「よう、あんたここらじゃ見かけない顔だな?観光かい?」
ドニーの酒場でグラスを傾けていると、
オーガに声を掛けられた
ああ、と軽く答えると彼は続ける
「
エルフにしちゃあ耳が丸いし、スラヴィアンにしちゃ血色がいいし、あんた人間だよな?」
再びああ、と返すと彼は意気揚々と語り出した
「そうか!やっぱり人間だったか!うん、俺の目に狂いはなかったな。それであんたを人間と見込んでの頼みがあるんだ!」
俺に?頼み?いきなりの事で戸惑うなコレは
「あー、いや物騒な事に巻き込むつもりはない!身の安全も保障する!嫌なら断ってくれたっていい!だけどあんたしか頼れないんだよぉ」
どうやら俺の表情は否定的に捉えられてしまったらしい
さして悪い輩にも見えないし、就職浪人の時期外れな卒業旅行だ
思い出作りと割り切って彼の頼みを引き受けることにした
「で、何で俺はこんな小船で沖合いにいるんでしょうか?」
「悪いな、あんた。もうちょっとの辛抱だ!もうすぐ俺らのデジマにつくぜー!」
今なんか翻訳加護にラグがあったような気もするけどそんなことより状況説明だ
あの後、ミズハ行きの交易船に乗せられて他の国に連れてかれるのか思ったら
彼はなんと乗る船を間違えてしょうがないので目的地近海でこっそり小船を拝借して
波間に揺られて早や4日、以上説明終わり!
あ、小船とついでに拝借してきた食料も昨日の時点で尽きてます
思い出にもほどがあるぞ、このまま走馬灯になるぞ
「おー!見えてきた見えてきた!おい、あんたあれが目的地だ!」
彼の声が賽の河原で順番待ちしそうな俺を現実に引き戻す
視界の先には……うわぁ、似つかわしくねぇもん来ちゃったよ!
なに?もう俺三途の川なう?
「はっはぁ、やっぱり驚いてるな!そう、あんたらの世界のヤツらが持ち込んで廃棄した石油プラントってやつさ!」
噂には聞いていた
ゲートが開いてこちらとあちらが大っぴらに行き来できるようになった頃、ロシアが異世界で大規模な天然資源の試掘調査をやってたってのは
それが今、目の前に現実として現れたのだ
「にしちゃぁ…でかすぎね?」
それに形もなんというか、歪だ
「あ、そりゃあアレだ。元々ベースだったんだとココ。んで俺らが住み着くようになって、辺りのプラントを片っ端から移築増築しまくって今に至るってわけよ」
ははぁ、つまり人工島みたいなもんのワケね
さっきのデジマって翻訳ラグも納得だし、多分それには貿易の要所って意味も含まれてそうだ
「で、俺はここで何をしたらいい?」
「なぁに簡単だ。その異世界の知恵でもって開けて貰いてぇ宝箱があるんだよ」
「宝箱っていうと、あの宝箱か?」
「おうよ、これが一筋縄じゃいかねーんだ」
デジマに上がり往来を歩きながら会話している俺と彼
もちろん素材は地球製の石油プラントの寄せ集め、なんとも懐かしいじゃないか
しかし行き交う人並みは亜人ばかり、道のあちこちからは商売人の客引き声がひっきりなしに飛び交っている
「でもその手の開錠知識なんて持ち合わせてないぜ?というかあんたらの方が」
「ところがどっこい、コイツがな、あんたらの世界のモンなんだよ」
「それで俺に声を掛けたって?」
「その通り。増築工事の時に未踏破階層から出てきたんだ。鼻の利くヤツに言わせりゃかなりのお宝らしいが開け方がさっぱりわかりゃしねぇ」
多分、地球から持ち込まれたもんだな
電子ロック?いやいや、さすがに電気がないと作動しまい、なら力業で開ければいい
金庫や南京錠か?それこそそこらの職人に頼めばいい、俺でなくてもいいはずだ
そんなことを考えていると目的地の倉庫についた
彼がシャッターを開けると山と詰まれた台形のブロックの山が姿を現す
「さぁ、あれがお宝だ」
これは…
「一個一個が金属で堅い金属で覆われてやがる上に、鍵穴も見当たらねぇ。
中には鍵みたいなやつが付いてる物もあるが殆ど形が一緒だ、間違いなくトラップだろうな。
ああ、そうだ。この山とは別に丸い筒みたいなヤツも大量に出てきたんだよ。
そっちは色々種類があってコイツも鼻の利くヤツによりゃあ、って聞いてるのかあんた?」
「空いたぜ」
「そうか、空いたか……ってなんだと!!?」
驚くオーガに彼らの言うところの宝箱を突き出す
いや宝箱の上半分を剥いたものというべきか
確かに長期間、しかも異世界での調査だったはずだ
こちら側の食糧を持ち込んでいてもおかしくない
つまり、これは…
「食ってみるかい、コンビーフ?」
恐らく調査団が撤退するときに施設と一緒に放棄したんだろう
そして地球側と違い、腐神の干渉を受けなければ腐敗もない、数年経ってもあの脂とモフモフとした食感は生きている
「なぁ!どうやって開けたんだ?!」
簡単だ、と返して目の前で実践してみせると彼は興奮気味に手にとって
あ、鍵が折れた…また手にとって……また折れた
「そんな泣きそうな顔をするなよ、開けてやるから」
「ホントか!?他のお宝もか!?」
「わーかったわーかった、全部開けてやるから」
「ぃよーっしゃー!そうと決まれば!」
彼は壁際まで走っていき、鉄パイプを掴む…あ、あれ伝声管か
「おーいオヤジー!聞こえるかー!クゥカンだー!こないだのお宝さー!開けられる職人連れてきたぞー!
