アットウィキロゴ

【祭の終わりに流れる水の町で】

長いような短いような、世界を越える門の繋がる一ヶ月も最後の日。
普段は行くことも見ることも無い国を堪能した人々は、残り僅かな祭りの時をこれでもかと楽しんでいる。

ここはミズハミシマの南寄り、とある海沿いの町。
訪れてすぐに分かる特徴でもある、“水に浸かる町”。
所によって水の深さはまちまちであるが、水棲種族が主に占める鱗人の多く住むため、
彼らの知恵でそういう姿になっている。
何故、そんな無理をしてまで水の外に出て生活しようと思ったのだろうか?
 それは、きっと ──


「一日余っちゃいましたね。 でも、最後の一日を慣れたとこで過ごすのも良いですよね」
「海は海でも砂の海、砂漠はちょっとあたいにはキツいさね。 水の精霊でも連れていれば話は違うんだけどもねぇ」
隣を太い尾で跳ね歩く巨体の鯱人を、膝まで海水に浸かる道を押し歩く少年が見上げて話す。
 ゲート同士の移動が緩和される六月に、地球と異世界を旅行して回るのも
 エジプトでの日程を切り上げて終わりとなった
「地球の珍しい名所とか見せたかったんだけど、白黒波(しろくみ)さんが倒れちゃったら意味がないし、
ミズハで一日ゆっくりして明日からのお仕事を頑張ってもらえれば、僕は嬉しいかな」
「眞潮(ましお)…」
 “そういう”台詞の後は決まって照れ隠しの笑い顔で俯き鼻頭をかく
 その仕草が身が捩れる程に愛おしい

 須磨 眞潮(すま ましお) 男性 14歳 十津那学園海之前校 経済学専行
 白黒波(しろくみ) 女性 2X歳 ポートアイランド港湾開発地区勤務
 広く水産業を営む須磨水産㈱が、ミズハミシマに視察旅行にやってきた際のなんやかんやの海難事故から出会った二人
 そこからなんやかんやあって再開を約束して別れた二人であるが
 白黒波がいてもたってもいられずに地球へやって来た事から早い再開となり
 学生と亜人就労者という二人はそれから程好い感じで付き合うことになった

「今日の夜には戻るさね?」
「はい。 明日になったと同時に最初に通ったゲートへ戻されますけど、日を跨ぐと明日に響くかなって」
流れる道は鱗人や魚人以外の種族も多く見かけることができ、一様に皆両手に背中に土産物を持っている。
「…シュハ、そのワカメの塊は何だ?」
「え?知らないんですか? ミズハ東海の暖流で育った海草のお布団って大延国でも有名なんですよ?」
「そう言えば、文部具県の家具屋で大層な飾られ方をしていた様な…」
「これで寝て育った子は病気に強い子になるんですよ。 あ な た ♪」
「全く気が早いな」
シックな服装の男性に寄り添って歩く狸人の女性。 仲睦まじい夫婦に見える。
すれ違うその二人を横目ながらもまじまじと見てしまう白黒波。
「ねぇ、眞潮ぉ…」
「あっ、あの置物屋台!“霧吹き貝”の大きいのが売ってます。
あれが部屋にあったら白黒波さんも夏の暑さを乗り切れるんじゃないですか?」

 “霧吹き貝”
 ミズハミシマ北海の浅瀬に広く棲息する岩巻貝の一種
 岩に付着した海草藻を食べるために満ち潮の中で磯に登ってくるが、
 一度食事を始めた貝はその場から動かなくなり、引き潮で海水が無くなった後は
 自らの体内の水分を霧にして周囲に漂わせて満ち潮まで耐えるという
 バケツや水槽などと少量の海草(増えるワカメでも可)で簡単に飼育でき、
 水の外に出ている部分が空気に刺激されると霧を発散させ、周囲をマイナスイオンでひんやりさせるという

