「どっせーい!」
どっずん!と勢い良く引渡し檻の中に放り込まれた“吠え株菜”はのびてはいるものの、
見事に丸々と太って大きさも大型の部類に入るほどの一級品。
「ヒュゥ!こりゃまた珍しい“三つ首”じゃないか! 良い値が付くよォ?」
冒険者ギルド、樹獣担当官の九官鳥人は依頼の品をぱんぱんとはたく
これでもかとふんぞり返る海賊帽子の少女を手放しで誉めちぎる。
「とりあえずの報酬は今渡すけど、これだけのモノなら引渡し後に追加報酬が出るのは確実だよォ?」
「えっへん! 追加報酬は“星の園”に振り込んで欲しい!」
前髪で顔の半分は隠れているものの、自慢げオーラは顔面中に溢れ返っている。
「ヒュ~ゥ。どうりで凄いと思ったら、“鉄腕狗婆(アイゼンドゥヴィッチ)”の知り合いかい。
…処で、連れのお兄さんは大丈夫かい? 見た所、えらく体中に齧られた痕がある様だけどォ?」
「あ、御心配なく。身体だけは丈夫なんで… はぁ…」
「ヒュゥ~、それなら良いんだけどね。 ホイ、報酬」
そう言って出された貨幣袋を、酷く疲れきった青年がよっこらせと抱きかかえると
「パスタ♪パスタ♪」と鼻歌スキップの三本腕の少女をずるずると追いかけていった。
【 吠え株菜の捕獲 】
依頼者:ニシューネン市飲食店組合
報酬:レストラン“輝く三角錐”で一日使ってフルコースをひっきりなしに注文出来るくらい
補足:鮮度と品質により追加報酬有り
「でぇえいっ!」
ドドンッ! 鉄板のカウンターにも関わらず、大人の頭大の鉄篭が乗ると同時に鈍く凹む。
「…これは?」
冒険者ギルド、鉱物担当官の七面鳥人は怪訝な目と垂れた鶏冠で不信感を表現する。
鉄篭の中はぎゅうぎゅうに詰まった岩。 見るからに岩。
「あー、やっぱ中見せたらなあかんか。 ミブちゃん、岩! フーやん、構えて!」
鉄篭の前50サンチにほぼ同じ大きさの岩が置かれ、鉄篭のロックに手をかけるバンダナの女性。
まるで今から手品でも始まるかの様な珍妙な体勢に、がやがやと周囲の人波が集まってくる。
「よーく見とくんやで? 一回しかやらへんからな?」
言われるままに七面鳥人はカウンターに置かれた岩と鉄篭を凝視する。意味の分からぬままに。
「せやっ!」
勢いのある掛け声と同時に鉄篭が開く。
一瞬も間を置かずに背後に立っていた首長の竜人がツルハシを勢い良く鉄篭に収まっていた岩をカァーン!と打つ。
音の響くと同時に粉々に砕けた岩。
── 次の瞬間、周囲一帯信じられない光景を目の当たりにする
ひゅばッッ!
砕けた岩の中心に在りてそれは碧に蒼に輝いて、見えたと思った瞬間にはカウンターに着いたと同時に
狗人の持ち構えた岩へと体当たり。するりっと岩に染み込む様にして消える。
消えると同時に鉄篭が岩を覆いガシャン!と閉まる。
「どや。見えたか?」
静寂、唾を飲む、そして静寂。
「ミ、ミスリル?」
周囲で見ていた人波からぼそりと声があがった次に続々と、どよめきと喚声が沸き上がる。
「ちょっちょっちょっと待った」
「おーおー、ちょっとくらいやったら待つで~?」
急いで手元の鉱物目録を激しく捲る七面鳥人。
「た、確かに今見て岩に入ったソレはミスリルであると断定しても良い。
し、しかし“動く”ミスリルなど… わ、わひゃしは見たことがなひっ!?」
目をぐるぐると回し鶏冠を左右に振り乱す。
「それは確かにミスリルで、しかも凝固化しておらん流動状態の“生きた”ミスリルだ」
担当官の背後から髭をゆすって現れたのは顔中が火傷と打ち傷で覆われた、見事に禿げた
ドワーフ。
「…受理する前に尋ねるが、どうやってこれを手に入れた?」
やたらすごんで尋ねるドワーフに、バンダナの女性は身振り手振りを交えて話す。
「鉱山跡に入って三日間、ちょーこちょこちっこいミスリルを坑道で見かけたんやけどな、
どうもすぐに見えへんようになってしまうんや。 そこでじっくり観察してみたんやけども、
こいつ、ミスリル言うんか?例えるならば山か岩かの“血液”で、坑道みたいな通路空間がミスリルにしたら“外部”やねん。
