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【機壊王 帰還の夜】


「陛下へ御報告申し上げます」
「何だ」
「アクスト閣下率いる西侵軍、西部国境線を無事越境とのことです」
「その程度の報告なら不要だ」
「ですが・・・恐れながら申し上げます。 近頃革命派の活動が活発化、出奔したモロト閣下が合流し、蜂起の機会を伺っているとも聞きます」
「下らぬ事だ」
「此度の西侵、レジスタンスに察知されていない筈はないかと」
「して貰わねば困るのだよ。 之以上我に語る事はない。 下がれ」
「・・・承知致しました」

「アクスト閣下、そろそろお聞かせ願いたい。 此度の西侵にはどのような目的が? これだけの大規模で国外へ出るとなれば、革命派共が察知せぬ筈はありますまい」
「それが目的だからな」
「は? わざわざ横腹を晒して、革命派に叩かせるのが目的だと?」
「そういうことだ」

「おやこんなところに書置きが・・・なになに、『十日して戻らなければ、死んだものとして処理すべし』とな・・・」

「こりゃ大変だぁーーー!?」

「ヨーゼフ! 斧王部隊が西侵を開始、国境を越えたって話だ!」
「そうか・・・これは好機と見るべきか、モロト殿はどう思う?」
「今更領土など不要にも思うが・・・そうまでして父祖の許へ還る手立てをまだ探したいか、エルモよ。 我らが真に求るべきは、ヒトの世に過ぎた力を持つ我らがどうヒトと関わるべきかだというのに」
「鉄巨人も相当数が派遣されてるって話だ。 今なら手薄になった首都を落とせるはずだ!」
「だが、こちらにも十分な戦力があるわけではない。 西侵した斧王部隊が戻るまでに決着出来る保障はあるのか?」
「斧王軍が戻ってきたら、それこそお手上げだ! 一番可能性がある今起たないでどうする!」

「議論紛糾の最中、水を差してしまい申し訳ございません。 こちらが革命派軍の大本営、ということで宜しいでしょうか」
「何者だ! エルモの手の者なら生かして帰さんぞ!」
「これは失礼。 私、我らが主サミュラ様より便りを任され馳せ参じました、キエムと申します」
「スラフ島の死人か・・・!?」
「火急の所要が差し迫る故、手荒な歓迎と無粋な対応には何卒ご容赦願いたい。 儂はこの本営を預かるヨーゼフと申すが、このような時に死徒の女王より、何用があっての御用向きか」
「端的にお伝え致しますと、貴殿らが数日の内に起たぬのであれば、我ら死徒の力を以て、仇となる貴殿らに宣戦を布告させて頂く。 それをお伝えするのが此度の用件に御座います」
「何だと!? 数日内に宣戦布告・・・そんな急な話があるか!」
「貴殿らが我らが同胞を食い物にして鉄巨人なる兵をお使いになる折、通知通達は頂けなかった、と記憶しておりますが?」
「それを今言うのは筋違いではないか!」
「正道が何処に在るかを問い交わすために、此度は参じたのでは御座いません。 私の用件は終りましたので、失礼させて頂きます」
「な、ま、待て!! ・・・くっ、このままでは、王冠派と死徒に挟撃されることになる。 起つしか、ないのか・・・!」

「シュヴェーアト、ランツェ、マギア・・・貴殿らは今、何処で、何を見て、何を思うているのだ・・・」

「・・・おとめぎそうって・・・なんですかぁー・・・いくらじょしゅでもゆるしませんよぉ・・・せんせいはぁ・・・むにゃむにゃ・・・ぐー」

「ヴァルチェ託宣によれば、我が神命は此処に在り、らしいな」
 不釣り合いな程に巨大な、穂先だけでも己の身長を越えんばかりの鑓を傍らに突き立て、ナサヴェルは王都マカダキ・ラ・ムールの北、クルスベルグとの国境線付近にて葉巻を燻らせ、砂岩に腰掛け、事の推移を静観していた。
「御出でなすったか。 あの黒豹の言う通りってこったな。 よっしゃ、一世一代、たった一人の最終決戦と行こうじゃないのさ」
 眼前には鎧の行列。 列の中腹には、ヒト為らざる異形、鋼の巨人が砂漠の大地を揺らしながら闊歩している。
 突如現れたキエムと名乗る黒豹の死徒が言っていた3つの要点の一つ、まさにその通りの光景が眼前に広がっていた。
「これ以上神鉄巨人が死徒を食い物にして国を維持するのであれば武力を以てド帝を制圧する、侵攻戦が現実の物となった折には領土通行の許可が欲しい、ついでに西から国境山脈沿いに東進するド帝軍の目的は国防手薄と見て息巻いた革命軍の挟撃、か」
 三代前のカー・ラ・ムールが逝去したというスラフ島戦役の、全戦局を把握していたとされる屍軍総参謀キエムの言だけに、いずれも相応の真実味がある話として受け止めるべきと議会一致で判断したところに、議場の国王席直上に掲げられた邪龍王マルドラークの首からヴァルチェ託宣が落ちて来たとあっては、
「若干焚き付けられた感はあるが、出ざるを得ないよな」
 僅かに燻るのみとなった葉巻を吐き捨て、傍らの鑓を手にする。

