「へっへっへ。わざわざ来たのはご苦労様だがぁ~?こちらには全く交渉の気なんぞ無くてなぁ~!」
小さな村に攻め込んだ野盗の集団は一旦郊外に退き、陣を張った。
そこに村からの使者という男がやってきたのだが…。
「村長はこのまま貴方達が立ち去ってくれるのであれば、人数分かける二日分の食料を差し出すと申し出ています」
野盗の一員である狗人は言う。星教会の司祭の出で立ちにも似たローブを纏っていたと。
「おいおい!こいつ話しを聞いてないんじゃないか?ボスの言った意味が分かってないようだぜ?!」
焚き火を挟んでボスと向かい合う男の側面後方を刃を抜いた獣人が囲む
「ボスさん、貴方は村を去る際に“食料を渡せば大人しく去ってやるぜ~!”と仰りましたが、
どういう事でしょうか?私もはっきりと聞いていたのですが」
ボスの後方で団扇役であった狸人は言う。その男は笑顔を崩さなかったが、明らかに発する空気は鋭くなっていったと。
「分からねぇのか!?約束なんざ守る気も取引もへったくれもねぇんだよ! 面倒だ!やっちまえ!!」
三方から一斉に刃が振り下ろされる。 激しい金属音。
男に切りかかった
オーク野剣士は今でも思い出すと言う。一歩も動かずに上半身だけで刃をかわした体裁きを。
男は腰を軸に直角までいかない角度で曲げていた。
三つの刃は交錯し、男の首筋で止まるに至った。
「どの様な世界でも、どの様な姿形でも“約束”は人が人であるための必要最低限の約款であると信じています。
申し訳ございませんが、ここから先は貴方達を人では無く“害”として対処させてもらいます」
持ち前の瞬発力で突剣を抜き突いたボスのハイエナ人。
だが男はその場でさらに膝を折り、地に伏した。 これまた見た事も無い所作であったと言う。
「風精霊の方々、どうぞ宜しくお願いします」
頭を地に接する程に寄せたまま、男は願う。
焚き火の炎が一層激しく燃え上がったかと思えば、続いて男が構えを取ったまま上空へ昇る。
騒ぎを聞き駆けつけた野盗が大挙して押し寄せる。男は少し離れた位置に降り立つ。
「常に笑顔を、身支度は整え、相手のニーズを読む。 営業課訓示復唱」
襟元を正し埃を払う男の周囲に旋(つむじ)風が集う。
「…残り枚数も少なくなってきましたね。再利用も考えないといけませんか。
それはそうと…」
ボス含め野盗全員が襲い掛かる。もう容赦はしないの怒涛の波。
「私の名刺はよく切れます」
男の胸元から取り出したる何やら四角の紙切れは、無数にばらけた後に雨霰と野盗に降り注ぐ。
風を纏った紙切れは、手首を瞼を首筋を切り裂き野盗を怯ませる。
野盗が慌てふためく最中で男が焚き火の側に立ち、流れる所作で一礼する。
「火精麗の方々、もし私に協力して頂けるのなら村長に取り成して盛大な祭りを開いてもらいますが、どうでしょうか?
勿論、野盗を退けた後になりますが」
焚き火の炎は瞬く間に盛り、辺りを舞い飛ぶ紙切れへと呼び散る。
炎の塊となった紙の風刃が再度野盗に襲い掛かると、もう彼らは逃げ去るしか無かった。
「これにて交渉終了です」