「戦術展開のため、“あれ”を可及的に命名します!
邪樹獣“初咲(ハツサク)”! 私達“大南合(ダイナンゴウ)”の初陣、倒すべきもの!
肥大欲は“食欲”! 邪樹獣の中では小柄の部類でしょうが十メトル余の体躯と大口には注意して下さい!」
大鋼猿族と岩山羊族を率いて先立つは人間の少女。 上下とも十津那学園体操ジャージ。
塞王が南より数十里、巨大のみを遮る“剛止壁(クゥズンヘイ)”より少し前、
大延塞王までの直路の山坂、駆け上るは枝葉茎を混ぜたる丸躯に根と毛の合わさる獣足。
「倒れるのは許しません。隣り合う者を倒させるのも許しません!」
四脚獣人の岩山羊族が突撃の陣形を、その両側に大鋼猿族が打撃の陣形を作る中、
少女は跨る岩山羊族の背で両手を大きく広げ振り、最後の発奮を張り上げる。
「訳あって南蛮諸侯はここへは来られません!
己の力と皆の力を信じて…いざ!」
一斉に坂の頂より地煙上げて下る力強き武勢は、
長らく塞王を挟みて、護(も)り手と侵(せ)め手として衝突を続けていた者達である。
「“訳あって”とはよく言いよるわ小娘が。とんだ厚顔さよ!」
坂を一望する岩山より戦の始まりを見下ろす炎の塊…炎に包まれる焼け爛れた狸人が笑い飛ばす。
「本当よねぇ~。 自分達で宴会の料理になんだっけ~“ゲザイ”?とかいう毒を混ぜておいてねぇ~」
豊かな銀髪を笑みで揺らしながらチリンチリン、鈴の音と共に現れる仙女。
「なんと貴様らにまで声を掛けたのかあの小娘。 桃山園に登って来た時からおかしな奴だとは思ってはいたが」
「わたくしは面白い事をするから見に来て下さいと頼まれただけよぉ~?
見ているだけのあちらさんもそうみたいだけど~?」
大きなる袖を振りて指す先、向こうの岩山の上。
「はっはっは! 何処まで命知らずよ!愉し過ぎて我の火も盛るわ!」
爛れた顎が大きく開けば、組んだ腕からぼとぼとと火種が零れ落ちる。
仙女が指した先には南蛮屈指の戦士が一族、象人が数名あぐらをかいている。
その中でも一際圧倒感漂わす女象人は、真剣な眼差しで眼下を見やる。
「私達の戦いを見よと言ったがあの小女…
何か思う所あれば勝利の後に伝えて欲しいと堂々と…
フン…面白い。 もしもオレを奮わす勝利を見せれば、一族率いてお前の“祭”に乗ってやろう!」
── 事の起こりは十津那学園春休みを使っての二度目の訪延
ポートアイランドからの
ゲート直行たこフェリーから
ミズハミシマへ、
そのまま玄関陸町に到着すれば、船より降りた足でそのまま大延国行きの客船へ。
一便いくらですぐさま搭乗できる客船は、気軽に素早く利用できる。
異世界の航海は船体は勿論の事、天候や精霊との関係も大きく関与する。
晴天とは行かないが、風は良好で船上楽団に引き寄せられて風精も多く集まった。
客船は快調に進み、四日目の中程にて大延国の南端にある港町に到着する。
荷降ろしとは別の連絡橋を通って続々と乗客が降りてくる。
近年、異世界へ少数団体含めて多くの地球人旅行者が訪れる様になり
こういった船着場で地球人の姿を見かけるのも珍しくは無くなっていた。
唯、彼女は少し違っていた。
「館羽さん、本当に大丈夫ですか? 気分が優れないようでしたら降りるのを遅らせますけど」
桟橋をぐわんと曲げ揺らし降り立つは岩山羊族。背に少女を乗せる。
大延国では見かけることすら珍しい南蛮住みの四脚獣胴の大柄な亜人種である。
「気遣いは無用で御座います、大殿(おとの)。 陸に立てば今までの不調など飛んでしまいました故」
「船室で伸び切っていた様は本当に滑稽じゃったのぅ!がっはっは!」
どおんと桟橋が軋む。続いて降り立つは足よりも長く太い腕が筋肉と獣毛を纏う身体より伸びる大鋼猿族。
巨漢ながらも器用さと光る運動能力から戦闘、建築など様々な肉体労働に従事するこれまた大柄な亜人種。
「主上(しゅじょう)! 此奴がふらつく様でしたらワシが担ぎますので御随意をば」
悪態にも、未だ気分の優れぬか岩山羊族。特に反論もせず桟橋をゆっくりと進む。
「丁火(ていか)さん、山に住んでいた館羽さんは船に乗る機会なんて無かったのですから仕方無いのですよ」
そう言って剛毛さざめく背を摩ると、館羽は何とも言えぬ甘露の表情で頬を赤らめる。
傍から見れば何とも可笑しげな三人ではあるが、館羽は左腕に丁火は右腕に“十津那学園”の学生章が縫われたスカーフを巻いている。
ふわり、港の風が少女の首に巻くスカーフをはためかせる少女の眼差しは、