「何だ、お前は?」
 鋼鉄の大行列の先頭を歩くドワーフ兵が、先頭に立つ兵卒の当然の職責として、進路に一人立つナサヴェルに尋ねる。
「邪魔だ、退け」
「やだね」
 ドワーフ兵の退去勧告に対し、ナサヴェルは至極シンプルに回答を伝える。
「そうか、ならば仕方あるまい。 神聖ドワーフ帝国のさらなる繁栄と栄華の礎となるがいい」
「殺すなよ? 猫一匹でも鉄巨人の動力にはなるだろうからな」
「畏まりました、小隊チョウバラッ!?」
 先頭の兵卒が小隊長に向き直った瞬間、鎧一式着込んだ自分よりなお大きい鋼鉄に打ち倒され、砂漠に飛んでいく。
「もう始めちゃっていいんだろ? グダグダ言ってないで、とっとと来いよ・・・それとも」
 先頭の兵卒を打ち据えたその勢いのまま、ナサヴェルは手にした極大長鑓を掲げ旋回させ
「こっちから行った方が」
 長鑓が巻き起こす旋風が砂塵を巻き上げ、やがて灼熱を帯び、赤熱の火炎流へと変貌、
「早いかなぁ!」
 高速旋回の勢いをそのままに、火炎流ごと、鋼鉄の行列へ向けて鑓を叩き込み
「受けよ必殺、覇砂王流槍術が秘儀、獄砂嵐炎塵!」
 地を割り岩を砕く衝撃と迸る火炎流が、鋼鉄の行列を薙ぎ払う!
「おおおおおおお!!! たましいぃぃぃぃ!!!!」
 ドワーフ兵が蒲公英の綿毛が風に吹かれたかの如くに飛び散り、戦場と化した砂礫地帯に悲鳴と絶叫、炸裂音に破裂音が鳴り響き、唯の二撃で戦場は混迷を極める。

「何だアレは! 出鱈目にも程があるぞ!・・・構わん、鉄巨人を出せ!」
「ですが、ここで戦闘機動に切り替えれば燃奴の消耗が」
「いくらアレが人間離れしているとはいえ、鉄巨人一体で十分抑えられる。 一体だけならば燃奴の消費も問題なかろう!」
「・・・畏まりました。 直ちに伍號を1機、戦闘機動へ」
「邪魔するぜぇ! ずおりゃぁぁあ!」
 機動準備に入ろうとしていた鉄巨人伍號の胴体が断ち割られ、神聖ドワーフ帝国内における畏怖と暴威の象徴が鉄塊に変わる。
「この変な鉄の人形、全部ぶっ壊させてもらう!」
 ナサヴェルの更なる猛撃は、鉄巨人の力を以てしても止められたものではなかった。
 特に、鉄巨人が抱える「通常機動から戦闘機動へ移行させるには燃奴の追加投入を行わなければならない」という欠点が、急転直下で戦場入りすることになったこの戦闘では大きな痛手となった。
 戦闘機動に移行することすら出来ず、大多数の鉄巨人が断ち割られ、砕かれていく。

「一体何なんだこれは・・・いつの間にか俺たちは砂漠からこの世の果てにでも落とされていたのか!?」
 行列の後方にて戦局を伝え聞く幹部達の表情が青ざめる。
 たった一人を相手に、栄えある帝国軍参千の烈士の内弐千以上が既に打ち倒され、鉄巨人も参號が参十機、肆號が伍十機、最新鋭の伍號も百機が悉く破壊された。
 前方より流れてくる情報をどう統合しようとも、多少の数値の誤差以外には差異は無い。
「そんな馬鹿な事が在るか! 天空船を打ち落とした東の怪異すら滅ぼせようという数だぞ! それがたった一人にだと!」
「まさか、国外へ出奔されたタイタン様が・・・?」
「否、それはない」
 議論紛糾する最後尾本陣に、威厳を讃えた容姿の大漢に似た巨体が姿を見せる。
「あ・・・アクスト様!」
「共感覚に反応が無い。 今この場に兄弟は居らぬ。 これだけの力を持つ者・・・恐らくは我らに近しい存在、神人であろうな」
「神人・・・まさかラ・ムール王が自ら出てきたというのか!?」
「いや、今あの国に王は居ないはずだぞ!」
「既に軍勢の七割が損壊・稼働不能となっておる。 既に革命派の背面を挟撃するという我らの役目を十全には果たせぬが、このままでは我らの意義が問われる。 我自ら動こう」
「アクスト様自ら!?」
「では問うが、我以外に彼奴と戦える者が居ると思うか?」
 幹部一同、押し黙る以外に返答のし様がない。
「決は出たな。 では、我が彼奴めと差向い次第、先に伝えた通りの進路を取れ」

