、そもそも他のサーヴァントが……
岡部はいつの間にか目蓋を閉じ、ゆっくりと意識を沈めていった。
◆
マスターの意識が完全に休眠したと同時、ライダー達は実体化する。
「寝たね」
「寝ましたわね」
「疲れてたのかな」
「そりゃあ疲れるでしょう。朝から戦闘と逃亡を繰り返せば。
どうみても鍛えている様には見えませんし」
アンとメアリーは外套を岡部にかける。
今は秋。流石にこのままでは風邪をひく。実体化している間だけとはいえコートをかけておけばまだマシだろう。
白衣の上に二つの髑髏マークが描かれたコートが重ねられた。
「じゃあ本題に入るけど、『アレ』に勝てると思う?」
「無理ですわね。そもそも戦う気すら起きませんわ」
「だよね」
使い手はともかくあの武器は別格だ。
神話や武器に詳しくなくても分かるくらい規格(レベル)が違うと遠目でも理解した。それくらい単純で究極の武器。
「とりあえずどうしようも無い相手には考えるだけ無駄ですわ」
「まぁ、そうだね。じゃあこれからどうするの?」
「全ては波の行くまま、風の流れるままですわメアリ。
マスターの行く末に冒険があれば吉、なくても良し。それが」
「サーヴァントって奴だね」
「ええ」
考えなしではない。戦いになれば戦うし、そも舵を預けるなど船長以外にするものか。
海賊とは裁かれる者。終わりは戦死か縛り首が常だから、自由に生き、自由に征き、自由に逝く。
「メアリ」
「ああ」
サーヴァントがいる。かなり高速で接近している。
白衣の襟元を引っ張りあげて無理矢理マスターを起こした。
「起きてマスター。サーヴァントが近づいている!」
電車のアナウンスが『次は安芸ぽん』と告げた。
【D-3/電車(下り)/一日目・夕方】
【ライダー(アン・ボニー)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] マスケット銃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:とりあえずマスターの意向には従いますわ
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(
ニコラ・テスラ)には注意する
【ライダー(メアリー・リード)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] カトラス
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:あの光、どっかで見たような……
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
[状態] 疲労困憊、魔力消費(中)、気疲れ(大)、少しいつもの調子が戻ってきた
[令呪] 残り三画
[装備] 白衣姿
[道具] なし
[所持金] 数万円。十万にはやや満たない程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1:『アレ』と戦うのはまずい
2:未来を変えられる者を見つけ出して始末する
3:殺人鬼の討伐クエストへ参加しつつ、他マスター及びサーヴァントの情報を集める。ヘドラについては相性が悪すぎる為見送りの姿勢
4:『永久機関の提供者』には警戒。
5:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)は倒さねばならないが、今のところは歯が立たない。
[備考]
※電機企業へ永久機関を提供したのは聖杯戦争の関係者だと確信しています。
※世界線変動を感知しました。
※セイヴァーとそのマスターに出会いました。
※
【吹雪】による汚染一掃とその宝具を見ました。
◆
「早ぇ。メッチャはえぇ」
電車に乗るキャスター、バーサーカーは既に接近するサーヴァントを感知し、臨戦体勢にあった。
だが、バーサーカーのマスター、
美国織莉子は……
「特に何も問題ないですよ」
とにこやかに告げる。マスターがそんな様子なためバーサーカーも実体化せずに待機していた。
どういうことかと紅莉栖が織莉子を訝る間に反対側の電車が通りすぎた。
「あれ? 通り過ぎたぞ?」
「ああ、そういうこと」
紅莉栖も理解した。反対側の電車に乗っていたのだ。
それを知ってて、いや見てて言わない協力者の意地の悪さに若干苛立つ。
いや、それ以上に。
「それも予知?」
「ええ、ちょっとこの先が気になったもので」
◆
美国織莉子は
牧瀬紅莉栖と同盟が成った後、もう1度だけ予知をした。
そして知った。
今回の報酬は参加するだけで一画贈呈という破格の報酬に見えるが、織莉子は知っている。
これはこの上なくヘドラの軍事力を正当に評価した報酬だ。
予知して見た光景は……どうしようもない絶望が渦巻いていた。
夜の海を埋め尽くす艦隊とこの聖杯戦争に参加した多くの英霊が激突し、英霊側が全滅する。
そしてヘドラが陸に上がり、電脳世界を汚染し尽くし、この聖杯戦争の勝者となる。
ヘドラ討伐の前に脱落するマスターを一人救い、協力に取り付けたがヘドラに殺される人数が増えるだけで未来が変わらないのだ。
そして時間は既に無く、故にこれが結末として固定されてしまう。
(いいえ。それは駄目よ)
そんなこと許容してはいけない。
それではキリカが死んでしまう。
それでは勝つ意味が無い。
英霊が足りなければ、増やせばいい。
だが、これから未来視はできない。
八方塞がり。でも諦めない。
今度こそ私は世界(キリカ)を救うんだから!