そこまで仮定出来たら後は至極簡単な仕事や」
「ふむ」
「運を天に任せてミスリルが出てきたとこに遭遇しーの、
ミスリルが岩に潜る前に周辺の岩を砕きーの、
そこにホイと入るにおあつらえ向きの岩を置けば、
後は勝手にミスリルがそこに入るって寸法や」
特に難しい表情もせず、ただ語る内容に頷くドワーフ。
「ま、それが出来たんもミブちゃんの目とフーやんのツルハシ捌きがあっての事やったんやけどな!」
「流石に拙者は坑道でずっと凝視しっ放しだったので、目が疲れて候…」
「ミスリルに触れずにミスリルの周囲の岩だけを砕けとは…海空嬢も無茶な注文をしてくれた」
「二人なら絶対出来るっておもとったからな」
ニヤリと親指を立て二人を顧みた海空の満面の笑みを見て、狗人と竜人の侍は朗らかな溜め息をついた。
「兎に角、これは奥で鑑定してみないことには値がつけられん。 少し待っておれ」
「あー、その前にちょっとええ?」
鉄篭を運ぼうとしたドワーフを呼び止め顔を寄せる。
「坑道の奥まで行ったんやけどな、“9号”の扉の先は何で入られへんようになってるんや?
うちの勘やとあの先にもミスリルか何かありそうな気がしたんやけどな」
そこまで言った処でドワーフの表情が固まる
次いで背後の群集の中で明らかに“誰か”が立ち上がる
極度に冷えた予感が脳髄を突き抜ける
「っと、まぁ昔の坑道やし崩れて入られへん場所もあるわな。変な事聞いてすんまへん
とりあえずうちら手前のテーブルで待っとくよって、はよ報酬持ってきてやー」
振り返った海空は笑いの表情を維持したまま侍二人の腕を取り、テーブルについた。
もう何も感じない。
「海空嬢」
「あ~… ま、忠告か何かってとこやったんやろ。 下手な事せーへんかったら見逃したるでってくらいの」
「気配の元が見えぬで候。 拙者の目でも捉えきれなんだ」
「格別速いとかそういう訳でもないんやろ。 逆に速すぎたら目立って一瞬は目に留まるやろ。
自然体ですぃ~っと人混みの中に消えてしもたって事やろな」
『ミソラ、何がどうなったんだい?』
「風坊~、精霊って意外とこういう気配に関しては鈍感やねんな?
まぁ人が人に向けて放つもんやから仕方ないんかも知れへんけど。
自然保護区でハメ外して本気で銃を向けられた事なんて精霊にはなさそうやしな」
あっけらかんと笑ってみせた海空ではあるが、頬を伝う一滴は“冷や汗”であった。
「お待たせしました。 今回は報酬額が高額になりましたので、高額貨幣にて支払いますので、その後の取り扱いには注意して下さい」
「おー!来よった! どや?これで二人の刀は取り戻せそう?」
「うむ!丁度良い感じだ!」
「フーやん、どんだけ賭けでスってん…」
「拙者もこれで何とかツケを払えそうで候!」
「ミブちゃん、どんだけ飲んでんよ…」
【 ミスリルの採掘 】
依頼者:ニシューネン市鍛冶組合
報酬:鍛冶屋武具店で最高級の一式が揃えるだけ
補足:ミスリルは採掘した状態によっては劣化が発生するので、早めの納品をお勧めします
「…“最下層”へのカモフラージュが甘いようで、補填しに向かいます」
『うむ。 まだこの街には“あれ”を扱いきれるほどの器が出来ていない。“刻”が来れば自然と彼らも導かれよう。
…ところで』
「はい」
『よくあの場で撃たなかったね』
「貴方としても、この国と
ミズハミシマとの戦争ないし不穏分子が押し寄せてくるのは好しと思わないのでは、と」
『君は本当によくできた子だ』
全てを避けるような風の体裁き。腰に提げた冷たい鉄の塊。
凡そ生者とは思えぬ、底の見えない眼光を揺らめかせた女性はミスリル鉱山のある方角へと消えていった。
大
ゲート祭も終わる直前の、ニシューネン市の冒険者ギルドでの一幕
- 未踏破が近い新天地ならではの狩りゲーやRPGみたいな依頼に心躍る。アグレッシブな性格はどこへ行っても強いな -- (としあき) 2013-07-05 22:49:49
最終更新:2013年07月03日 04:47