 先ほどまで鉄巨人であった屑鉄の山に腰掛けて一息ついていたナサヴェルは、一番のお楽しみの到来にやおら立ち上がる。
「お、漸く出てきたな鋼鉄神さんよ」
「我らの道を阻むは貴公か。 五千人規模の革命派を蹂躙するための部隊を唯の一人で壊滅させた手前、先ずは見事と言わせて頂こう」
「やめてくれよ、そんな誉められたって、コイツしか出ないぜ?」
 アクストからの賞賛に対し、ナサヴェルは長鎗の先端を向け挑発気味に応える。
「南蛮流民の出なもんで、育ちが悪ぃからな。 おはようのグー、こんにちはのパー、さようならで叩き潰すのが俺らのマナーってな」
「成程。 南部不可侵領域の純戦闘部族の血族に我らと同じく神威が加われば、これほどの事が可能となるのか。 ヒトという生物はまだ底が見えぬものだな」
「あのさぁ、御託はいいからさっさと殺ろうぜ?」
 言い切るが早く神気熱風を纏う長鎗を旋回させ、ナサヴェルは戦意と敵意をむき出しにしてアクストに対する。
「刃を以て語るより他に無し、か・・・ウェクオブリーク・ヴィエン参号機 機斧轟王《アクスト》、汝の飽くなき戦意と絶世の暴力に敬意を表し、我が神意にして神威の姿にてお相手いたそう!」
 アクストの周囲の空間が歪むと、何もないはずの空間から鉄巨人より巨大な神鉄の躯体が現れ、アクストの全身を上書いてゆく。
 見上げんばかりの巨躯に、刃だけでも鉄巨人の体躯を裕に超える超大で神々しい戦斧を右腕に抱いた、神鉄巨人がその姿を現す。
「そいじゃ、お互い身体も温まってきたところで・・・おっぱじめようぜぇぇ!」
「我が豪斧の力、貴殿にもお見せしようではないか!」
 刃の華が咲き乱れ、鮮血と神血が空を染め、撃音は高らかに旋律を為す。 弐つの神威が真っ向からぶつかり合う、余人の立ち入る隙など微塵も存在しない、撃刃閃華の舞踏会が繰り広げられる。

「血が、肉が、魂が滾る! これこそが戦、これこそが武! そう思うだろ、アンタもよぉ!」
「戦神の気にでも中てられたか! 腕一つ失っても尚、その気迫、その剛毅、もはや狂人の域ぞ!」
「は! ソイツぁサイッコーの褒め言葉だぜ! 感謝の御礼に右腕も捥いでやろうか!」
 左耳と右腕は根元から断ち切られるも、それすら一切意に介する事無く、むしろ身体部位が減り血液が抜けて身体総重量が軽くなったことを喜ぶかの如く、もはや悪鬼羅刹も裸足で逃げ出すほどの形相で猛るナサヴェル。
 一方のアクストも、左腕は肘関節から捩じ切られ、脚部も駆動機関が物理欠損し稼働効率は6割を下回り、排熱・冷却機関は内外双方からの著しい負荷により稼働不可、知覚機関にも視覚・音声を中心に損壊を受ける。
 双方に共通して言えることは、「満身創痍」ただその一語に集約される。
「楽しいなぁオイ! 魂の総てを曝け出して削り合う、これが俺の求めていた戦場! 最後に立っている奴が勝者! 分かり易くて良いじゃねぇか!」
「この人の姿をした悪鬼外道、今この場で撃ち滅ぼすことに、もはや一切の逡巡は無し! 我が神威を以て、貴殿の魂を砕く!」
 決戦の一撃に持てる力の総てを込めるべく魂を震わせ、絶命必至の刹那を双方が伺う最中、それは突風の如くに戦場を突き抜ける。
「この勝負、この槍王ランツェが預かる! これ以上の継戦は地に呪怨を遺すのみ!」
 まさに横槍を入れてきたランツェは、手にした長槍の穂先で器用にナサヴェルを摘み上げ、そのまま砂漠の中心へと駆け抜け、瞬く間にアクストの視界から消失する。
「これは・・・ランツェの思惑はどうあれ、助かったと言わざるを得ないな。 被害甚大、なれどこの身はまだ動く。 今往くぞ、エルモ・・・!」

