アットウィキロゴ

【失われし星剣】

 星神の加護に肖りし地、イストモスには神話の時代から今尚語り継がれる伝承がある。
 曰く、星遺物《コンクェストレラ・ジュマリクス》と呼ばれる、現在は12種が確認されている器物。

 現存する12の星遺物は、曰く武たる四、護たる四、導たる四に分けられる。
 武たる四のうち、
 「連星をも穿ち抜く鑓」は西の大ハーンである騎士王マリアンヌ
 「天星さえ射抜く弩弓」は東の大ハーンである皇帝スヴォーロフ
 が所持しており、双方の大ハーンとしての権威を裏付ける根拠ともなっている。
 護たる四に当たる星の輝きを秘めたる冠・鎧・盾・外套、導たる四に当たる星神の導く力に与る盤・書・杯・蹄は、東西の星教会で分配。
 教会の権威と歴史的事実の証左として安置あるいは秘匿されている。
 だが、武たる四のうち二つ、「落星の如き衝撃を生む鎚」と「彗星の如く疾く煌く刃」は、異界との大門が開かれ幾年過ぎた今でも所在は知れていない。

 何年かに一度という豪雪に彩られたドニー・ドニーの片田舎。 そこにある鬼人が住まう工房に、半馬人と狗人が来訪する。
「このような日柄に突然の来訪、御容赦願いたい」
「全くだ。 『こんな天気じゃ何も出来んから』などと言って持ち込まれた武具や農具が山ほどあってな、余所者の得物の面倒まで見る余裕はない」
「いえ、一目御覧頂くだけで問題ありません。 気鋭の刀匠と呼ばれるファロン=ガド殿の推察をお伺いしたいのです」
 そう言うと、半馬人は背にした荷物から袋に包まれた棒状のものを取り出し、封を解く。
「ほう、双剣か」
「はい」
 半馬人は多くを語らず、恭しく鞘から刃を抜き放ち、それが半ばに至る所で
「もういい、それ以上は必要ない」
「ですが」
「もういいと言っておる。 そんなけったいな物を生涯で二度も見せられたら、剣を打つ心が折れる。 俺が言えることはそれだけだ。 俺を廃業させる気でないのならさっさと去れ」
「・・・承知致しました。 では」
 半馬人は老鬼人に一礼し、再び剣に封をしつつ工房を後にした。
「・・・あんな物、神が鍛えた刃など、生涯に一度見れば十分だ」
 金作に喘いでいた駆け出しの頃に売りさばいた、砂漠の伝承にある双剣の贋作を一対買付に来た片目の猫人に『本物』を見せられた時以来の、アレを見たからこそ理解しえた『神性』の刃に、刀匠はヒトの理外にある神の業を感じずにはいられなかった。


 それから50年余りの年月が流れ。


 電霊の力を借りた煌びやかな灯と強固な石造りの建造物が形作る疎俗の地。
 何の因果かその地での生活を余儀なくされた者たちは、南の石岩樹林から迫る脅威に対し高く高く城塞を築き確保した生活圏で、外界とは様相を異にする独自の文化を築いていた。
 生活圏と死地を区分けする城塞の先に、立つモノがふたつ。
 一つは樹林から来るモノ。 巨木程もあろうかという背丈、鋼の塊のような甲殻を全身に纏い、大地を揺るがすばかりに踏み込む6本脚、異界で言えば「犀」にも似た巨獣。
 一つは城塞から来るモノ。 背丈は種としては並程度、城塞警護の装備と比しても簡素な防備、両腰の剣に手をかけた、狗人の成年。
 先に駆けたのは巨獣。 その目が見据えるのは手前の狗人ではなく城塞の破壊。 城塞の兵装では砕けぬ甲殻の硬度と健脚の半馬人すら圧倒する速度が生み出す、破壊力の権化が迫る。
 それを正面で待ち構える狗人。 巨獣の股下を潜るように地を蹴り駆け、抜刀。 剣の軌跡は二つの流星となり、巨獣の身に降り注ぐ。

 巨獣の身は、数多の刃と共に叩き込まれた流星の爆裂による局地的な昇華を経て、後には何も残らない。
「星剣技アカルス・ペテステラ。 今日も抜群の切れ味だな」
 両手の剣を鞘に収め、狗人は城塞へと戻る。

 東西のバランスを保つ為、その発見すらも秘密とされ国外へと持ち出された星遺物、『秘剣 双子星《エクセ・メルゴス》』。
 東西緊張を揺るがしかねない危険な存在に対しての当事者の判断は、国外への再秘匿。
 その任を帯びた半馬人と従者の狗人は死地である帰還不能大森林《ケンバリ・ヴォイマーツ》を目指した。
 だが、ドニー・ドニーから今でいう新天地へ船で向かう最中、嵐神ハピカトルの往来に巻き込まれることとなる。
 人智を絶する暴風と神気の乱気流の中、従者の狗人は主人のため唯一の荷であるエクセ・メルゴスを必死に抱えて只管に神の悪戯に耐えた。
 心の臓の有るべき場所に風穴開き臓腑もあらかた失ったものの、最後の一線だけは星神の加護故か、狗人だけは生き残った。
 降り立った地がいずれの諸国にも属さないばかりか外界との接触すらないと知った狗人は、ならばとばかりに居を構えることを決意する。
 身の証を立てることを兼ね、城塞の先にある脅威を相手取る。
 嵐神の所業により神気果てるまで朽ちることのない身体で資格無き者が揮う際の強大な反動を無理矢理抑え込みつつエクセ・メルゴスを揮い続ける。
 結果として、彼は一代でエクセ・メルゴス専用の技法『星剣技』を確立。

 『武によるものでも、技によるものでもない。 心で抜き放つ刃たれ』
 との教えと共に、『秘剣 双子星』と『星剣技』は一子相伝として疎外の地に受け継がれ、今も城塞の最後の護りとして在り続けている。

  • イストモスは国イメージが伝説伝承からできあがってきているのは面白いしワクワクする -- (とっしー) 2012-12-16 18:01:38
  • 星具ってイストモス以外の国に持ち出されたり流れたりすることって多いんだろうか。スヴォーロフが弓というのが面白い -- (名無しさん) 2014-10-02 23:38:09
  • 力の強弱にかかわらず神の遺物はそれを揮うに値する者の手の内におさまるのが宿命なのかと -- (名無しさん) 2015-07-05 18:08:12
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

e
+ タグ編集
  • タグ:
  • e
最終更新:2012年12月16日 01:41