「良い御土産が買えました」
ほくほく笑顔で貝の入った袋を、白黒波用御土産リュックに入れる眞潮。
「ねぇ、眞潮ぉ… あたいら出会ってもう一年とちょいさね?」
「ですね。 去年の大ゲート祭も楽しかったですよね」
笑顔で応える眞潮の隣で、ぬめった体表をもじもじする白黒波。
力強く直立しているせいか、地から頭の先まで軽く2メトルを越す。眞潮の150サンチにも満たない身長とのギャップが凄い。
「もうそろそろあたいらの…」
「あっ、あの屋台です」
言葉を遮る様に腕を伸ばした先には、こじんまりとした屋台がある。
商品を並べる棚には石や貝を使った装飾品が多く見られ、屋台主の鮫人の後ろには幾つかの木箱が詰んである。
「すみません。朝に注文させてもらった眞潮という者なんですが」
「あァ、君か。 うム、注文の品、出来テいるヨ」
白黒波が少ししょぼくれている前で店主とやり取りを進める眞潮。
話が終わり、代金と品物が交差する。
「白黒波さん!」
「はいなっ!?」
突然声を張り上げたのに驚き、びくんと直立する長身巨体の鯱人。
「これを受け取ってくれますか?」
眞潮がそう言って精一杯背伸びして、白黒波の胸元に差出したのは煌(きら)と輝く大粒の石が並んだ首飾り。
唯、白黒波の身体では首ではなく腕首にはめるのが丁度良い感じである。
「ひょッとシタらと思っタが、これハこレは… さてハて、ドうするカね?大キいの」
ニヤニヤと大きな口の端を吊り上げた悪どい笑いを湛える店主が煙草をぷかりふかした。

 “黒白紋珠の首飾り”
 ミズハミシマの海に在りて国を治める竜宮城のお膝元にある海底採掘洞穴から産出される石を使った首飾り
 吸い込まれそうな程に深い“黒深石(ミナソコイシ)”と、輝く程に眩い“白輝石(ミナモイシ)”を交互に繋げ
 その連輪の中心に、黒と白が雲と青空の混ざり合う様にして重なる“黒白世石(オトイシ)”を一つ配したもので
 二つがやがて一つに、強く離れない結びつきを誓う、求めるという意味を表するために
 ミズハミシマでは求婚や夫婦になる際に贈り合う品として古くから伝わっている

間欠泉、湧き出す海底温泉の様な大粒の滝が虹すらも浮かび上がらせる。
流れる道にしゃがみ崩れ泣く大柄の鯱人が、ともすれば乙女の様にも見えたと、後にヴという変わった名の店主は語った。
二人の間に交わす言葉はなく、表情を見合い、微笑み、やがて深く熱い接吻を交わした。
「あ、でももう少しだけ待ってもらってもいいですか?
僕の気持ちがあっても国の法律が認めてくれないので…」
「えー!? あたいはすぐにでも式挙げて子作りしようと思ってたさね」


 海から見上げているだけでは、丘から覗き込んでいるだけでは互いの上辺くらいしか見えないだろう
 例えその身を苦しめようとも、海の君、丘の貴方と出会えるのなら
 私は今とは違う世界へ出ましょう
 出会い、分かり合えたのならば、二人で過ごせる家を作りましょう
 今の世に子の世に、その先の子の世へと

先には困難が待っていようとも、今はお互いの想いに心を委ねよう
ぶんぶく夫妻とヴ商人をシェアさせてもらいました

  • 読んでてニヤニヤしっぱなしでヴがニヤニヤするのも分かった。白黒波が実力行使にでてきたらどうするんです? -- (名無しさん) 2013-07-09 23:11:21
  • プロポーズしたら年齢待ってくださいとか通じないと思うので子作り早く -- (名無しさん) 2013-07-11 23:34:14
  • 種族を越えて好きあって結ばれるとかいいですよね。周囲の反応も面白かった -- (名無しさん) 2013-11-12 20:41:26
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

g
+ タグ編集
  • タグ:
  • g
最終更新:2013年07月09日 00:39
添付ファイル