「もっとどうこう言ってくると思っていたが、意外と落ち着いているな」
「まぁ実際問題、お宅さんの言う通りだし。 『戦場では誰よりも熱く、戦地で無ければ平静たれ』がウチのモットーだからな」
 人馬族《ケンタス》を擬人としているランツェの背に乗り、ナサヴェルは宵闇を迎え始めた砂漠の涼風に身を晒していた。
「でさ、横槍入れた詫びのひとつもする性根があるってんならさ、ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「・・・聞き受けるか否かは、内容次第だな」
「一度さ、ド帝の親分と話がしたいんだが」
「我が兄弟エルモと、か。 その位なら問題なかろう。 主の正面に遠見を出すから、それに向かって話せ」
 要求を聞き受けたランツェは、もはや開くことはなかろうと思っていた共感覚通信を開き、エルモに接続する。

<ランツェ! ランツェなのか! 貴様、今何処に居る! 今直ぐに我が許に参じろ! 貴様とて我が国の現状は知っていよう! 貴様が加われば、アクストと共にモロトを破壊し、帝国の栄光を世界に広めるのも>
「あー、うるっせぇガキだなコイツ。 こんなのがド帝の親分かよ。 これならさっきのアクストの方がよっぽとだな」
<き、貴様は何者だ! ランツェ、その下賤の塵は何だ! なぜお前との共感覚通信に塵が割り入っている!>
「落ち着けエルモ。 故在ってこの男を拾ったところ、お前と話がしたいというのでな」
<何を言っているのだ! そもそも塵風情と話すことなど私にはない! というかランツェ、お前先ほどアクストの近くに居たな? なぜアクストを連れてこちらに向かわない?>
「アクストの旦那なら、俺が半殺しにしてやったよ。 余計な横槍が入らなきゃ、全殺しまであとちょっとだったんだけどな」
<塵風情が神鉄巨人に刃向うなど不可能>
「エルモ、彼の言は事実だ。 アクストの躯体は、彼によって活動可能限界寸前まで破損していた」 
<ならばお前の役目はアクストと共にその塵を屠る事だろう! なぜ馴れ合っている!>
「二人の戦は神威と神威の激流を為していた。 どちらか一方が絶命した瞬間、制御を失った神威の奔流がもう一方の命をも喰らい、地を砕き天を焦し、尽き果て得ぬ呪怨を産んでいただろう」
<そんなものはマギアを見つけ出して浄化させれば良いだけであろうが!>
「私もマギアも、シュヴェーアトも、ヒトの世に我らの力は過ぎたるものと判断し、ヒトの世で生き続ける術を知るために世界に出た。 有体に言えば、我らには貴殿と共に歩む道は無いと判断したまでのこと」
<ランツェ、貴様ァァ! ウェクオブリーク・ヴィエン最終号機の私を愚弄するか!>
「あー、ランツェっつったっけ? 俺から頼んでおいて何なんだけど、もういいわ。 こんなガキと話しても何も得るもん無かったわ。 マジですまん」
「承知した。 エルモ、もしお前らがモロト達との戦に勝利するようなことがあれば・・・地に混沌渦巻く前に、我がお前らを討つ。 もう二度と会う事が無い事を願っているよ、エルモ」
「ちょっと待てや。 アクストの旦那は俺の獲物だぜ? ケリ付けなきゃならんから、カチ込むときは声掛けろや」
<良くも貴様ら、神聖機皇帝の前でそのような大言壮語を吐けたものだな! 良いだろう・・・貴様らなど天上にも奈落にも逝けぬ程に>
「もういい黙ってろ糞餓鬼。 自分から動く度胸も気概も無い、遠吠えだけの甘ったれたおぼっちゃんが偉そうな口垂れてんなよ」
<この糞猫がぁ! 貴様らなぞ帝国の全戦力を以て滅ぼ>
「では切るぞ。 さらばだエルモ」

 宵闇に包まれた砂漠を、背に猫人を乗せた銀の人馬が駆け抜ける。
 目的地は砂漠の中心、マカダキ・ラ・ムール。


 後の世に『機壊王 帰還の夜』と伝えられる出来事があったという。

  • かなり具体的にクルスベルグに踏み込んだ内容。 思ったよりも多くの国などが関係していたことに驚く -- (名無しさん) 2013-06-09 20:06:20
  • 気まぐれに動いたり出て行ったり帰ってきたりするタイタンにクルスベルグもいい加減三行半をですね -- (名無しさん) 2014-05-30 23:33:55
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最終更新:2013年06月09日 02:15