※諸注意
本作は、
エリスタリアについて全体的に独自設定で記述された短編集的なものです。
エリスタリアの設定再考に伴い、ちょっと別方面から攻めてみようか的に作られました。
【樹胎】
エリスタリア夏の国。ここに一人、木剣を手に黒い大木のようなものを削る細目の青年がいる。
木漏れ日を受けてエメラルド色に輝くローブを纏い、一心不乱に大木へ向かう青年。
細く白い体はススで黒く汚れ、大木は徐々に姿形を変えていく。
しばらくして、青年は汗の流れぬ額を拭い、顔に微小な微笑みを湛えた。
黒い大木はたくましい男性へと姿を変え、自らを彫り起こした青年の前に跪いた。
【リョース転ぶ】
「さてスヴァルト。……この後、どうしたらいいんでしたっけ?」
「知りませんよ。ご自分でお考えになってはいかがですか? リョース」
エメラルド色に輝くローブを纏った青年――リョース――は、浅黒い肌の男――スヴァルト――に尋ねるも、あっけない返事を返された。
ただ転んだだけなのだが、リョースは起き上がることが出来ない。
うんうんと唸ってみるのだが、ただ唸るばかりで何も起こらない。
起き上がれないのではなく、起き上がり方を忘れてしまっているのだ。
世界樹が落としたる種子より育った樹木から、新たな
エルフを彫り起こす役割を担うハイエルフ。
リョースはその座に名を連ねる数少ない人物の一人。
見た目は若いが、そもそも寿命という概念が無く、年を取ったところで外見上の変化が無い種族なので若く見えるだけに過ぎない。
齢はすでに数千を軽く超えており、長命と呼ぶにしても長すぎる時を生きてきた。
以前転んだのは、何百と何百と何百を足したほど昔の事なので、すっかり起き上がり方を忘れてしまっていた。
「いえいえ。起き上がれないという訳では無いのですよ……っと」
ごろりと寝返りをうつだけに終わったリョースの姿を見て、スヴァルトはただ沈黙した。
【スヴァルトの仕事】
世にも珍しい黒樹から生まれたスヴァルトは、ハイエルフであるリョースの従者として活動している。
時に転んだリョースを引き起こし、時にへたり込むリョースを引き起こし、時に寝落ちするリョースの頬を叩く。
酷く単調で面倒なスヴァルトの仕事の中で、一際面倒だと感じていたのは“樹獣処理”だった。
世界樹の子、種子より生まれ育った樹木はエリスタリアに数多く存在する。
子らを探し出し、目覚めの時までに正しい姿として彫り起こすのがハイエルフに与えられた仕事になる。
生まれたエルフはエリスタリアを故郷とし、大地を耕し、森を清め、水を潤し、世界樹の成長を育む。
一方でハイエルフの手にかからず、正しい姿を得られぬまま目覚めてしまう者も数多く存在する。
そういった“樹獣”を処分することは、黒樹から生まれたダークエルフ――つまりスヴァルト――の仕事だった。
「スヴァルト。いました、いました。アレですよ、アレ」
リョースが指さす方向には、孤独の中で目覚めた子の成れ果てが湖畔の近くで佇んでいた。
傍から見れば巨大な馬のようなソレは、成長した樹より伸びた枝葉がくんずほぐれつして形を成した物に過ぎない。
誰かに彫られていれば、アレもまた一介のエルフとなっていたのだろう。
そんな思いを心中深くに沈め、スヴァルトは自らと同じ樹より作られた黒い短刀を携え、そろりと敵に忍び寄る。
あと僅かの距離で、敵はスヴァルトの気配を察知した。大地を蹴り、途方もない巨体を軽々と宙へ飛ばす。
枝葉で作られた身体はその容姿を保ったまま微細に姿を変え、心臓とも呼ぶべき心木を守る。
森のざわめきのような鳴き声が湖を波立たせ、周囲の草木を縮こませる。
その声には怒りと憎しみと、少しばかりの羨望が混ざっていた。
荒れ狂う樹獣の背に手をかけ、振り落とされまいとしがみつくスヴァルトが短刀を振り下ろす。
世界樹の落とし子の一種、黒樹から作られた武器は同族に対し強力な毒として機能する。
たとえ巨大な樹獣と言えど、元をたどれば同じ者。ガクガクと膝を折り、大地に倒れ込む馬状の樹獣。
刺された箇所からぶすぶすと腐るように傷が広がり、徐々に心木があらわになる。
それに向かって短刀を突き刺すと、樹獣を成していた枝葉は瞬く間に腐り落ちていく。
世界樹の子は腐り落ちる間際、美しいエルフの姿を見せて朽ち果てていった。