目の前の大延国、そしてその先にある南蛮を見ているようだった。
「大殿…」
── 三者大延国到着より半月程前
ポートアイランドの南、十津那学園海之前校のグラウンドから降りれる人工浜。
寄せる波の中で力強く四脚が駆ける。
何かと日々の勝手が違う地球での生活。だからと言って肉体の鍛錬を怠るは愚也。
「十津那学園海之前校、三年の館羽さんとお見受けします」
不意に前を走る如何にもジョギング風の男が後ろも振り向かずに声を掛けて来た。
…上着の上からでも分かる肉体と無駄の無い走法。一般人とは思い難い。
「そうであるが、何用か」
駆ける速さを落とさずに返答する。
「君ともう一人、同じ組の丁火さんがいつも付き従っている女生徒の事なのですが…」
四脚の駆ける速度は人間の全力疾走に近いものであるが、先を走る男は息も切らせず一定の距離を維持する。
「笠尾 絃読(かさお つむよ)さん、彼女が異世界の大延国行きの手続きをされているようですが、
何か毎日の中で変わった事など気付いたりしませんか?」
「…初耳だが、何故それを汝が知っているのか。 そちらの方が気に掛かるが」
海面を突き刺す一歩一歩が鋭くなる。
「そうですね。私も隠し事が苦手なので本題を言いましょう。
彼女、笠尾さんを我々“門自”は監視しています」
そう男が言って直ぐ、大気が強張る。
特に動きがある訳では無いが、明らかに館羽より発する気勢の質が変わる。
「彼女自身に面識があるかは未だ不明ですが、彼女の叔父にあたる人物、
笠尾 士慶(かさお しき)は先のゲートテロ事件に合わせて起こったポートアイランド占拠を主導していた者の一人として
現在も尚、指名手配されています」
「だから何だと言うのだ」
「彼女にいつもと変わった様子があればこちらに声を掛けて貰えばと」
前から隣を並走する形に、そこから電話番号だけが書かれた紙を差し出す。
が、館羽はそれを受け取らず。
「話を持ち掛けたのが我で良かったな。 丁火であれば即座に逆上し拳を振り下ろしていただろう」
「それを踏まえての依頼なのですが、どうでしょうか?」
あくまで冷静を崩さないお互いのやり取りではあるが、張り詰める緊張の度合いは見る見る内に増していく。
「“唯、人を見る”…大殿の考えと行動を傍で共にする我には、人間の多様さは獣人よりも広いと見える。
…去るがよい、人間。今回は何も聞かなかった事にする」
「…気に障った様なので退散するとしましょう。
しかし、勘違いなさらぬ様。 我々は事を見定めたいだけであり、彼女には何の嫌疑もかけてはいません」
「入念に調べた結果であろうが」
真直で前を見る眼差しは臨界を示すように昂ぶり、低く重い声は心臓の鼓動を打つ激情。
「大殿と共に歩むが我ならば、大殿が堕ちたる際に諌めるも我の務め。
我は億が一にも無いと確信しているがな」
そこまで聞くと、男はあくまで自然体を崩さずに護岸へと走り消えていく。
暫らくして後、絃読が館羽と丁火に提案する“里帰り”。
「前は塞王で二人と会って帰っただけなので、今回は二人の今をご家族伝えるのに合わせて大延国をもっとよく見たいのです。
ついでに大延と南蛮が共に歩む道が無いかも模索してみましょう?」
確かに三者が出会った頃から互いの関係も印象も変化した。
それが国の者にどう思われるかは分からないが、伝えたくもある。
二人の考えはほぼ同じ様で、両手を合わせて頼む絃読に肯く。
日々意見を交わした国の現状とその差異から何かを思ったのであろうか、
しかし、“ついで”と言ってのけるのは何とも絃読らしいと。
各自秘めたる思いはままあれど、まずは旅の支度とバイト代を持ち寄る処から始まった。
時は201X年。
大延国と南蛮の歴史を変える第一歩は、ポートアイランドの一角から始まった
- いきなり大きく出たなーって破戒樹にガチンコ?しかも揃えようとしているキャラがカオス勢っぽい -- (としあき) 2013-04-27 20:24:57
- ジャージの学生軍師が率いるならず者軍団になっていくのかな -- (名無しさん) 2013-04-28 12:07:46
- 凡庸な種族でも一芸特化で成り上がるというのは色んな世界では定番ですが中々これはスケールが大きいですね。見どころを先に盛り込んだ形なので経緯などは次回からになるのでしょうか -- (名無しさん) 2016-07-18 17:17:56
最終更新:2013年04月27日 07:50