電車のアナウンスが『次は新広ぽん』と告げた。
【D-3/電車(上り)/一日目・夕方】
【キャスター(
仁藤攻介)@仮面ライダーウィザード】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]各種ウィザードリング(グリフォンリングを除く)、マヨネーズ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り、マスターのサポートをする
1:ヘドラの迎撃準備。
2:黒衣のバーサーカー(
呉キリカ)についてもう少し詳しく知りたいが……
3:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは後回し。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力、速度を操る魔法を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
※ヘドラの魔力を吸収すると中毒になることに気付きました。キマイラの意思しだいでは、今後ヘドラの魔力を吸収せずに済ませることができるかもしれません。
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]グリーングリフォン(御目方に洗脳中)
[道具]財布、御目方教信者の台帳(偽造)
[所持金]やや裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、聖杯戦争を終わらせる。
1:色々と考えることはあるが、今はヘドラを討つ準備を整える。
2:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは一旦後回し。
3:聖杯に立ち向かうために協力者を募る。同盟関係を結べるマスターを探す。
4:御目方教、
ヘンゼルとグレーテル、および永久機関について情報を集めたい。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力を確認しました。
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
【バーサーカー(呉キリカ)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康 、不機嫌、霊体化中、令呪。『今後、牧瀬紅莉栖とそのサーヴァントに手を出してはならない』
[装備]『福音告げし奇跡の黒曜(ソウルジェム)』(変身形態)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:織莉子を守る
1:命令は受けたが、あの女(牧瀬紅莉栖)はものすごく気に入らない。
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]魔力残量6割、焦燥
[令呪]残り二画
[装備]ソウルジェム(変身形態)
[道具]財布、外出鞄
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に優勝する
1:まだ……足りないの。
2:令呪は要らないが、状況を利用することはできるかもしれない。町を探索し、ヘンゼルとグレーテルを探す
3:御目方教を警戒。準備を整えたら、探りを入れてみる
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています
※予知の魔法によってヘドラヲ級を確認しました。具体的にどの程度まで予測したのかは、後続の書き手さんにまかせます
※夕方、K市沖合の海上にて
空母ヲ級&ライダー(ヘドラ)により報道ヘリが消息を絶ちました。このことはテレビやインターネットで報道され、確認することができます。
◆
────彼女(エネミー)と相対できる場所に英霊を集めて。
────大敵(ビースト)を討滅できる英霊の宝具を蒐めて。
────世界線収束範囲(アトラクタ・フィールド)を■■しなければ未来は────
◆
電脳の一角で軍刀を持った少女が問いかける。
「それで。何故、岡部倫太郎は私を視認できたの?
いや、違う。何故、私が岡部倫太郎を捕捉できなかったの?
ルーラー、あなたの仕業?」
あの時、彼女の索敵は誰もいないことを感知していた。
では何故、あのマスターは索敵範囲をすり抜けて私を認識したのか。
「あたしは何もしてないよ」
「まぁ、想像はつくがね」
「あのヘドラの周囲では電子的にも狂いが生じている。
あの時、悪性情報だけではなく虚数が空間を満たしつつあった。
つまりは特異点になりつつあったのだよ。
何もかもがあやふやな電脳の空白地帯故に『特異点である』岡部倫太郎も世界線を超えてきたのだろう。
まあ、最も君が破壊してしまったため推測でしか無いがね」
「ただの人間が、特異点の跳躍(ジャンプ)なんて」
「何も不思議では無い。君だってそうだろう」
科学の王は笑う。
ここから先は人理定礎崩壊の下り坂。
断崖の果てはその先にある。
最終更新:2017年01月10日 23:49