腐り果てた同族の前で佇むスヴァルトに対し、これは必要な事なのだとリョースは言葉を与える。
樹獣の居ない湖畔は、何事も無かったかのような静けさに包まれていた。
【闇夜を照らすパンプキンヘッド】
夏の国の夜。霧に覆われた街の視界はすこぶる悪い。白くて黒いとはいささか矛盾しているような気さえする。
そんな街を明るく照らすのが、お手伝い植物の一角を占めるジャックランタンたちだ。
彼らは光る自分の頭をランタン代わりとし、街をあちこちうろつくのが仕事となっている。
燃えているのではなく、明るく光っているだけなので火災の心配は無いし、霧によって火が消される心配も無い。
しかし問題もある。彼らの仕事は夜に行われる。これは当然のことだ。
だが肝心のジャックランタンたち、彼らは実は昼行性なのだ。よって真夜中に歩くだけの仕事は暇ですごく眠い。
眠ったジャックランタンは明かりが消えてしまうのだが、仕事熱心な彼らは眠くならないよう色々と試行錯誤をした。
その結果が夜中を通して行われるドンチャン騒ぎになるとは誰が予想できただろうか。
街中を駆け巡り、エルフたちにイタズラを仕掛け、自分たちで自分たちを盛り上げて眠らないようにする。
こうして夜間の仕事を全うしたジャックランタンたちは、明け方になるといそいそと鉢植えに戻って寝る。
そして街が静かになった頃、今度は寝不足のエルフたちが半目をこすって仕事をしなければならない。
夏の国の夜が暗く静かだったのは随分と前のこと。今では明るく、そしてやかましいことこの上ない。
【頑張れマンドラゴラ】
夏の国の霧深い朝。白いカブに小さな体とやや大きめの手足が付いたような何かがパタパタと町中を走る。
明らかに人間ではないソレは、とある店の前で急ブレーキをかけると、ぴょこぴょこと飛び跳ねた。
しかし店番をしているエルフの視界には入っておらず、まったく気づかれない。
周囲を見回し、良さげな切り株を見つけて昇ろうとするが、足が滑って転げ落ちた。
一丁前に両手を組み、頭を傾げて次の手段を考える。
足元に転がる小石を見つけて手に取り、これだとばかり天高く掲げる様は無邪気な子供そのもの。
店先に戻り、店番をしているエルフに向かって石を投げつけると、相手は凄まじい形相でソレを睨み付けた。
朝飯の買い物を済ませ、頭に若干の切り傷を負ったソレが走って戻る。
リョースとスヴァルトが待つ宿屋へ戻ると、荷物に置手紙を添えて鉢植えに収まった。
『朝ごはん買ってきました。ボクの身長、もうちょっとなんとかなりませんかね?』
お手伝い植物マンドラゴラの身長は最大サイズでも約40サンチ。
残念だがそれ以上は伸びないのだと、リョースは手紙を読んで苦言を漏らした。
【未確認? 飛行物体】
地球人の学者としては、この世界は常識という概念が欠如していると申さずにはいられない。
例えばエリスタリアの空を見上げれば、稀に何だか良く分からない物を見かけることがある。
まるっきり樹木としか言いようのないそれが、ばっさばっさと大空を羽ばたいている光景は何とも容認しがたい。
なぜ木が飛ぶ。一体その翼は何なんだ。本当に木なのか? 何かの見間違いではないかと改めて注視する。
根っこから葉っぱからどう見ても木。幹の途中から生えた翼を除いて間違いなく木。
植物というのは自分に適した環境を求めて移動することがあるという。
根で歩くとか、そういうのはまだイメージの範疇なので黙認できる。だが飛ぶのは卑怯だと言わざるを得ない。
浮遊しているのならまだ異世界だからと容認できなくもないが、物理的に羽ばたいているのは無視できない。
たとえ自分が学者でなかったとしても、絶対に無視できない自信がある。
そこはせめてファンタジックであって欲しいではないか。十分ファンタジックだと言う意見もあるかもしれないが。
人間やめましたという言葉を聞くことがあるが、あれは木をやめて鳥にでもなりたいのだろうか。
だとしても木の姿のまま飛ぶのはナンセンスとしか言いようがない。せめて飛び方以外で鳥の真似をしろ。
しかしあれを一体何と形容すれば良いものか。未確認飛行物体? いやこうして目視で確認出来ている。
そんなことを考えている間に、問題の木はどこぞへと飛び去っていった。
結局あれが何なのか分からずじまいだが、確かな事が一つだけ言える。