約束通りこれ全部俺のでいいなー!それとここで店やらせてもらう約束も忘れんなよー!」
そういう裏があったのね、なんか引っかかるけど
「えー?大丈夫大丈夫ー!そいつが全部開けてくれるってー!従業員にゃもってこいだよー!」
はい、また引っかかるワード飛んできたよホントにもう
「あーのーさー!うざいよーオヤジー!大事な大店の一人娘ってー!正直聞きあきたぞー!俺は俺でやらせてもらうかんなー!」
どんだけ不穏ワードのオンパレードなのよこの、娘ですと!?
バチンと伝声管の閉じてフンっと鼻で気合いを入れて
向き直り
「そういうことだから、あんたヨロシクな!」
「よぅクゥカンんとこの新入りー、こないだのミカンってやつ甘かったぜー、また頼むわー」
「そうですかー、新しい缶詰も入荷したんでどうですかー」
数日もすれば馴染んじゃうデジマまじ最高ー、じゃなくて
就職浪人、異世界にて流されて永久就職かってありがちじゃねーか
クゥカンが始めた商売に巻き込まれ朝早くから缶詰をキリキリ仕分け
昼はこうやってデジマ内でコンビーフを行商し、夜は発注したりクゥカンと寄り合いに出たり
缶叩いただけで中身分かるとか漫画の中だけだと思ってました
劇的に変わりすぎだっつのマイライフ!
「ただいまー」
「おう、おかえりー。売れたかー?」
「そこそこだなー」
「そうか、ん」
クゥカンが寄ってきて茶を差し出してきた
最初は気付かなかったがコイツオーガにしちゃ小さめなんだよなぁ
出会った時点で分かってればこの雇用関係も変わってたんだろうか
「どうした?人の顔ジロジロ見て」
「なんでもない。そういうそっちこそ未踏破階層の収穫は?」
「おお!そうだそうだ!ちょっと変わった缶詰を見つけたんだ!」
「これがあんまり見ない銘柄でな、魚なんだ。しかも中身がギュウギュウに詰め込まれててパンパンなんだ
こりゃあきっとすげぇもんに違いねぇ!」
カーゴを漁り、クゥカンが取り出した缶詰は黄色に赤字でロゴが踊る
膨らんだ魚の缶詰め、お馴染みの色味のパッケージ、はい、皆さんご想像の通り
この場合誰を恨めばいいんでしょうか?持ち込んでそのままにしてったロシア調査団?
それとも無警戒に拾ってきたクゥカン?教えなかった俺?
「缶切りの使い方も覚えてきたし、早速……」
生存本能が逃げろという信号を出すより早く彼女は世界一臭いと名高いシュールストレミング缶詰に手をかけ
がちっ、ぶしゅっ…
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!?」
数分後
「うっへぇ、ベタベタするなコレ」
それだけで済むあんたらの感覚はどうなってますの
「つーか開ける前に言ってくれよ、あんたの世界のもんだろ?」
ええ、ええ、そうですよ、そうですけど!
「止めても開けてたろクゥカン」
「そうかもな。さてちょっとこのベタベタ落とすから風呂手伝ってくれないか?」
毎度毎度無警戒ねこのオーガっつーかこの娘、俺は男だよ?
寄り合いでオヤジ様と初対面した時、向こうはずっと蛮刀に手を掛けてたのアンダスタン?
「どうした?」
「あ、いや、その、俺は床とか掃除しとく」
それとなーく平静を装って手伝えるんだが今日のところは辞退しよう
お願いお願い近づかないで私のお鼻が昇天しちゃうの状態だからなぁ
- 缶詰=宝箱という発想は面白い。 異世界にとって地球の品々は何でもないものでも正体不明の何かになる事はあるだろうし。 地球と同じやり方では異世界にプラントというのは難しいな -- (名無しさん) 2013-05-02 23:23:48
- 中身考えると宝箱でも間違いではないな缶詰。異世界の資源ってどんなのがあるんだろう -- (名無しさん) 2013-05-03 02:46:14
- パンパンの缶詰を中身が詰まっていると解釈した異種族に思わず吹いた -- (名無しさん) 2013-05-04 15:20:10
- 興味を引いて自ら開けさせるって…思わず画面から臭ったオチ -- (名無しさん) 2013-05-14 23:17:17
- この軽い感じが好き。異世界からすればデジマの中はみたこともない宝の眠る鋼鉄の山? -- (名無しさん) 2013-12-09 23:42:32
- パンパンをそうとらえるかよー!知らないからこその発想面白いね。デジマって半分異世界半分地球みたいな空気でお互いに半歩歩み寄れるような交流場所になってそう -- (名無しさん) 2014-07-15 23:35:56
- 人間だからこそ分かるもの…ダメなものはダメと言える勇気!とか思ったけどダメ言っても開けるんだろな -- (名無しさん) 2015-10-06 21:58:37
- なんでもかんでも集まってくっついて大きなカタチにというのがとてもドニーなデジマです。確かに指ぬきのない缶詰はそれを見たことのない異種族にとっては道の金箱なのだと納得。そしてそれらの中には開けない方がいいと年月を重ねたものもあるのだと -- (名無しさん) 2016-07-18 17:24:33
- 真空からの缶詰製法はまだ異世界にはなさそうな。鍵穴のない宝箱…シュルストはらめぇ -- (名無しさん) 2018-11-12 22:26:14
最終更新:2013年05月01日 18:24