「アコギ一本~、ベルトに巻いてぇ~」
コード未定のままアコースティックギターを奏でて、沢村はなんだかようわからない節回しで歌った。
「こりゃもうロックじゃねーな。パクリだし」
ジャンとギターを掻き鳴らして、沢村は草原に寝そべった。
イストモスのどっかの平原。本当は、ケンタ・ライン・マギカ? マジカ? とかいう平原らしいが、沢村はもう忘れた。
ちなみにケスタ・ライ・マジカという平原である。
「おい、雄志サームラー。そろそろ日が沈む」
オストモス・ケンタウロスの若者、イールに揺り起こされた。
「お、寝てないよ、うん。寝てない」
よだれを拭きながら沢村は身を起こす。
旅の目的がある旅人のことを、雄志と敬称をつけて歓迎する。
沢村がお土産として渡した
オルニトの羽飾りと
ミズハミシマの貝殻細工は、イストモスの地方では価値があるらしく、
ケンタウロス一族から感謝されるほどだった。
沢村はイールの背に乗せてもらい、彼の村へと帰路につく。
「草原ってすげーなぁ。どんなに歌っても俺の歌が消えちまう。ミズハミシマは海の波に飲み込まれるけど、上手くやれば一緒に波が演奏してくれるし、オルニトの嵐も俺の歌を掻き消しやがるけど、あの嵐が荒れ狂う様はまさにロックだったね」
しかし、草原は違う。
さらさらと優しい音を奏でるだけの癖に、どんな音楽も受け入れてくれない。沢村はそんな気がして、一緒のスランプに陥っていた。
「いっそ、みんなの蹄の音で音楽つくろっかなぁ」
「あるぞ、雄志サームラー。今夜にも披露してやろう」
「そりゃ楽しみだ」
背に乗って数分で、彼らの集落が見えてきた。
週に一度、祖霊に感謝し、蹄を大地で打ち鳴らして村を周回する風習があるという。
これが諾足(だくあし)と並足を交互に、時には入れ替えながら駈け、蹄はいっしょのカントリー系のリズムを刻む。村の若者全員で打ち鳴らすので、とても壮観だ。
週に一度はしてるので、鍛えられた彼らのリズムは正確極まりない。
「そうか、声の届くところに人が集まって、それが聴こえていっしょに歌える奴らが仲間なんだな」
沢村はケンタウロスたちの蹄を感じとった。
そして、踏み鳴らす蹄が幾重にも重なり、まるでいもしないケンタウロスまでがリズムを刻むような錯覚を覚えた。
「ああ、なるほど。一族も、いなくなった一族もこれを一緒に奏でて、これを聴くのかぁ」
これを聞いた長老は戦慄した。
「サームラー殿、お主……聴こえるのか? まさか……祖の蹄音を……」
「うん。……なんていうか、裏ビート? ちがうな復唱……いや、みんなの蹄を守るように重ねる音だ。どうして聴こえるんだろ? 音叉? 共鳴? 地面の振動?」
理屈は分からない。しかし、沢村は感じ取る
ケンタウロス一族の蹄が、太古から草原にビートを刻み付けている事を。
「なーるほどな。俺はギターに拘ってたな。そうか、大地も楽器なんだぁ……。そうか、草原だけに聞かせちゃぁダメなんだ。大地だよ! 俺の足元にも聞かせてやらないと草原は答えてくれないんだ!」
羊のミルク酒をちびちびとやりながら、沢村は一緒の達観を得た。
当の本人は、達観を得たなどと露にも思わないようだが。
翌日、スランプを脱した沢村は、村に急な別れを告げた。
「恐ろしい男じゃな」
長老は沢村の背を見送りながら呟いた。
「われらとて滅多に聞けぬ、祖霊の声を聞きおった。しかも、その歌にある叫びまで感じとりおったわ」
「雄志サームラーは、理解しようとしない。なのに感じとることができる」
イールは長老に同意しながら、畏怖を口にした。
「恐ろしいな。あの男。なにか、全てを奪っていきそうじゃわい」
「われわれに残るのは古い絞りかすといったところですかな」
「……大事で大切な古い残り物じゃよ」
長老は慎重に言葉を選んだ。
沢村は大地の声を手に入れた。
お詫び
定時スレとは関係なく、マイペースで上げております
雄志は人の名前ではありません、「ゆうし」 志を持つ物のことです。念のため
- 二足の倍の四足ステップは勢いと力強さが凄そうですね。細かな背景設定と沢村の成長が興味を引きました -- (ROM) 2013-03-13 20:03:50
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最終更新:2011年12月01日 20:19