この世界は常識というものが欠如している。あるいは非常識というものの存在する余地が無い。
エルフ
世界樹の子、落ちた種子から育った樹木より彫り起こされた者。
彫り起こされた際、ピノキオのごとく木彫りの人形からエルフへと転身を遂げる。
年を取らず、寿命という概念が無い。ただし傷を負ったり、病で死ぬことは良くある。
死んだエルフは火葬して灰にし、それを世界樹の泉に沈めるのが習わし。
普段は森の手入れや草木の伐採などをしているが、森の生物(巨大な昆虫や動物など)相手に狩りを行うことも。
ハイエルフ
世界樹の種子から育った樹木より新たなエルフを彫り起こす使命を持つ者。総数は20に満たない。
昔は各々勝手気ままにエルフを彫り起こしていたが、あまりの効率の悪さにディオマーが一念発起。
自身は使命を放棄する代わりに他のハイエルフ達を指揮するようになり、それが国の形態へと落ち着いていく。
なおエルフの姿形はハイエルフが決めるものではなく、曰く彫っていくと勝手に形になるものらしい。
たまにエルフ以外の何かが彫り起こされることもあるとか。
ダークエルフ
世界樹の子、黒い樹木から彫り起こされた黒い肌を持つエルフ。
自らと同じ樹より作られた黒い短刀を携え、樹獣と化した同族を殺して回る使命を持つ。
その役割のため周囲から冷ややかな目で見られることも。
短刀の毒は樹獣のほかエルフに対しても有効だが、同じ樹木から生まれた自分自身にだけは一切効果が無い。
樹獣
目覚めの時を過ぎた世界樹の子が、正しい姿を得られないまま目覚めたもの。
成長した枝葉が複雑に絡み合って本来の姿(エルフ)とはかけ離れた姿形を持つ。
心臓に等しい樹木が存在し、それを傷つけない限りは無尽蔵の生命力を持つ。
ダークエルフでないと倒せないという訳では無いが、ダークエルフ以上の適任者はいない。
お手伝い植物
明確な個体としての意思を持つ植物たち。身体と手足を持ち、どう頑張ってもマスコット止まりな身長が特徴。
ジャックランタン、マンドラゴラ、アルラウネ、ドライアドと色々な種類がいる。
種族的にはエルフと完全に別個のものであり、各々の集落などもあるらしい。
未確認飛行物体(空飛ぶ木)
見た目通り羽の生えた空飛ぶ木。幹の部分から翼が生えている。
この翼を切除して地面に植えると、羽根の付け根から根っこのようなものが生えてくる。
その状態で他の生物の背中や腰に付けてしばらく置くと、羽は体内に根を張って成長する。
こうなると空を飛べるようになるが、羽は独立した意思を持ち、宿主の意思などまったく反映してくれない。
疲れると羽ばたくのを勝手にやめ、そのまま墜落してしまうので高く飛ぼうものならとっても危険。
- エリスタリア集中なのと短くまとめているのでするすると読んでいけた。最下のおまけの試み上手い -- (としあき) 2013-01-09 06:53:35
- 本スレの流れもエリスしてしまうほどのパワー持った作品だと思う。独創的で面白かった。俺は結構いいと思う -- (名無しさん) 2013-01-09 22:42:58
- あれこれ作るのが好きなので“設定的なもの”が本編だった。 物語だけで終わらない読み物として多種多様なのが十一門SSの面白さだと改めて実感 -- (名無しさん) 2013-01-12 20:34:55
- 文面から楽しんでいるのが伝わってくるようだった。一歩踏み込んでの設定作りにもかかわらずしっかりまとまっている -- (名無しさん) 2013-01-18 19:07:22
- ダークエルフの設定付け面白いなと思った。行動原理も樹獣が暴れる理由と関連していてよく創り込まれている。 -- (名無しさん) 2013-01-18 20:12:27
- それぞれの題名と中身の練り方がただの説明文にならずに面白かった -- (名無しさん) 2013-02-08 00:39:48
- 色々な御伽噺を詰め込んだ雰囲気ながらも世界樹より生まれるというエリスタリアの特殊性と社会性をはっきり表現してたのではないでしょうか。一種情が欠落している空気もエリスタリアの独自性なのかも知れません -- (名無しさん) 2015-11-01 20:38:28
最終更新:2013年01月09日 01:04