大晦日もとっぷり暗くなった夜半
ポートアイランドの南西にあるフェリー乗り場に続々と接岸するのは
ゲートからの直通連絡船
やってくるのは異世界内で
ミズハミシマに住む者や、ミズハミシマを経由して訪れる様々な人人人
種族も経路も様々ならば目的も様々
物見遊山、里帰り、定時連絡、帰還、そして新年のお祝いなどなど
日本で亜人、異種族がすぐに降りれる場所はまだ少なく
特区である新ポートアイランドはその中でも、ゲート解放から大きく進歩した街である
空は暗いが薄曇。冷え込みは今年を締めくくるに相応しい最低温。
今にも雪が降り出しそうな寒風の中を進む行列がある。
人間以上に異種族が多い様相だが、お互いに手を取り合ったり朗らかな喧騒が起こったりと
それは異世界交流の縮図にも思えた。
フェリー乗り場と中央ランドアーチ前を往復運行する臨時バス。
降りた人波は徒歩なりで十津那学園山之上校へと続く長い石段に至る。
「これは…ちょっと堪えるわい」
聳える石段を見て、背の甲羅が余計に重く感じたのか、見るからに亀の亜人がふぅと溜め息を漏らす。
「その身体では大変だと言ったのに。 旅館で精霊と留守番しておけばよかっ ──
「ほっ! 余り人を年寄り扱いするでないわい」
初日の出を撮るのであろう、かなり使い込まれたカメラを首から提げた青年に諭されるも、
どう見ても御老体をふんぬと持上げ立派な髭をゆすって見せる。
「翁、尾ヲドウゾ」
にゅっと翁に差し出される太い緑の尾は爬虫類。
杖よりも確かに御老体を支え持上げる立派な尾の持ち主は、
漆黒と金色の線飾の入った和装を着こなす大柄な蜥蜴人。 左目には戦士の風格を刻む石版の様な眼帯をしている。
「ほっ、これで登っていけるわい」
気を良くした御老体は御供と一緒に石段を登っていく。
「月光さん、寒くないですか?」
青年の側面にほぼ密着した状態で歩く鱗人に訪ねる。 流石に歩き辛いのだろうか。
「…このままセージさんと一緒なら寒くないです」
「は、ははっそれならこのままで行きましょうか」
半笑いで応える青年の表情には色んな感情が入り混じっていた。
冷え込みも佳境に入る。 続く石段の両脇を彩る灯篭がほんのり見た目に温かい。
「寒イぞー早く進メー」
「ウゲツ…早くと言うなら背負われてないで、一人で登って下さいよ」
若い男がその若さで蛙人をまるっと背負い石段を登る登る。まるで何かの特訓だ。
「こなんに寒イなンて思ってなかった。 とてもじゃナいがあけるない」
厚い上着と防寒着に自分の防寒着。年越し蕎麦に乗せる景気の良い海老天を思わせる衣に包まれる蛙人。
「“新年最初の朝日は格別”なんて言うんじゃなかったな…やれやれ」
衣服達磨を背負う男は呆れ顔で再び脚を上げた。
「もうすぐ登りきるな。 お社広場というのはまだ先なのか?」
「石段の先にある学園の敷地内の…裏山にあるとパンフレットにはありますね。
それにしても翻訳加護というのは聞く側に回っても凄いと実感するもんだ」
「うむ。この耳飾り一つで何の抵抗無く言葉を交わせる様になるとは…」
長い耳にちょこんとぶら下がる小さなこけしのイヤリングを撫でる。
地球へ来る亜人にも、翻訳加護というのは驚きの対象なのである。
「あの雪山に比べると大した事のない寒さだが…大丈夫ですか?」
「うむ。ゴブクロのスパッツというモノは素晴らしい保温力だ。
この短い腰巻…スカート?というモノも動きを阻害しない良いモノだ」
身体の傷が見えてはいけないと思い、以前着ていたフードコートの様なのも勧めたが
“本来は動きを鈍らせるものは着ない。 あれは血と傷を有効活用するために着ていたのだ”
と断られてしまった。
“傷は落ち度とも言われるが、戦士にとっては生きた証。 隠す必要も無い”
確かに、戦う事が生業のダークエルフならそう考える事も出来るのだろうが…
「ん、どうしたのだ?」
白と灰で彩られた軽い洋ドレスから、傷だらけの褐色肌の四肢が覗く。
難しそうな顔でそれを見る男の視線に気が付いたのか、幼さと毅然さが同居するダークエルフが見上げた。
「いや、可愛いですよ。コルトパ」
「っ!そういう事は人前で言うな!」
男の優しい声色に耳を真っ赤にする。
笑った様で目を潤ましてもおり口もへにゃへにゃという何とも妙ちくりんな顔は、すぐに俯く。
「和耶、お前という男は本当に…」
「本当に、可愛いですよ」
後ろで纏めた灰銀髪を触れるか触れないかで撫でるごつごつした掌。
今度は文句の代わりに肘が飛び出し、男の腰を打った。
「は、はは。 あ、見えてきましたよ校門が」
全開で来る者全てを迎え入れる学園の門。
学園の建つ“境界山”の頂上に位置する“お社”。
その前の広場が神戸でも有数の初日の出ポイントなのである。
思いは様々。しかし、今は一色のあたたかい空気に包まれて。
新年あけましておめでとうございます
ポートアイランドで初日の出
それに向かう人波の様子を一つ
特別編の様な話と言う事で、勝手ながら他作品からシェアをさせて頂きました
- ミズハミシマSSの面々と冬山(?)の二人のそれぞれの寒い中での様子が…様子が…【爆破スイッチはどこですか?】 -- (としあき) 2013-01-01 07:42:48
- 人間には特に珍しくもない日の出の風景が異世界人には珍しい?地球旅行が異種族に流行るかも知れないのか -- (とっしー) 2013-01-12 18:28:17
- 地球の初日の出は試練の危険のない安全なイベントとして異世界からの人には人気が出そうですね。交流が進んでいけば見た目も賑やかになっていきそうです -- (名無しさん) 2015-08-30 18:28:23
最終更新:2013年03月30日 13:15